(画像はタップ、クリックで拡大)
濁りない音で鳴る風鈴の短冊が秋の風にたなびく。鰯雲のかかる光景に風鈴はもう似合わない。日光は暑いまま、しかし吹く風は優しく爽やかな日和が続くが、これは北海道では刹那的なものだ。まだ葉の色が緑のうちにやっておきたいことがある。早く休日が来て欲しい、でも季節にはまだ待ってもらいたいとワガママを言う。
14時。踏み込むフィールドにセミの声はない。圧力を感じる程のそれらを上から被るのが心地良かったが、もうそんな季節ではないのだ。このダムの初めてのオータムステージ。どんな釣りになるのだろうか。釣れるも釣れないも、心地良く終わりを迎えたい。
昨日、この地域では雨が降ったと聞いていたが、想像していた以上にダムの水は濁っていた。こういった時、ここでは上流から木や草が流れてきてラインや仕掛けを拐って釣りにならないような事が多い。今回もそうであったらどうしようかと不安が募るが、しばらく湖面を見ていても目立ったものは流れてきていない。これならいけるか・・・。しかし、初めての秋の釣りでは通常通りのコンディションであって欲しいと願っていたのは事実。先に書いた通り、大雨の後の濁りの入った状況では流れてくる障害物に邪魔されて釣りにならず、引き上げることばかりだった。しかし今回はこの状況でも釣りは出来る。となれば、初めてのマッドコンディションの釣りをすることになる。さてどうなるか・・・。いつも鯉の魚影を見る浅場を見渡すが、鯉の姿はない。今回はちょっとマズいかもしれない。仕方ない、これも鯉釣りだ。やれるだけの事はやって、ボウズを食らっても大人しく引き下がってやろう。

ダムには強い濁りが入っていた
まずはウェーダーを履いて岸際の草を刈り、寄ってしまった枝や水草も除ける。感じる水温は25℃といったところで、これは現在の気温と大差ない。思っていたよりも高い数字だ。
荷物を運び終え、セットに取りかかる。今回は去年の7月始めに入った場所で、向こうの島近くに遠投する。島に近すぎるキャスティングでアタリが取れたことが少ないため、島までの距離が約80mのところ、約70mの地点に仕掛けを入れる。マッドコンディションの中、鯉にエサの存在を認識させるには、やはりパウダーベイトのフィーディングが欲しい。
「巨鯉Ⅱ」 に 「神通力」 を混ぜたものをベイトロケットで、そして今回使うボイリーをスローイングスティックでポイントとする位置まで飛ばす。流れがあるため、多少流されることを考慮して、少し上流に打ち込む。

