鯉釣り日記2021年 都市河川で過ごす秋

釣行日時 9月18日15時~
9月19日18時 
釣行場所・ポイント名 新川

 とっくに冷めきってしまった草むらにカンタンの声がひとつ。少し前までは秋の訪れを奏でるように鳴いていたのだが、今は寒さに震えているようにも聞こえる。そんな金曜の夜、缶コーヒーを持ちながら次の釣りの事を考えるが、なかなか纏まってはくれない。次に何をすべきか、限られた時間内で何ができるか、煮詰めようと考え行き詰っているところに勝さんから釣りへのお誘いのメッセージが届いた。その瞬間、不思議なことに簡単に頭の中がすっきりした。一人で思案に暮れ、釣りを難しく考え過ぎていたみたいだ。即答でOKを出し、勝さんと釣行場所として決めた新川にピントを合わせる。

 当日15時。
 釣り人が入らなくなって久しいフィールドは派手にイタドリに侵略されていた。まずはそれらを刈るところから始めなくてはならない。鎌を持ってひと汗。そうしているところに函館からの長距離を経た勝さんが到着。LINEの会話では「ホッケ持っていきます!」というので私も肉を持ってきたのだが、開口一番に「ホッケ忘れてきました」と言うので苦笑した。勝さんは私のそばに置いた車を動かし、上流へ向かった。この上にあるデッキで竿を出すようだ。

 この新川は今年これまでやってきたフィールドとは違い、直線的なただの水路だ。直接海に繋がっている都市河川で、鯉の魚影も濃く、肥えやすい。この時期なら唯一やっかいなカニも少なく、ダンゴでも生エサでもボイリーでもいける。狭いのでラインにマーカーをして遠投することもなく、かなりやりやすく感じる。

 今回はこれまでこのフィールドで釣ってきた車に近いポイントより少し下流で竿を出す。それというのも、ポイント下流には岸際にバリスネリアのような細長い水草が生えている場所があり、ヒットした鯉は毎度のようにそこを通ろうとする。そこで今回は水草の生えている場所から仕掛けを入れるという試みをする。水草は完全に足元に生えており、直接攻めても釣果は得られないだろうが、鯉が意識しているポイントであるはずである。何かしらの変化があるかもしれない。

今回は二本竿で 水草帯のある場所を開墾して

 仕掛けはブローバックリグで、ボイリーは迷わず「ザ・ソース18mm」を選んだ。寄せエサとして「鯉パワー」+「ザ・ソース」+ペレット+スイートコーンを混ぜたものを少量撒いておく。ここまですればもう何も疑うことなくアタリを待てる。前回の釣行は夏のダムでのシビアな釣りだったため、現時点でまだ釣ってはいないものの、このような都市河川での釣りがかなり楽に感じられる。

勝さんと夕マヅメの一発を待つ 勝さんは上流のデッキから竿を出す

 空に一番星。日は夕刻の色をあやなし、それが秋の釣行らしさを醸し出す。12年前のもっと深い秋、この上流のフィールドで九州の高橋さんと平さんで霜の降る夜を明かした釣行があった。その釣行記のタイトルが「赤のフィールド」。木々が色づいて、ハナマスの実も、橋の欄干も赤かった。それを思い出し、それ以来新川は私にとって秋の場所というイメージが強くなったんだと分かった。

 18時、私の釣り場で談笑していると勝さんのアラームが会話を切り裂いた。火が付いたように私達が駆けだす。魚は下流のこちら側の岸を走ったようで、そこにあった木片に巻きついて離れない。出せないかと様々な体勢からラインを弛張するも、これ以上成すすべなく、ラインを切ることになった。

勝さんにヒット 魚を追う だが掛かりに巻かれてやむなく…

 水温は19℃とまだ高い方だ。この夜にまだまだチャンスはあるだろう。気温は16℃でジャケットを羽織れば過ごしやすい。持ってきた肉を食い、地べたに座りながらの釣り談義は華々しい。勝さんの職業である漁師ならではの話やマグロ釣りの話、そして鯉釣りの深さや哲学など色々語り合った。

 就寝準備をしていた22時頃、二番竿にヒットした。魚は上流の岸沿いを撫でるように泳いでいる。隠れられる場所を探しているのだろう。そうはさせまいとドラグを締めて抗うとアベレージサイズの鯉が現れた。ひとまずは坊主逃れだ。


一尾目 72センチ

 シュラフに包まってしばらく経った午前2時過ぎ、青く光る受信機のアラームに起こされた。ライトを頭に、カメラをポケットに、足に長靴とモタモタしながら釣り場へ下りるとラインの減らされたスプールが見えてきた。問答無用でドラグを締めて、いや締めすぎないように気を付けつつもラインを回収する。タモに納まったのは75センチオーバーの鯉。ここの鯉としてはかなり痩せ気味だ。白い煙の沸き立つ水面に魚を放した後、PVAを引っかけた仕掛けを投入した。

 勝さんも私が寝ている間に2匹の釣果を上げたという。今夜は眠らせてもらえないかもと冗談交じりに話していると一番竿に来た。鯰を思わせる青黒い頭を振りながら上がってきたのは先ほどと同じくらいのサイズの鯉。だが体重は明らかにこちらの方が上回っている。最近は体重の軽い鯉ばかり相手にしているので、重く、またよく走る川の鯉と闘えてそれだけで楽しませてもらっている。

