鯉釣り日記2022年 終わらせたくない夏 第二幕

釣行日時 8月19日19時~
8月21日23時 
釣行場所・ポイント名 pt.FR

 「終わらせたくない夏 第一幕」より


 8月19日~

 所要により到着は19時となり、次のフィールドpt.FRには既に高橋さんと平さんのお二人が竿を出されていた。
 私よりも先に到着されていたお二人だが、第一投は既に暗くなってからだった。それだけポイント選定に悩んでのことだったようだ。私は疲れと釣りの方針が決まっていないことで竿を出ししぶる。このポイントの橋の下は昼間になるとヘラ師が多く入る場所だ。朝起きたらヘラ師に囲まれていて投げ返しもファイトもできない。そういった事を避けたく、橋より100メートルほど離れたところにあるポイントに竿を出したいと思ったが、私のセンサーではベースとなる橋の下まで電波が届かった。では…。ここで私はワガママを言った。一番ヘラ師との干渉の少なく、センサ―の電波が問題なく届く、平さんがロッドポッドをセットしている所を譲ってもらったのだ。あとから先輩への無礼に罪悪感を覚えて、少し気持ちが重くなった。

 せっかく譲って頂いた場所ではあるが、今度は釣りの方針が決まらない。前回と同じことをやっても面白くない。何をやろうかと考えるが、頭の疲れもあってか、なかなか纏まってくれなかった。

 ふらふらと迷っているところに、仕事着姿のTadashi君が現れた。私達がここにいると連絡した後、彼は早く合流したくてウズウズして来てしまったようで、日付が変わる頃にまた来ますと竿を取りに行った。その間に進められた食事の支度。またご馳走になる。

サラダも充実した健康的な食事 今夜は鹿肉の香草焼き

 食事中、疲れの色が見られていた平さんが席を外した。夜もふけて来た頃、静かに流れるトンネルの中の風。限られた人にしか話せない大切な私の話を高橋さんに聞いて頂いた。私の釣りに大きく関わるこの話を聞いてほしい、聞いてもらえる人は少ない。ゆっくりと一言一言、釣りをしながら、落ち着いたシチュエーションでしか話せない。こんな時間をありがたく感じる。

 8月20日~

 午前1時過ぎにTadashi君が再到着。三人での談笑。ディナーで残った、はっきり言って無理な量のサラダを彼に喰わせ、Tadashi君もその食事に夢中になって竿を出すのを忘れてる。私もいい加減に仕掛けを入れるとするか。

 いつもの流れなら「クレイブ18mm」+「ソース ポップアップ15mm」でいくところだが、春から変えていないこのメニューにも少し飽きてきた。そこで、篠津湖で平さんから頂いたSolar社の「クラブミックス20mm」を一番竿、二番竿ともにをブローバックリグに装着して、カケアガリの下から5メートル程離したところに投入した。Tadashi君も竿を出し終え、入れ替りで高橋さんが就寝。ベースから離した私のテント横に場所を移して二人で談話、というよりは、ヘロヘロの私はコクリコクリと彼のトークを聴きながら相づちを打つばかりだった。席を立ち、橋の下へ何気なく 降りて話していると早くも空が明け始めた。午前5時。思っていたよりも雨が降らない。風は南側から吹いていたものが逆向に変わり、かなり冷たさを帯びている。

平さんから頂いたクラブミックス20mmを使ってみる Tadashi君もセットを始めた
 ようやくセット完了 Tadashiくんも 彼は竿一本スタイル 

 流石というか、早速Tadashiくんのスプールからラインが流れた。70センチほどのものだが、掛かり方がおかしかったせいか、暴れまわってなかなかランディングさせてくれない。針は鯉の吻端に掛かっていた。どういう喰い方をしたらこいなるのであろうか。

早速Tadashi君にヒット 変な掛かり方 いつも誰よりも早くアタリを取るのがTadahsi君だ

 Tadahis君のヒットから約30分後、一番竿にウグイがヒットした。Tadashi君はそれをエサにしたいという事なので彼に譲り、彼はウグイをぶつ切りではなく、包丁で丁寧に捌き、腹骨をすいてほとんど刺身と言って良い切り身をノーノットでキャスティングした。 全く、色々な事を思い付くものだ。そして鯉釣りの多様性は計りしれない。

