鯉釣り日記2010 小春日和 前編

釣行日時 10月24日
6時〜16時
釣行場所・ポイント名 真勲別川
 
 住宅地の小道に雪虫が舞う金曜日。冬が近づく重たい足音を聞いて、これからの釣りで味わうであろう冷たい空気感を想像する。家に帰ったら、コートやジャンパー、カイロなど、冬物の備品を車に積んでおこう。色々考えるだけで身震いを起こしそうだが、釣りに対するモチベーションはいつになく高い。この週末と来週末は数週間前から釣行を決めている。自分だけで釣りに行こうと決めたのではなく、誰かと会える釣行だから、より具体的な形での意気込みがあるのだろう。

 日曜日の早朝。いつでも出発できるように準備しておいた車を出す。釣り場ではすでに、ジュンちゃんと川崎の高橋さんが深夜から竿を出している。はやくその中に加わりたいと、心は踊り、起こしたばかりの体にも眠気を感じていない。向かうは茨戸川下流部。私にとって6年振りの竿出しとなるその釣り場は、その時の自分の未熟さが相俟って、良さそうな相手を逃した苦い思い出の場所でもある。船の往来が多いなど、当時の自分にとってあまり好ましくないシチュエーションであったために、それからその場所に釣行することはなかったが、確かに大きいのがいるし、良いポイントであるに違いない。これを機に、6年前のリベンジを果たしたい。

 午前6時過ぎ、砂利道に車を止める。土手下にはジュンちゃんと、今季も出張で札幌に来られた川崎の高橋さんの車とテントが並んでいる見慣れた光景が、懐かしい釣り場にある。ここは茨戸川の最下流部と生振運河の合流点。茨戸川は下流部で真勲別川と名を変え、生振運河を経て石狩川河口と繋がっている。土手を下り、川を眺めていると、就寝中だった高橋さんがテントから顔を出した。高橋さんから、開始からここまでの話を軽く聞き、車を釣り場に入れて、私も竿を並べるとする。

 下流から、生振運河寄りに高橋さん、合流点にまだ車で寝ているジュンちゃんが入っているので、私は一番上流の真勲別寄りに場所を取った。ひとまずフロートで底探りをしてみるが、特にこれといった変化はなく、障害物も思ったより少ない。20メートル投げても水深は3メートルを切り、それ以上遠投すると、昼間運河を行き来する船にラインを引っ掛けられる心配がある。とりあえず、15メートルほどのところに仕掛けを入れてみよう。

 今回はダンゴを使う。シーズンオフ間際のこの時期だけあって、水温は冷たく、魚の活性にも不安があった。ダンゴの配合は強くアピールできるものとして、一投目からしばらくは短い打ち返しで探ってみる。ベースとするのは、白い煙幕で視認性を稼げる「鯉パワー白虎」。その特性を助長させるために麩系の「鯉バラケ」を入れ、匂い付けのアクセントとして「鯉将」、そして底残りさせる大粒のハトのエサを混ぜる。食わせエサは焼酎漬けのグリーンレーズンで、半年以上漬け込んであるため、一回りほど大きくふやけているが、表皮は硬く、エサ持ちは意外とよい。仕掛けはいつもの袋仕掛けだが、ハリス部分はヘアリグとし、針は普段より小さなものを使ってみることにする。これまで私が使っていた中で最小のチヌ8号よりも更に小さい、グレ針(夜尾長)の12号。形状はチヌ針と同じくフトコロの広い太軸で、この形状ならば小さい針の方が、ヘアリグとして使った場合にガッツリとフッキングさせやすく、それが適えば、大針での浅掛りによる口切れや、針先だけに加重が掛かることでの曲がりや折れもなくなるはず。今回の針のサイズダウンは、その理論を確かめるための選択だ。

