鯉釣り日記2010 小春日和 後編

釣行日時 4月17日 釣行場所・ポイント名 望月寒川

 日曜日に降ると予報されていた雨がなくなったのは幸いだ。この第二回戦は泊り込みを予定しており、何℃まで下がるか知れたものではないこの季節の夜に、雨なんてたまったものではない。温度調整に気を使った着替えや、防寒具を忘れずにカバンに詰め込んで、気合を入れて出発する。忘れ物はない。よし、釣りに行こう!

 ジュンちゃんと川崎の高橋さんは金曜日深夜に合流して、そのままこの前の場所で釣りを開始されている。買出しを終えて釣り場に向かっている道中、ジュンちゃんから「釣れないよ〜」という旨のメールが入った。普段多摩川などで釣りをされている高橋さんには、私宛てに「釣れない」メールを打つと、その直後にアタリが出るという強いジンクスがあるようで、今回はそれをジュンちゃんが代わりにやってみたようだ。果たしてこのジンクスは、高橋さん以外の人にも通用するのだろうか。ちょっと楽しみにしながら、釣り場へ続く砂利道へ入った。

 土曜日、14時到着。前回と同じ真勲別と生振運河の合流で、ジュンちゃんと高橋さんの竿の並べ順も、この前と一緒だ。そして私も前回と同じように竿を並べて、先週末の釣りを再現する。残念ながら「釣れない」メールの効果はなかったようで、吹き付ける向かい風の冷たさと、下がった水温がアタリの遠さを予感させる。数日前には雪が降り積もったりもしていたが、それらがどう影響するのか。前回の続きということで、仕掛け、エサ共に全く同じものをそのまま使うことにしている。打ち込むポイントも同じで、違うのは水の状態だけ。一週間前に釣れた方法が、一週間後の今ここで通用してくれるだろうか。

 夜間への準備を含めたセットを完了させ、自分の竿の前を離れた。チャンスを見込んでいるのは明日の昼間。それまでは長い夜を過ごすことになるのだろう。と、思っていたのだが、早くも2番竿にヒットした。やはり魚はこちらに向かって走って来たが、最後はシャープな引きを見せてくれた。その体つきも細身で、サイズは65センチほど。

こんなに早く来てくれるとは・・ 65センチくらい

 期待せず、油断している時の突然のアタリに、無我夢中で竿に飛びついてしまった。一匹目なのでなんとも言えないが、この時期のここのポイントとエサは、これが正解なのだろうか。まだ早いと思ったが、ダンゴを作り置きしておいてよかった。早速そのダンゴを袋仕掛けに装着して、同じポイントに打ち込む。これからどんどん寒くなって、エサ換えが億劫になることだろうから、また幾つかダンゴを作り置いておこう。凍ってしまうかもしれないが・・。

 ここまでの状況や感想を、忘れないように携帯にメモしていると、高橋さんにもアタリが出た。センサーは鳴っておらず、竿に直接設置していた送信機が、飛ばされて竿の横に落ちていた。どうやらスイッチは入ったものの、受信機が電池切れして反応しなかったようだ。上がったのは私のと同じ程の60台。

高橋さんヒット!  私のとほぼ同じサイズ 

 だが思ったとおり、ここからは続かなかった。風は少しずつ弱くなっているが、気温は3℃前後。毎度のことながら、ジュンちゃんのワカサギテントに入れてもらい、コンロにあたって寒さを凌ぐ。テントの中は8℃くらいまで上がり、快適な談話室となった。これでまたアタリが戻って皆で釣れれば最高だが、夜明けまではローテンポのエサ換えを続けつつ、気長に待つことにしている。いつアタリが来てもおかしくないと思えた前回の待ち時間とは違い、竿ではなく炭火を眺めながら、のんびりと構える一夜。こんな時間も、この釣りには重要なのだと思う。

 22時頃。ジュンちゃんは先に車へ戻り、私と高橋さんはコンロに炭を足して、談笑を引き続ける。そろそろエサ換えでもしておこうかと外に出てみると、寒いながらも綺麗に晴れた夜空に目が行き、しばらく見惚れることになった。月はまだ出ておらず、オリオン座も対岸の陰にかくれて見えないが、久々に見る寒夜釣行の天井は美しい。風も弱くなり、明日までは晴天が続くようだ。メールでSASAYANに誘いをかけると、朝から来るとのことで、明日は賑やかになることだろう。