Tadashi君は私が釣ったウグイを刺身に ノーノットでウグイの刺身をエサに

 二番竿方にもウグイのアタリが出た。体力が削られ、PVAを作る気力、ボイリーをつけ直す気力すらない私は、無傷だったボイリーをそのままキャスト。ただし君も仕事のスケジュールをキツキツに入れているようでかなり疲れているみたいだ。

 「寝ましょうか」・・・・

 3時間後の9時頃に重かった瞼が軽くなった。二度寝してやろうかと思ったが、Tadashi君が起きた気配がし、復帰した平さん、高橋さんとの談笑に加わった声が聞こえてきた。そうなればもう眠ることなんてできない。朝食にカレーを頂き、その後感染したかのように全員でエサ変えを始めた。私は「クラブミックス20mm」に加え、二番竿に同じく平さんから頂いた「ストロベリー20mm」を使ってみることにする。クラブミックスと一緒に投入するPVAにバッグの中にはペレットを、ストロベリーは植物質を活かせるよう、PVAメッシュで同じボイリーを3つ入れた

 平さんは橋の下に入れていた竿3本のうち2本がエサ換えの回収時にラインブレイクしてしまったという。カケアガリに擦れたのものもあるようだが、それ以外にも何か要因はあるのかもしれない。橋の真下というのは私もマーカーフロートを入れていないため分からない上、7月にここに訪れた時から流木らしき障害物が水面から顔を出していた。それが今後どう影響するか。高橋さんのボイリーには、小魚や水生動物に割られた痕が残されていたという。ただし君はウグイを続行する。

4人で朝食 カレーを頂いた クラブにはペレット SBにはメッシュで同じボイリーを

 13時を過ぎたが未だアタリはない。ただし君はそろそろバイトへ出勤しなければならない時間であり、道具を全て積み込んだあと、少し急ぎ気味で集合写真を撮った。写真は撮り直すことなく一発で決まり、そしてTadashi君が出発だというときに 「車のエンジンがかかりません」 と焦り声が飛んだ。先ほどもバッテリーを落としていて、私の車からジャンプさせたばかりであった。しばらく充電のために道路で走らせにいったが、またしても、そして急いでいるときにまたもやバッテリー切れ。すぐさま私の車を動かしたが、幸運なことに自力でエンジンを回せたようで胸を撫でおろした。「夜にまた来ます」と言うTadashi君を見送り、彼の再訪を楽しみにそれぞれ自分のチェアに戻るのであった。


 雨という予報はどこへやら。14時を過ぎても15時を過ぎても、空の照明は私達を見守ってくれた。だがアタリも遠い。何をして過ごそうか?そして高橋さんが始めたのは車の分解であった。初日から前を走る高橋さんの車のブレーキランプが切れていたの気づいていたが、北海道入りした時点で指摘されていたようで、その点検作業、ドライバーなどの工具を取り出しての手術が始まった。苦労があった末、切れて真っ黒に変色しているランプを摘出。高橋さんはこれからも何千キロと移動するために危険であるため、アタリの無いこのうちに買いに行くことにした。近くにあるホームセンターへ向かい、その途中のスーパーで食料の買い出しもしようということで平さんに留守番を頼み、私の車で高橋さんと二人出かける。

高橋さんの車のブレーキランプが切れた 分解して切れた電球を摘出 私の車で買いに行く

 釣り場に戻ると、買い出し中の私の二番竿にウグイが掛かったとのことで、平さんがランディング、リリースをして下さっていた。ウグイと言えど、止まっていた時間が動き出したといえるかもしれない。もうすぐ夕マヅメになる。ここでエサ換えをして備えよう。両竿ともボイリーに異変はない。水気を拭き取ったボイリーに新しいPVAを装着してキャストしておいた。

