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赤紫に燈る札幌の夜が暗さを取り戻うとしている。ベランダから望む遠くの赤色灯。霞んでしか見えなかったビルのアウトラインが四角く浮かび、雪塵が去ったと知る。もう少しで見られなくなる、傾くオリオンに吹き掛けるようにしてブラックストーンを燻らせ釣りを思うが、痛めた足はまだ言うことを聞いてくれない。間に合うだろうか、フィールドの地を踏めるのはいつになるだろうか。焦る気持ちを抱いたまま、このシーズンは始まろうとしている。
やがて木々の輪郭が掴めなくなる萌の時。重い足はまるで枷のようだが、壁に囲まれた空間に引きこもれば、若かりし頃から脈々と続く釣りの情熱を持った体の細胞が麻痺するような不快な感覚になり、感受性が衰えてゆく気がした。足の骨はまだ繋がりきっていないが、少しずつ動かしトレーニングに勤しむ。別に大した怪我というわけでもない。足場の良い釣り場なら春の釣りに間に合う。失った感受性を取り戻せる。足に負担をかけない釣り場を候補地にして私のシーズンを始めることにする。
この2024年の3月で当サイト 「巨鯉への道」 の開設から20周年を迎えた。このように書き記した釣行記は去年最後の釣行で310件。難所での新規開拓で、釣り方を探りながら連続坊主を食らうような場合は、ブログに少しずつ書いたり、或いは後に一つの記事に纏めて書く事もあるし、事情によって公開していないものもあるので正確な釣行回数は310回より多い。それでもまだ釣行回数は365日の一年分には達しておらず、数えてみて知った意外と若い数字であった。310回、このHPでいうところの 「310歩」 そして20年の年月で未だ巨鯉を手にしていないのは、多くの人に閲覧されている存在であることを考えれば少々恥ずかしくもある。しかし私にとって巨鯉は最終目的であり、敢えて寄り道する事も多く、方針のブレがあることも自覚し、認識している。ここまででよく分かった事は、鯉は非常に面白い魚であり、同じ種類の魚が違う水域の生物群集や非生物的環境によって異なる性質を持つという事だ。それによって釣り方が変わってくるし、一筋縄ではいかない。鯉が淡水の王者と云われる所以は、川の中流、下流、汽水域、池、カルデラ、ダム、都会の水路、どこにでも居る、どこにでも居られる強さがあり、どこにいても王者であるからだ。北海道中の様々なフィールドに適応して釣り方を考え、北海道中の様々なフィールドの王者を釣れるようになりたい。そうしているうちに、「此処は」という、巨鯉のテリトリーもどこかで見つけられると考えている。中途半端なところでいきなり巨鯉が釣れてしまっても素直に喜べない性格であるし、自分で自分を納得できるようになるまでは、何れにしてもまだまだ道は長いだろう。
5月3日
通い慣れた川の水面は冷たい北風に撫で付けられていた。水温は12℃と高くはない。しかし昨日から暖かい晴天が続いており、これでも水温は上がった方かもしれない。
まずはポイント選定から始めよう。マーカーフロートを取り出して軽く投げる。水深約5mのライン。去年の今頃、いやもう少し暖かい日だったか、釣果を得ているポイントだ。マーカーを浮かせたまま、カープロッドでそれに向かってオモリだけの仕掛けをキャスティングし、同じ距離に投入出来るようにラインに目印の浮き止め糸を着ける。マーカーが終わったら、オモリからベイトロケットに付け替えてフィーディングする。それと同じ要領で手前のカケアガリ下水深約4mラインをマーク。去年の釣行では広い範囲にフィーディングを展開させてしまい、針のついたボイリーまでの鯉の誘導を曖昧にしてしまったきらいがあった。今回は極力寄せエサを狭い範囲に集中させ、その中に食わせを入れるようにしたい。