オモリ部(管付き固定式)
サキ糸:PE8号2つ折り
オモリ:小田原、もしくは六角25号

仕掛け(袋仕掛け ヘアリグ仕様)
袋、ハリス:鯉ハリス6号
針:夜尾長グレ12号

ダンゴエサ
「白虎」+「鯉バラケ」+「鯉将」+ハトのエサ

食わせエサ
焼酎漬けのグリーンレーズン+乾燥コーン1個

 午前7時頃、セット完了。この釣り場は地面が硬いので竿立てが刺さらないため、水際にある欄干に竿を立てかけなくてはならない。運河には頻繁に船が入るため、落しオモリでラインを沈めておいた。全ての準備が整った頃、ジュンちゃんが起床し、高橋さんのご友人も釣り場に訪れて談笑タイムとなる。今日は風が弱く、冷たい空気が流れ込んでこないため、日差しが暖かい。このままの天候を維持してくれれば、この時期としてはかなり過ごしやすい釣り日和になることだろう。


 インスタントの食事も、穏やかな釣り場で食えば何倍も美味く感じる。秋らしい晴れ空とセピアの景色の中には、もう見納めになってしまうであろうトンボやチョウが飛び始めた。それだけ気温が上がっており、いつのまにか皆、上着のファスナーを外している。いい雰囲気だ。いつアタリが来るかというドキドキ感がたまらない。

 午前10時。談笑の席を飛び出して2番竿へ走る。魚はこちらへ向かって走り、岸に近づいてきてから抵抗した。傷のない綺麗な鯉。いかにも養殖型といったような色と体形で、よく肥えている。その鯉をリリースしてすぐ、高橋さんにもヒット。こちらは元気よく走り、サイズもアベレージを超えているようだ。口の大きなスレンダーな一尾。雄だろうか、精悍な顔つきだ。そして打ち返したばかりの私の2番竿のセンサーが再び入れられる。このペースは予想外だが、理想通りでもあった。一尾目と同じく肥えて背の高い小型で、センサーが入った後はラインがフケていたので、このポイントでヒットする鯉は、やはりこちらに向かって走ってくるようだ。

 思ったより早く、午前中に1尾目をもらえた  続いて高橋さん!
   
 こちらは精悍でカッコイイ鯉だった  私の2尾目。これも傷が見当たらない

 約1時間のゴールデンタイム。連続アタリは嵐のように過ぎ去り、再び釣り場は穏やかな静寂を取り戻した。まず心配していたノーヒットは免れ、このようにアタリが出ることがわかって、あとは安心してサイズアップを狙うことができる。美味しいコーヒーで一服して、アタリが戻ってくることをのんびりと待つとしよう。

 相変わらず釣り場から離れて散歩するのが好きな私は、土手上の砂利道をたどって、茶色く色づく草原に交う昆虫たちにカメラを向ける。そんなことに夢中になっている間にヒットしてしまうというのもいつものパターンだが、釣り場の誰からも「引いてるよ!」コールが来ないところをみると、まだ竿は静まったままのようだ。

 ヒメアカタテハが舞っていた 蝶の中でも寒さには強い種類 

 単独釣行とは違い、時間が経つのがはやく感じる。時計を見てみると、時刻はすでに正午を過ぎ、日帰りのこの釣りも後半戦へと突入した。これからのチャンスに備えて、同じ配合のダンゴを作り、ジュンちゃんはベイトスプーンでボイリーをフィーディングする。高橋さんも打ち返しを始め、仕掛けの回収に入ったようで、自分の釣り場からその様子を眺めながら、作り置いたダンゴを濡れタオルに包んだ。どうやら高橋さんの仕掛けは根掛りしてしまったようで、上がりも外れもせずに苦戦されているようだ。かなり複雑に絡んでいるらしく、簡単に外せそうもなく、引っ張れば僅かに寄ってくるものの、かなり重そうだ。何かお手伝いできないかと近くに寄ってみてみると、なにやら様子がおかしい。ラインは様々な障害物に絡んでいるが、その先に魚の気配がある。急いでタモを取りに行き、ジュンちゃんと一緒に再度駆けつけるが、やはり一人での作業は大変そうだ。私が竿を持ち、高橋さんとジュンちゃんが障害物を取り除きながら、ラインを少しずつ寄せてくる。やっと姿を現した魚は、これまた立派な70台。ヒットしたまま複数個所の掛かりに入ってしまっていたようだ。

