鯉釣り日記2023 Right or Wrong

釣行日時 5月26日14:00~
5月27日20:00
釣行場所・ポイント名 Pt.フラワーロード
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 最後に咲いた八重桜が吹雪となる時、空気が夏色の香りを帯びる。初夏。いつの間にかに時間が経ったわけじゃない。今年の私の目はごまかせない。浅かった木々の色が濃くなるのも、山頂の雪が無くなってもゆくのも、ずっと見ていた。疲れる日もあったし、落ち込む日も多かった。それでも、それぞれの日を一々数え、来る日も来る日も一々数え、季節が変わってゆくのをじっくり見てやった。これから夏に入る。見逃さないぞ、大切なシーズンの日々を。釣りが出来るのは明日の今頃だ。今にでも飛び出せるようにイメージを膨らませる。

 今回も前回と同じ釣り場でやろう。ここまで使ったボイリーは植物質のものばかりだったが、今回は動物性のボイリーでいく。使うのは去年使い心地が良かった 「ザ・クレイブ18mm」 とメインラインの 「バランスドワフター スパイシークラブ18mm」 で通してやってみる。気温は昨日、今日と日中に25℃以上まで上がり、水温もかなり高くなっているはずだ。鯉の活性を高く見積もって刺激的なエサを選択する。

 13時に釣り場に到着。今は小潮の上げ8分。満潮は15時頃となる。南東の風があるが前回程強くなく、気温24℃、水温も22℃と温かい。しかし夕方から雨が降る予報だ。釣りにはどういった影響をもたらすだろうか。

タックル準備中

 竿、仕掛けを釣り場に用意したら次はフィーディング。寄せエサも動物性で刺激の強い 「神通力」 を単品で水を加えたものをベイトロケットでポイントとする地点に投下。 「神通力」 は大粒な配合物が入っておらず、そこにペレットやコーンなども混ぜない本当の単品で使う。エサ残りとして硬く大きな配合物を入れるのは一つの手だが、細かい粒子だけが底に散乱している状態にすれば、目標物をつつくようにしてエサを食むウグイやモツゴなどはそれを食いきれず、結果細かい粒子は残って、そういった細かいものを感知するのを得意とする鯉にとっては、それはエサがあるという状況になると考えた。食わせとしては一番竿、二番竿共にブローバックリグにクレイブ18mmとスパイシークラブ18mmをスノーマンにしたものを前回と同じポイントに投入し、クレイブの15mmをカタパルトで少量、ポイントとその少し下流に打ち込んでセットを完了させた。

フィーディングは「神通力」単品 クレイブ18mm+スパイシークラブワフター18mm

 今回、はっきり言って良い釣果を期待していない。今時期、狭いフィールドでは鯉の産卵が始まっている。このポイントの左手ワンド内でも鯉のハタキが見られるのではないかと思っていたが、どうやら違ったようだ。産卵準備をしようとするこの時期、出産するノッコミの鯉は狭くストラクチャーのあるエリアへ向かい、ここのようなオープンエリアは不利になると考えた。しかし、去年から初めて入るようになったフィールドだ。この時期のここがどんな表情を見せるかは明確にはわからず、理解しようとするために敢えてここを選んだ。釣果がボウズでも、また小鯉ばかりでも別に恥じることはない。今回はそんな釣行だ。

 道路の下のトンネルであるために車の音は止まないが、それにも慣れてきたようた。轟音の中から自然の音を聞き出す耳が良くなっている。鳥の声、木々の葉と葉が触れ合う音が前より少しだけくっきりと聞こえる。雁里沼のような長閑なフィールドが一番好みなのは間違いないのだが、ここはここで別に嫌いじゃない。前にはなかったハマナスの花は婉美でありながら誇らしげに咲き、どこからか現れた綿毛が重力に逆らって飛んでいる。これを見ているだけでも、なんだか狭い殻のようなものから抜け出せたような気持ちになる。殻の中には絶対にまた戻らなくてはならないから、いまは顔を出した蝸牛のようなものか。その如く歩みもまた遅い。