最初にマーカーフロートを使ってポイントを決める
今回はメインライン 「ハイインパクト ハイリーキッジ パイナップル」 をエサに釣りをする。パイナップル系のボイリーを使用するのは初めてのことで不安はあるが、同じ流域の釣り場でパイナップル系ボイリーで釣果を得ている釣り人がいるので、釣れる気がしないわけではない。鼻に抜ける爽やかな香りを鯉はどのように感じ取るのだろうか。寄せエサの内容はあまり広範囲にバラけないよう、比重の重い内容物が含まれる 「鯉夢想」 を使い、その中にパイナップルを砕いたものも混ぜて水で硬めに仕上げて使う。
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| ●初めて使うインパクトハイリーキッジ パイナップル |
●寄せエサにはパイナップルを砕いたものを |
パイナップルは15mm、20mmがあり、二本の竿で両方とも使ってみたい。寄せエサをベイトロケットで三発打ち込んだら、次に仕掛けをボックスから取り出す。仕掛けは相変わらずのブローバックリグだが、針は去年まで使ってきた伊勢尼針14号から15号と大きいものを使う。ハリスのヘアも去年より少し長くして、ボイリーから針のベントまでの間隔を若干広くする。これまでは小さなエサを意識した鯉、または警戒心の強い鯉が最小限の力でエサを吸い込もうとする 「キッシングバイト」 により、ボイリーだけが口の奥に入り、針は口内の浅い部分にしか入らないということを危惧してヘアを短めに、ボイリーと針の間隔を狭めにしてきたが、それによってボイリーが針のフッキングの妨げになる事も考えられた。その点を踏まえ、今年からはボイリーと針までの間隔を数mm広く取ることにした。
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オモリ部(セイフティーボルトシステム)
ユニット:コバートシンキングリグチューブ50cm、
コバートテールラバー、FOXカープセイフティレッドクリップ
オモリ:六角30号 (ブラウン)
仕掛け:(ブローバックリグ)
ハリス:エジスカモテックスセミスティッフ25lb
針:伊勢尼15号
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PVAバッグに同じボイリーを数粒入れて針に引っかけるが、バッグを使うには少々内容物が少なく軽いので、キャスト後に浮き上がらないよう石を入れてみることにした。砂の水底にボイリーと石が並ぶ形になり、エサ換えの打ち返しの度にポイントに石が増える。これが何らかの効果を成して鯉にアピールできるのでは?とも思いはするが、本気で考えてやるわけではない。

PVAバッグにボイリーと石を入れてみる
マークした水深約4mのラインには一番竿で15mmのボイリーを、約5mのラインは二番竿で20mmを担当してもらうことにする。
釣り場への到着は正午頃だったが、慣れない場所でもないのに、効率の良い作業の仕方を忘れて、うろうろと無駄な動きをしてしまい、セットを完全に終わらせたのは13時40分頃となった。長潮の満潮が終わったタイミングで、ここから潮は日暮れまでに下がってゆく。風速は6m程でトンネルの向こう側から中を吹き抜ける。気温は16℃まで上がっているが、体感温度は低く、やはり上着が必要だ。
15時。甘い色をした空に雲はなく、その下で緑が芽生え、鶯が歌詞どおりに鳴いている。春らしい日和だ。それを楽しみながら気長にいこう。アタるも八卦アタらぬも八卦。でも久しぶりのフィールドでの解放感で体が疼く。何かしたい、何かしなくてはならないことはないか?PVAの作り置きか、タックルボックスの再整理でもしておこうか・・・。
17時。一番竿のアラームが短く鳴って止んだ。ウグイか?それにしては連発しない。懐疑的になるようなアラームの鳴らし方。空アタリか?釣り場へ降りると青のスウィンガーが送信機のところまで上がりきって止まっている。ウグイならここまでスウィンガーを上げることはない。訝しの眼差しで竿を見つめて1分経ったところで竿が引き込まれた。小さいんだ。そして魚は焦りを見せていない。ラインの先にいるのが鯉であることが分かる程度で引きもしない。これはタモ入れ前後にようやく自分のおかれた状況を理解して大暴れするタイプだ。そして案の定、大きさも行動も私の思ったとおりの鯉がタモに収まった。50cmの若い小鯉。それでも今年度の初鯉だ。喜ばしいではないか。