ただの根掛りではないようだ 障害物をかわしながら引き寄せた高橋さんの70台 

 いよいよアタリが戻ってきた。2番竿からのセンサーメロディに自分の釣り場へと呼び戻され、余裕のやりとりで70台の感触を楽しんだ。久しぶりに鯉を抱いた写真を撮ってもらい、3匹目をリリース。すると直後に1番竿にもアタリがあった。こちらはややサイズが落ちるが、小型ながらも大口を開けてタモ網を逃れようとする様は勇猛だ。エサの選択が今日のコンディションにぴったり嵌ったのか、このペースでアタリが貰えるのは久々で、ノントラブルでここまで来れていることでも満足できる。サイズダウンした針も、しっかり鯉の口に収まって動きを抑制してくれている。

70台。久々の抱っこ写真 直後の4匹目。暴れ方が勇ましい

 これまで掛かった鯉は皆、こちらに向かって走ってきてしまうので、ラインを出されるようなファイトをしていないのだが、比較的浅く、障害物の少ない場所だからか、全体的な引きはある程度強く感じている。この場所の鯉がどんな引き方をするか知ったのは今回が初めてのことで、それを考えると、6年前にヒットさせたあの魚は一体なんだったのか・・。私自身がファイトに慣れておらず、魚の制御ができなかったのが敗因であるが、沖のブイに向かって走ったスピードと力は、今思っても強いものだった。今回のように自ら手前に向かってくることも、運河を下ろうとすることもなく、今回受けたここの鯉の引き方の印象とはまるで違う。もう一度あの魚が掛かってくれれば、今なら獲る自信があるのだが・・。

 暮れ始めた空が秋の色をより濃く染め上げ、その景色が私達の気合を一層強くさせる。私は時間配分を考えて早めの打ち返しを。ジュンちゃんはボイリーに拘り、20ミリのトリガアイスをポイントに入れ、高橋さんはブッシュ際に捨て竿を出した。

 16時少し前、5匹目が竿先を引き込んだ。くっきりと大きく揃った鱗が力強さを感じさせる一尾。凡そ一時間という心地よいテンポでそろったアタリ方。6匹目も60台のアベレージサイズで、ここの鯉は綺麗であったり、暴れっぷりがよかったりと釣り人を十分に満足させてくれる。

5匹目。これから立派に育ちそうな鯉 6匹目。こんなに満足できる釣りになるとは・・

 作り置きしたダンゴの残り一つを袋仕掛けに装着して、最後の打ち返しをする。投入点は朝から変えておらず、もう何も考えずに同じ場所に仕掛けを落とせるようになっていた。次にセンサークリップが外されれば、鯉が獲れても獲れなくても、今回の釣りはそこで終了。空が真っ暗になる前に道具類を片付け、あとは主要タックルを車に積み込めばいつでも帰れる。ラストに一発・・続いてくれるか・・。

 この一日、気持ちよく晴れ渡り、嫌な風も吹かなかった。寒さ対策のコートやカイロなどを使うこともなく、もう11月になるとは思えないほど、のんびりゆったりと釣り場での時間を過ごすことができたのが最高に嬉しい。それに何よりも、安定したアタリの出方。開始してからエサも仕掛けも、投入点も一度も変えることなくここまで来れるとは・・。これほど綺麗に決まってくれるなんて、思っていなかった。


 17時、2番竿のセンサーが反応。しかし鯉のアタリではなく、掛かっていたのはウグイだった。ここは海に近いから、大型のウグイがよく入る。そろそろ気温が落ちてきたので、ここからは鯉よりもウグイが優勢的に動きはじめるのではないだろうか。ブッシュ際に打っていた高橋さんの捨て竿のセンサーも鳴るが、ヒットには至らなかったようだ。今日はここまでにしておこう。高橋さんもジュンちゃんも納竿を始め、真っ暗になった釣り場で車のエンジンを暖める。

 セオリー通りなら、温排水のある新川や創成川を選ぶはずのこの時期。正反対に茨戸エリアの一番下で竿を出したのは、結果的に大正解になったようだ。次はサイズアップを狙いたいが、明後日には初雪が降り、かなり天気が荒れるという予報が出ている。それを経て、川の状況はどう変化していくだろうか。この続きは来週末。この釣り場で、同じメンバーでの釣りを続行する予定だ。

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