北海道の鯉釣り日記2025年 望みの川

釣行日時 5月11日12時~30分
5月13日18時05分   
釣行場所・ポイント名 望月寒川

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 今年も新しい小さな草の芽が、幽々とした雪の暗闇を裂いて光を得た。空は春日遅々と日に日に明るい時間が長くなり、シーズンのスターターピストルを鳴らそうとしている。この冬の間も眠ることなく冴えた頭は、判然と釣りのイメージを大きくして、今年はあれをしたい、これをやりたいと贅沢を言う。それは今年いくつ消化出来るだろうか。自分を焼き付くすような釣りをしたいと想う。

 春を謳うコブシの花は勇ましく、桜や梅は淑やかに、足下では水仙が賑やかに彩り、早く釣りに行けと私を急かす。悪天のゴールデンウィークはもう過ぎた。そう、季節は待ってくれない。時間が欲しい。誰かに怒られてでもいいから釣りの時間を作りたい。腹が立つほど嫌いな雨雲のない日に。


 睨むはゴールデンウィーク明けの次の週末の天気予報。前日、前々日に雨マークがあるが、その雨が週末に流れ込まないよう願う。そして辿り着いた釣行日。5月11日午前4時。赤紫の雲の隙間から見える濃いブルー。釣行前の夜が明ける。釣り開始は午後からと考えている。これから雨が降る予報はなく、安心して春の夜長を終わらせられる。

 時計の短針が起き上がり12時30分現在。目の前に広がるのは去年秋に発想し、ずっとやりたいと想っていた2025年春の望月寒川。ついに此処に来れた。



 相変わらず流れが速く、水草が靡き、透明度のある水を湛えた暴れ川。そこに鯉の姿も数匹。気温13℃、風速7m、水温14℃。また曇天になってしまったが、まずは落ち着くためにテントとベッドの設営から始めよう。


テント、ベッドの設営から


 2022年に此処に来た時に続き、また泊まり込みの釣りをする予定だ。時間はたっぷり拵え、二連泊を予定している。川のコンディションとしては2022年の今頃よりも水温が低い。あの時の釣行は忘れたくても忘れられない。17年やってきた川での初めての坊主。しかもちょい釣りで釣果を得られていたフィールドで、初めての泊まり込みをした結果がそれとはなんたる皮肉か。その次の釣行でやっと鯉を見ることが出来たものの、川の顔は芳しくなく、玄人らしき老父までもが何度も坊主を食らっているという、これまでに無かった様相だった。今回もそれを覚悟しておこう。川辺へ降りたときの鯉の魚影は今回も少なかった。厳しい釣りが予想される。

 鯉が溜まりやすそうな岸付近の浅場と、流心の深みを同時に狙えて、かつランディングしやすい地点に目を付けて草刈りをする。これから成長して川岸を占領しようとするイタドリに退いてもらい、足場を整えた。

 次にフィーディングを行う。これまではコーンを撒きエサ、及び食わせエサとする釣りが殆どだったが、2022年釣行で仮眠をする泊まり込みの釣りではボイリーが使い易いと知り、今回もボイリーでいくというのをシーズン前から決めていた。カープロードのスチームベイト 「スウィートコーン」 という、まさに望月寒川にうってつけの品を手にした時から、今年の初釣りは望月寒川でこれを使おうと思っていたのだ。



 ボイリーとなると本物のコーンのように大量に撒き、食べやすく、そして柔らかな口触りで鯉を魅了して食わせへと誘うという構図は取れない。そこでパウダーベイト 「巨鯉Ⅱ」 を鶏卵ほどのダンゴにしてポイントから約20m下流と、約15m下流の地点の岸寄りに投げ込む。次に 「スウィートコーン16mm」 をカットしたものを、またポイントから約15m下流と約10m下流の地点にダンゴと同じく岸寄りに二掴み撒く。撒きエサの場合、流れが強く複雑なため全く同じ箇所に纏めて配置することは出来ないので、ボイリーが点々と存在する形になる。最後にポイント周囲に同じボイリーをそのまま少量撒き、下流からダンゴの微粒子、小さいボイリー、そして食わせへとエサに慣れてもらう作戦だ。



最初の撒きエサはダンゴとカットしたボイリー


食わせエサは浮力がある 「スウィートコーン ワフター15mm」 をトップに、「スウィートコーン16mm」 をボトムにしたスノーマンスタイルを取り、新調したブローバックリグにセットする。

オモリ部(セイフティーシステム)
ユニット:コバートシンキングリグチューブ50センチ、コバートテールラバー、カープセイフティレッドクリップブラウン六角オモリ30号ブラウン