2024年初鯉は50cmの小鯉だった
一発目から小鯉であるとその先も同じような釣果が重なるのではないかとも思えるが、短時間でアタリが出たのは新しいボイリーを使っているという点からしては安心して次を待てる。
風は力強く、少しずつ温度も下がっている。外でチェアに座っていたいが、車のシートを倒して寒さを凌げる空間を作ろう。その中で20周年初釣行の初鯉の祝いに、ブラックストーンと鯉色のウィスキーを薄めに割って嗜もうじゃないか。
18時。少しずつ風は弱まってきている。トンネルの中から眺める斜陽に遠い遠い過去を思い出す。私はこのように昔を思い出すのが好きだ。だから釣りの度に釣行記を書いて残すのを止めない。それが未來の釣りに役立つヒントをはらむものであっても、ただただ戯言を書いているだけのものでも、決して消さない。もしこのサイトが私の死亡以外の理由で運営できなくなったら?それでも誰も知らないところで、自分しか読めない形で、ワードプロセッサか、もしくは鉛筆で書き続けているだろう。そもそもそこから始まって、たまたまhtmlにしたに過ぎない。
脳はコンピューターみたいに記憶容量が決まっていない。新規作成も、上書きなんかも自由に出来る。生まれてから何のために呼吸は続いている?私は見たもの感じたものを忘れずに、良くも悪くも忘れずに自分の人生の軌跡を死ぬまでとっておきたいだけ。幼少の頃のこと、自分が寝かされたベビーベッドの上に飾れたおもちゃの色や動き、音とか、幼稚園の先生の名前や声、教わった事とか、とっておいてある。 「よくそんな昔の事を覚えてるね」 とよく言われる。しかし残念ながら私は記憶力が良いわけではない。勉強とか数字とか人の名前とか、すぐに忘れる。でも自分にとって苦くも甘くも必要な記憶は新鮮なままとっておきたい。必要ならば書いたり撮ったりする。そして自分の人生において一番明るく煌めくはずの、この20年以上の釣りの記録と記憶を残している。自分の記憶や知識が誰かの何かの役に立つかどうかとか、そういうのはどうでもいい。ただ生きてきていることを自分の中で認めたいだけだ。思い出は重い荷物にはならないし、ちょっとした記憶が非常食になったりもする。そういうのが好きなんだ。

相変わらず黒いものばかりの嗜好品
19時になろうとしている。潮はそろそろ干潮に近づいている頃だ。風が止み、ラインの向こうは凪の川面。そこに跳ねやモジリは見当たらない。やっぱりまだ寒いのか?ここで釣りをするのには時期的に早かっただろうか。そろそろ両竿共エサ換えをしたい。そう思っていたさなか、一番竿の穂先が一瞬カクンと曲がった。アラームは反応していないが、明らかに魚のアタリだ。しかしそれは続かず、竿を手に取り回収する。あれだけ穂先が動いたのに、意外にも15mmのボイリーは無傷だった。二番竿の20mmは少し欠けた姿で返ってきたが問題のある状態ではない。また石入りのPVAバッグを針に引っかけて両竿共同じ距離に打ち直した。
かなり気温が冷えてきている。上着をもう一枚羽織って車中待機しよう。ダッシュボードの上のトレードマーク、狐の面とキャップが少しあさっての方向を向いている。正面に向き直して自分の気持ちも引き締めてから、シートをフラットにした後部座席に腰を落とす。
20時30分。今は上げ四分といった潮具合だ。そして23時頃に満潮になる。早朝までに次のアタリを取れなければ作戦を変更しようかと考えていた矢先に二番竿のアラームが走るようにして鳴り出した。しかし、いくら急かされても痛めた足で私は走れない。土手を降りながらヘッドライトで竿を照らすと、二番竿が左へ大きく曲がりながらスプールを滑らせていた。今度の鯉はやる気がありそうだ。ここは疾走する鯉は少なくても、足場がとぎれ、その先にブッシュがある左に行かれるとやっかいだ。減水しているので川に立ち込める。深みになる手前、長靴が浸かりきらないように立ち込んで底のブロックに靴底をグリップさせる。竿を大きく右に向け、魚をこちらに向かせてハンドルを回す。一匹目よりはマシな程度の鯉だが、首振りは強い。やがて私のライトに照らされて光る鯉を捕捉しネットイン。65cm程だが完璧なフッキングが出来ていることが喜ばしい。

