北海道の鯉釣り日記2024年 晴朗秋日 

釣行日時 9月27日17時~
9月29日16時30分   
釣行場所・ポイント名 第二Nダム

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 止めたままの扇風機。カーテンを開けて広がる空は刻露清秀。ベランダに出て見渡せば、遠くの山や高層ビルが判然たる輪郭を持ち陽に当たる。この雲一つ無い秋晴れの下で竿を振ることが出来ればどれだけ爽快か。こんなにも釣りをしたいのに、次のスケジュールが纏まらない。次はいつ釣りが出来る?ラプラスの魔にでも聞いてみたい。

 休日に当たる日の天気予報を見ながら気忙しく過ごした日々。雨なら中止、曇りか晴れなら釣行。週間天気予報の嫌な位置に雨マークがある。それが逸れてくれる事を願った一週間。そして休日の今日、雨を降らせる空の合間から一瞬青空が見えたことで心が朗らかになった。よし、行けそうだ。用事を済ませている間に雨は上がってくれるだろう。あとは現地がどのようなコンディションになっているかだ。どうか水が優しい色をしていますように・・・。

 出発は14時となり、16時頃の到着となるだろう。大きな国道から右にウィンカーを上げ、山道に入る。すると厚く黒い曇が目の前に立ちはだかっているのが見えた。嫌な予感がしたが、やはり雨にぶつかってしまった。さっきまで見ていた現地の天気予報に雨マークはなかった。それが実際どうだろう。雨足は強まり、やがてフロントガラスの視界を奪おうとしてくるようになった。山道でこれは危険だ。覆い被さってくるような雨の道を、ワイパーを全開にして徐行する。停車させられる場所もなく、頼りない視界からオレンジ色のセンターラインを捉えてハンドルに齧りつく。トンネルを四つ潜るまでそれは続き、やっと雨雲から抜け出すことができた。局地的な豪雨だったのだろう。乾いたアスファルトの道路が現れたかと思えば、しばらく進んだ先でまた雨が暴れ散らかした痕が残る地点がある。ダムの方は大丈夫だろうか?釣り座とする場所の地形には凹凸があり、雨が降り続けるとテントを立てる位置に水溜まりが出来てしまう。不安や心配を胸にダムへと向かう道を行く。

 16時過ぎ。やっと第二Nダムに辿り着くことが出来た。この辺りの地面は濡れていない。水は前回と同じような色をしており、濁ったり流れが速くなったりという異変はないようだ。17時半の日没にタックルのセットは間に合わないだろう。とりあえず、車から荷物を降ろし、2台のキャリーに括り着ける。


キャリー2台分の荷物を担ぎ込み

 また雨が来てしまわないうちにテントを先に立ててからタックルセットに取りかかる。いくら急いても日没は待ってくれない。ヘッドライトを点け、手元を狂わせないようにゆっくりやろう。

 水温は16℃となり、これは前回よりも2℃低い数字だ。今回も前回と全く同じ作戦でいく。フィーディングは 「巨鯉Ⅱ」 に 「スーパーワンスペシャル」 を配合したダンゴをボイリーと共にベイトロケットで島に向けて距離約75m地点を目指して打つ。仕掛けも前回から全く変えずに、セイフティボルトシステムのレッドクリップに三角オモリ35号を付け、その先のブローバックリグには 「キングクラブ18mm」 + 「キングクラブポップアップ15mm」 のスノーマン。針には 「キングクラブ16mm」 を5個取り付けたPVAストリングスを結ぶ。水温が2℃下がったコンディションで同じ作戦が通用するのかじっくり試したい。

