鯉釣り日記2023 迷走

釣行日時 7月7日15:00~
7月9日18:00
釣行場所・ポイント名 第二Nダム
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 宵を越しても続く雨。私はいつから雨が嫌いになったのだろう。水玉が描く直線はまるで牢屋の格子だ。窓の外からパチパチ、カラカラ、ペタペタという雨の足音。鳥も蝉も鳴くのを止めてしまうから、ただただ雨音はノイジーだ。次の釣行場所はこの雨にどう影響されるだろうか。とりあえず、次に動くのは雨が上がってからだ。とっとと失せてくれないかな・・・?

 7月7日。
 当日。私は懐かしい道を行く。道の先は去年一度も顔を出せなかった第二Nダムだ。私が釣りをする中で最も難しいフィールドである。今回は二連泊できるとあって気合いが入る。出発前に見た鏡の中で、目に力の入った自分の顔を見た。うちの鏡は私の顔が 「良く」 映ってしまうので、実際はとぼけた顔をしているのだろうけど・・・。今回、何とかして鯉を手にしてやりたい。

 昨日降った雨で水温は低下しているかもしれない。そして今日もまた、夕方から雨の予報だ。第二Nダムで釣果を貰ったのは水温が高い時である。前に釣果があったのは暑く、水温が高くて、夕立があり、水の流れが強くなった時であった。今回の夕方の雨は釣況をどう変えるだろうか。

 山を越え、14時を越えた湖は悪くない色をしている。気温28℃。風がなく、アブラゼミの声がよく映える。水温26℃。これはかなり高い方だ。昔ボウズ逃れで釣っていたワンドの浅場だが、更に浅くなり陸生植物の侵食が大きくなっていた。しかしその近くで50cm程の鯉が数匹見られる。悪いって事もないだろう。問題は流心にいる大型をどう釣るかだ。駐車場から4往復して荷物を釣り場へ降ろす。


 タックルのセットより、まずはテントを設営しよう。いつ雨が降りだしてもいいように、グラウンドシートを敷いた宿泊テントとハーフテントを広げる。かなり狭いが仕方ない。前よりも更に狭く感じるのは周囲の木々が成長しているからだ。12fの竿ならなんとか振れるが、これ以上成長するとキャスティングも出来なくなる。この場所での釣りも有限なのだ。


雨に備えてテントを先に立てる

 いよいよタックルセットに入る。2018年は釣果のある小型のポイントを無視して大型を求め、目の前に佇む島のヘチを狙って遠投したが、今回はどうしようか?あまり投げずに流心の深みを狙ってみる?岸と島の間の中心付近でも泡付けが見られる。そうしよう、狙いは中心の水深6m程の深みだ。

 エサは動物性でいく。一番竿のボイリーは 「クレイブ18mm」 と 「バランスドワフター スパイシークラブ18mm」 のスノーマン。このセッティングはこのダムでは初めてだ。ニ番竿は一昨年釣果があった 「コンプレックス-T 15mm」 をダブルベイツにする。寄せエサは 「巨鯉2」 + 「神通力」 。ウグイにあまり目を付けられたくないので、固形物の少ないフィーディングをする。それでも鯉がボイリーを認知してくれなくては困るので、コンプレックス-T 15mmをカタパルトで少量撒いた。

一番竿クレイブ+SC 二番竿コンプレックス-Tダブル  寄せエサは動物系に少量のコンプレックス-T 

 さて、どうなるか。どうせ釣れない。そんな風に思っておこう。アタリがすぐにあるとは思えないので、散歩に出る。小道をゆく足はとても遅く、木や草、花など何でもないようなものに目をやれるのは時間がたっぷりとあり、心が広くなっている証拠。小さな花がひそかに咲き、それがセセリチョウを誘きだした。茨戸でも見られるカバイロシジミも元気そうだ。鯉釣りをしていて本当に退屈だと思ったことはない。竿を見る、空を見る、地面を見る、生き物達を見る。退屈の向こうに期待しているものが大きい程に、退屈に思えるような長いアタリの待ち時間に頭に入ってくる、もしくは生まれる情報は多い。退屈の向こうに待っているものが大きい程に、アタリの待ち時間を有用に使える。釣れない釣り、というのが私には凄く良く馴染む。


セセリチョウが多く観られる

 16時頃。二番竿のアラームにはっとした。いつの間にか、チェアに座りながら目を閉じていたことに気付かされる。アラームは完全にウグイのもの。早速来やがったか・・・。やはり避けては通れない。ついでに一番竿も回収する。こちらは全く異常無し。ウグイを釣るのは最小限で抑えたい。