2匹目65cm やる気のあるファイトをみせてくれた
減水のせいでリリースも川に立ち込んで行わなくてはならないのが面倒だが、うまく逃がしてやりたい。一度私の手から放れた鯉がゆるりとこちらの浅場へ戻って泳ぎ出した。リリース後の鯉がこちらへ向かってきたり、深みの方へ行こうとしないのは、鰾のガスの過剰摂取、過剰排出などによって、鰾からウェーバー器官、それに繋がる内耳までの組織の疲労により、平衡感覚が麻痺して安定しておらず、地形や方向をうまく認知できていないということからも考えられる。浅いブロックの上をゆっくり泳ぐ鯉はこのまま放置したら身動きを取れずに死んでしまう恐れがある。手で捕え、もう一度落ち着かせてからカケアガリへ誘導。今度は元気よく尾鰭を振りながら潜っていった。
これで一番竿、二番竿共にアタリを取ることができた。ここから三匹目は来てくれるだろうか。来るとすればどっちだろう。とりあえず今のところは作戦の変更はしない方向でいく。
23時15分。絶えなかった考え事、カッコつけて言うなら 「夢想」 が支離滅裂になってきた。疲れたのだろう。いつの間にか重くなっていた瞼は気づけば無理に開けていた。しかしこの夜はまだ終わらない気がする。とりあえず歯でも磨いてすっきりしようか・・・そんな時、歯ブラシを咥えてすぐの状態で見た受信機のランプが光り、二番竿のアタリを報せた。さすがに歯ブラシを咥えたままファイトは出来ない。アタる時は本当に不都合なタイミングで来ることが多いのは気のせいか。魚の感触としては少しサイズアップか・・・?いやそうでもないか。今度の魚は左へ向かわず正面へ走っていた。左へ行くようなやっかいな奴ではないみたいだが、引きはこのフィールドでは強い方だ。上がってきた魚を見てすぐわかる。こいつは引く奴だ。サイズは70cm程だが、胸鰭の付け根が強靭だ。流れが強い川や浅い川で、そして夏場なら体重の軽さを利用してもっと豪快なファイトを魅せてくれるタイプだろう。

3匹目70cm 細身で軽く、このような鯉はよく引く
ボイリーを付け替え、打ち返してから10分後、また釣り場からスプールのクリック音が聞こえてきた。アラームの受信機は一番竿の青と二番竿の緑のランプが同時に点灯しているが、これは接触不良によるものだろう。見なくても二番竿のヒットだとわかる。今度の魚もまた正面に走っている。先程のものと同じくらいの体重だが、ファーストランの速はこちらが上だ。暗いうちにはあまりやりたくないのだが、また欄干を超えて深みの近い所でネットイン。軽い鯉だが、長さは三匹目を上回って尾の先がメジャーの77cmあたりを示している。

4匹目77cm 3匹目よりやや銀色の個体
二番竿の水深5mのボイリー20mmが正解のようだ。ならば黙りを決め込んでいる一番竿も同じ距離に・・・?いや余計なことはしないでおこう。二番竿で釣れているんだから良いじゃないか。下手に動くと後に後悔する展開になりそうな気がする。
満潮を越えた午前0時30分。ランタンを消して横になり眼を瞑ってしばし、単発的なアラームに起こされた。ランプは緑。これは・・・スウィンガーで取ったフケアタリか?しかし降りてみるとスウィンガーはセット時の位置にぶら下がったままだった。あぁ、アイツだ。竿から伝わるアイツの感触。今回はやけにウグイがアタらないと思っていたが、やっぱり釣れてしまうのだ。20mmパイナップルを咥えた30cmクラスのウグイを逃がし、PVAと共に待機させてあった新しいボイリーの着いた仕掛けを取り出し打ち返す。潮は満ちてまもないはずだが、欄干の向こうの水底はやはり露出している。どうせ川に立ちこんでファイトすることになるのだから、タモは予め欄干の外に出しておこう。

減水で欄干からタモ入れができない
ウグイが初めてアタった事。よもやこれが鯉のアタリの終了の合図ではなかろうな。二番竿の打ち返しと同時に一番竿も回収してみる。15mmのパイナップルは傷ひとつなく返ってきた。手前カケアガリ下の4mラインは今回は不正解なのか。投入前に二番竿と同じ距離に打とうかとも考えたが、やはりここまでの流れを変えたくない。一番竿はまた4mラインを続行することにする。こういう時こそ、まるでアタリがなかった竿にデカイのが来るのではないかという期待も微かにある。一番竿の投入位置については早朝になってから考えることにする。

日本に数冊しかない激レアな鯉釣り本を読みながら
2時35分。ここに来て一番竿に一尾目以来のアタリが出た。二番竿のウグイからすっかりアタリが遠退き、車内でシートにもたれかかりながら日本に数冊しかない激レアの鯉釣り本を読んでいたところだった。アラームの鳴り方からしてまたウグイかと疑ったが、正体は走ろうとしない鯉だった。一尾目と同じく、水面に浮かせてから本気で抗うタイプであり、フッキングを信じて敢えてタモ入れを遅らせ、体力を使わせてからランディングした。サイズは60cm台。一番竿の投入点は小型が多く、それも流入数が少ないのかもしれない。同じポイントで20mmを使ったらどうなるか、それは少し眠り、アタマが晴れてから試してみよう。