前回と同じスノーマンにPVAストリング 寄せ餌も前回と全く同じで

 この場所で日没後に釣りを始めるにあたって不利なのは、向こうの島の岸が見えないことと、頭上の木の枝を躱すキャスティングフォームを作りにくいことにある。竿を振れるスペースは左にある松の木の枝と右にあるミズナラの木の枝の間の横幅約2m。そして12fのロッドをギリギリ振れる高さに枝を生やしていることから、ラインの垂らしの長さを間違えると引っ掛かってしまう。それが言い訳であるが、暗い中で正しい姿勢でフォームを作れず、フィーディングのベイトロケットを投げる際に木に干渉するなどのミスをして、何発かポイントに届かない距離に寄せエサを投下してしまった。しかも島や着水する仕掛けが見えないので、キャストフィーリングでしかポイントに投入出来ているかが分からない。正直言って、今は自信がない。都合が良いのは、今回の釣りが二泊に渡って行えるということだ。この夜がダメでも明日からやり直しが出来る。それでもダメなのであれば、悪いのはコンディションだと考えることができるのだ。ボウズであってもメンタル的にはかなり優しい。


頭上の木がキャスティングの邪魔をする

 全てのセットが完了したのは18時30分頃となった。気温は13℃と日中に比べて10℃以上低くなり、明日は日中でもあまり気温が上がらない予報だ。本格的なオータムコンディションとなる。

 空には雲がかかり、ただ真っ暗な空間に音だけが灯る。ランタンを点けても寄ってくる羽虫の姿はなく、此処で過ごす秋は寂しさを帯びている。それでも魚の活性はあるようでモジリの音がどこかで浮かんでは消えてゆく。

 21時30分。最初のエサ換えを行う。両竿ともボイリーや仕掛けに問題がないことを確認し、再投入。今夜はアタらないかもしれない。期待を大きく持つことはしない。言い方を変えれば、まだ此処を甘く見ていない。前回がうまくいきすぎたのだ。それに、やはりフィーディングにミスがあった事が自信を失わせている。多量のエサを撒くベイトロケットで、しかも粉エサを使ってのミスは鯉の誘導を狂わせる。また、効力が失くなるまでにかなりの時間を要し、短時間の釣行では致命傷になりかねない。まあ、二泊の釣りが出来る今回は運が良かったといえよう。


 風のない闇で秋虫達が唄い交う。今夜はツヅレサセコオロギの声が良く映える。他に何種類いるだろうか。エンマコオロギ、ウスイロササキリ、ヒメクサキリ。よく聴くと、それらに混じって何か知らない声もする。昆虫はいつどこで国内移入が起こるかわからないし、北海道には生息していないとされる虫もいるのかもしれない。

 23時30分頃。アラームと共に一番竿のラインが出され、下流へ向いた。来た・・・。じんわりとドラグを締め、テンションをかけながら竿を持つ。アワセをくれてやっても動じずに走る魚。感触は軽いがこいつは引く奴だ。去年の夏、走りの上手い魚に負けたのを思い出しながらリベンジバトルを開始する。魚は下流の本流筋から若干左に逸れて移動している。その方向には浅場から水深約4m落ちるカケアガリがあり、その下には流木が点在している。その手は食わないさ。要は水深4mの底に潜られなければ良いのだろう?距離、角度的にこちらが有利だ。幾らか長いファイトになるかと思ったが、魚に体重がないためすぐに浮かせることが出来た。ただ、やはり引きは強く、いつものドラグテンションでもラインを出され、そんな楽しいファイトに、気づけば一人で興奮して 「Huー!」 とか魚に対して 「いいね、やるじゃねえか」 なんて声に出していた。やがてタモに入った鯉を見て成る程。頭が大きく体高もあるし、各鰭の付け根も強靭。それでいて太くない体型は暴れさせたら治まらないタイプだ。サイズはギリギリ80cmとしておこう。良い鯉に出会えた。


爽快なファイトを見せた80cm

 ファイト中、二番竿を動かしてしまったので一緒に打ち返すことにする。とりあえず釣れてくれたということはフィーディングのミスも、それ程まで悪影響を及ぼしていないと見て良いだろうか。夜の内に次が来るかどうか・・・。まぁ、最初の夜に80が上がったとなれば、もういいだろう?期待という仕舞っていた感情を出しても。