 自分の打ち返しを済ませ、エサ換えをする高橋さんの釣り場を見に行ってみると、突然高橋さんのセンサーが鳴り始めた。スイッチの入った竿に動きは見られず、ライトを照らしてみると、ラインがふけているのがわかる。高橋さんが作業の手を止めて、その竿を持ってみるが、空アタリだったようで魚は乗っていなかった。

 テント内を照らしていたライトも炭火も弱くなり、高橋さんは明日に備えて就寝。私も自分の車の中を片付け、エアマットと寝袋を敷いて、その上にもう一枚毛布を乗せる。今夜は早めに寝ようと思うが、その前にもう一度体を温めておきたい。コンロに残った炭火に体を寄せて、温かい甘酒を口にする。ジュンちゃんが出してくれたこのワカサギテントがなかったら、今頃寒さに震えて、落ち着くことなどできなかっただろう。夏のソウギョ釣りの長雨を凌いだのもこのテントだ。ジュンちゃんにも、このテントにも、感謝しなくては・・。

 午前8時。高橋さんが車の窓をノックしているのに気づき、目を覚ました。もうこんな時間になっている・・随分とグッスリ眠れてしまったものだ。半分寝惚けながらドアを開けると、高橋さんから、SASAYANがすぐ近くまで来ていると伝えられた。彼に電話してみると、この下流にいるから迎えに来て欲しいとのことで、運転席に散らかしていた荷物をどけて、エンジンをかける。砂利道を進み、石狩川との合流点へ出ると、こちらに手を振るSASAYANの姿が目に入り、彼と荷物を載せて釣り場へ戻った。

 SASAYANは、私の右隣のブッシュの横に竿を出すことにしたようで、そこは前編で高橋さんが捨て竿を出したポイント。良さそうな場所ではあるのだが、目の前にはやっかいな倒木が枯れた枝を開き、釣りの邪魔をする。先週まではブッシュ際に寄っており、そこまで問題視していなかったが、今見てみると少し移動したようで、堂々と好ポイントへのキャストラインを塞いでいる。SASAYANはこれをどう対処するのかと見ていると、別段気にしていない様子で、そのまま倒木の横へキャストしてしまった。まぁ、彼はこういう奴だ。

SASAYAN到着。入りたいポイントに倒木が・・  だが、気にせずキャスト

 私も作り置きのダンゴをタッパーから取り出し、エサ換え。先に回収した一番竿には、妙なラインの張りがあったが、食わせエサがなくなっているだけで、ウグイや子鯉が掛かっているわけではなかった。2番竿の仕掛けには、ふやけたレーズンがそのままついている。釣れるとすればここからだ。本当はもっと早い時間に打ち返しておきたかったが、寝坊してしまったので仕方が無い。新しいレーズンを付けた仕掛けを、前編から変わらぬポイントへ送り込む。特にポイントとなる障害物や、大きな変化があるわけではなく、単純に生振運河と真勲別川の水が入り混じる点というだけだ。これだけ同じポイントだけを狙っていると、もう何を目標物としなくとも、感覚で同じポイントに投げ入れることができる。

 全員の準備ができてからは、テントに入って朝食タイム。朝からご飯ものを食べると胃もたれを起こしやすいので、糖分多目の菓子パンで朝の空腹を満たした。コーヒーブレイクで食事に区切りをつけたところで1番竿のセンサーが反応したが、ゴミが引っ掛かっただけのようで、しばらく待ってみてもラインの先に気配はない。しかし昨日の夕方に比べると、魚の気配も戻ってきたように感じられ、ここからが正念場になるとわかる。センサーのボリュームを少し上げた。