仕掛け:(ブローバックリグ)
 ハリス:アモ グレーベル/クレイ 25lb
 針:伊勢尼15号

 オモリ部のレッドクリップに被せるテールラバーだが、しっかりとクリップを差し込みながら更にその上から針金を巻き付ける。これは魚とのファイト中にオモリが必要以上に外れてしまわないようにする為だ。捨てオモリとして有効なセイフティーシステムは根掛かりの時はもちろん、寧ろ根掛かりを事前に防ぐために、鯉が暴れるとオモリが外れるように出来ている。しかし鯉を釣る度にオモリを失くしていては経済的な痛手となるし、環境にも悪いだろう。本来は硬いテールラバーを使ってオモリを落としにくくするが、更に強硬にオモリ落ちを防ぐために、柔らかくて細い針金をテールラバーの上から巻いて絞める。もちろん完全にオモリが外れなくしたわけではない。針金はオモリを掴んで強く引き続ければ外れる程度に巻く。

●テールラバ―の上から針金を巻き付け補強  ●それでも強く引けば針金が伸びてオモリは落ちる 

 仕掛けに食わせと同じボイリーを入れたPVAメッシュを付けて投入。一番竿は流心寄りの水草の際、二番竿は足元の浅場を狙う。あとは鯉次第だ。やれることはきっちりやった。全てのセットを完了したのは14時頃となった。テント前のチェアに座ると暖かい陽光がフィールドを照らしてくれた。バイトアラームの電源を入れ、静かに佇む。対照的な 「動」 を求めて。


 14時50分。二番竿のアラームが鳴り出した。もう来たのか?ちょうどコーヒーを口に含んだタイミングだった。それを飲み込み、釣り場へと降りる。魚は一度下流へ走ったようだが、私が竿を持つ頃には上流側へと向きを変えていた。強い流れに逆らいながら勇猛と私に抗うのは、欲しくて堪らなかった今年初の黄金。次第に水面から顔を上げるようになる鯉。タイミングを見計らってタモへと入れる。

 74cmといったところか。色も体型も望月寒川らしい姿の個体だ。ファイト中に絡まってしまった一番竿のラインを避けながら、抜群のフッキングをした針を抜く。川へと戻せば、疲れを知らないかのように首を振りながら泳ぎ去って行った。


一匹目 74センチ 思ったより早いアタリ


 来るなら暗い時間帯になるかと思っていたので、意外にも早いアタリだった。作戦成功か?これから数を重ねられるかはまだ分からないが、心地いい思いをさせてくれた。まだ絶対に家に帰りたくない。そう思わされる一時をまたチェアで過ごす。

 この時期の此処は相変わらず風が強い。車に上着とマフラーを取りに行く。ちょうどルアーマンが現れ、岸辺りを歩き始めたので、まだ次のアタリは来ないだろう。だから落ち着いてコレを書ける。次にアタるとすれば夕まづめ頃だろうか。テントの中にチェアを入れてまた深く腰を据える。そうしていると冬の間、ずっと憧れていたシチュエーションを手にして、興奮や緊張に似た気持ちが湧いて出てきてしまった。忙しなく働くこの心。それは感受性が高いことの証で、そんなメンタルは自分自身結構気に入っている。釣りをするにあたって良いツールになると思うからだ。私の技術面や楽しさの見だ・・・びっくりしたな!いきなりそんな近くで鳴くなよトンビ!

 ここは高速道路、そして空港の近くであるから人工音が絶えないながらも、テントの外から鳥の声もよく聞こえてくる。テントの中に壁はあれども、家の防音機能のある強固な壁でないことが、何故こんなにも楽しさを与えるのか。


 18時30分。そろそろエサ換えをしよう。もうすぐ真っ暗になる。川へ降りても水面は黒く、水中が見えなくなった。一番竿のポイントは水草の際だが、位置は覚えているのでキャスティングに問題はない。回収した仕掛けは両方とも無傷のボイリーを背負って返ってきた。他のフィールドと違い、ボイリーのダブルベイツを食ってくるような大きなウグイがいないのが安心だ。ボイリーはポテンシャルを発揮させるために都度新しいものに交換。仕掛けの再投入後、寄せエサも追加。今回、寄せエサはポイントよりかなり下流に撒いている。下流で寄せエサの味を占めた鯉は、川を遡りながらもっとエサがないかと探すだろう。そしてポイントに進入して食わせやPVAのボイリーを見つけた時にはきっと警戒心を解いて食ってくる。今回はそんなイメージの釣りをしている。

 PVAはここまでメッシュを使ってきたが、このエサ換えからPVAバッグに変えることにした。メッシュの場合、着水してすぐに溶解して中身がバラけて流されてしまい、食わせの周囲以外にも、どこにエサが行くか分からなくなってしまう。溶解の遅いバッグであれば、しっかり仕掛けが着底してからバラけて、中身が食わせの周囲に留まるはずだ。こんな感じでどうだろう。ヘッドライトを被り、テントの中にもランタンを置く。さぁ、夜間戦が始まった。