二番竿に早速ウグイ

 17時になろうという頃、いよいよ鉛色の雲が空を覆いはじめた。降るのか?油断はできない。濡らしたくないものはハーフテントに入れておこう。降り出したら私もチェアをハーフテントに持ち込んで入ろうと思うが、テントの中は暑く、まだちょっと入る気はしない。

 釣り場手前、深くなっている辺りで大量の泡付けが現れた。ほとんどウグイだろうが、その中には鯉も混ざっているのだろうか。今回ポイントとしているところに泡付けはない。島のそばで金色の鯉が跳ねた。やはり島のフチが正解なのか・・・?いや迷うな、続行しろ。今になってバタバタすることはない。日没も近いんだ。釣れない釣り場だからこそ、様々な事を考えてしまう。しかしメンタルコントロールも必要だ。とにかく、しばらくはこのまま作戦の変更はしない。

 19時。予報では雨が降るという時間だ。ハーフテントに入り、ランタンと蚊取り線香を骨組みにぶら下げる。この香りはいつも私を綻ばせる。


雨除けのハーフテント

 この狭い空間には大きすぎるほどの電子音が二番竿の異変を報せた。上がってきたのはまたもウグイ。もしかしてコンプレックス-Tだからウグイがアタるのか?その疑問はすぐに取り払われた。一番竿のクレイブ・スノーマンにもウグイらしきアタリ。フッキングせずに済んだようだが、仕掛けのボトムクレイブはボロボロというより、綺麗に四角く削られていた。

 まずいかもしれない。このペースでウグイの相手なんかしていられない。投入点を変える。手前は相変わらず泡付けが多く、ほとんどがウグイのものと思われるので、やはり島の近くまで遠投してみる。寄せエサは・・・撒かないでおこう。果たしてタモに魚が入ることはあるのだろうか。

 もう20時になるが、雨は全く降ってこない。居住環境的には私にやさしいが、雨によって一昨年のように水が活性化するのではないかという期待はなくなった。まだ空は明るく、色は 「#9966ff 」 といったところか。

 フィールドの外に出て、吊り橋の上で一服。空はもう雨など知らない顔をしている。釣れてくれ・・・なんとか一尾でも。そう願っていた矢先、一番竿からの止まらないアラームが私を奮い立たせた。本命だ。本当に来た。スプールの回転は茨戸やPt.フラワーロードのものより早く、良い鯉を期待させる。しかし不安もある。前の釣行で一度スッポ抜けでバラしたものと同じ仕掛けだからだ。魚は大きく左へと旋回するが、入られてはやっかいなルートには入らない。願いは通じ、魚は無事にタモに入った。70台。ここでのサイズとしては悪くはない。そしてこの貫禄。こいつはきっと巨鯉になる。そう感じさせる一尾だ。二泊通してボウズもあり得ると思っていたこの場所で、日が落ちきる前のヒットとあって、喜びも一入だ。良かった・・・。


願いが通じ釣れてくれた70台

 やはり島の近くまで遠投するのが良いみたいだ。二番竿も回収。傷のないコンプレックス-Tが付いているが、ここはアタリボイリーに習い両竿ともクレイブ・スパイシークラブのスノーマンにする。キャスティングした空にはもう明るさは残ってなかった。前からも後ろからも蛙が絶え間なく鳴いている。夜になっても上着を羽織ることがない、やっと夏らしい釣りができた。

 22時。何事もなかったらエサ換えは午前0時にしよう。明日は真夏日で日が昇ったら暑さで眠れなくなる。早いうちに床に付きたいがこの環境が好きでたまらない。蛙の声は聞きに行ける距離にはなく、ここは茨戸やPt.フラワーロードなどと違い夜に鳥は鳴かない。風もなく、上の駐車場にも誰もいない独りっきりの世界だ。敢えてランタンを消して怪談チャンネルに繋いだりと、闇に身を包む。普通の人ならすぐに帰りたくなるだろうし、「よく怖くないね・・・」 なんて言われてしまう。怖いものなんて何もない。釣果もあったことだし、自信を持って次を待てる。やはり私は夏の此処は好きなんだ。


敢えて真っ暗にして怪談チャンネルを

 またランタンを点けたら寄ってくる虫達。灯りに突っ込んでコケるスズメ蛾、パニックになりゴミ袋に入って出られなくなるカミキリムシ。何故か蚊取り線香に乗ってしまう羽虫。 「よく気持ち悪くないね・・・」 とも言われる。何の事はない可愛いものだ。虫達のやることなす事、見ていると笑ってしまったり、ツッコミを入れてしまいたくなるものも多い。相手が危険生物じゃない限り、周囲の生き物達は皆愛くるしい。これもひとつの境地だろうか。そりゃ、枕元にヤママユガが居たら嫌だけども。