 テント内の温度にコーヒーの熱さが重なって、十分に体が温まったようだ。外に出て、厚着していた上着を一枚脱ぐ。行動派のSASAYANが、これからブッシュの更に奥へ開拓に行くというので、私も付いていくことにした。この時期は茂みに入っても、かぶれや虫刺されの心配もなく、草木が冬枯れに入っているので地形を掴みやすい。釣り場の開拓をするには一番有利な時期だろう。と、その前に靴を履き替えなくては・・。スニーカーでは泥濘に入ったときに大変だ。SASAYANに先に行ってもらい、長靴を取りに車へ戻ろうとしたその時。2番竿の穂先が暴れ、センサークリップが外れる一瞬を経てラインが放出された。よしっ二匹目!急激な走りや首振りに対応できる程度にドラグを締めたら、こちらからも引き返す。何かゴミが引っ掛かっているのか、重量を感じるが、それが魚の重みという確証を得られない。落しオモリを使っているために、障害物が絡む可能性があり、また魚自身も体重を利用した引き方をしないので何ともいい難い手ごたえだ。半信半疑ながら慎重に浮かせに入ると、水面に現せた背中は小さくないと見える。むしろ、なかなか良い鯉ではないか。ゴミは絡んでいない。高橋さんが持つタモへ向かわせ、勝負を決めようとしたとき、反転した魚体から危うく針が外れたが、既にタモの中。やっぱり良い鯉だ。マットの上でメジャーを当ててみると、尾の先は86。これは私の創成川での自己記録と同サイズだ。満足感からため息が出た。そうこうしていると1番竿にもアタリ。魚が入ってきている。こちらはデップリとした70センチで、1番竿、2番竿ともに投入距離はほぼ同じなので、型のそろったスクールが入ったと考えられる。

86センチ。創成の自己記録と同サイズ 形の整った良い鯉だ
   
この角度からも撮ってもらいたくなる  直後の70センチ 

 アタリ出せばチャンスがまとまってやってくる。次はどの竿にどんな奴が来るのか。船の往来が多くなり、この辺り一帯の水面が大きく波立つことがあるが、魚にとってはいつものこと。向こうはそんなに気にしていないように思える。昨日の冷たい向かい風はおさまったまま、予報通り今日も気持ちの良い天気だ。泊り掛けの釣りの朝によくやるリンゴの丸齧りをしながら、欄干に寄りかかって川面を眺めた。フナのような魚が一尾、水面を叩いて潜ってゆく。なんて穏やかな晩秋だろう。

 ジュンちゃんは車でテレビを観ながらお休みしているようだ。釣り場の開拓に出ると言っていたSASAYANは、その方向性を変え、自分の釣り場の目の前に聳える倒木を除去することを目論んでいる。そのへんに落ちていた太いロープの先に、やはりそのへんに落ちていた洗剤のボトルを結び、それを投げて木に引っ掛けようと激闘。うまくロープが引っ掛からず、引っ掛かっても木が折れてしまったり、ロープの方がくたびれてきてしまったりとかなり苦戦している。投げる方向を変え、引っ掛け方を変えと色々工夫するが・・・

水中の倒木を引き上げようとSASAYAN  木に向かってロープを投げる
   
 投げる角度を変えて再度挑戦 何、その行動力・・ 
   
 なんとか木を引っ張るが・・・ ロープが切れて終了 

 結局ロープが切れてしまい、木を引き上げられずにそのまま続行することになった。この木も複雑な形をしている上にかなり大きいらしく、水面から出ている部分は氷山の一角に過ぎないようだ。それにしてもSASAYANの行動力には毎度驚かされる。まず、この木を引き上げようと思うのが凄い。そして失敗しても諦めずに、水に入り、藪を倒し、とことんまで遣り通そうとする根性はどこから来るのか。結果、自分のポイントを30分以上荒らし続けただけとなったが、この人一倍の行動力は、未開の釣りを突き進むのを人一倍有利にするだろう。見習いたい部分であると思う。

 SASAYANが木と戦っている最中、2番竿のセンサーが反応したがこれは不発。それからしばらくして、エサ換えをしようと竿に近寄ってみると、1番竿のラインが大きくふけていることに気が付いた。いつの間にヒットしていたのか、針は50センチほどの若い鯉を捕えていた。掛かったらすぐにこちらに向かって走るので、最初のアタリでセンサーが入らなければ、あとはクリップがついていてもラインがふけるばかりになる。

馬が通りすぎてゆく・・ 糸がふけ、センサーが鳴らなかった
   
 フォーク竿立てを利用してセンサーをセット  センサー談義する高橋さんとSASAYAN

 思っていたよりも時計の数字が進んでいた。遠くからサイレンが聞こえてきたことで、正午を過ぎているのは知っていたが、もう数時間もすれば暗くなってしまうと考えると、明るい時間の短さに寂しさを感じる。起床した時のまま、散らかし放題の車の中を片付けておこう。それが終わったらもう一度ダンゴを作って、あとは終了までじっくり待ちたい。ここまで4匹を釣り、前編から合わせると10匹の釣果。そのうち一尾は80台で、文句のつけようがない。今年の釣りをここで締めてしまっても、何の未練もないだろう。今年は春の2回目以降から夏のソウギョ、そして今日までボウズもなく、良い思いばかりさせてもらっている。今持っている幸運を、一気に消費しているかのようにも思えてくる。ここまでアタリを貰えていないジュンちゃんも同じように、水芭蕉と桜の咲く中でのソウギョや、80台連発という順風満帆な上半期に、運を使い果たしたのではないかと言う。釣れない時があって、それを土台にして釣る。釣れる時があれば、必ず次に不調がやってくる。私は来年を覚悟している(笑)