 その期待の感情を持ってして夜更かしをする。ボウズ逃れが出来た祝いとして麦酒を一本。この時期になると頭上の木が実を落とし、あちこちの地面や水面で音を立てる。前回も落ちてきた木の実が頭に当たって驚いた。これもまた、このダムの知らなかった顔の一つだ。向こうからはキツネが高い音で綺麗に鳴き、山に木霊している。普段よく聞くキツネの声は半ば暴力的な濁音が付くものばかりであるのに、いま聴こえている声は繊細だ。ここまで 「コーン…」 とはっきり聴こえるのは珍しい。キツネの声が何と聞こえるかは、その時の声色と距離や地形によって変わる。いま私とキツネは良い距離に位置し、そのキツネも飛びきり良い声をしているのだろう。

カタツムリの襲撃
 
 キツネが鳴き終えたら、今度は携帯で音楽を聴きながら橋の欄干に凭れかかって物思い。頭を上げても見る星はなく、吹かしたブラックストーンの紫煙だけが舞う。鯉の活性はかなり良いようで、私が橋で音を立てると、その下の浅場にいた若い鯉達が水面を揺らしながら逃げてゆく。今回の方針は間違いではないと思っている。あとは運否天賦か。

 チェアに戻り、まだ缶の中に残っている麦酒を飲み干して一息。そんな時、頭上からもの凄い音を立てながら何かが落ちてくる気配に身構える。そしてその落下物はテントの屋根にガツンと当たってそこにある。正体は直径5cm程の太く長い木の枝だった。これは怖ぇよお前。頭に当たったら洒落にならない。首まで痛めてしまいそうだ。

こんなのが頭上から落ちて来た これは怖い
 
 午前3時30分。ここまで夜に付き合って釣れないのなら仕方ないか。最後にエサ換えをしてリラックスタイムを取るとする。新しいボイリーに付け替えたリグをキャストしようとするも、また木の枝に干渉してしまった。それも二回。前回より明らかにキャスティングし辛い。これは恐らく枝が垂れてきていて何時もより竿を振り抜けないんだ。ならダムに立ち込む?いや、この岸際は意外と深い。ウェーダーを履いていてもあまり入れない。それも夜中になってから始める事ではない。じゃあどうする?キャストフォームを低くする?それでは飛距離を出せない。この時間になって難しい事を考えるな。とにかく今は仕掛けを出来るだけポイントに近い位置に納めて休もう。キャスト云々は明るくなってから考える。

 シュラフに包まれるとすぐに深く眠ってしまい、眼を覚ましたのは午前8時頃となった。ドクターペッパーを一口。そして問題のキャスティングを考える。ダムの水は多くなく、ウェーダーを履いて立ち込めることが分かった。木の枝を躱すにはこれしかないだろう。ウェーディングで朝のエサ換えを完了させた。


 11時頃から北の風が吹くようになった。この前とは逆方向に靡くライン。この午前中、アラームは一度として鳴っていない。前回は珍しく日中にアタリがあったが、基本的にはここでのアタリは暗い時間帯にある。前回のように数を釣ろうとしてジタバタすることもないだろう。

 そういえば、水があまり流れて行かない。このダムでは珍しい事だ。これも釣れない原因となるか、それとも何時もどおりに釣れないのか。まぁ、勝負は夕方からだ。それまでは携帯でどこかに繋いだり、ふわふわと気持ち良さそうに飛ぶトンボと戯れたりと気ままに過ごそう。