 ●PVAをメッシュからバッグタイプに ●夜戦の始まり 

 20時現在。気温は10℃まで下がっている。冷えてきた足に膝掛けをしながら、携帯からイヤホンへと音を繋ぐ。来るか来るかと殺気を漲らせながらアタリを待つと来ないものだ。一匹目のアタリが早かったせいで二匹目はまだかと切望してしまう。焦らなくていい。もしかしたら、あの一匹が今回最初で最後のアタリなんて可能性だってある。そんな終幕を迎えたって平気な、どんなに殴られたって腫れない顔を持つのが私だ。希望、期待、満足、諦め、不満足、絶望。それらがどこにあったって結果はしっかり受け入れてやる。



膝掛けが必要な寒さとなった

 22時。そろそろ来ていい頃かと思うのだが、アタリは遠い。エサ換えのために引き上げたラインには流されてきた藻が絡まっていた。明るい時間帯にはほとんど無かったのだが、川が何かしらの変化を起こしているのだろうか。ボイリーは無傷で小魚に苛められた様子はない。新しくセット済みの仕掛けをボックスから取出し、付け替えてポイントに落とす。鯉が警戒して食わせを見切っているというより、そもそも鯉の周りが遅いのだと感じる。ならば寄せエサとして撒いたボイリーはまだ川に残っているかもしれない。寄せエサの追加はダンゴのみを開始時と同じ釣り場下流にいくつか打つ。

 この川での夜は2022年の二回を含めて三度目だ。釣れたことのある時間帯といえばそうなのだが、それは一度の釣行に限った結果なので期待を募らせるわけにもいかない。だが、まだ夜は更けていないし朝まづめもある。いつ来てもいいよ、とバイトアラームをチェックしてからチェアに戻る。



 23時。気温は9℃まで落ちたが、先程のエサ換え中に計った水温は13℃と開始時から1℃しか低下していなかった。この川は寒さに弱いはずはないのだが、白く立昇る寒さの証だけが猛々しい。1匹目のヒットから何時間経ったか。此処はこんなにも冷めた表情を私に見せる川だっただろうか。2022年に思い知らされた悪い方へ傾く変化はやはり拭えない。

 ■5月12日

 午前0時を過ぎ、5月12日となった。不正解なのは時間かエサか、それともこの寒さやそれら全てが合わさった坩堝なのか。ここまでボイリーが小魚にやられたり、仕掛けが絡まったりしたことはない。もうする術もないし、エサ換えなしでこのまま朝まづめを待とう。寒さで体が震えるようになってきた。気温6℃。あぁ、なんで温かいドリップコーヒーが飲めないんだろ・・・。バーナーもケトルも、それら一式を纏めたケースも一体どこで失くしたのか。去年から見当たらない。果報は寝て待てというが、ベッドのシュラフに毛布を被せ、その中に入って温まろう。チェアを畳み、テント内のレイアウトを変える。もしアタリがあって飛び起きた時に何かに躓かないように。


 いつの間にか眠ってしまい、現在午前5時。受信機は未だ無を捉えている。水温は変わらず13℃で安定しているが、2022年釣行時、夜間にアタリが連続した時の水温は16℃だった。寒さが釣れない原因なのだとしたら、この昼間はどうか・・・。


夜が明け、5月12日の朝

 ここまでポイントから20~10m下流に寄せエサを打ってきたが、今回はそれよりも近い下流にダンゴとそしてボイリーを投げ入れる。仕掛けと食わせエサは全く変えず、投入点もそのまま。ひたすら待つのみ。

 今日は願ったとおりに天気が良く、日中の気温も上がるようだ。未だに最初の一匹しか釣れていないが、きっと次が来る、と釣り場で迎えた朝の高揚で期待が沸いた私は、キャップを開けられたコーラの泡のように溌剌としている。良い日になりますようにと朝日に祈り、キラリと光るヘマタイトのピンキーリングに触れてはまた祈る。

 午前7時頃。イヤホンを貫通して耳に届くバイトアラームの叫声。やっと来てくれたか。壊れかけているテントのファスナーをキリキリと開け、目にするのは上流へ向いた二番竿。昨日の一匹目より引きの強さは劣るが、良い体格の鯉がそこにいる。一番竿のラインを躱しながランディングのポジションにつき、タモに捕えた。サイズは83cmあたりのメモリに尾鰭が届いている。両方の目玉が極端に下を向いているのが特徴の鯉だった。

二匹目 スマートな体形をした80台


 初釣りで80が出るとはなかなか幸先が良い。ここまで釣れなかったのは夜間の寒さが原因と考えられたが、今も水温は変わらず13℃である。ならば暗くなってからの12時間に全くアタリがなかったのは何故か。これは2022年釣行とは逆の結果だ。とにかく、ここからアタリが続けば幸いだ。