6匹目は1匹目以来の一番竿に
午前5時。自然と目が覚めた。ということはアラームは鳴らなかったというわけだ。二番竿は連続して釣る度にサイズアップしていたので80台の一匹でも来ないかと期待していたのだが、叶わなかった。
朝日の反射が美しい川の煌めき。エサ換えをしようか。どうするか・・・。とりあえず二番竿のパイナップル20mm、水深5mラインをキープ。気になるのはアタリの少ない一番竿だ。一番竿を持ち上げると妙に重い。ウグイなのだろうと思ったが、この暴れ方はウグイのものではない。しかしスウィンガーは定位置にあった。正体は小鯉であった。この子も針掛かりしてからあまり動いていない。アラームもほとんど鳴らなかったために眠りに落ちた私が眼を覚ませなかったのだろう。50cmに満たない小鯉を帰してやり、少し考える。二番竿はこのままで良い。一番竿、一番アタリが少なく釣れる鯉も小さい。投入点を変えよう。水深はあまり変わらないが、これまでより少しカケアガリから離してみることにする。これまではパイナップル15mmシングルだったが、目先を変えてアクセントとしてカープテク 「プラム15mm」 を加え、15mm×2のダブルベイツにしてみた。水温は相変わらず12℃だが寄せエサを使って誘導する程鯉の口は渋くない。寄せエサの撒き直しはしないでおく。
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| ●7匹目は50cmにも満たない小鯉 |
●一番竿(上)をプラム15mmを加えたダブルに |
やはり二番竿のアタリがなくなったのはウグイがヒットしてからだ。他に何が変わった?潮の上げが下げに変わった。二番竿のアタリは上げに集中している。あと二時間で干潮を迎え、そこから昼過ぎにまた上がり満潮となる。狙いは潮の上がりとなるか。
止まったアタリ中に出来る事。虫達が居ればそれらを追いかけ回して遊ぶが、まだ虫が活発になるほどの気温じゃない。あとは夢想、空想、妄想の類い。20年目にして初の釣行である。色んな感情が沸くが、どうにもそれを言葉にすることが出来ず、どこからか借りてきた月並みの言葉しかでてこない。もっと上手く表現出来ないだろうか。外に置いていたためにキンキンに冷えたコーラの刺激を喉で楽しみながらそんな事を思う。
午前8時頃。釣れぬ今こそ、ここぞとばかりに転た寝していると一番竿のアラームに起こされた。多分また小さい。スプールの回転も遅いし、竿を手にしてすぐに竿を立てて距離を詰めることができた。上がったのはまたも50cm程の小鯉だった。一番竿はやはりこのサイズばかりだ。夜中は安定してアタリのあった二番竿の5mライン。その安定を崩すことを恐れて一番竿をそのラインに入れなかったが、ここからは一番竿も二番竿と同じ距離の5mラインに打つ。

8匹目 小さい鯉は一番竿に集中している
ベースに戻り、思想を20年前に遡ろう。
20年前の今時期、私は茨戸川で敷いたレジャーシートの上に伏せ、立ち直れなくなっていた。あの時の事は忘れたくても忘れられない。これまで、そして今までで最強の魚に敗北した。逃がした魚は大きいというが、恐らく巨鯉か、非常に好戦的な大鯉。竿を立てられない相手に恐怖すら感じた。まだ大鯉専科を手に馴染ませておらず、体格も小さかったために竿の長さに負けていた状態。そしてリールのドラグテンションのコントロールも知らず、どうして良いのかわからない。フィールドは茨戸川から運河へ続くポイント。魚は最初運河対岸の木の下に突っ込もうとしたがすぐに向きを変え、茨戸川を遡った。そしてまんまと沖に浮いているブイまで走られて巻かれてしまった。それから20年、幾度も茨戸川に釣行したが、あんな強い引き方をする魚とは出会ったことがない。茨戸川の鯉はそもそも引きが弱いのだ。その中であれ程の力を見せつける魚は只者ではないだろう。たまたま通りすがりの人がいたのでファイトシーンの写真を取って頂いたが、その写真の大鯉専科の曲がり方も力のある相手との激闘を物語る。やがてブイに巻かれ、どうしようもなくラインを切ったあと、悔しさのあまりに広げていたレジャーシートに倒れて踞った。そんなところも写真に撮られてしまっていた。20年後の今、同じ魚と戦ったら勝てるだろうか。大鯉専科の扱い方、リール、ライン、仕掛けの限界を知ってのファイティングの判断。色々と経験して身につけたもので流石に沖のブイまで走られることはなさそうだが、釣りをしていて初めて味わった魚の怖さであった。あれは希に遡上してくるチョウザメだった可能性もあるが、釣りにおいて嬉しい、楽しい、悔しいだけでなく、恐怖を覚えることもあると知った出来事であった。鮮明な記憶。
午前11時。風は昨日より弱くて暖かく、水温も15℃まで上がっている。しかしアタリがすっかり止まってしまった。この状況を何とか打開できないものか。疼く体とアタマにじれて、ここからボイリーを変えてみることにする。去年ここで釣果のあった 「カープテク
ストロベリー20mm」。今度は一番竿、二番竿共に同じ水深5mラインの距離に投げる。昨日の寄せエサの効果も切れているだろうし、鯉にストロベリー香りと味に慣れてもらうためにクラッシュしたストロベリーを少量ポイントに撒く。吉とでるか凶とでるか。昨晩アタリが連発した潮の上げでアタリが取れない今、満潮は近く、今度は終了時間まで下がる潮に期待する。アタリボイリーのパイナップルで釣れなくなっているのだから、別にいま動いてしまったからといって後悔はしないだろう。