セット完了 黒い嗜好品にキャンディーを加えて

 16時。空気が変わった。風向きは変わらないが少し強くなり、灰色が空を覆い始めた。もう少ししたら多分、雨が来る。 寄せのボイリーを控えている分、出来ればボイリー入りのPVAを使いたいのだが、PVAバッグも残り少なくなってきた。今回は特にペレット等を入れて使う気もないので、PVAバッグを縦に紐状に切り、PVAテープのようにしてボイリーをニードルで通し、両端を結んで文字通り数珠繋ぎにした。これを 「PVAリング」 とでも呼んでおこう。これでかなりのバッグを節約できる。もしかしたら雨の中でも水の干渉が少なく、バッグ状やネット状のものよりキャスティング時に崩壊しないかもしれない。明るいうちに、幾つか作っておこう。

PVAバッグを紐状に割きボイリーを通してリングにする リングにハリスを通してキャストする

 17時30分現在。予報では18時から雨となっている。ならば今がエサ換え時だろう。回収したボイリーは傷ひとつなく返ってきた。さっき作ったPVAリングにハリスを通し、キャスティング。今回、一番竿を一投目より10m程沖に投げた。このポイントは水深はあまり変わらないが、砂が若干浅い。去年の釣行でも釣果があったので不安はない。開始時の寄せエサもベイトロケットでそのラインに数投打っておいてある。あとは雨が降るのが先か鯉が来るのが先か。良い報せを待つ。

 18時30分頃。鯉は雨と共に来た。一番竿の鳴り止まないアラームが私を凛とさせる。ドラグを締め、次に竿が引かれた時にロッドポッドから取り上げる。軽い鯉だが大人しくはない。このポイントの 「やる奴」 は左手のワンドに走る傾向がある。これもそうだ。大きい鯉ではないから、私の竿だと穂先を立てるだけで簡単に寄せられてしまう。それでも首を振り続け、マットに乗せられてからも抵抗は凄まじく、まともに写真を撮らせてくれない。60台の綺麗な鯉だ。リリースされる際にも弱ったところを見せず、するりと帰っていった。

一番竿にヒット 若々しい溌剌としたファイトをした

 19時頃、炭に火を入れ肉を焼き、空いた腹に入れる。安いホルモンだが、釣り場で食べる炭火焼きはどこの高級店でも食べることができない美味しさがある。肉がチリチリと焼け始めた頃、一番竿に来た。さっきより少し重いか。やはりこの鯉も左に走った。魚の姿が見えにくいのはヘッドライトが弱っているせいだ。浮かんできた茶色をタモに入れると私が好む細身で筋肉質な体形の一尾で、体を強張らせて、鰭と口を大きく開けて威嚇してくる。サイズはまずまずといったところの75cm。あぁ、多分肉が焦げている。そういえば去年も肉を焼いている最中にアタリが止まらず、焦がしてしまっていた。

2匹目 75センチ 私好みの細くガッチリした体形の鯉 睨みつけるような精悍な面構え

 約20分後、また一番竿のアラームが私の箸を止めさせた。今度は何だ?アラームは鳴ったり止んだりを繰り返している。ウグイか?いや・・・。釣り座へ降りると、思っていたとおりスウィンガーが完全に落ちていた。ハンドルを巻いてラインを張るが、動きがない。ラインの先に獲物はおらず、空アタリに終わった。

夕食はごま塩握りと炭火焼き

 炭火焼きをするといっても、一人で焼く場合は少量の肉や海鮮を早めに焼き、早めに食べ終える事が多い。アタリがあれば火の面倒をみてくれる人もいないし、そんな時に限ってアタリが多くなったりもする。それが大変で落ち着かないが故に肉はさっと食べ終え、残る炭は眠るまでの夜の飾りとなる。