 8時。一番竿のアラームが単発で鳴るようになった。ウグイでも掛かったかと怪訝になりながら仕掛けを回収するも、針に魚の姿はなくボイリーも無事だ。そしてラインにも草や藻などは着いていない。何がアラームを反応させたのだろうか。仕掛けを入れ直しに立ったついでに、橋の上から川を見てみる。思ったとおり、魚影は60cm台の鯉一匹のみ。かつては川面を覗けば必ず数~十数匹の鯉の遊泳が見られたのだが、下で合流している月寒川の上流に至っては鮒っ子一匹いない。変わってしまったな・・・·。釣れるサイズは70cm以上が多く、昔のように40~60cm強の小鯉が釣れることは少なくなっている。昔釣っていたものが成長してこの川に居るのだろうか。では新入りの小さい鯉は何処へ・・・?少なくともこのポイントではない。ゲートなどが施されて進入できない月寒川の下流の方にでもテリトリーを移したのだろうか・・・。

 ●望月寒川 ポイント上流から ●ポイント下流 月寒川との合流点 

 気温は一気に17℃まで上がり、二枚の上着を脱いだ。風は弱まり、訪れるモンシロチョウは楽しそうに花々と戯れ蜜を得る。晴天の春の日和という私が好むフィールドで、80台を釣った自分へのご褒美に葉巻を燻らせる至福の時。冬の間にイメージし過ぎて、此処に生き霊でも飛ばしていたかもしれない。そして今生身が此処に在る。さぁ満喫しよう。

 9時、10時、11時と時間だけが過ぎてゆき、アタリはやはり続かない。一番竿、二番竿共に単発でアラームが鳴ることがあるが、ウグイが掛かるわけでも藻が絡んでくるわけでもなく原因不明。しかしボイリーが失くなっていたり傷がついていたりという事は依然としてないので、エサ残りを心配する必要はなさそうだ。本当にしつこく鳴るようなアラームだけに耳を傾けよう。

 気温は20℃を超し、今や半袖のTシャツを二枚着ているのみ。これだけ暖かくなってもアタらないとなれば、水温の問題ではないのか?竿の前に立ち水面を眺めてみると、対岸付近で鯉のモジリが見えた。警戒して水深の浅い箇所が多いこちら岸よりも対岸の方で行き来しているのかもしれない。しかしこれまで対岸に仕掛けを投げ入れたことは殆どない。試しに回収した一番竿の仕掛けを対岸近くに投げ込んでみる。ほら、やっぱり根掛かりしてラインを切るしかなくなった。向こうへ投げると十中八九根掛かりする。なんとかして鯉をこちらに寄せられないか・・・。

 ならばアピール力を高めよう。ふと思い立ち取り出したのは ダイナマイトベイツ 「モンスタータイガーナッツ」 のディップとリキッド。これをボイリーと共にPVAバッグの中に流し入れ、少し時間を置く。ボイリーにディップが染み込んだら仕掛けと共にポイントへ投下する。もしこれで小魚が五月蝿くなるようなら止めればいい。失敗してもやり直しが効くくらい時間にはゆとりを持たせている。まだまだ終わらせない。

●PVAにモンスターナッツのディップを追加  ●ディップが染み込んだら仕掛けと共に投入 

 12時20分。受信機の緑のランプが点りそのまま消えずにアラームを鳴らし続けている。間違いなく鯉のアタリだ。テントの中のチェアから立ち上がり戦いに行く。

重量感のある鯉が太陽に照らされた水中で抗う。上流へ下流へと躰を翻してはスプールを回し、絶対に負けないという意思が見て取れる。顔を上げてもすぐに潜り直すから空気を吸わせることが出来ない。しばらくやり取りを続け、やっと吻が水面から出るようになったと思っても、大人しくなるどころかより闘志をこちらに向けてくる。フッキングを信じてじっくりと時間をかけながら往なしてやり、やがて岸に近づいて来るようになったファイターをタモで捕捉。悪いけど、こっちも負けるわけにいかないんだ。上がったのは重厚な体つきの80cm。まるで猛牛のような姿と精神。これまで此処で釣りをしてきた中で最も強い相手だった。

●三匹目 80センチ台  ●ここで釣りをしてきて最強の相手だった 

 ディップ入りのPVAを携えた仕掛けを投入してからすぐのアタリ。鯉の周りが遅いため連続して次が来るとは思っていないが、次からの仕掛けもディップ入りPVAでやろう。いつの間にか水温が20℃近くまで上がっている。上流の温排水が稼働していることもあっての温度の大幅な変動か。

