鯉釣り日記2023 春 憂えて麗しく

釣行日時 5月3日13:00~
5月4日17:00
釣行場所・ポイント名 Pt.フラワーロード
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 雪の上に影落とす雪。それを眺めながら日課の様に口にした黒いコーヒーは何本目か。何故だろう、昔は嫌いだった冬の日々も、なんだか楽しく思える自分がいる。心境の変化に気づいて不思議な気持ちになるが、これは良い事だろう。釣りが出来ずに陰鬱としていた以前より体が軽く、それだけ来る春の楽しみも大きく、様々な思いがより具体的に湧く。やがて、早くも出陣せんとする釣り人達の情熱が溶かしたかのように、例年より早く雪は姿を消し、アイスバーンに敷かれていた砂がアスファルトに浮かび上がった。

 去年の楽しい釣りの中で見逃した世界はいくつあったか。また訪れようとするシーズンでそれを見れるだけ見てやろう。微笑んでもいい、はにかんでもいい、ジト目でもいい、睨み付けてもいい。水面を見つめる目から生まれるのいつだって、一言にすればポジティブな気持ちだ。

 2023年もゴールデンウィークに入り、コブシの花もすっかり熟れている。例年、札幌のゴールデンウィークは天候が荒れることが多く、ここ最近の週間天気予報を見ても、雨マークが多い。その中で五月晴れの日が二日続いている日があった。5月3日~5月4日。今年の初釣りをするならこのタイミングだろう。


 車で行くポプラ並木が鴬色に萌す。これを待っていた。ポイントに向かう轍。あの夏に何度ここを通っただろうか。九州の高橋さん、平さんが待っている光景が目に浮かぶが、ポイントのトンネルには誰もいない。少し寂しい気持ちを抱きながら、トンネルの中に車を入れた。

 さて、これまで夏季にしか入ってこなかったこのポイントは、5月の始めというこの時期に、いったいどんな態度を私にみせるのだろうか。気温20℃、水温15℃。南東の風3m。水の色は悪くない。しかし想像とは裏腹にかなり減水しており、水底のブロックの上に長靴で立ち入れるほどの浅さだ。今日、明日は大潮。いまは上げの7分くらいだが、減水の理由はなんなのだろうか。とにかくやってみなければ分からない。


かなり減水している 大潮の上げなのに何故だろう

 まずはフィーディングから。去年最後の釣りで行ったように、ウグイの標的になる大きな固形物はなるべく入れないようにする。しかし鯉の食いも細いはずだ。アピールはしておきたい。今回は「鯉夢想」に「モンスタータイガーナッツ レッドアモ」のリキッドを混ぜて香りを出したものをポイントとする20m先にベイトロケットで投入し、後にカタパルトでボイリー「レッドアモ20mm」を少量追加する。

寄せエサは「鯉夢想」+「レッドアモリキッド」を ボイリーはカタパルトで少量を

 初春に結ったばかりの新しい仕掛けを取り出し、ラインに装着してゆく。さぁ出番だ。一番竿は食わせにレッドアモ14mmシングル。二番竿はレッドアモ20mm+レッドアモ15mmポップアップのスノーマンとサイズに差を着けた。PVAにはレッドアモ20mm三粒と砕いたものも三粒分入れて針に取り付ける。

オモリ部:(セイフティーボルトシステム)
ユニット:シンキングリグチューブ50センチ、コバートテールラバー、カープセイフティレッドクリップ
オモリ:スパイク30号 カモフラージュ

仕掛け:(ブローバックリグ)
ハリス:エジスカモテックスセミスティッフ25lb
針:伊勢尼14号

エサ:(ボイリー)
ダイナマイトベイツ 「モンスタータイガーナッツレッドアモ20mm」+「レッドアモ ポップアップ15mm」スノーマン

ダイナマイトベイツ 「モンスタータイガーナッツレッドアモ ダンベル14mm」

 一番竿、二番竿共に飛距離はほぼ同じく、カケアガリ下に着底。一度竿を煽ってみたが、去年より底の砂が深いように感じる。 14時にはバイトアラームの電源を入れ、セットを完了させた。アタリは遠いだろう。でも他に気になるポイントもない。24時間以上ある猶予で、やりつくし、粘れるだけ粘ってやろう。