 18時28分、二番竿のストロベリーに来た。前回同様に魚は左へ走ろうとする。だが簡単に止めることができた。あとはフッキングを信じ、ランディング後に大暴れしないよう、しばらく泳がせて体力を削る。タモに入ったのは63センチのよく見られる体形の鯉だった。そのまま打ち返し、竿を眺め次の釣果を願っているところに、平さんのセンサークリップがカチッと小気味良い音を立てたのが聞こえた。やがて滑り出すスプール。しかしセンサーのメロディがベースから聞こえてこない。バッテリー切れか? 「平さん、アタってます!」 慣れてなくて上手く上げられない大声に平さんが気付いて、土手を降りてきた。そして竿を持った平さんが 「これは良い鯉かもしれませんよ!」 と血が躍り出すような言葉を口にした。私の鯉のリリースから3分後のヒットだ。食いが立ってきたのか?ランディングされたのは77センチの痩せた鯉だった。 「惜しいな…」 確かに80には届いていない。しかしそれでも良いファイトをし、立派な鯉だ。ヒットベイトはクラブミックス。動物系でもフルーツ系でもアタってきている。

やっとの事でこのポイントでの1匹目を 直後に平さんに77 残念ながら80に届かず

 今夜の夕食は先ほど高橋さんとの買い出しで手に入れた牡蠣。そして串焼き、パン、パスタと私の普段の釣りでは考えられない贅沢な品が続く。私は食べるのが早い方だと言われるが、今回ばかりは違う。少量を口に入れ、鼻で小さく呼吸をして転がしながら味を楽しむ。そうしている間に次の料理が焼きあがってしまって追いつかない。そして仲間と一緒に味わうから、尚の事幸福感が増すのだ。

今夜の夕食はまずカキを
    
 チーズを乗せたパンに パスタも なんという贅沢か 
 

 20時35分、私の受信機が忙しい程に進めていた箸を置かざるをえない鳴り方をした。ヒットは一番竿のクラブミックス。ぬっとりとした感覚。特に大きな攻撃はなく、素直に上がってきてれた。サイズは77cmと平さんと並んだ。

食事の手を止めさせられた 77センチ サイズは平さんと並んだ さぁこれから…


 「順序で言えば、次は僕のパターンだね」

 「そうです。そして最後に高橋さんが大物を出すんですよ!」

 そして10分後。平さんのセンサーがメロディを奏でた。

 「ほんとに来た!?」

 「よっしゃー!来ましたよ!」

 しかしドラグの音は聞こえない。竿三本に対してセンサーは二台。右2本は同じ送信機を使っている。アタリがあったのは右か真ん中かどちらかだが、両竿とも動いていない。右から竿を立ててみる。どちらかと言えば真ん中の竿のラインが弛んでいるため食い上げていると思われるが、結局どちらも魚はついていなかった。でもアタリがあったのは間違いない。テンションが上がったのは間違いない。


順序通りに平さんに来た が、残念ながら空アタリ

 ディナーもフィナーレとなり甘いメロンとブドウでさっぱりと落ち着く。Tadashi君から電話が入り、「明日朝から行きます」というので楽しみだ。

 全員がリラックスモードに入っていた時、高橋さんの車からの大きな物音に驚いた。紛れもなく動物が荷物を漁る音。開けていたトランクにキツネやその他が入り込んだものかと思える。急行するがその姿はなく、荷物も無事であった。しかし、やはり全く油断は出来ない。三人が連泊すれば当然ゴミの量は多くなる。この時間から先、今夜はゴミが増えることはない雰囲気だ。今一度分別して袋に仕舞い、動物にやられそうなものは荷物を下ろした私の車の中に仕舞い来んでおく。

 我々の鯉釣りLINEグループでは久しぶりに高橋さんが来ているとなって、コメントが増えていくのは当然のこと。皆同時に着信音が鳴るし、更に個人個人のLINEもしているので、携帯の更新状況が追い付かない事態になった。