 14時30分。入り口と窓を全開にしたテントの中で、何ともなしに釣り動画を観ていたところに二番竿からアタリの報せ。二本の竿のうち下流にセットしてある二番竿へのアタリが続いている。

 靴を履き、釣り場へ降りてみて一目でマズイ事になっていると分かった。川の対岸近くには水面から飛び出している障害物があり、完全にそれに巻かれたまま走られていた。此処で釣りをしていて毎回見る障害物だが、アレに巻かれたことはない。それはこの足下に近いポイントでヒットした鯉の殆どが、対岸へは向かわず、掛かってすぐ左か右を向き、こちら岸寄り、または川の真ん中のラインを走るためだ。ヒットしてから時間が経っているのなら、鯉がうろうろとしているうちに巻かれる可能性があるが、ヒットしてからいきなり対岸へ向かう事がなく、意識はしていれど、あの障害物が実際に邪魔になったことが無かった。ところが今回はイレギュラー。魚は私が一番やって欲しくないことをしてしまいながら障害物の下流で動かなくなった。これ以上ラインを擦ったまま引っ張られることはなくなったようだが、こちらから引っ張っても動かない。ヤバイ・・・どうしよう・・・。竿を上下に振って掛出しを試みるも外れない。今度はスプールを開けて竿を持ちながら上流へと歩き、今度は角度を変えてもう一度。それでもやっぱり外れてくれない。胸が締め付けられるような、冷たい空気を吸っているような感覚になる。ラインを引くとズルズルと擦れてゆく嫌な感触が手元に伝わり、それはまるで自分の体が削られているようで痛々しい。また釣り場へ戻り、ラインを弛張しながら同じ動作。すると障害物とラインとの摩擦が若干弱くなり、魚が寄って来るようになった。ラインブレイクに気をつけながらも魚を障害物近くに寄せてもう一度掛り出し。魚も暴れ始め、それがあってなんとかラインが障害物から外れてくれた。危なかった・・・、外れてくれて本当に良かった。ラインが切れていたら、今はアンフッキングマットに横たわるこの70cm台の鯉に痛手を負わせるところだった。

●四匹目 なんとか掛かりから出せた70台  ●問題の障害物 

 無事にリリースした後、呼吸が荒くなってフゥフゥと音を出している事を自覚する。まったく、こういうのは心臓に悪い。このような鯉が出現するなら、これからもまた同じような事が起こるかもしれないと思っておこう。鯉をリリースした後にラインや仕掛けをチェックすると、意外にも全て綺麗な状態で帰ってきていた。メインラインとしているのはDaiwaの 「アストロン鯉 マックスガンマ 7号」 あれだけ障害物に擦れたのにまだ余力があるようで、パッケージに書かれていた耐磨耗性は嘘ではないようだ。そして今年から取り入れたハリス 「アモ グレーベル/クレイ 25lb」 。コーティングブレイドでありながら、これまで使っていた同じ類いのコーティングラインのように仕掛け作成時にコーティングを剥がそうとしても剥がれず、ただ硬めのブレイドラインのようだったが、障害物に擦られて初めてコーティングが剥れたのが分かった。ブレイドラインに塗り込まれたようなそのコーティングは、確かにハリスを摩擦から守ってくれた。私のタックル達、良い仕事をしてくれるじゃないか。傷んだラインや仕掛けは退場させて、新しく組み直す。これから用事で一度釣り場を離れなくてはならないので、これは投入しないでおく。

 15時過ぎ。所用の為これから2時間程釣り場を留守にしなくてはならない。その隙に動物などに荒らされないよう荷物を纏めてテントに入れる。

 そんな時、残していた一番竿にヒットした。今度はかなり走りの速い魚で、流れに乗って下流へ向かい、あっという間に20mも距離を開けられてしまった。良いじゃないか。今回の鯉は個性豊かなメンツが揃っている。80cmの逞しい姿をした鯉は優しくリリースしようとする私の手を振りほどいて川へ帰っていった。三匹目の80cm台に一人笑みをこぼす。

●この鯉も走りの速い猛者  ●五匹目 今回三匹目となる80台 

 一番竿も仕掛けを打ち返さずに一時休憩。財布や鍵など必用な物だけポケットに入れて釣り場を去る。この昼間になって良いペースで釣れ続けた。釣り場に戻って来られるのは恐らく日が傾く頃だ。その間に状況は変わるだろうか。

 17時30分。用事を済ませて再び釣り場へ降り立つ。ここから第二ラウンドだ。まずは昨日から散らかしていたゴミなどを綺麗に分別して片付ける。そして少しベッドで横になって休もう。リフレッシュしてから続きの釣りをしたい。