 21時。夕食の片付けをして、いまは仄かに灯る炭火の横でPVAリングの作り置きをする。バッグを縦に割き、ボイリーに通す作業は明らかに面倒だが、何故か楽しくなってしまって、予定より多くのリングが出来てしまった。でもこれを使い果たす事になるくらいの何かはきっと起こるはずだ。

 21時15分。絶対にウグイだとわかるアラームの鳴り方をするのは二番竿。御出座したのは婚姻色の入った40cmのジュウサンウグイだった。やはり彼らを避けては通れないか・・・。

二番竿に来てしまった40センチのジュウサンウグイ

 初期設定の飛距離では少し違うのか。ならば二番竿も一番竿と同じ距離のラインに打ってみる。作ったばかりのPVAリングに新しいブローバックリグを通し、少し着水位置がずれてしまったが、ポイントのラインに落ち着かせた。

 そして10分後、チェアに座ったばかりという時に激しい二番竿のアラームとリールのクリック音に急かされる。重い?さっきの鯉よりも少し重い。期待して良いのかどうか、今年から導入したラインは 「アストロン鯉マックスガンマ7号」 。創成川の修行時代から8号を使い続けてきたため、まだ感触を掴むまで慣れていない。でもある程度の重さがあるのは確かだ。カケアガリから浮かせたときに再び潜ろうとする力は、上がる飛沫の音がそれを語っている。これは逃せない。鯉が自分から体力を落とすまで待ってやる?それとも強引に引いて次の攻撃の前にタモに入れてやる?結局、どっち着かずなやりとりで鯉を手にした。80cmといったところか。良いじゃないか。今シーズンのこれまでに比べれば喜んでいい展開だ。フッキングはドンピシャで外れようもない。心地よいため息をつきながら下げ6分の川へと足を入れ、リリースする鯉を支える。やがて回復した鯉はヘッドライトが描く円の外へと揺らいでいった。

3匹目 やっとの事で80台を出せた

 干潮は2時40分。あと5時間程かけて下がってゆく。自分へのご褒美に甘いチュッパチャプスを。これが溶けきる前にもう一本くらいアタリが来ないだろうか。私のライトに寄って来てはあたふたする虫達。そうか、もう6月になるんだもんな・・・。上着、虫除け、蚊取り線香。それらを用意しなくてはならない釣りも近い。

 アタリが続かないままチュッパチャプスは口の中で消えてしまった。期待すると来ないのね・・・。鯉釣りあるあるだ。黙りを決め込んでいる一番竿はどうなっているのだろうか。ウグイがアタッたりという事はアラームで知る限りではないが、ボイリーが失くなったり傷ついたりしていたらまずい。換えの仕掛けを持って釣り座へ降り、回収してみたが、クレイブの色が抜けていたくらいの変化しかなかった。寄せエサの効能も切れる頃か・・・?仕掛けを持ったまましばらく考え、パウダーベイトの追加はせず、カタパルトでボイリーだけをフィーディングしておくことにした。そういえば雨はほとんど本降りにならずに終ったようだ。雨嫌いな私としてはありがたい。


 暗くて静かな夜だ。トンネルの中はランプを消すと真っ暗になる。ならばイヤホンを耳にして怪談でも聞きふけようか・・・。幽霊など信じちゃいない。信じていれば夜中の石狩川や第二Nダムで一人で開拓なんてしていられないだろう。でも何故か怪談を聞くのは好きだ。お話の世界に引き込むようなプロの怪談師の話を、真っ暗な川原で目を瞑って聞くのも乙なものではないだろうか。驚いて目を開かざるを得なくとすれば、それはアラームが鳴った時だろう。

心霊否定派だが何故か怪談を聴くのは好きだ

 しばらく怪談の世界に身を浸していたところ、思っていたとおりにアラームに目を開けさせられた。青のランプ、一番竿か。しかしこの鳴り方・・・。あまりにも大きく首を振るために小さな鯉かと思ったが正体は40cmオーバーのウグイだった。すぐに再セットして土手を上り、腰を落ち着かせたところでまた一番竿のアラームがウグイらしきアタリを捉えた。だが、アラームは一度鳴った切りで、今の感じであればフッキングはしていない。ボイリーも多分大丈夫だろう。放置しておくことにする。