 ブラックコーヒーとブラックストーンで一息つく。咲いたばかりの花に蜂が乗った。ごちそうに囲まれて幸せそうな彼を見ていると、私も空腹だったと気づく。鯉達もそうであることを願う。

セット完了 ブラックコーヒーとブラックストーンで一息

 17時。風は力を落とし、水面が立体感をなくした。これを眺めていると魚の活性が悪いのがわかる。土手に座って数分。もじりはある。だが、探さなければ見つけられない程度だ。この時期なら、茨戸中流湖盆ではいくつも跳ねやもじり、泡付けが見られるのだが、ここは少し違うのか。悪いようになるポイントとも思えないのだが、今回は苦しい戦いになるかもしれない。


凪にもじりや跳ねが見られない 苦戦しそうだ

 暗くなる前にやらなくてはならない事はないか?状況が悪くても釣ってやりたいという気持ちから、焦りや不安、憂いといった、起こして良いのか無駄なのかもわからない物で頭がいっぱいになる。だが、仕掛けもエサもしっかり予定通りにセットできている。無表情のままの水面を徐々に暗闇が隠してゆくのを見て、急かされるように感じただけだ。粘ればいい。正解というものがあるのなら、粘っているうちに見えてくるだろう。

 18時を過ぎた。最初のエサ換えをしよう。風が冷たさを帯びてきた。釣り座へ降りる前に防寒着のファスナーも締めておく。今回はボウズかな…。覚悟を決めておく。そうしたボウズから得られる物もあるのが鯉釣りだ。今回はこの早い時期に、あえて広いフィールドで釣りをするという新しいことをやっている。どのような結果になろうとそれは経験になる。打ち返したボイリーは両方とも傷がなく、何かに齧られているといった異変はなかった。


返って来たボイリーに傷はない 敵も少ないみたいだ

 午前0時。日を跨いだ。ここまでバイトアラームが鳴ることは全くなく、エサと仕掛けのチェックをしても問題はない。南風が強くなりはじめ、温度計は10℃と示している。襲う眠気にたまらず車の中へ入る。今回は車中泊のスタイルで休息をとろう。シートをフラットにしてシュラフを敷く。シートの段差はあれど、この車はかなり眠りやすい。それが気に入って20年も前の型のこの車種を選んだところもある。やがて瞼が重くなり、ここ最近あまり眠れていなかったとこに気づく。次の刹那にはもう寝息を立てていたことだろう。

午前0時まで変化はなく 今回は後部座席を倒して車中泊

 目を覚ましたのは午前6時になろうとする頃だった。やはり寒い夜は駄目だったか。バイトアラームは一度も鳴っていない。でもこれから気温が上がり、活性が高くなる可能性がある。天気予報は昨日と同じく晴れ。春潤しい日の始まりだ。

 6時30分、一番竿のアラームが鳴り響いた。車の中で何ともなしに携帯のディスプレイを眺めていた私はふと我に返る。釣り座に駆けつけた時には竿は動いていなかったが、持ち上げるとミドルクラスであろう鯉の手応えが伝わってくる。ゆったりとした動きを見せた後、岸際ではタモから逃れんと抵抗した。今年の初鯉は65cmの体高のある固体だった。このポイントとしては小さい部類だが問題はない。ボウズにならずに良かった。