 18時。よし、そろそろ動くか。ボイリーを装着した仕掛けは出掛ける前からスタンバイ済みで、それらを持って竿の下へ。夜間に川がどういったコンディションになってゆくかは分からないが、昼間は岸辺りの浅場を狙う二番竿にアタリが多かったことから、一番竿も同じ距離の違う位置に投入することにする。

 寄せエサも撒き直し、ダンゴは握りやすく纏まりの良い 「巨鯉Ⅱ」 からバラけやすい 「龍王」 に変更して、より広範囲に配置できるように仕上げた。ボイリーも 「スウィートコーン20mm」 をカットしたものを手で撒く。

●寄せのダンゴを龍王に変更  ●ボイリーのカットには専用のカッターを使う 

 これでどうだろう。温度計を川に入れると、出かける前に17℃あった水温が14℃まで下がっていた。14℃はこの時期悪い数字ではないが、日中の暖かさが釣れた要因なら、この夜はまた寂しくなってしまうかもしれない。

 19時頃、ベッドメイク中にピクニックバッグの上に置いた受信機が二番竿からの出動要請を捉えた。よし、鯉だな。今度の鯉はこちら岸に沿って上流へ走っている。この場合水の流れがこちらへ向かって来るために寄せやすいが、鯉はそれで獲れる魚ではない。タモを差し出されるギリギリまで粘るファイトは称賛に値する。六匹目は75cmとしておこうか。もう既にヘッドライトが必用な暗さになっている。


六匹目 サイズは75センチといったところ

 ここまでアタリが続いたのは、ディップ入りPVAの効果ではないかと考える。エサ換えの際に手返しが良いように仕掛けとPVAは作り置いてボックスに収納しており、その間にPVAに一緒に入れたボイリーはディップにしっかり浸っている。最初、この作戦はどうなのかと思った。小魚が多いこの川でディップやリキッドなどを使ってしまうと、大量に寄って来てしまって鯉が来るまでにエサが持たないのが普通だ。2022年の釣行前日にフィーディングをしようと 「モンスタータイガーナッツ レッドアモ」 のリキッドに浸けたコーンを撒いた。するとあっという間にウグイが寄ってしまい食われてしまった。ところが今回は一度目のエサ換えからずっと、食わせのボイリーがウグイなどに突っつかれた痕跡がないまま上がってきている。その事からディップを使っても大丈夫なのではないかと実行したわけだが、しっかり鯉が来るまでエサが持ち、本来の鯉に対するディップ、リキッドの効果が実証されている。川は今どんな状態なのだろうか。

 20時を過ぎて気温は一気に12℃まで低下した。また白い夜が始まる。高速道路の反対側から聞こえてくるカエルの合唱に心絆され、赤いかんばせの丸い月に心潤い滲ませる。

 21時30分頃。テントの外からバイトアラームのローラーが回るキュルキュルという音が聞こえたと共に光る一番竿の青のランプ。次の鯉を収めるカメラをポケットにしながら外へと出る。竿は右を向き、鯉が下流へ走っていることを示している。二番竿を退かして、竿を手に右へと歩きながら鯉を追う。ある程度やり取りして、鯉の体力が減ったタイミングで左へ向かせて釣り場へと誘う。そして定位置でタモ入れした鯉は腹部が大きく、体重のある70cmだった。この個体は恐らく抱卵している。もう数日もすれば産卵のハタキが始まるだろう。


七匹目 70cm 抱卵して腹が大きい個体

 これで七匹目の釣果となった。ポイントは岸から数メートルの足元で、現在二本の竿の仕掛けを同じ浅場で並べている状態だ。これなら一本竿でもいいのではないだろうか。元々最初に一番竿で狙ったのは流心近くの水草の際だった。しかしそのポイントは明らかに浅場より釣果が劣り、これ以降そこに仕掛けを入れることはないと思う。仕掛けやラインを近いポイントに並べると魚へのプレッシャーが高まる恐れもあるし、ライントラブルの原因にもなる。二番竿を畳んで、青のランプと青のスウィンガーが爽やかな一番竿のみで釣りをするとしよう。一本竿での釣りなんていつぶりになるのだろうか。早速作業に取りかかる。仕掛けを左右に分けていたポイントの真ん中に落とし、ラインを沈めて完了。さて、次はどうなる?