 そしてのそのグループLINEの会話の話題を大きくしめるのは吉川さんからのコメントと写真である。

 先日、我々が篠津湖で釣りをしている中、吉川さんから 「必要そうなものはありますか?」 とコメントが来ていた。そこで私が高橋さん、平さんにその旨を伝えると、お二人とも 「吉川さん自作のスペシャルエサを所望す」 と答えられたので、私の冗談交じりで、そう吉川さんに返信した。ほんの冗談のつもりであった。それが今、本当に人数分のエサを作っている写真が送られてくるではないか。吉川さんのエサはボイリーなどではなく、山上湖で使われる麦などの穀類を丁寧に炒って作られるもの。その様子がLINEに送られてくる。「本当に作ってくれるとは…」 「悪い事を言ってしまったか…」と、私達は驚くばかりであった。

 腹も、胃袋に隙間が無くなるのではないかというほど満ち、零時には全員が就寝するとなった。

 あぁ、最後の夜が終わってしまった。明日には帰らなくてはならない。憂鬱でならない。話したいこと話せたのか?話したい事は伝わったのか?今は頭の中に出てこないけど、、話したい事はまだまだたくさんあるだろう。それをこの釣行記をhtmlに書いてるときに、きっと思い出すことだろう。コミュニケーション能力がないというのはこういうことなんだろうか。昨日の夜、あの人が話してくれた事に対する明確で的確なレスポンスが後になって出てくる。こう言いたかった、こんな言葉をかければよかった。日を跨いだ会話になる事ばかりで、そもそも同じ話題が日を跨いで出てくることなんて少ない。もっと上手くいかないものだろうか。今回の釣りに参加している方々は皆さん熱い人ばかりで、熱い会話や話題は防腐剤を入れても間に合わないほどに腐る程出てくる。こんなにも語れる人は多くない。だから、この釣行が終わり、それぞれが離れ離れになるのが寂しくてしかたない。そんな事ばかりを思う濃霧の夜だった。

 8月21日~

 平さんの 「ごはんだよ」 という優しい声で目を覚ます。久しぶりに釣り場で熟睡してしまった。頂いたご飯は何食目?ましてや起こしてもらうなんて。そしてベースにはプレゼントが。私が眠っている間に吉川さんが訪れ、我々のために深夜まで手作りしたコマセを持ってきてくださったという。四袋に分けられたコマセの香りは鯉よりも私が食べたいと思うようなものだった。私に使いこなせるだろうか。


吉川さんがコマセを作ってプレゼントしてくださった

 食事を済ませたあと、Tadashi君が奥さんと一緒に登場。晴れ渡り風がない晩夏のひと時。
 釣り場は我々の竿と竿の間でへら師が並んでいる。真夏になれば日よけに、雨が降れば雨除けにヘラ師達がこの場で竿を出すことが多い。特に今日は大会があるようだ。これならエサの打ち返しは控えねばならない。彼らが帰るまで竿を上げておこう。Tadashi君も竿を出さずにベースに加わって五人での談笑会になった。

 平さんはお得意のオモリ作りを始め、談話スペースの反対側でTadashi君がボイリーを作っている。興味深いものが左右にある私の目はキョロキョロと落ち着かない

Tadashi君、奥さんも加わって談笑会 Tadashi君は現場でボイリーを自作
 平さんはお得意のオモリ作り 出来上がったスパイクオモリ 

 時刻は昼を過ぎた。ここでTadashi君の車で奥さんと三人で買い出しに出る。スーパーでこれから必要になりそうな食材を買い、また奥さんはこれから用事があるのでTadashi君の家に寄って、あとは二人で新しい水や木炭などを持って釣り場に戻った。


買ってきた小豆バーを高橋さんと平さんに

 時刻は16時を過ぎ、ヘラ師の方たちはもう帰った様子だった。上げていた仕掛けを投げ直そう。紛れもなく今日が最終日だ。しかしまだまだこの空間から離れなくない。終わらせたくない。ギリギリまで粘ってやる。