今回は数が少ないアキアカネ 主に活動しているのはノシメトンボ

 風が強まり体感温度が低い。寒さを凌ぐため、風の当たらないテントの中に入り、顔だけを外に出して物思いにふける。この姿勢は少年時代によくやっていた。アタリがあるかもしれないとテントの奥には入り込まずドキドキしながら竿を眺めた。高校生の頃の夏休みの釣行がまさにそうだった。20年前、初めて泊まり込みの釣りをした。見たことのない夜の川。使うのは無線のアラームではなくドアチャイムを改造したアタリブザー。スイッチを入れても竿の横で小さくメロディーが鳴るだけで、その音を聞き逃さんと耳をすませた。相棒はカープロッドではなく大鯉専科。今でも車の天井のバーに載せ、いつでも一緒にいる。一生手放すことはないだろう。私にとってのアイドル的な存在だ。


 14時30分。ここは発電用のダム。放送がかかり、これから水位を上げると報せてくれた。水位が低い時でも高い時でもアタリがあったり、全く関係がないかのように釣れなかったりするため気にしていなかったが、今回は極端に流れがないことから、これから水が動くとなると大きな変化となる。もう少ししたら、予定通りに明るいうちにキャストフォームを見直し、ミスが出ない投げ方を身につけて夜を迎えたい。

 吊り橋からワンドを眺め、ノシメトンボが陽光の中で遊ぶように行き交うの目にする。夏のヤンマのようなスピーディーで直線的な飛び方ではなく、複数匹が上下左右に行ったり来たりと自由に飛ぶ彼らの居る光景は秋の風物詩である。輝く太陽が翅を煌めかせ、光が光を呼んだ。

 16時30分。やはり釣り座からのキャストは、頭上の木に阻害されるので止めた方がよさそうだ。ベイトロケットも仕掛けのキャストも、ウェーダーで立ち込んで行う。少々面倒だが仕方ない。もう良い時間だ。エサ換えをしてフィーディングもやり直す。水温は16℃で安定しており、昨日から変わった所は特にない。水も差程増えずにいるが、ワンドの浅場に入る小鯉が増えている。さぁ、第二ラウンドだ。


頭上の木が邪魔なので立ちこんでキャスト

 9時30分。なんとなしに吊り橋に上がって気がついた。今夜は雲がなく星を見渡せる。上を向いて少しクラッときたが、前回以上にくっきりとした星空が展開されていた。こんなにもキラキラ、チカチカと瞬く星々を見るのは、何年も前に雁里沼の釣行で過ごした夜以来だ。橋の上にチェアと飲み物を持ってきて眺める。宇宙なんかに興味がないのは変わらないが、いい加減あのW字を描く5つの星をカシオペア座と呼ぶことは知っておいた。北海道のアイヌの言葉で星は 「ノチゥ」 といい、カシオペア座は 「ヤーシヤノカ・ノチゥ (流し網をする星) 」 と呼ぶらしい。船で網を引く姿と捉えたのだろう。そして左側へと目をやると、やはり大きな存在となる北斗七星が、丁度山に沿うような形で浮かび、負けじと煌めいている。和人はあれを星座と呼ばないが、アイヌ語では 「ウポポ・ケタ (舞う星) 」 着物を着た娘が踊っている姿として星座に数えた。また 「トィタクル・サオッ・ノチゥ (上向きに寝た神の姿をしている・星) 」、 「ウプシノカ・ノチゥ (下向きに寝た神の姿をしている・星) 」 などと向きによって呼び名が変わり、いま私が見ているのは一番右の星が頭、左の星を足とする 「上向きに寝た神の星」 になる。北海道の道産子として、アイヌの文化や伝え話は興味深く聞ける。しばらく星に見惚れていたら釣り場からアラームが一音だけ鳴ったのが聞こえた。アイヌ語で 「シュプン」 ウグイのお出ましか。

星を見るために吊り橋に…椅子汚ねぇな! 吊り橋から正面の光景

 体が寒さに強ばるようになってきた。風通しの良い所に居すぎたようだ。一度テントに入って震えを振り切ろう。さっき鳴ったアラームはあれきり音沙汰ない。多分ウグイではなく、ラインに草か何かが引っ掛かったのだろう。まだしばらくは仕掛けを上げずにチャンスを待ちたい。