やっと来てくれた23年初鯉 65センチ程

 少量しか撒いていない寄せエサもほとんど切れているはずのこの状況では、アピール力の強いスノーマンが有力なのだろうか。二番竿の14mmの方は少し砕けたような状態で私の手に戻ってきた。これまで通り、一応ダブルとシングルをセットするが、ヒットした一番竿に14mmシングルを、二番竿に20mm+15mmのスノーマンとポジションを入れ換える。気温、水温共にまだ低いが、これから期待できそうだ。寄せエサの追加をどうしようか…。まぁ、次のエサ換えまでに考えるとしよう。潮は3時間後に次の干潮となるようだ。

 前のヒットから丁度1時間後の7時30分。二番竿のアラームが甲高い声をあげた。この鯉もファーストランこそアラームを鳴かせたが、ドラグを締めてからはあまり抵抗しない。左手にあるワンドに向かうわけでもなく、一番竿のラインに干渉することもなく、さっきのものよりも更も小さい鯉が全く何の問題もなく上がってきた。サイズダウンだ。


2匹目もスノーマンにヒットした

 しかしポジションを入れ換えてもスノーマンにアタってくるのは、ダブルベイツという存在感の差、或はポップアップをトップに使ったのワフターであるために、ここの深い砂に強いからと考えられる。しかし一番竿の14mmを止めることはせず、もう少し様子をみる。同じ状況下で同じ種類のボイリーを使い、サイズに大きく差をつけて試す。これが今回のテーマだ。

 まだ気温が低く、風も冷たい。もう少し車の中で過ごすとしようか。トンネルの中であり、カーテンも閉めているので、車内ではライトが必要なくらいだ。トンネル入り口に向くフロントガラスから入ってくる光がもう少し強くなるまで、体の力を抜いておこう。


もう少しシートを倒したままの車の中で過ごす

 10時過ぎ。もう干潮を経ているだろう。寝ているのか寝ていないのか、車の中に引きこもっていた私を覚醒させたのはまたも二番竿だった。ファーストランは激しく、一気に30m程走られた。しかし締めたスプールを回す力まではないようだ。というよりも、アワセを入れてからこちらに向かって泳いできている。水面から底のブロックまでは20cm。こうなってくるとタモ入れが難しくなってくる。欄干をまたぎ、川の中で鯉を手に入れた。70cm程だろう。しかしこの鯉の体力は凄まじいものだった。ファイト中、あえて魚を引き寄せずに暴れさせ、スタミナを削ったのだが、ランディングされてからもマットの上で更にのたうち回る。小さくとも、これは称賛に値する。鯉はまさに日本や中国で元気の象徴とされるに相応しい。

3匹目もスノーマンに 70台の暴れ鯉  ここまで一度もヒットがない14mmシングル

 14mmで長時間様子を見ていたにも関わらず、結局ヒットはスノーマンだ。ポイントの砂が深いのだろう。埋まってしまってアピールに欠けている可能性がある。寄せエサの効能を活かせば14mmでもヒットを見込めるつもりであるが、開始時に一度フィーディングしただけで一晩明かし、それでも食って来ているわけだ。寄せエサを必要としていない、そして小さなエサでは不利なコンディションなのだろう。

 三本目のコーヒーのボトルを手に受信機をポケットに入れ、トンネルから出てみる。しかしトンネルの上の車の交通量は昼夜問わずに多く、少し離れたからといって自然の声を落ち着いて聞くことはできなかった。キジバト、ウグイス、その他多くの声が車の音の狭間に耳に届く。別に嫌いな場所というわけではない。祖父の4回目の命日、高橋さん達との合同釣行。多くの思い出を作ってくれた場所だ。

 イヤホンで耳を塞ごう。曲がりなりにも私は初心者のベーシストだ。私の好きなあの曲を、流れるように弾くあのベーシストの動画でも観て参考にさせてもらおうか。


弾いてみた動画 私もこれくらい弾けるようになりたい…

 正午を回ろうかという頃、優柔不断な心がざわめきだした。ポイントに少量だけフィーディングをしよう。そうすれば不利であるはずの14mmを食わせられる算段になる。成功すれば小さいエサで警戒心の強い魚を捕るという、私の中の新しい作戦立てが、理論だけでなく現実味を持たせる事が出来る。