 23時30分。予定より少し早いがエサ換えをしよう。意外にも夜になってからウグイが来ていない。あまりにも竿が沈黙しているために気になっての行動だが、一番竿のクレイブが失くなっていた以外の変化はなかった。二つのボイリーをセットしたブローバックリグだが、一番竿と二番竿のものとでヘアの長さに違いが出た。制作時は同じ長さにしたつもりであるが、二番竿のリグのリングの結び目がズレてヘアが長くなってしまっている。ヘアが長い方には、ボイリー二つをアルミ線で串刺しにし、針元まで落ちないようにボイリーの底で折り込んだ。読んで字のごとく、二つのボイリーが直立するスノーマンになる。単純にリグストップの代わりだ。

 すっかり忘れていた事だが、今回はラインマーカーを着けていない。今になってマーカーを結ぶのも面倒だし、感覚だけでキャスティングしよう。


アルミ線で二つのボイリーを固定してみる

 気温20℃、水温は少し下がって24℃。深夜帯に何か起こってくれるだろうか。午前0時。目覚しを午前5時にセットして横になった。そういえば横になるのは20時間振りだ。体はすぐにシュラフに馴染んでいった。

 7月8日 午前4時。目覚ましより早く床を出た。キツツキがコロコロと小気味良い音を立てている。とりあえず両竿とも回収。此処は邪魔をする小魚達がいないので、ウグイにやられない限りはボイリーは無事であることが多い。このエサ換えでもそうだった。気になったのは水温の低下だ。昨日の昼は26℃だったところが、今は20℃と6℃も差がある。夜間アタリが続かなかったのはこのせいか?しかし今日、明日は真夏日で水温も上がるだろう。平均水温が低いこのダムでは良い方に向かうかもしれない。あとは自分が熱中症にならない事だけ注意が必要だ。まだ残る眠気。最近あまり眠れていなかった。気温が高まるのはまだ先だろう。あと2時間くらい横になろう。


 7時30分。テントの真上の木で鳴くキビタキの声で目を覚ます。雨の予報もないし、ハーフテントは畳むことにしよう。暑くなってからあれやこれやと動きたくないので今のうちだ。

 最初のアタリがあってから12時間が経過した。これでいいのか?やはり寄せエサが必要なのでは?ペレットを撒くのはどうだろう。パウダーベイトよりもストレートにポイントの底へ落ちて少しずつ溶解する。溶解したペレットはパウダーベイトよりも細かくなり、ほとんど香りだけが残るといった形になる。故に魚を寄せることはできても、長時間引き留めておくことはできない。そこにボイリーを少量混ぜて撒いてみることにする。やるなら早い方がいい。悪い結果が出ても時間が経てばやり直しもきくだろう。


ペレットとコンプレックス-Tをフィーディング

 シジミチョウが朝の煌めきを見せた。彼はルリシジミか、ヤマトシジミか、虫取少年だった私の目も衰えたものだ。昔ならすぐに見分けがついた。ヒョウモンチョウにいたっては、ナミヒョウモン、ミドリヒョウモン、メスグロヒョウモン、ウラギンヒョウモン、ウラギンスジヒョウモン、オオウラギンスジヒョウモン、クモガタヒョウモン、ギンボシヒョウモン、コヒョウモン。全て黄色ベースに黒い模様の入ったヒョウ柄であるのに、全てを瞬時に同定できた。蝶の図鑑をゲシュタルト崩壊を起こすまで眺めていたからだろう。 「昆虫博士」 の呼び名を我が物にしていたのが懐かしい。今の私にはもう出来ないかもしれない。

 午前10時。水の流れが少し速くなったみたいだ。減水もしている。こういった場合どうなのだろうか。これまで此処で釣果が出ているのは水が増え出した、または増えて安定している時だ。しかし、手前側と島側、両方同時に鯉らしきモジリが出た。やることはやったし、大人しくしていよう。