 40cmのウグイであれば口は開いて4cm程度。それが18mmダブルでヒットするということはかなり荒っぽい食い方をしているからだ。同じサイズの鯉よりも吸引力、噛み付く力が強く、獲物へ果敢にアタックする肉食性のハンターであることが分かる。道外の釣り人はそこに惚れてルアーやハヤ竿で狙いに行くみたいだが、北海道のように大型になり、種類も数も多くては困ったものだ。いかにウグイを釣らずに鯉だけを狙えるか、最近の私のテーマはそんなところにもある。

 時計を見ればもう1時だ。あっという間であったのか、そうでもなかったのか、いつの間にか日を跨いでいる。少しお腹が空いたのかな?夕飯を摂るのが早すぎたか。食料を入れたビニール袋を漁っていると、一番竿に来た。あまり抵抗しない奴だ。前回もこんな釣れ方した鯉がいた。ここの鯉はあまり強く引かないものが多い。竿とリールの力だけで距離を詰めて、いつも通りに浮かせてやろうとしたら急に重たくなった。障害物?上流で流木が浮いていたのを思い出す。だがそれとも少し違う。そうか干潮が近いんだ。自分のライトで眩しい水面に目をやると、水位がかなり下がっていた。カケアガリ上のブロック帯からが浅く、鯉の体が水底に触れている。暗いうちはあまりやりたくないのだが、川へ入りある程度の深さがあるところまでこちらから迎えにいく。捕らえた鯉は悪くなく75cmで、体に対して顔が小さく、タレ目がちな印象を受ける個体だ。

4匹目は75センチ 小顔で垂れ目な印象を受ける個体

 空腹と眠気で意識や意思が曖昧になってきた。炭火焼きのときにもっと炭水化物を摂るべきだったか。あれだけ美味い美味いと肉を食っておきながら、もう腹が減るとは情けないものだ。一番竿を打ち返す前に夜食としよう。あとは眠気だ。ここ最近寝不足がちだったのを思い出す。早いうちに横になった方がいい。

 意識が曖昧なまま釣りをしていたくない。次の瞬間に、さっきあった事を簡単に忘れてしまうようになる。感じるんだ、見るんだ、覚えるんだ、書くんだ、忘れないんだ。記憶が曖昧な釣行は意識を釣りに向ける事が出来なかった釣行だ。そういう釣りをした場合 「釣行記」 にしないことがある。HPとして存在している以上、傍から見れば 「釣れたから釣行記を上げたんでしょ?」 、 「釣れなかったら釣行記にしないんでしょ?」 と思われているだろうが、それは少し違う。釣行中に何時、何が、どうで、こう。釣り自体の事に限らず、そういった具体的な内容を忘れてしまったり、それに嫌気をさして怠惰な釣りになってしまった場合、たとえ自己記録に迫るよう魚を上げた釣行でも何も書かなかった事がある。80台を連発して・・・などの釣果でも、感情の起伏がなく、やる気に満ちていなかった釣行では少なくとも 「釣行記」 としてここには上げない。また 「ボウズのときは釣行記にしていない」 と思われがちだが、それはそもそも釣れる気がしなくて諦め、行動を起こす気力すらなく、結果怠惰な釣りとなって内容が乏しいものであれば、記憶として必要ない。だから自己中心的サイトのここにも上げないのだ。やり尽くしてもダメだったという気持ちの良いボウズは書いてここにも上げている。また釣れたのに 「釣行記」 にしない釣行はもう一つ。釣りの内容よりも同行者とのコミュニケーションが中心になってしまった場合だ。去年もある人と釣りをして、二人ともそこそこ釣れたのに、それを「釣行記」 として上げていない。 「今日は釣りというより、君とお話する日になったね、だから釣行記はHPにアップしない」 といった感じだ。そうそう、こうやって色々な事を思い出したり、新しく思ったり感じたりと頭が回っている今回のような釣行は 「釣行記」 にする。そういう釣りがしたい。だから、途中であまり意識が砕けてほしくないんだ。こうして書いているうちにもう2時30分。両竿ともエサ換えをしたら仮眠するとしよう。