 22時30分。変化は全く起こらない。前回と今回で違うのは水温と水の流れ方。昨夜と今夜で違うのは水温が1℃下がり15℃となっている事だ。エサ換えをすべき?それとも待っていればいいのか。仕掛けを入れているポイントが違うのか、それとも魚の回りが遅いのか。後者なら待つのが正解だ。いくらベストアンサーの釣りが出来ていても、鯉は結局待つ釣りになる。しかし何かを変えればこの状況を打破出来るかもしれないという多動的な感情もやはり着いてくる。でも、今回は前回と全く同じ釣り方をすると決めているから、若干のポイントチェンジ、言うなれば位置の再調整くらいしかすることがない。このダムを甘く見てはいけないという信念は最初からある。昨夜の80以降アタリが無いという現状に、今さら打ちのめされることもない。三日目を迎える午前0時にエサ換えをすると決めた。それまでは動画でも観ながら大人しくしていよう。 


テントの中に避難 湿度で体感温度が冷たい

 23時45分。テント内で寒さを凌いでいるとアラームが小刻みに鳴りだした。受信機のランプは緑で二番竿を示す。ウグイだろうか。そう思っていると一番竿のアラームまで同じような鳴り方をした。ウグイが二本の竿に同時に掛かってしまうなんて事は此処では無い。これは異変だ。

 テントから出ると二番竿のラインが弛み、スウィンガーが限界まで下がっていた。鯉の食い上げだ。こちらへ向かって走り、一番竿のラインに触れているようだ。絡ませないことを念頭に対処する。状況的には二番竿のラインが左の一番竿のラインを越え、上を通過する時に触れているようだ。まず一番竿の穂先を水底に付け、ラインを深く沈ませる。あとはそれを跨いで魚を捕れば良い。かなり軽く、60cmにも及んでいないと感触で分かる。現れたのは想像していた通りの鯉だった。一応メジャーを当てた写真を撮ってリリースする。掛かってから私と引っ張り合いをしていないことで体力が残っており、元気そうにダムへと戻って行った。

やっとの二匹目は小鯉 やはり夜に来た

 エサ換えを0時に行う予定にしたのが幸いだった。少しでも早く仕掛けを上げていたら捕れなかったアタリだ。やはり待つのが正解らしい。ヘッドライトの光度を最大にしてまたダムに立ち込み、 「行ってこい」 とばかりにそれぞれの仕掛けを元のポイントに戻した。

 秋のダムを体験したことがなかったため、ここの鯉達がこの水温をどう感じているかは知らないが、一応60台の鯉にとっては食欲を失うような温度ではないという事が分かった。昨夜の釣果から長い時間を経てやっと釣れたのが小鯉だというのは少し気にかかるが・・・。

 午前2時、一番竿にウグイのアタリ。やっぱり来たか。悪戯が祟り、頬掛りしてしまった35cmのウグイを放してやるとこっちに向かって泳いで来た。 「逆だよ向こう行け」 戻ってきたウグイは岸辺に乗り上げたかと思えば、私の目に飛沫をかけるという蛮行をしてから自ら去っていった。仕返しをしてきやがった。やれやれ、打ち返すのも大変なんだぞ。寒い中で上着を脱いでウェーダーを履かなければならないのだから。

 午前3時。今夜最後のエサ換えをする。いつの間にかダムは濃い霧に覆われ、島はおろか竿先から90cmより向こうのラインすら見えない。そろそろこの夜釣りをここで終わらせよう。シュラフや枕を整え、テントのファスナーを閉める。