 出したのは吉川さん作の穀類のコマセ。それにヘラ餌「もじり」を併せて粘り気を出し、ベイトロケットに詰め込んでポイントへ投入した。吉川さんのコマセは粒が小さく軽いため、水深のあるこのポイントでは沈むまでに広範囲に広がるだろう。そこにレッドアモとそれをクラッシュしたものをPVAに詰めた仕掛けを配置する。


吉川さん作のコマセにヘラ餌を混ぜてフィーディング

 しかし、フィーディングした後で思う。今のは正しかったのか? やった後で引っ掛かってきたのはコマセのベースに「もじり」を使ってしまった事だ。バラけやす過ぎやしないか?それでは着底する前にバラケきって、軽いコマセが下流の広範囲にランダムに配置されてしまう。鯉の誘導ラインを曖昧にしてしまったのでは? もっと粘り気のあるベースで硬めにコマセをダンゴ状に握って投入した方がよかったのでは? 鯉が多数入ってくるような条件なら良いのだが、今日そうではないとするならば?

 またブラックストーンを口にする。やはりフィーディングをしたのは間違えだったか、アタリが止まってしまった。おかげで静かな時間を過ごせたものだ。 やはり悪いのはコマセのベースに「もじり」を使ってしまったらことだ。多少の粘り気は出るが、どう考えてもバラけるのが早すぎる。恐れていたように、軽いコマセが着底する前に広範囲に散ってしまい、鯉の軌道をずらしている…というか、かなり下流の方でコマセが効いて足止めしてしまっていると考えられる。鯉釣りは様々なアイテムを持って機転を利かせるのが重要だ。しかし衝動的に動くのは危険を招く。また一つ勉強になったとでも思えばいいか…。

 14時に満潮を迎えた潮は、今夜21時に向かって下がっていくが、釣りができるのはあと2時間。こうなってしまえば14mmに拘るどころではない。両方の竿とも仕掛けを変え、ダブルベイツにした。さてここからどうなるか、鯉の食い気自体が低い中、とても非効率的な事をやってしまっている。あと一尾のアタリでもあれば良いが、心苦しくてしょうがない。


仕方なく両竿ともスノーマンに…

 また南東の風が冷たくなってきた。車内のシュラフを丸め、フラットにしていたシートを起こす。邪魔になるために運転席に預けていた荷物を後部座席に戻し、ここからは運転席でアタリを待つ。というよりは反省会だ。まだ6時間程でも時間があるのなら場所を変えているだろう。憂えて、呟いて、息を付いて。



 今回は17時には竿を畳まなくてはならない。しかし緊張感も胸騒ぎもないから目を瞑りたくなる。17時に携帯の目覚ましアラームをセットして一度閉じた目は、それが作動して金切り声を上げていても開けられない。まだ明るいこの時間だ。「眩しい」って思うのすら面倒で、このまま眠りたかった。でも、延長はできない。携帯を黙らせ、竿を回収しに行く。

 ボイリーは両竿ともほとんど無傷で私の手に。さっさと切り上げよう。次に釣りに使えそうな日は遠く、また蝦夷露によって延期にもなるかもしれない。まずい、釣りをしたい。今回のやり直しをしたい。でも今回は今回で終わり。二度と同じ日は訪れない。似たシチュエーションでやりたければ、明日とか明後日にでも来られればリベンジできるが、それも叶わなそうだ。なるべく川面を見ないように片付けをする。 「水面を見つめる目から生まれるのいつだって、一言にすればポジティブな気持ち」 それが働いて、釣りをしたいと体をうずかせるからだ。次に釣行が出来る日まで我慢しなければならないのに。

 次の釣りは今回とはまた毛色の違う釣りになる気がする。その時はその 「今日」 や 「今回」 を大切にしていこう。こんな足跡をまた残してしまった。