北海道の鯉釣り日記2023 虚しい空針

釣行日時 9月9日17:00~
9月10日5:00  
釣行場所・ポイント名 Pt.フラワーロード
(画像はタップ、クリックで拡大)

 窓の外から聞こえてくる虫の合唱にコオロギの声が加わった。キリリと転がるように鳴くそれに夏の終わりと秋の訪れを知る。8月31日。ブラックストーンを咥えてゆっくり耳を貸す。釣りたい気持ちと釣れない現実。右往左往して針を磨く。だが物というのは砥すぎると痩せてしまう。冷静になれ。これまでと同じ釣りをしても結果は見えているようなものだ。落ち着いて、少し違うアプローチでいくんだ。作戦は調った。あとは実行のみ。

 17時30分。気温25℃のフィールドを目にする。前々日に続いた雨で道中の石狩川は濁っており、あるいは今回のステージもマッドコンディションかとも思ったが、むしろ水は良い色をしている。今回はダンゴでもボイリーでもなく、ここで初めて寄せエサなしのナチュラルベイトで通すつもりだ。生息している魚の切り身を使う。大かたウグイだろう。秋に釣行したことのないステージで、初めての試みをするのは、初めてに初めてを重ねる、何が起こるかわからない刺激的な釣りであるとも思える。

 フィールドに荷物を下ろしてまず実行するのはエサとする魚の採取だ。海で使っていた胴付き仕掛けにミミズを着けて軽くキャスト。いつもうるさいぐらいに邪魔をしてくるウグイ達だ、軽く小型を二匹、大型を一匹くらい釣りたい。またエサをミミズとしたとあって、ウグイ以外の魚も採取できるかもしれない。

まずはエサとする魚を胴付き仕掛けとミミズで

 投入してすぐに穂先が揺れた。小さなアタリ。タイミングを見てアワセるがフッキングしない。回収した仕掛けにエサは着いている。ウグイではないのか?そんなことが何度も続き、やがて正体がわかった。ドジョウだ。辛うじてフッキングしたのはフクドジョウだった。これならカレイ用の胴付き仕掛けでのフッキングは難しい。針のサイズを落として再度キャストしてみたが、アタリはすぐにあれど針には掛からない。ウグイならばエサに飛び付いて首を振り、勝手にフッキングしてくれるが、ドジョウはそうもいかない。二匹目のドジョウは腹に掛かって上がってきた。食っているというよりも、エサに纏わりついてアタックしている。その中からウグイのアタリを捕るのは大変で、なんとか中型を一匹キープすることが出来た。さて、もう薄暗くなってしまったが、ロッドポッドをセットしよう。

フクドジョウがアタックしてくる

 今回は魚の切り身やエビなどのナチュラルベイト用に作った一本針仕掛けを使う。針は私が現在使っている中では大きめのサーモンフックを使用し、ハリスは吸い込みやすいダイニーマとしている。まずは一番竿。ウグイを三枚におろしてカットしたものを針に取り付けるが、皮にはあえて擦り傷を付けておく。魚は表皮を傷つけると警戒物質を出すと聞いた。 「ヒポキサンチン3-nオキシド」 。他個体に危険を報せ、警戒させる。これを行うことにより、ウグイをエサにウグイがヒットしてしまうという最悪の状態を避けるつもりだ。残った切り身はあまり乾燥させないよう少しだけ水を入れたプラスチックケースに入れ、乾燥を避けつつ匂いを逃がさないようにする。まだ切っていない魚はエビ籠の口を両方閉めたものを生簀として使い、活かしておく。

エサの魚の表皮を敢て傷付ける まだ使っていない魚はカゴで活かしておく


オモリ部(セイフティーボルトシステム)
ユニット:コバートシンキングリグチューブ50センチ、
コバートテールラバー、FOXカープセイフティレッドクリップ
オモリ:スパイク30号 (ブラウン)

仕掛け:(一本針
 ハリス:鯉ハリス6号(ブラウン)
 針:剛力鮭鱒2/0 


エサ

魚の切り身、スジエビ

 そして他にも使いたいエサがある。暗い時間帯に入ってから岸際のブロックに現れる赤い眼光。スジエビだ。いくらか捕獲しておいた。今回は寄せエサがないこともあって三番竿も出す。一番竿にウグイの切り身。キャストするのは手前のカケアガリから10m程距離をとった所。二番竿、三番竿はエビを使い、カケアガリから5mの位置。いずれも水深は4.5m程。セットが完了したのは南側からの風が止んだ頃となった。水温は24℃と低くない。しかし気になるのは魚の跳ねが観られないことだ。まぁ、来てしまったのだから、始めてしまったのだから、あとは運否天賦。善きか悪きか正か邪か。どうなるか、それは納竿する明日に出る。

スジエビもエサとして同時に使う

 耳にする音はトンネル上の車の音を除いても何種類あるのだろうか。家の庭よりもくっきり聞こえる。もしかしたら虫が鳴かないような季節になっても、またここを訪れるかもしれない。その時はただ無音で、さぞかし寂しく感じるだろう。

 奏でる虫もいれば刺す虫もいる。気温があまり下がらず、風もないので体感温度は高く感じられ、半袖のシャツのままでいたい。虫除けの効果があるキャンドルに火を入れる。ランタンでも蚊取り線香でもない、不規則な灯りが踊るテーブルの上。ウィスキーを薄めの水割りにして宵を嗜む。