 3時30分頃。床に就いて間もない私を起こさせたのはまた40cm級のジュウサンウグイだった。まったくコイツときたら、憎たらしい奴め。でも水槽で飼えばフォルムが格好いいし、人懐っこくて愛くるしい面もあるので困る。もう空が明るい。車に戻り、全身の力を抜く。今だけは頭を休ませたい。

また釣ってしまた困り者 ジュウサンウグイ

 起床したのは8時過ぎだった。もう少し早起きしたかったのだが、ウグイのアタリさえ止まってしまい、今に至る。両竿とも回収してエサ換えをする。一番竿の仕掛けにはクレイブが消え、スパイシークラブだけが残った状態だった。二番竿は両ボイリーとも無事で、若干クレイブに歯形が付いていた程度。全くエサが失くなっていて釣れなかったわけではないようだ。さて、寄せエサも追加するか。今回はボイリーは一つも撒かず、 「神通力」 のみを投入する。今は上げの6分で13時に満潮となる。風は北西から吹いているが弱く、今後の予報では南東の風に変わるが、それも強くなることはないようだ。気温水温ともに22℃。何となくだが、アタリは遠くなってしまいそうな気がする。

 10時40分頃、二番竿が小さくノックされた。ウグイだろう。しばらくしてからまたノックされたのでフッキングしているのではないかと怪訝になり、回収してみる。しかしウグイは付いておらず、ボイリーにも傷はない。少しだけ突っついただけなのだろう。ウグイが多いのならPVAの寄せのボイリーも少なくしよう。またバッグを割いてテープ状にしてボイリーを通す。今度はリングにせず、PVAの先端に針を引っ掛けて投入した。


 暇潰しに持ってきたのは20年も前に発行された 「鯉釣りマガジン2003年秋号」 。後ろの方の白黒のページに若かりし頃の私が投稿した記事がある。なんて懐かしいのだろう。この前号の2002年秋号で初めてボイリーが取り上げられ、この2003年秋号にも記載がある。そこには 「ボイリーを実際に試した人はほとんどいないでしょう」 と書かれている。ヘアリグについても解説されているが、かなり懐疑的であるため、当時の鯉師からの注目は無かった。それが20年経った今はどうだろう。古くから鯉釣りをしている年配の方や特別な拘りのある方以外は皆ボイリーを使っている。ここまで鯉釣りの常識を変えてしまうものになるとは私も思わなかった。時代は変わったものだ。それだけ私は老い、もう謙遜気味に 「まだまだ初心者です」 だなんて言っていられるキャリアではない。もっと上手くならないといけない。

20ねん前に購読した鯉釣りマガジン2003年秋号  中学生の頃の私の記事がある

 正午のサイレン。これはアタリが夕マヅメになるパターンだろうか。少し散策に出るとする。トンネルから離れれば車の音は小さく、自然の音は大きくなる。轍を進む上でカッコウが鳴いている。写真に撮れば何の面白味もない光景だ。でもその中で花の色、草の葉脈、それに乗って何を探して歩く小さな虫、木々の幹の模様。釣り中の私は普段スルーして、スルーしている事にすら気づかない物を見つけては面白がる。視界が広くなる、視野が大きくなるとはこういう事なのだろうか。レンズを向けても良い絵だとか、面白いとか、そんな写真は撮れない。だけどレンズを向けたという事はその時の私の肉眼には面白く良い光景として写っているのだ。鯉釣りをやっていなければ、こんな心の潤わし方など知らなかっただろう。長い距離を歩いたわけでもないのに、もう30分が経過していた。そろそろ満潮になる頃だろう。