 17時になろうかという頃、Tadashi君のアラームが反応した。手玉に取られた鯉は彼のタモに入り、横たわる隣に添えられたメジャーは67センチと示している。特筆すべきはヒットボイリーが昼間に釣り場で自作したものであるということだ。小麦粉に砕いたコーンで作られたもので、無添加であるとのことなので、まだ茹でていないペースト状の物を食べてみると、人間の腹を満たせる。食べ続けられそうな味だった。

Tadashi君 自作ボイリーでの釣果 Tadashi君自作ボイリー 茹でてないペーストのもの

 これを機に全員エサ変えをする。私もまだまだ釣る気でいる。何時に帰ろうとか、いつ納竿しようとかは全然考えていない。高橋さんと平さんは明後日の午前までここに滞在する。私は明日、明後日も仕事であるが、お二人がいる限りこの釣行は終わらない。

 変に小魚を寄せて忙しくなるのも嫌なので、集魚力は抑え目でいきたい。かといって使うボイリーは変えない。一番竿のクラブミックス20mm、二番竿のストロベリー20mm、いずれも新しいものに変えた後、半分に切ったPVAバッグの中に同じボイリーを二つ、三つ入れただけのものを引っかけて投入する。寄せの要素を減らしただけのことだ。

Tadashi君のヒットを機に全員がエサ換え 半分に切ったPVAバッグに少量のボイリーを

 そして全員が土手の階段の上に腰を落ち着かせた。静かな夕景。オレンジ色の中に山のラインがくっきり見える。四人で座り、その光景を見たことは恐らく一生忘れないだろう。

 橋にライトが灯った19時。トンネルの中は真っ暗で、もうヘッドライトやランタンを要する。20時になる頃、平さんが仮眠に入った。高橋さんとTadashi君はランタンを挟んで何やら熱論している。その横で携帯のディスプレイを見る私であるが、二人に名前を呼ばれた事ではっとした。

 「安田君眠い?」

 「あまり寝てないんじゃないですか?」

 「休んだ方がいいよ」

 「5分でも10分でも眠ると違ってきますから」

 疲れているという自覚はなかった。しかし、二人が熱論を交わしている横でいじっていた携帯。吉川さんからのLINEの返信をしようとしていたはずなのに、変なところをタップして違う画面に移り、スクロールやタップはするが、目はその内容を認識していない。確かに疲れているからなのだろう。テントに入り横になることにする。かなり気を使わせてしまったようだ。

 目を瞑ると、テントから数十メートル離れたところから聞こえる二人の声。私の釣りでありながら、私がいない空間を見ている。私がいない空間はこんな感じなのか。時間があればあるほどに、不思議な思いが湧き出てくる。信じられるか?この4日間、一度も退屈していないのだ。なんて濃厚な釣行なのだろう。

 出鱈目で、言語化すらできないような夢を見ていると、平さんから 「そろそろご飯食べないかい?」 とテントの外から声をかけられた。また起こしていただいた。ベースではジンギスカンが用意されている。横になったことで意識は回復した。休んだ方がいいと気遣われ、食事のために起こしてもいただく。そんな優しい仲間達がどこにいる?自分は幸せなのだと何度も思う。これが最後の夕食になる。


最後の夕食はジンギスカン

 食事を終えてどれほど経ったかわからないまま過ごしていると、吉川さんが来訪された。仕事で忙しいなか、深夜までかけて私達のエサを作り、そして来てくださった。吉川さんは竿を出さずに、談笑の輪に入る。時計に目をやればもう23時。明日も仕事の吉川さんは長居することなく帰路につき、Tadashi君も用事で一時帰宅すると出ていった。同じく明日仕事の私。最終日はギリギリまで長く滞在したいと思っていたものの限界がある。

 そこで思い付いた。高橋さん達は明後日の午前まで釣りを続けるために明日の夜も滞在する。ならば荷物をそのままにして高橋さん達に見てて貰い、私は片付けずに帰宅。家で休んで仕事に行き、仕事が終わったら家で着替えてまたここに来る。荷物はそのままなので、仕掛けにエサを付けるだけでちょい釣りができる。それがいい。ならばまず必要なものだけを車に積んで一時帰宅しよう。

