釣り人は、我流の持論やこだわりを持ち、それぞれ自分のスタイルを貫き通す。特に鯉釣りではそのような色が濃いように思われる。ここで登場する釣り人も、エサに強いこだわりをもつ鯉師。特別この人には特別なオーラをも感じた。鯉釣りを始めてまもないころ、ある釣り場にて・・・
サツマイモをエサにする釣り
そこは休日になると釣り人で賑わう知られた釣り場。
早朝、平日ということもあってこの日は釣り人が少なく、少し広めに場所をとって竿を出す。エサの準備に取り掛かかるべく、バケツに水を汲み、ダンゴエサを握っていると一人のおじいさんがボクに近づき話しかけてきた。
おじいさん: 「おい、兄ちゃん。鯉釣りはよくやるのかい?」
ボク: 「はい、去年から始めたんです」
おじいさん: 「気合入ってるな~、エサは何つかうん?」
ボク:「ダンゴエサです」
おじいさん:
「だんごぉ~?」
ボク:「はい・・」
「ダンゴじゃだめだ~!!」
ボク: 「・・・え、そうですか?」
おじいさん: 「ダメダメ!ダンゴなんかつかってちゃ~ロクなの釣れないよ?」
ボク: 「・・・・・そうですかねぇ」
おじいさん: 「ああ。鯉釣るんだったらエサはサツマイモじゃないとダメだべさ」
ボク: 「・・・・・・」
おじいさん: 「ダンゴだとかコーンだとか色々あるけど、サツマイモじゃないと鯉はつれん!」
ボク: 「確かにここはサツマイモ使う人多いですね。でもダンゴでも結構デカイの釣ってる人いますけど?」
おじいさん: 「いや、サツマイモで釣れる鯉は別。
毛づやが良い」
ボク: ・・・・・毛?
おじいさん: 「鯉はサツマイモだよ」
ボク:・・・・・毛??
おじいさん: 「サツマイモっ」
ボク: 「ジャガイモはどうですか?」
おじいさん: 「ジャガ・・・・やっぱりサツマイモがいい。ダンゴなんてダメダメ。」
ボク : 「・・・・・・・・・・・」
おじいさん: 「で、食わせは何つかうの?」
ボク: 「干し芋です」
おじいさん: 「ほしいもぉ~?」
ボク: 「ダメですか?」
おじいさん: 「なんで干しちゃうのよ。茹で立てが一番美味しいんだよ?」
僕: 「それは・・鯉がそう思っているんでしょうか・・?」
おじいさん: 「うん」
ボク: 「イモヨウカンもダメですか?」
おじいさん: 「だめ!あ~あ~、こんな針4本も付けちゃって・・」
ボク: 「いちおう吸い込み仕掛けなんで」
おじいさん: 「こんなんで鯉釣ろうとしてんの?2本針が一番いいんだよ??」
ボク :「そうでしょうか・・・」
おじいさん:「うん。それにエサは蒸かしたての角切りが一番、針に付けたときの姿が綺麗なんだよ」
芋マニアだ、この人。
ボク: 「そうなんですか~」
針に付けたときの姿は蒸かしたてが一番!それを言うとおじいさんは釣り場から立ち去っていった。さて、話を聞いているうちにすっかりダンゴの表面がパリパリになってしまった。それをそのままキャストし、竿に鈴を取り付けてアタリを待つとする。
しばらく静かな時間を過ごしていると、さっきのおじいさんが何やら両手に荷物を持って戻ってきた。なんだろう・・・とおじいさんが持つ荷物をよくみると、
タッパーに入った大量のサツマイモの角切り!
おじいさん: 「サツマイモ持ってきたぞ!」
ボク: 「全部もってきたんですか?何個分ですかこれ!?」
おじいさん: 「7、8本くらいかなぁ~」
ボク: 「そんなに作って全部使う前に腐らないですか?」
おじいさん: 「腐る前に食うし」
ボク:「つまり釣り場での昼飯もイモということですか」
おじいさん: 「どりゃ、これを兄ちゃんにやるから、使ってみなさい」
そう言うとタッパーひとつをボクに手渡した。タッパーのフタを開けると角切りイモがギッシリ入っている。
おじいさん: 「見よ、この綺麗な黄金色を!」
おじいさん: 「表面の赤紫色の皮との・・なんか綺麗だろう?」
僕: 「コントラスト・・・ですか?」
おじいさん: 「これを針に一つずつつけるんだ。絶対2本針仕掛けを使え!」
一方的に進められたが、せっかくなのでダンゴ無しの2本針仕掛けに、もらったイモをつけて投げ込んでみることにする。
おじいさん: 「うん、これで今日は釣れるぞぉ~、兄ちゃん♪」
ボク: 「そうですね。」
このおじいさん、鯉を釣るために釣りをしているというよりも、芋が使いたくて釣りをしているのかもしれない。
「この芋はベニアズマで、こっちがベニオトメ。こっちが何分蒸かしたもの、こっち何分茹でたもの」
「この芋は収穫量は多いけど、収穫後すぐに食べると美味しくないから、掘ってから少し時間をおいたほうがいい」
などなど、アタリを待っている間の数時間、ずっとボクにサツマイモの話をしてくれていた。結局おじいさんのサツマイモで釣れる、毛づやの良い鯉(?)は釣れず、坊主だったのだが、おじいさんのおかげで面白い釣りになった。というかなってしまった。
それからしばらくその釣り場で竿を出していないのだが、芋マニアのおじいさんは今でもご自慢の芋で釣りをしているのだろうか。これを書いていると、また会いたくなってきた。
でも・・
おじいさん: 「兄ちゃん、週末も来い!良いサツマイモの選び方を伝授してやる!!」
週末は別の釣り場に釣行した。