 もう11時か・・・。時間の流れが遅くなるか、早く釣れるか、どっちかにしてほしい。ラインの先には魚がいて、竿の前には馬鹿がいる。よく言われる話だ。ラインの先にいる魚は賢ければ賢いほと良い。難しければ難しい方が良い。でも、ちょっとは見向きしてほしいな・・・。そんなことを考えていたら、釣り場ネコの 「ヒゲモヤシ」 が現れた。知り合ってもう6年。お互い歳を取ったものだ。蝶が飛べば動体に反射して見てしまうのは私もモヤシも一緒。独りでそればかりやっていたものだから、仲間がいてなんだか寂しさのようなものが解れたような気がする。


6年前にヒゲモヤシと名付けた釣り場ネコ

 正午のサイレンが山々に響く。多分、このままやっていても釣れない。この時間帯にアタリがあったことすらない。そこでダメ元で遊んでみよう。手前10mのちょい投げ。これも釣れた試しがないが、夕まづめに泡付けが多く出るラインだ。遠投するラインはちょっと休ませて、夕まづめに打ち直す。もしかしたらその前に、何か面白い反応が返ってくるかもしれない。

 日向の気温は30℃を超えているが、ここは木の葉の屋根のおかげで危険な暑さになることは少ない。その上、西の風が穏やかに吹き、通気性重視のツーリングテントならギリギリ中に入れる。それを良い事に、次のエサ換えまでの間、横になることが出来た。気付いたら暫く眠ってしまっていたようで、見た夢の断片を思い出しながらこれを書いている。

 17時。水温は24℃と上がっている。そろそろ本腰を入れていこう。辛うじてアタリの取れる島への遠投だ。まずは遊びでちょい投げしていた仕掛けを回収・・・と思ったが、重大な事を忘れていた。いくら泡付けが多くてもそれを無視して遠中投をするようになった理由。それはアタリがない以上に、非常に根掛かりしやすいからであった。回収のため竿を持つが、仕掛けはびくともしない。一番竿、二番竿まで根掛かり、どうしようもなくラインを切った。やれやれ、またリグチューブやレッドクリップにラインを通すところから始めなければならない。

 徒労の末、やっとセットした仕掛けのトップに付けるのは 「ザ・ソース ポップアップ15mm」 だ。特に何がどうしてという事はない。これまでとは違う口あたりと香りを試してみるだけだ。


クレイブ18mm+ソースポップアップ15mmに変更

 18時。これまでの此処での釣行では終了時間としている時刻だ。いや、アタリの期待を全く持てずにもっと早く上がっていたか。でも連泊する今回は違う。これから夕まづめ、夜間、朝と、これまでにアタリがあった時間をまだ過ごせる。此処に釣行したあとに残るフラストレーションはここにあった。この釣りは、いや今の私の場合だが、連泊が望ましいものだったんだ。

 昨日アタリがあった20時台へ入る。フィーディングの仕方もスノーマンのトップも昨日と違うが、これで良いのだろうか?最後にフィーディングをしたのは午前中のことだ。フィーディングベッドを再度整えておくべきだったか?しかし昨日のは寄せエサを流心に撒いていて、ヒットポイントからは外れていた。この時間帯にアタリがなかったら深夜帯に向けて新たにフィーディングする?でも・・・悩む。難しい・・・。釣れそうな時間帯が限られているため心が急く。遠くから花火の音。落ち着こう。まず、今は竿に触るな。そうしていれば、そのうち何かが起こったり、勘が働くかもしれない。動くなら早朝を狙うタイミングだ。その時までゆっくりしていれば良い。

 20時30分。一番竿にウグイのアタリが出た。これは・・・フッキングしてしまったな。30cmのウグイをマットに下ろし、針を外して返してやる。二番竿も先刻アラームは鳴らないまでも穂先が動いていた。こちらも回収。ボイリーはかなり傷だらけにされている。このエサ換えで、やっぱりスノーマンのトップをスパイシークラブ18mmに戻す。昨日と同じ事をするだけで良いのか?と、これはこれで疑問に思うが、そうでなければ安心できなくなった。だって、鯉のアタリの「ア」の字も無いのだから、釣れた時と同じ方法でやるのが自然だろう。

 22時。スパイシークラブはウグイに強いのか、昨晩と同じように奴らのアタリがなくなった。気を許せたところで、YouTubeで釣り番組を観る。いつもは部屋で観て、釣りに行きたい気持ちにさせられるが、私はイマ、釣りをしているのだ。出演者の楽しそうな笑顔。私もそんな顔をできるかもしれない。番組で記録級の魚を釣り上げた出演者は言う。 「夢、叶いましたよ」 私もいつかそんなセリフを言ってみたい。