ここからは一本竿で

 23時57分。間もなくこの釣行も最終日へと突入する。残すはあと約18時間。とてつもなく長いようで、とてつもなく短い釣り場での時間。愛しのフィールドをいずれ去らなくてはならなくなると思うと寂しい・・・なんて18時間も前に考えてしまった。気温は9.5℃と低いが風がないので過ごしやすい。


 ■5月13日

 午前1時。最終日最初のこの一時間は、気付けばただ呼吸をするだけに終わってしまった。眼はどこにもピントを合わせず、唯々一定のリズムで現れては消えてゆく白い吐息を見送っていた。昨夜の睡眠時間はどれくらいだっけ?疲れか・・・。遠くで吠えるキツネの声が橋に反響して二つ聞こえる。車の交通量は減り、いつの間にかカエルは合唱を止めて静かな夜となった。この状態でバイトアラームが鳴ったらさぞ驚くだろう。驚くのは睡眠中でいい。ベッドからテントの出入口まで邪魔になるものを退かして、チェアも畳んだ。天井からぶら下げているランタンは飛び起きた時にすぐに点けられるようにスイッチの位置を確認。受信機、携帯、カメラを左枕元のピクニックバスケットの上に。ヘッドライトと帽子はその下に配置。いつも通りの就寝前のセッティングだ。シュラフに入って体の力を抜き、睡魔に勝たせてやる。

 起床6時。眠気が残る中、カタツムリのようにシュラフからのそのそと抜け出してエサ換えをする。そしてそのちょうど一時間後、早くもアタリが出た。八匹目は軽く、これまでと比べて簡単に捕えることが出来てしまった。60cmとサイズダウンしているが、どんなサイズだろうと鯉とのコミュニケーションは大切にしたい。リリースすると元気よく川へと戻ってゆく。水面からだと青く見える鯉の魚影。やはりその存在感には風格がある。

 ●八匹目は60cm ●竿1本で鯉釣りをするのはいつ振りか 

 夜間は21時以降全くアタリがなく、深夜に計った水温は13℃だった。今もまだ13℃だが、それでもアタリがあったのは温度の問題ではなく、昼夜明暗の違いによるものなのだろうか。明るい時間帯にアタって、夜更けにアタリがなくなるというのは2022年と逆であり、今のところ川の全体的な規則性を掴めない。とりあえず、この先の日中に期待しよう。

 すぐ見える距離で合流している月寒川は明治以前、アイヌ語で 「シイチキサプ」 と呼ばれ、「チキサプ」 は 「断崖の坂」 という意味で(諸説あり)、かつては馬が通れなかった程の険しい坂があり、現在も高低差のある札幌市豊平区を中心とした月寒川流域の地形からチキサプが地名となり、後に入植した和人が 「つきさむ」 と発音するようになり 「月寒」 と漢字を当てた。頭にある 「シイ」 は 「本流の」 という意味があり、現在の月寒川を指す。そして支流であるこの望月寒川もアイヌ語で 「モチキサプ」 と呼ばれ、「モ」 は 「小さい」 という意味で、「小さい月寒川」 「月寒川の支流」と訳せる。その 「モチキサプ」 も和人によって 「望月寒」 と漢字を当てられ、現在の川名になるが、開拓当初は 「モ」 を 「最」 とする 「最月寒川」 と書かれていたものの、すぐに 「望月寒川」 に変更された。「望」 というワードが使われたのは、ここに入植した当時の和人が 「望み」 をかけて開拓した為だといわれている。


65年程前までは周囲に畑しかなかったようだ

 9時現在。気温の上昇に上着を脱がされ、テントの窓も全て開けた。まだ涼しさを帯びる風はまさに春風駘蕩。本日も晴天。土手を上り見渡せば遠くの藻岩山の山頂にまだ雪が残っているのが見える。それはシーズンが開幕したばかりだということを意味する。この初戦では、ここまでかなり充実した時間を過ごせている。そして来週か、再来週か、近いうちにまた釣りが出来ると思うと幸福感を得られる。ヒメオドリコソウの花が足元で小さく可憐に咲いている。私の目線と同じ高さで飛ぶのは広げたばかりの新しい羽を振るうアゲハチョウ。こういった動植物の存在や息吹が私に安らぎを与える。この釣行の残りはあと7時間。本気でやるから応えてくれ。

 10時をまわった。エサ換えをしようか。日照りで熱くなったタックルボックスの蓋を開け、次の為に用意していた仕掛けとPVAを釣り場へ持ち運ぶ。水温はまた20℃まで上がっており、昨日のパターンでいけば釣れる可能性がある。仕掛けと共に寄せのボイリーとダンゴも投入して、次があると信じて竿をバイトアラームに預けた。

 11時10分。待望のアタリが私に大きく息を吸わせた。下流へ走っている。それもかなり速い。このままでは釣り場からでのファイトでは府が悪い。竿を持ち、リールのハンドルを回しながら行方を追う。軽い鯉だが引き方は鋭く、水草と水草の間をすり抜けながら尚も走ろうとする。鯉は下で合流している月寒川へ出ようと企んでいるのか、対岸近くへ寄り始めた。下流へ向くと左側へと望月寒川の水が月寒川に流れ込み、対岸はカーブの内側になる。勿論そんな所まで走られるような事はしないが、対岸には根掛かりの原因となるものが多数存在している。一瞬鯉の動きが対岸で止まったが、すぐにこちら側へと寄ってきた。そのままラインのテンションを保ちながら釣り場まで誘導してネットイン。やはり仕掛けが何かに引っ掛かったのか、レッドクリップからオモリが外れていた。鯉のサイズは70cm台で、光沢のある黒茶色の鱗が勇ましさを感じさせる一尾だった。