巨鯉Ⅱと神通力を組み合わせた寄せ餌
オモリはレッドクリップに三角錐35号を装着。ポイントまで投げ、ラインにマーカーを結んで夜間でも同じ距離に投げられるようにしておく。
今回のボイリーは、カープロードの 「キングクラブ」 を初めて使う。本州で好釣果の実績を出しているとされるスチームベイトで、本来使おうと思っていたダイナマイトベイツの
「コンプレックス-T」 が手に入らなかったために代わりに導入したものだが、かなり期待している。竿は二本で、一番竿、二番竿ともにブローバックリグに
「キングクラブ20mm」 と、同じく 「キングクラブ ポップアップ15mm」 を併せてスノーマンスタイルにする。ポップアップは蛍光色で、かなりアピール力がありそうだ。しかしこの濁った水の中、鯉に視覚的な刺激を与えられるかは疑わしく、今回はエサ自体の存在感を増幅させる為にスノーマンにした。
カープロードのキングクラブを初めて使う |
キングクラブポップアップをトップにしてスノーマンに |
タックルが整ったら次に自分の居住環境も整える。テントを立て、その横にチェア、さらにその横にはクーラーボックスを置き、いつでもドクターペッパーを取り出せるようにしておく。ここまでかなり時間を費やしてしまった。暗くなる前にライト類を車から持ってくる必要があるため、浅場に架かる橋を渡るが、黄土色に濁った水の中に黒くボヤけて見えるものが1体。鯉が底を掘り返して新しく浮き上がった泥だろう。姿は見えないが、鯉が居ないこともないということか・・・。しかし、あれ一匹居たところで喜べるかと言えばそうでもない。一泊して明日までの24時間、厳しい戦いになるだろう。その厳しさを楽しめるくらいのメンタルでなければ、無名のフィールドで大型を出す釣りなどやっていられない。
18時過ぎ。あまりにも美しい夕日に眼を奪われた。思わず上の駐車場まで出て見に行く。晴れの日が続いていても、都会に居ては邪魔くさい建造物のせいで夕焼けなど見ることも感じることもできなかった。今日ここに来れて良かったと思う。山に夕焼け、虫の声。清少納言の秋の節を思う。正に彼女が美しいと感じた同じシチュエーションで、私も美しいと感じる。やがて急くかのように日は沈み、夕方とも夜ともいえない時間をまた釣り場で過ごす。闇に溶け込んでゆくタックル。バイトアラームのランプが点くことは、果たしてあるのだろうか。
眼を瞑って開く度に深まる闇。駐車場から此処までの最短距離は陸繋がりではない。こんな所までキャリーで荷物を運んでテントを立てる人などいないから、橋を渡って来た人に驚かれてしまう。夜中となれば孤独そのもの。この孤独を街にいる時の私は求める。闇夜を一人占めしている感覚は、嫌々に出演させられた舞台のスポットライトから逃れられたような安堵感。恥ずかしい事ばかりで、誰かに見れたくない所だらけの私を、他人の目から隠してくれる自由で安息の地。それだから鯉の夜釣りは止められない。
20時。一度満ちたダムの水は流れ出し、その力で竿先は下流へ向いている。水が動くのは良い事であると思うが、だからと言って釣れる保証はここにはない。気温は16℃まで落ち、二枚のTシャツの上にYシャツを一枚重ねて過ごしている。これまでの此処での釣行で当たり前のように聞いていたツチガエルやアマガエルの声はなく、この気温になると秋虫達の高い声が良く通る。ここまでウグイのアタリがないのは良きか悪きか。頃合いをみてエサの持ちをチェックする。
21時。両仕掛けを回収する。一番竿、二番竿ともラインに草が絡まった状態で上がってきたが、ボイリーは傷ひとつない状態を維持していた。安心して長時間持たせることが可能であると分かるが、ウグイが悪戯してこないことが逆に気になる。このポイントで釣りをしていてウグイが来なかったことなど、これまで一度もない。ウグイすらも食い気を失ってしまうような状況なのか?だとすれば現状かなり厳しいが、まだ夜は始まったばかりだ。落胆するのには早い。釣れないなら釣れないで、
「濁りの日は良くない」 と一つのデータにすれば良いだけだ。上下左右あってのデータだ。折れ線グラフが真っ直ぐになってもらっては面白くない。
22時。気温の低下で体感温度は想像していた以上に冷たい。この場所で服を着こんで寒い思いをするのは新鮮だが、テントの中に入って体の震えを取るとしよう。まだ仮眠するような時間ではないが、寝袋にくるまって横になる。携帯でクレヨンしんちゃんなんか観ながらも、アラームが喚き散らしてくれることを期待する。
時刻はもう午前2時になる。ここまで待っても釣れないか・・・。このポイントでは夜中か朝にアタリが出る。希望は捨てない。まずボイリーの品質を保つ事が大切かと思う。いくら良いフレーバーを持ったボイリーでも、長時間入れっぱなしにすると良さが抜けてしまう。夜中から早朝に備えて新しいものに変えよう。
午前7時。やれやれ、アタリは来なかったか・・・。一番竿から回収してみるが、ボイリーはポップアップのみが残され、キングクラブ20mmの方は姿を消していた。続いて二番竿。こちらにはいつの間にかウグイが掛かっていた。寝袋で横になってた私が気がつかなかったということは、アラームをほとんど鳴らさなかったということだ。ここにきて初めて状況に変わりが出た。残す勝負は午前の間。経験上、ここでは昼間にアタリがあることは期待出来ない。何事もなければ最後の打ち返しとなる。新しいボイリーに付け替え、PVAストリングに通したボイリー5個と共にキャストする。

PVAはストリング型を使うと遠投しやすい
涼しさを帯びる初秋の風。すっかりリラックスしているノシメトンボを捕まえたりして、チャンスを待つ。テント類ももう片付けておこうか。
晴天の蒼穹とは正反対の濁った水。やはりマッドコンディションでは厳しいのか?それともよくあるボウズなのか。それでも心は急いてもいないし、不快でもない。それは楽しめている証拠となる。正午のサイレン。もう今回の釣りは絶望的だが、だからといって鬱屈とした精神状況ではないのは一つの境地か。釣りは14時で締める。
15時になる頃、見ている前でウグイの小さなアタリを竿が捉えた。アラームはピリッとも鳴っていない。朝のウグイもこんな感じで、アラームを鳴らさずに私に気づかせてくれなかったのだろう。しょうがない、時間も時間だ。投げ返すことなく、ここで終了としよう。
どうしても難しいこの場所。多分、もっと鯉の流入数が多いポイントはたくさんある。しかしこのダムには足場がない。下手に林に立ち入ればヒグマのリスクだってある。熊出没注意の看板が立てられているようなエリアだ。あぁ、どうしたことか。なんとかして、此処の鯉を拾えないだろうか。全く釣れないのなら諦めが付く。しかし此処では80台が釣れたり、数釣りを出来たこともある。なぜその波に乗れない?多分ものすごくシビアなんだ。もう一度、多分もっと秋が深まった頃になるが、もう一度ここを訪れてみよう。本格的なオータムステージで、これまで捉えられなかった何かが掴めることだってありえる。少しでもチャンスがあるのなら、それにすがってみて、ダメならダメとハッキリと
「負け」 だと自分に言い聞かせる。それでも私の釣りは息をする。どうせダメなんだろう、なんて思っているだけでは不満なんだ。だって2012年~2014年の石狩川開拓だって何連続もボウズを食らって、それでもやり通した。そして鯉の穴を見つけることができ、釣るための方程式を組むことが出来たじゃないか。普通の人なら
「釣れない」 と判断してしまう所で釣ったじゃないか。経験がものを言う。経験でものを語りたい。そんな釣り人になるには苦行のような釣行を重ねることだって必要だ。ボウズを食らって無駄な時間を過ごした、なんて思わない。これもこれで私には大切な時間だ。アタリを見込めなくたって、ボウズであったって、私は楽しんでいる。楽しく苦行が出来るなんてメッケもんだろう?何にしたって、これで終わらせたくないんだ。まだまだ続く。すぐ近いうちにまた此処に釣行する。気持ちが華らぐ。