思い切ってボイリーをストロベリー20mmに変更
エサ変えの作業中、初老の男性に声をかけられた。 「釣れましたか?」 男性は釣り人ではなくウォーキングをしに来たようで、ちょっとした会話をしてから砂利の轍を進んで行った。そしてエサ変え作業が終わる頃、戻ってきた男性が 「ワラビ食べませんか?」 と一束の蕨を手にして再び声をかけてくださった。蕨なんていつから食べていないだろう。有り難く頂戴して、帰ったら春の味を楽しもうではないか。

散歩の男性にワラビを戴いた
携帯で自分のHPに繋げ、20年の軌跡を辿る。2000年代後期、当時は個人HPの黎明期で、ジャンルを問わず様々な記事を目にすることができた。知りたいことを検索すればかなりマニアックな情報も手に入る。しかし時が経つにつれ、ブログ、SNSと移行していった。ブログ、SNSの弱点は短文とちょっとした写真だけで構成され、投稿を続ければ古い記事は下に追いやられて読みにくくなることだ。いくら良い記事があっても発見するのが難しくなる。例えば清少納言が生きた約1000年前の昔に、もしSNSがあったなら、彼女がアカウントを持って作品SNSへ投稿していたなら。多くの、大いに失礼な言い方だが、無名の人のブログ、SNSが乱立し、清少納言達、後に有名作家となる方の素晴らしい初期の作品も、ネットの隅に追いやられ見られにくくなり、1000年経った今でも読まれ、愛され、偉人として評価されることがなかったかもしれない。残し、読みやすくするには本などの紙媒体や或いはHPが強い。そう考えると個人HPの衰退は寂しいものだ。
時刻は正午、13時、14時と何事もなく経過した。一度エサ残りのチェックをしてみたが、両竿とも問題なく返ってきた。PVAにストロベリー20mmを入れてキャストし直すも、待てども暮らせどもウグイのアタリすらない。さてはこれ、また夜になるまでアタらないパターンか?今回はそこまで時間を使えない。

陽が傾いてもウグイすらアタらなくなった
多分ストロベリーが悪いのではない。パイナップルを続行していてもアタリがないであろう状況となっている。16時、終了予定時刻より少し早いが、ここまでにしようか…。昨晩の二番竿のラッシュでサイズアップが続けば、80台の一尾でも釣って帰れそうな気がしていたが、残念ながらお手上げの状態となった。多分、この夜は釣れるだろう。でも今回使える時間内には間に合わない。まぁ、いいか。十分に楽しんだ。
20年目にして、それを振り返りながらの釣行。今回自己記録を更新するような魚を上げられたならば、ドラマチックで熱い展開に・・・なんて、妄想までして心の中で笑っていた。
「だが、そううまくはいかないものである」 と今も心の中で笑っている。20年前の私がいまの私を見たらどう思うか・・・。どうかそんなに怒らないでほしい。自分の世界を造り、稚拙で子供っぽくありながらも、その中で笑って悦んでいるのだから。いつまでたってもガキなんだ。次の20年後も多分。