15時になろうとする頃、センサー音に片づけ中の手を止められた。持っていた備品を放り投げて竿の元へ急ぐ。今度は沖の方向へ向かってしっかり走ってくれる魚で、尾の張った60台。水温が低くなっているために、どの鯉も体がとても冷たくなっている。

車内の整理中にヒット! 60ちょっと。水と同じく、鯉の体も冷たい

 日が落ち始め、ずっと車の中だったジュンちゃんも、起床して備品の片付けを開始。逆にSASAYANは私の車の中に入り、雑誌を読みながら寝てしまったようだ。もうすぐ暗くなってしまう。その前に、釣り場を背景にして皆で集合写真を撮っておきたい。せっかくこうして年に何度か顔を合わせ、共に竿を並べているのに、全員が一つのフレームに入ったことがないのだ。それに、一度の釣りでたくさん写真を撮るのに、撮っている本人だけ写らないのも寂しい。談笑のテントの中で、高橋さんとそんな話をしていた。今度から、お互いの写真を撮り合って交換したい。そして、一つの場所に全員が揃った集合写真も、たくさん残したい。

日が落ちてゆく・・ いつのまにか寝ていたSASAYAN

 寝ているSASAYANを起こし、三脚を立ててカメラをセット。セルフモードにして集合写真の試し撮りをしているところに、1番竿に前アタリが出た。ゆっくりと竿を絞り込んでゆき、一息置いて次の瞬間、クリップが飛ばされる。大きくはなさそうだが、なかなか走りの良い魚だ。ラインが水面を切る。すると今度は急旋回し、そのままのスピードでこちらへ向かって来た。こちらも高速でラインを巻き取り対応するが、嫌な予感。魚の走り方に対してのライン回収がワンテンポ遅れてしまった。これで今までのようにしっかり刺さってくれていればよかったのだが、予感的中のスッポ抜け。やはり小さい針は寿命が短く、これまでよりも早い交換が必要になる。前編からここまで、同じ針で釣り続けてきたが、さすがに針先が甘くなってしまった。ハリスの部分を取り外し、新しい針のついた同じ長さのハリスを袋仕掛けに装着。残りのダンゴはあと1セットで、1番竿の打ち返しはこれで最後となる。

 そろそろヘッドライトが必要だ。各自主要道具の片付けにも手を付け始め、この釣行の終幕は近い。渡り鳥が綺麗なフォーメーションをとって釣り場上空を通り過ぎ、雪虫が私達の周りを浮いている。白い綿毛をまとった彼らが自由に飛べるほど、この一日の空気はやわらかく、秋の終わりは春の初めに似る。

 17時になる10分前。6匹目の鯉が2番竿を唸らせた。50台の小さな鯉だが、大きくなれば強烈に走りそうな体形をしている。この鯉が今釣行最後の魚になるか。打ち返したばかりの1番竿はそのままに、この2番竿はここで納めることにする。



6匹目は50台。2番竿はここで納竿
 テントは畳まれ、中に置いてあった私物を自分の車に載せた。もう少し待てば、きっとまた釣れる。しかし、私はもう十分だ。この釣りのスケジュールに合わせてくれたかのような天候に、談笑の時間。そして前編から合わせて12匹の釣果。これほど楽しむ要素のそろった釣りはなかなかできない。17時過ぎ、全員が全ての荷物をまとめ、私の車の前に集まった。高橋さんは数日後には本州へ戻り、ジュンちゃんは今回で今年の鯉釣りは終了。私も次回の釣りがいつになるか決まっていない。今度顔を合わせるのは来年の春になるだろうか。長い冬の間にモチベーションを蓄えて、それぞれの釣りを楽しみ、また同じ釣り場で同じ時間を共有したい。


 釣り終盤に撮った集合写真は、数ある写真の中でも私がもっとも好きなシーンとなった。これからも色んな場所で、色んなメンバーで、このような写真をたくさん撮れるといいと思う。



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