 14時45分。潮は上がりきり、今は下げ一分だ。すっかりアタリがなくなってしまい、古い雑誌に目を通しているうちに陽の光の色が変わってしまった。今日は何時まで粘ろうか・・・。多分チャンスは夕まづめ以降となるだろう。今回は時間にゆとりがあるため、傾く太陽を見て憂え憂えする事もない。寄せエサは十分に撒いてあるし、少し横になろうか。車のシートを起こさずにシュラフを敷いたまま片付けなかったのは正解だ。少し窓を開け、枕の位置を調整して仮眠に入る。


 何ともつまらない夢から覚め、違和感を覚える。待てよ、いま何時だ?感覚で眠りすぎたと分かる。フロントガラスに目をやると外が真っ暗になっている。やってしまった・・・眠りすぎた。時刻は20時へ入ろうとする頃だった。夕まづめにエサ換えをして、夜の部を釣ろうと思っていたのに何もできなかったではないか。今からエサ換えをしてやる気を出しても、終了限界時刻はそう遠くない。窓の外から人の声と重低音が聞こえてくる。外へ出てみると、すぐ近くで数人の外国人グループが音楽を流しながらバーベキューをしている。鬱陶しいな、台無しじゃないか・・・なんて偉そうな事を口にできない。彼らからすれば、私だって邪魔な存在なのだろう。

 引き上げよう。これからまた雨が降る予報だ。中途半端な終わり方に少々納得できないが、仕方ない。そういえば、眠る私を起こしてくれるようなアラームは鳴らなかった。一番竿から最後の回収をすると、仕掛けが少し絡まってはいたがボイリーはしっかり付いていた。二番竿も同様。意外だった。てっきり両竿ともエサが失くなってアタリが出なかったのだと思ったのだが、エサがあって、寄せエサも残っているだろうにウグイすら来なかった。私が早いうちに目を覚まして、やる気を出して釣りをしても同じだったのか?昨日の暗い時間帯にだけアタり、明るくなってからはノーバイト。そして再び暗くなった今もウグイすら掛らない。どういう事か考える必要がある。アタリがなくなってから、潮は上げも下げも経ている。うむ、とりあえず、帰ってから考えよう。

 すっかり乾いてしまったアンフッキングマットもタモも畳み、速やかにかつ忘れ物がないように片付けを済ませた。22時撤退。釣果はあったが納得できない部分もある。産卵期に入って、このオープンエリアでの期待はしていなかったが、釣果は全て前回、前々回を上回った。水温が上がり、産卵する鯉、しない鯉共に全体的な活性が高くなったからだろう。産卵に適した場所が近くにあるフィールドでこのスパンの釣りをすれば、釣果は倍くらいになっていたのだろうか。しかし今のところ、産卵に適したポイントが近くにありながら、そこに直撃しないように仕掛けをセット出来る広い釣り場は私のレパートリーにはありそうでない。そういった場所を探すのも急務となるのだが、そんな場所があっても、産卵するタイミングで出向けなかったらわからないし、なかなか難しい。この次に釣行出来る時には産卵は終わってしまっているかもしれないが、或いはこの近くに遅れて産卵するグループの鯉のスポーニングベッドがあるかもしれない。もう少しだけ探ってみよう。次回の釣りは落ち着いてアタリを待つという今回のようなものになるか、開拓に重きをおくものになるか・・・。

 釣りをしていない日常は私が私じゃないような気がして正直言って面白くないが、連日釣りをするというのも実は困る。新しい事を思いついたり、次の釣りの方針が具体的に決まるのは、釣りをしていない、退屈している時が多い。時間は無駄にしない。また次の釣りまで、来る日も来る日も刻んだ時を数えてやろう。日常生活での喜怒哀楽は、良くも悪くも次の釣りのモチベーションにかかるスパイスになる。