 投入から二時間が経過した。今回はエサ持ちに期待できない。ウグイの切り身はともかく、エビの方は特に弱い。ここでエサ換えをする。まずは一番竿から。切り身は少し身がほぐれた状態で上がってきた。貪る奴がいるのだろう。では二番竿と三番竿のエビは?分かってはいたが、両竿とも針は空になっていた。もう二時間、この配置でやってみよう。ダメなようであれば三本ともウグイの切り身にする。ドジョウは身も骨も柔らかく、このコンディションではエサ持ちしないだろう。無駄な殺生はしないでおく。籠からドジョウ二匹を取り出し、リリースする。


 0時。仕掛けを上げてみたが、三本全てが空針になっていた。このペースなら切り身の方も早いエサ換えがもとめられるだろう。エサ換え用の切り身はある。しかし鯉がアタリ出したら?多分足りない。もう一匹ウグイが必要だ。投げ竿とカレイ仕掛け、そしてミミズを取り出し、ポイントから離れたところで竿を出す。ケミホタルを着けた投げ竿。それはピクリとも動かずに15分、30分と経過した。普段はやかましく思えるウグイだが、狙うと不思議と釣れない。なんて釣り人に不都合な魚だ。いや、鯉の外道として釣れるのは1時間置きとかそんなペースだ。いきなりは釣れないものなのかもしれない。胴付き二本針にミミズを着けた外道まっしぐらと思える仕掛けに25cmのウグイが掛かったのは、投入して1時間30分が経ったところだった。それをあまりにも切れない危険なナイフでシメてエサにしてゆく。今度は三本の竿それぞれ別の部位を使うとする。一番竿は皮付きの身。二番竿は皮を引いた肉。三番竿は鰭の付け目の部位。どうだ、豪華なディナーだろ?エサ換えはこれまでどおり二時間置き。これで様子を見る。

ぞれぞれウグイの違う部位を使って試す

 瞑った目の中に微かに感じるキャンドルの灯りがくすぐったい。絶え間なく耳にする音に鳥の声はなく、鳴虫達が舞台に立っている。音楽に例えるならツユムシがベース、カンタンがドラム、コオロギがボーカルといったところか。そんな事を思う私の心は、イマかなり油断している。突き刺すようなアラームの、川からの呼応が返ってこない。まぁ、今回はこんな釣りだ。この夜はダメかもしれない・・・。別に根拠があるわけでもないが、まだ朝まづめから午前中にかけても期待はできる。そうだ期待だ。寄せエサ無しの一発大物釣り。釣れないからと言ってテンションは落ちない。勇気がなくては戦えない。

 午前2時。予定通りにエサ換えを行う。やはり皮を引いた二番竿の切り身はなくなっていた。一番竿は辛うじて皮とその周囲の肉が残っていたくらいで無事とは言い難い。三番竿の鰭肉は硬いだけあって針に残っていた。しかしウグイに鰭は6つしかない。使える部位が少ない上、鯉も食いづらいのではないかとも考えられる。だが、とりあえず続けてみる。次の二時間後まで私の意識は保てるだろうか。もう何時間横になっていないかわからない。携帯でも眺めながら誤魔化すとする。

観たかったホラー映画を携帯で 流行の後ノリ? うっせえわ!

 午前4時。初めてアラームが鳴った。しかしそれも一瞬で止まってしまった。アラームは三番竿のものだ。上げてみると意外にもエサは残っていた。やはり鰭の付け根の肉は強い。しかし他二本は怪しい。回収してみれば虚しい空針がぶら下がっているのみだった。エサを二時間も持たせられない。特に皮も着いていない二番竿なんて一瞬だろう。三番竿は鰭の付け根肉を続行。他はほとんどが皮といった具合の針着けでセット。三本ともこれまでより遠目にキャストして変化がないか探る。

 こんな時でもいい加減横になれと体が言う。仕方ない、今の私は朦朧として気合いが抜けている。車のシートを倒して少し横になる。1時間でも目を瞑っていれば回復するはずだ。

 この時間となると、ヘラ釣り師が場所取り、及び下準備に車を入れ始める。トンネルの中ゆえに風が入らず、車内は窓を開けていても暑苦しい。エサ持ちの問題もあるし、明るくなったら納竿しよう。

 今回使ったのは25センチほどの中型のウグイだ。もう少し小型のウグイがエサとして欲しかった。小型のウグイを輪切りにして骨付近を刺し、一つ二つと針に付けて使えばもう少しエサが持っただろう。実際の経験上では、夏季に中型のウグイの皮まで引いた刺身状態にしたものでの鯉のヒットはあった。それを信頼し過ぎたところもある。また第二点、ウグイが大きいなら大きいで、針ももっと大きなものを使って、皮の部分を縫い刺しすれば良かった。ウグイが想定よりも捕れなかった事から不安に思い、細かく切断し過ぎた。それで上記の縫い刺しが出来なかった。このフィールドはライギョなどの邪魔も入らないだろうから、エサを勿体ぶらずに積極的に使うべきだった。そもそも 「一発大物」 と謳っておきながらのこの体たらくだ。あと何がある?


 午前5時。週末であるため、ヘラ師の車が続々と集まり始めた。これならお互い良い方には進まない。納竿だ。

 しょうがないな、敗北だ。ボイリーであれば一尾やニ尾の釣果があったかもしれない。それをせずに敢えてナチュラルベイトに拘ったわけだが、運も実力も低く過ぎた。まぁ、今シーズンのボウズはほとんど無かった事だし、たまにはこんな釣行も良いだろう。これも良い経験だ。ボウズだからって別に恥じやしない。言い訳?誰に何を言い訳るのか。真摯に受け止めよう。ゆうべの低い位置に現れたオリオン座が、シーズンが残り少ないことを示した。次は何をすべきか?家に帰ったら考えよう。耳栓越しに聞くような不明瞭な虫の声が届く部屋で。