2匹目 75オーバー 痩せ型だ 3匹目 75センチ程 新川らしい肥えた個体

 間もなくして勝さんの釣り場からデルキム特有の心地良く、そしてテンションを上げてくれるアラームが鳴り響いた。今度はあっちかと勝さんを先頭に走る。勝さんに手玉に取られて上がってきた鯉もまた70台。

続いて勝さんにも70台 賑やかな夜になってくれた

 二度寝をするために冷たいお茶で心を落ち着かせて、大きく息を吐く。見上げてもオリオン座が見えない夜空。気付けば北からの風が少し強くなってきている。川面を逆撫でしているが悪い風ではない。

 だが思ったようにアタリは続かず、気が付けば5時間も眠りについてしまっていた。テントの外から私を呼ぶ勝さんの声が聞こえる。適当に帽子を被りながら応対し、ファスナーを開けると既に撤収を済ませた勝さんがいた。今回はもうこれで引き上げるという。聞けば私が眠っている間に4匹も追釣していたというので驚いた。これは私も気合を入れ直して追い上げなくてはならない。朝のコーヒーブレイクを後回しにしてエサ換えをする。


 ボイリー、仕掛けに問題はなし。寄せエサを少し追加してから仕掛けをポイントに入れた。作戦の変更などはしない、これで釣れるはずなのだ。何故勝さんの方ばかりにアタリが集中したのだろうか。使っているボイリーもポイントのレンジもほとんど同じはずである。残るは仕掛け…ブローバックリグとロニーリグの違いなのか…。

 朝日が朝日と呼べなくなってからしばし。北西からの風が強く吹き、テントが弄ばれるが気温は上がって22℃で安定した。

 正午頃、次の鯉は散々私を焦らしてからヒットした。トルクのある引きで私に抵抗するが統べるのは簡単だった。極端に吻の短い60台。少々サイズダウンしてしまったが良しとしよう。


4匹目 極端に吻が短い

 アタリがこれで留まるようにも思えない。いや、今回この鯉が最後の魚となれば、何故そうなるのかと混乱してしまう。次の次の魚を考えるようなコンディションだ。80オーバーも期待できる。

 テントを畳み、昨夜の宴の後始末、荷物の整理と色々動いているうちにもう14時。やれやれあっという間だ。続きそうで続かないアタリ。夏のそれは時を長く感じさせるが、秋は短く感じさせる。太陽にちょっと待ってほしいと文句を言いたくなる。

 14時半頃、一番竿が上流に穂先を向けた。待ちくたびれたぜ、と鯉に言う。強すぎもせず弱すぎもない新川の鯉の引きは不思議な安心感を齎してくれる。魚はさっきの60台より遥かに重いが80を超えているという感じでもない。降伏の白旗といえるような胸鰭を水面にはためかせた鯉はまた75センチ程。それでも傷のない良い鯉だ。そしてその鯉の検測中に二番竿に5匹目のアタリが来た。慌ててリリースして次の鯉に対応する。2本連続アタリなどいつぶりだろうか。次の鯉も上流へと走りスプールを回すが、止められるとわかってからは翻って下流へ走り始めた。ナイスファイトだがサイズは同じくらい。なかな80が出てくれないのがもどかしいが、上がってくれた鯉にそんな文句を言うのは止そう。

一番竿に待ちわびた5匹目 75センチ程 二番竿にもヒットしてしまった 慌てて5匹目をリリース
 6匹目 新川らしいコロッとした個体 サイズはまた75センチ程 80が出てくれない

 そろそろ薄暗くなってしまう。この天気なら夕景は下流を朱に染めるだろう。ちょうど6匹目から1時間後、二番竿が7匹目を捕えた。この鯉も上流へ走り、ドラグを締めると下流へと翻った。そしてこちら側の下流左岸をなぞるようにして抵抗するが、私からのアクションで勝負がついた。サイズダウンか、67センチ程の痩せ気味の鯉だ。この個体も吻が短い。


7匹目 これも吻が短い

 16時を過ぎて気温が低下してきた。8匹目はあるか、さぁどう動く。アタるも動、アタらないのもまた静かなる「動」だ。8匹目が釣れたら、気を良くして明日面倒くさく思っている仕事のアレをやろう。アタらなければやらないことにしよう。手稲山へ向かう鳥達を見て清少納言の秋の一節を思う。しかし夕の帷が私を追い出そうとするように、早く帰れというように感じる。何かに焦らされるような憂い。秋とはそんな季節だ。

 真っ暗になる18時まで粘ってみたが、結局8匹目はなかった。なら明日は面倒くさいアレはやらずに後回しにしておこう。実釣開始から15時間。数よりも一尾でも大型が出てくれた方が良かったのだが、そんな贅沢なぼやきは私にはまだ早いだろう。今回は今回で楽しい釣りが出来た。前回とは全く毛色の違う釣行だ。今回と同じ事を茨戸川でやってみてはどうか?茨戸川でのやり方でカルデラでやってみてはどうか?創成川のやり方でダムを攻めてみてはどうか?全部違う答えが返って来るはずだ。鯉はどこにでもいる。だがどこの鯉も同じやり方だけで攻略はできない。鯉の奥深さを再度感じ、そんな世界の中に居ながら、あとどれだけの時間それに没していられるかわからない。次の釣行はいつになるか、その釣行でいくら消化できるだろうか。私の釣り路はやっぱりあと200年は必要そうだ。