 撤退準備が大方片付いたといったタイミングで平さんのセンサーが反応した。

 「よし!来ましたよ平さん!」

 一度仕舞ったカメラを再び取り出す。平さんの釣り場から聞こえてくるリールのクリックは凄まじい。デカイんじゃないか?先に平さんの釣り場に駆けつけた高橋さんはファーストランで30~40mはラインが出されたという。これはひょっとして?弱まったヘッドライトが平さんを照らすがよく見えない。しかし平さんの口から漏れた言葉でバラしてしまったらしいことがわかった。スッポ抜け、残念だがこれから朝マヅメにかけてかなり期待できる。私が仕事をしている間、釣り場に戻ってくるはずのTadashi君。そして明日から参戦できるというSASAYAN。だれかに幸運が訪れることを祈り帰宅した。



 8月22日 18:30

 今夜から加わるというSASAYANがグループLINEで発言をし始め、ポケットの中で鳴る携帯。そして私も 「仕事が終わった」 旨を送信し、急いで札幌の区を跨ぎ帰路をゆく。家で釣り用の服に着替えてからは飛ぶようにして車に乗り込み、釣り場へ向かった。しかし少々疲れているのも感じる。釣り場に着いてみれば吹っ飛ぶだろう。

 到着した釣り場にはSASAYANの車。そしてTadashi君は釣り道具を残して姿を消していた。彼も一時帰宅し、これから
また釣り場へ来るらしい。

 私が釣り場に残してきたランタンはまだ光を維持していた。ベースにはカレーの入った鍋が置いてある。何やらSASAYANが作ったものだそうだ。是非頂きたく思い、わざわざ温めてもらった。SASAYANとは一年半ぶりに再開したことになる。しかし彼は竿を出していない。

 「何故?」

 「だって釣れないもん」

 そんなことはないだろう。

 「じゃあ釣ってやろうか?」フンスッ

 ならばいいところを見せてうやろう。、とりあえず昨晩からそのままにしていたタックルに仕掛けをセットして、これまでどおり、カケアガリから5m程離したところに投入する。ボイリーはこれまでここで一番の実績を上げている「クレイブ18mm」+「ソースポップアップ15mm」のスノーマン。PVAバッグに「クレイブ」3つにペレットを入れて一緒に投入した。


仕事後のちょい釣り 実績のあるスノーマンを投入

 ベースでSASAYANのカレーを頂き、SASAYANは高橋さんが冷蔵庫から出したドクターペッパーに目を輝かせている。そしてそのドクターペッパーを、何故かこれまで一度も出していなかった一眼レフカメラで撮影しだす平さん。なんとなく混沌としている。

 22時過ぎ、Tadashi君が到着。そしてそれからすぐに私のアラームが一番竿からのコールを受信した。しかしこの鳴り方、ウグイではないだろうか。しかも完全に掛かってしまっている。土手を降り、一番竿を掲げてリールのハンドルを巻く。すると思わぬ反撃が返ってきた。「これは…もしかしたら」 水面に現れたのは50センチほどの鯉だった。


有言実行 になってしまった鯉

 本来なら昨日で終了しているはずの釣りだ。高橋さんと平さんが居たからこそ出来た、仕事から帰ってきてからの夜のちょい釣り。それで鯉の釣果があった事はサイズに関わらず満足感を得られる。SASAYANにも良いところを見せられた気がする。そしてSASAYANはそれに刺激され 「なんか悔しい、竿出すわ」 とやる気を出したようだ。

 時刻はあっという間に23時。4連泊した釣行で、最終日は日付が変わろうとする時間まで居座り、朝は7時半に起床。仕事や用事を済ませてまた此処にいる。「安田君、大丈夫?」 と何度も言われた。確かに疲れてはいる。でも大丈夫。それに、ちょっと無理してみるというのもやってみたかった。今回のメンバーで比較的年齢の若い私だ。これから年をとったとき、このようなタフなスケジュールを組めなくなったときに 「若い頃はこんなにタフな釣りをしてたものだ」 という武勇伝にもなりえる事をしたいと思ったのだ。