九匹目は70台 黒みがかった体色の個体

 寄せエサを追加しながらの打ち返しはスムーズに行えた。気づいた時には正午近くになっており、長針が真下に倒れた時にはもう終了時刻になる。もう一匹くらい釣って帰りたい。

 14時になって北西の風が強まり始めた。太陽は薄い雲の幕に遮られていて光が直射せず、今日は昨日ほど気温が高まらなかった。時折バイトアラームにそっくりな声で鳴く鳥がいるのでドキッとさせられるが、アタリは遠くなってしまった。ブラックコーヒーにコーラ、ドクターペッパー、ブラックストーンにチュッパチャプス。口で嗜むものにも飽きてしまい、冴える気持ちは手持ち無沙汰。受信機を持って散歩をしようにも、今回の鯉は走りが速いため、アラームに気づいた頃にはまたどこかにラインを巻かれたり、合流から月寒川へと下って行ってしまったりするだろう。今のうちにベッドやシュラフなど必要のなくなったものは片付けておくか・・・。


●テント内部
●ヒメオドリコソウ

 15時20分。ヒットが無ければこれが今回最後になるエサ換えをする。いままで通りの位置に仕掛けを置いたら、ダンゴだけの撒きエサを施しておく。偏光グラスで川をよく見ると、夕方の斜陽が水中を照らして、自分の仕掛けがある位置が黄色いボイリーの点在で分かる。銀鱗の煌めきでやはり小魚がいる事は確かなようだが、幸いボイリーに傷をつけるようなタイプではないみたいだ。前回打ったボイリーが見当たらないのは鯉が寄り、食られたからだと思われる。そして食わせを見切って去って行ったのだ。なるほど、では寄せエサとするボイリーも追加しておこう。テントまで取りに行き、16mmと20mmをカットしたものを手で直接、流されてどこへ着底するのかを偏光グラスで確認しながら数個投げ入れる。

 こうして水中を見ていると、いま仕掛けが入っているポイントの他にも、近距離ではあるが食わせだけでも投入しておきたい箇所がある。警戒して一つの食わせを見切って移動した先に、もう一つ食わせがあるとそっちに食ってくる事もある。私はやはり二本竿でなくては落ち着かない。とはいえ、今さら二番竿を復帰させる時間でもないのだが···。


 この釣行も残すところ一時間となった。最後の奇跡を信じているから、こういった時間は大切にする。2022年の釣行では、夜や夕まづめの暗い時間帯にしか釣れなくなってしまったのかと川の変転を感じたが、今回は昼間に多くアタリが出た。変転してそれが固定されてしまったという事はなく、やはり夜にしか釣れなくなったという既成概念や固定観念を形成するには一度や二度の釣行だけでは早すぎる。それを踏まえて再度観察するために設けた54時間の釣りだった。

 17時40分。撤収準備中に暗くなる頃なのでヘッドライトを用意する。明るいうちに片付けに時間がかかるベッドなどを解体して、テントの中はチェアとテーブル代わりのボックスのみとなった。開けた入り口からテントに入ってくる蚊が三匹。また奴らが出る時間になった。恩を仇で返す小悪魔。血じゃなくて脂肪でも吸っていってくれれば、ここまで嫌われ者にはならなかっただろうに。奴らに刺される前に虫除けスプレーを体にかけておく。

そして18時05分。釣行終了時刻にセットしていた携帯のアラームが鳴った。長きに渡った今年の初釣りはこれにて幕を下ろす。十匹目は獲られなかったが、十二分に楽しませてもらった。竿を上げ、バイトアラームの電源を切る。テントの片付けを後回しにしたのは潔ぎよく釣りを切るためだ。


釣行終了を告げる携帯のアラーム

 昼間の名残が僅かに残る空の下、全ての荷物を纏め終わり、もう私が存在しなくなるフィールドを見渡す。オフシーズン中に夢に描いていた光景の数々をを現実のものに出来た。またボウズを食らうのではないかと覚悟していたのに、こんなにも色んな鯉と出会い、色んな思いを心に出来たのだもの。文句は何一つとして無い。この川の変容についてはまだ分からないから、まだ観察は必要だ。また此処に来るときに、この長ったらしい述懐を自分で読み返して、何かの参考にするだろう。80cm台が複数匹釣れた事の喜びも、作戦を成功させた楽しさも、全部未来と過去の自分と分かち合って。