 午前7時頃、一度眼を覚ましたが竿に異常がない事を知り、再び眼を閉じてしまった。そのまま10時まで眠りこけて、エサ換えを急がねばとウェーダーを履く。まずは一番竿から、と思ったがラインが動かない。根掛かりか?しかし根なんてあっただろうか・・・。ダムに入りラインの行方を追ってゆくとパチンと弾けるような感覚と共にラインのテンションが落ちた。根から外れたようだが何かが変だ。更にラインを手繰り寄せるとそこには鯉がいた。あぁ、ちょっと待ってくれ。岸に上がり、リールを巻いて魚をこちらへ寄せる。60cmくらいの良い体型をした鯉だ。アラームが鳴らなかったのはラインが根に引っ掛かり、魚の方からも引っ張れなかったからだろう。何故かロッドポッド上でのラインは通常どおり張った状態を維持していたのでそれもアラームが鳴らなかった原因だ。根とは?一体何があったのだろう。まぁ、小さいながらも三匹目を手に出来た事を喜ぼう。


三匹目 アラームが鳴らずいつ間にか掛かっていた

 エサ換えを終え、チェアに戻る。薄い水色の空と同じく晴れやかな気持ちだ。そして鳴り響くサイレン。もうこんな時間か。撤収作業に入らなければならない時は近い。色づいている木がまだらに見える正面の山。あぁ、もっと此処に居たいな。もしかしたら、これが今年最後の釣行になるかもしれないのだから・・・。

 12時30分。一番竿のラインが激しく引き出された。思っていなかった投入からの早いアタリに 「おっ」 とまた声に出してしまった。ファースランの勢いが良く、走るタイプの鯉かと思ったが、竿を絞ってからは長く走ることはせず大人しい。だが絶対に顔を上げないという強い意思を感じる。体力を使える限り使った粘り強いファイトを見せてくれた。サイズは70cmとしておこう。これも根性がある良い鯉だ。リリース時も水を蹴飛ばすようにして潜っていった。


四匹目 粘り強いファイトが印象の一尾

 気温は20℃。水温は16℃に戻った。昼間にアタリがあることが殆どないポイントと見ていたが、前回から引き続いてアタっている。これは季節柄なもので、これまでやっていた夏季とは違う回遊ルートを巡って、島付近に寄った遊泳をしているからなのだろうか。まだ次が来るかもしれない。心していこう。

 15時。もう使わないグラウンドシート、シュラフ、テント類を片付ける。広々と寂しくなった釣り場。曇りのない秋の蒼穹は、それを見る自分の心までをも優しくさせる懐を持っている。我ぞと出でたって場所取り合戦をしているトンボ達が愛おしい。もう少ししたら見られなくなってしまうこの総てを、見納めなくてはいけない9月最後の休日。もう一泊くらい出来ればいいのに。

 終了時刻は16時30分と決めた。あと30分。上の駐車場からテントを立てるペグを打つ音と子供のはしゃぎ声が聞こえてくる。分かるよ、少年。楽しくてしょうがないんだろう?私も子供の頃、家族でキャンプに行くのが恒例だった。あの音を聞くだけでその時に事を思い出す。楽しくてしょうがなかった。幸せを思い出せるということは、自分の人生が決して不幸せではないということだ。


 たっぷりと秋の釣りを堪能させてもらった。残す課題はもっと深い秋の此処で釣りをするとこだ。それは来月になるか、来年になるか、まだわからない。その釣行を終えた時、また次の課題が生まれることだろう。この9月の2連続、私としてはかなり良い釣りをできている。オータムコンディションが良いのはこのポイントだからか?9月は釣れたとして、ならば10月は?これまで数年の夏季の釣りで釣果がいまいちだったのは、このポイントが悪かったからなのか?それとも夏でも今回と同じ釣り方をすれば釣れるのか?ならば春は?

 これまで此処を夏のフィールドとしていたのは、単純に都合などで春季や秋季に釣行が出来なかったからだ。2018年から始めたここでの大鯉狙いは、まるで宿命かのように夏にしか実釣させてくれなかった。私は夏以外のこのダムを知らない。もっともっと、このダムを知りたい。鯉師として知らなければいけない。いつかはこのダムの釣りを止めて、別のフィールドを開拓しに行くかもしれない。そこでもまた…。解かなくてはいけない問題が山ほどある。目には見えないそれは、分厚い問題集何冊分になるのだろうか。