ランタンに体当たりしてきたミヤマクワガタ 携帯で釣り番組に繋げて・・・ 

 7月9日 午前0時。特に変化は見られないが、一番竿が気になって仕方がない。前投入でキャストポイントを外してしまったような気がする。このままにして眠れば夢見も悪いだろう。もう一度投げ直そう。返ってきたボイリーに傷はなく、これなら恐らく二番竿も大丈夫だ。

 今夜は月がなく、星を見渡せる。こうして首を上げて空を見上げるなんて去年の合同釣行ぶりか。Pt.フラワーロードはトンネル、茨戸は明るすぎて何も見えない。ここももう少し町から離れていれば、流れ星だって探せるだろう。北の空の低い位置には北斗七星。夏の夜釣りを見守る星座だ。首をおろすと少しフラついた。どうも疲れが取れない。携帯のバッテリー残量も少ないし、早めに眠るとするか。明日、いや今日はもっと暑くなる予報だ。

 ライトにキラリと光る新調したヘマタイトのピンキーリング。新たなチャンスを呼ぶピンキーに、勝負強さをもたらすというヘマタイト。そして一歩の軸を強くするというオキニス。縋るのはもうそんな抽象的なものしかない。それらの願掛けだって、うまくいかないだろう。何せ相手は生き物。彼らにだって運があるのだから。そんな事を思いながら横になり目を閉じた。


 午前5時。自然と目が覚めた。外は濃霧で向こうキャストポイントが霞んでよく見えない。でもすぐに陽光が晴らしてくれるだろう。最後の朝だ。あまり長くは粘れないが、諦めたくない。夜間に来るのではないかという願いは通じずに明けてしまったが、午前中もチャンスがある。日中に釣れないという常識を覆してくれる何かも起こるかもしれない。

 エサ換えしようと新しいPVAを作っていると、背後から小さくローラーが回転する音と共に単発のアラームが鳴った。二番竿にウグイ。まぁ丁度いい、今から2本とも回収しようとしていたところだ。


朝霧に包まれるフィールド

 朝の一投目。本当は遠投しやすいPVAリングの方が良いのだが、在庫切れのため已む無くバッグを使っている。やはりリングの方が投げやすいし、タイトに着水させられる。PVAテープかライン、またはテープ状に加工できるバッグを手に入れなければならない。エサ換えをしている間に霧は晴れ、いつもどおりの景色が戻ってきた。投入距離に寄せエサを追加し、願いを託す。

 午前9時。ダムは発電のために水を増やし、これから強く流れてゆく。そんな時にチャンスがあるのではないかという期待には何度裏切られたことか・・・。別に気にしないでいくとする。


自由なヒゲモヤシ

 正午。水温は24℃となり、少し上がってきたみたいだ。泡付け、もじりもある。しかし何故釣れない?平均水温が低いこのダムでは水温が上がったときにアタリが出ることが多いが、それは小型ばかりが釣れるポイントを含めての数字だ。いま狙っているラインでは昼間に釣果があったことがない。あぁ、折れそうだ・・・。でも奇跡を信じてやるしかない。

 気温が高まるにつれ、アブラゼミがジワジワと夏色を奏でるようになった。日向では様々な蝶が行き交い彩る。2泊3日の釣行も残すところあと僅かになった。しかし不思議だ。1尾釣れたのなら2尾、3尾と続いてもいいだろう。小型の多いポイントを避けるようにして釣り始めた2018年初戦では夜中に80台が一尾。その時もアタリは一度だけだった。一昨年の釣行では夜から朝にかけて6回のアタリを貰った。夕立、気温の上昇で良いコンディションであったのは間違いなく、今回とも2018年とも違う。ここの良いコンディションというのはわかった。しかしそれは 「本当に良い時」 であって、今回釣れないのはコンディションが悪いからだとは考え難い。水の色は悪くないし、ワンドの浅場に入ってくる小鯉もいる。何故次のヒットが来ない?打ち返し時の微妙な投入点のズレによるものか・・・それほど此処はシビアなのだろうか。上手い鯉師がやれば簡単にアタリを出してしまうのかもしれないが、今の私には厳しいことだ。あっという間に陽が勝手に西へ降りてゆく。ここまでか・・・。

 18時、納竿。まぁ、いいさ。いつか此処の大鯉を絶対に釣る。その時の喜びは他の釣り場では味わえないものとなるだろう。これだけ悔しい想いをさせられたのだから。悔しい想いは次へ突き動かす大きなエネルギーとなる。そのエネルギーで、まず次の作戦を考えよう。帰路に付き、山道を降りる。町に出て、車のバックミラーに遠ざかる山々。また来るから、と睨みながら街の混沌のひとつへ戻った。