 再投入後、仕事終わりの吉川さんも訪れた。これだけのメンバーが揃ったとなればまた集合写真だ。車から三脚を取り出し、カメラの前で皆さんに並んでもらう。背景は竿でも川でもなく、トンネルの壁のコンクリ―トで、説明が無ければ何の集まりなのか分からないようなものになりそうだ。だが別にいいだろう。セルフタイマーを10秒にセットし、Tadashi君の左に入ってポーズを決めた。


今回最後の集合写真 背景はコンクリート 言われなければ何の集まりか分からない

 シャッターを切ったのはちょうど午前零時で8月23日の始まりだった。ベースの椅子に戻ってまもなく、私の二番竿のアラームが反応した。しかし土手を降りきる前に鳴動は止まってしまい、ウグイのヒットなのか、鯉の前アタリなのかわからない。ロッドには手を出さず、しばらく見てみると竿先を軽く傾けるような動きを見せた。走っていかないのはこれがウグイだからだろうか。竿を持ち、アワセを入れてみる。だが、針に何かが掛かっているような感触はない。ウグイだったら既にガップリと針を咥えているはずのタイミングだ。これは鯉の長い前アタリだった可能性がある。もう少し待ってみるべきだったか…。

 日付が変わり、流石に長居はしていられない。吉川さん、SASAYANは帰宅、平さんはテントで就寝。残ったのは私と高橋さん、Tadashi君となった。Tadashi君は道具を畳み、いつでも帰られる状態になっている。私ももう限界だ。ロッドポッドごとタックルを車まで運び、最後の片付けをする。二人に手伝ってもらいながらの撤収作業。片付けを惜しんだベースの椅子も畳んで収納し、車の中へ押し込めた。これで終わりだ。

 帰る前に三人で少し話をする。

 「あとは高橋さんが一発大物を仕留めるだけですね」

 不思議にも今回の釣行は口にした事が現実になる。吉川さんに冗談でエサを作ってくれとLINEを飛ばしたら、まさかの、本当に造って私達にプレゼントしてくださった。

 私が77を釣った時、平さんが「順序で言えば、次は僕のパターンだね」と言うと、本当にセンサーがメロディ―を奏でた。

 さっきも、私がSASAYANに対して 「じゃあ釣ってやろうか?」 と言ったら本当に釣れてしまった。

 この流れで行けば、高橋さんの一発大物にも期待ができる。ここで高橋さんが巨鯉を出せば、この釣行は我々の中で伝説となる。思いを胸にし、Tadashi君は何やら川へ向けてお祈りをしに行った。

 先に帰りの車のドアを閉めたのはTadashi君だった。私も、もうそろそろ行かなくては…。あぁ、本当にこれで日常に戻ってしまうんだな…。私も車へ乗り込もうとした時、ベースの方から動物が物を漁る音が聞こえた。ライトを照らせば、ゴミ袋を咥えて去ろうとするキツネがいる。二人で走って脅かすと、口から袋は放して離れたものの、野生動物の執念深さで、また距離を詰めながら虎視眈々と袋を狙っている。何度威嚇しても戻って来るキツネ。なんだか、私たちの別れを引き留めるかのように思える。また忍び寄って来たキツネを、とどめと言わんばかりに全力で追いかける。キツネは土手を登って逃げ、私も草を踏み散らしながら土手を登って執拗に攻める。多分これでもう戻っては来ないだろう。

 釣行前にも思わずやった癖、息を鋭く吹く動作をまたしてしまったが、これでこの夏を終わらせる覚悟、日常へ向ける気持ちの転換をできた気がする。エンジンをかけ、お世話になったベースを横ぎり、高橋さんに手を振りながら、既に交通量の減ってしまった真夜中の国道へ帰った



 その後、高橋さんからフェリーの写真が添付されたメッセージが届いた。本州入りし、名古屋、和歌山と渡りながら九州へと帰って行くようだ。安全に帰宅できることを願い、そしてまた北海道での共闘の日が、できるだけ早く訪れることを願う。

 「終わらせたくない夏」 おわり

 この釣行に関わった全ての方に感謝いたします。