鯉釣り日記2021年 再見

釣行日時 7月9日14時~
7月10日18時 
釣行場所・ポイント名 篠津湖
 
 激しく揺さぶられ、はためくテントの天幕。けたたましい程のその音を誤魔化すべく、携帯に繋がったイヤホンを耳にしながら座り込む。平地を撫でつける南風は冷たく、7月の昼間であるというのにテントの外の気温は20℃を超えていない。

 「今年は何かが変だ」 茨戸で釣りをする鯉師達の口からそんな言葉が漏れている。気温、水温ともに上がらず、纏まった鯉のハタキも見られない。初夏に有利であるはずのポイントで竿を出す釣り人も連続して坊主を食らっている。冷たい風を遮断したテントの中、一週間前のことを思い出す。


天幕を見上げながら先週の事を思い起こす

 ・7月3日夕方

 私は茨戸のとあるフィールドで、釣友のTadashi君と川面を見つめていた。2人でその場所で釣りをするつもりで来たのだが、厳しい釣りになることがよく分かる状況だった。Tadashi君がポイントにエサを撒き、暗くなるまで魚の気配を探したが、目を合わせては首を横に振ることしかできない。同じ茨戸内の別のフィールドに車を入れてみるものの、こちらも同じ。坊主を食らってしまうのが目に見えていた。川を変えようか。ではどこに・・・?

1週間前。ここで竿を出すつもりだったが… 寄せ餌を撒いてみても魚の反応なし

 ここから遠くなく、釣果が貰えそうな場所は…。そこで以前2人でナマズ釣りをした篠津湖はどうだろうかという案が出た。その時初めて篠津湖に訪れたTadashi君が、是非ここで鯉釣りをしてみたいと言っていたのも思い出す。篠津湖は小さな三日月湖。多少状況が悪くとも鯉の密度は高く、ある程度アタリが貰える期待がもてる。しかし…

 しかし、篠津湖の鯉のアベレージサイズは小さく、50センチから60センチのものばかり。65~70センチを出せれば良いといった場所だ。私も草魚釣りの合間などに遊びで楽しむ程度で、本気で篠津の鯉を釣ろうとしたことがほとんどない。だが、昔篠津湖で会った釣り人は言っていた。「昔は大鯉がよく釣れた」過去には大型の鯉が多数釣れており、それを狙う釣り人の竿が乱立するほどであったという。

 少し考え方を変えてみることにする。今と昔で環境が変わってしまったといえど、もともとそれだけのポテンシャルを持ったフィールドだったわけだ。私たちが大鯉に出会えないのは、当時の釣り人達が引退し、エサを撒かれなくなったために出現率が落ちているからなのではないだろうか。それに、私たちが以前釣っていた子鯉達も、今では大きく成長しているはずだ。発想の転換で、私たちの目のピントは篠津湖に合った。もう夜も更けてきている中、新篠津村へ移動した。



急遽新篠津村へ移動

 深夜の篠津湖には冷たい風が吹き抜け、2人揃って防寒着を羽織る程だった。底探りとフィーディングを終え、竿を出した後、釣れるのは翌朝からになると踏んでそれぞれテントや車に潜り込んだ。

 以下、7月4日を割愛。

深夜 篠津湖に到着 竿出し 「ツナスパイス」と「ソース」を使って
 先にアタリを出したのはTadashi君 50センチほどの可愛い子鯉
Tadashi君の釣り場から私の釣り場へ向けて  私にヒット アベレージオーバー 74センチ 

 ・7月9日現在

 先週の釣行時に書いた簡易釣行記と写真を見る目をテントの天井に戻す。結果としてはTadashi君に60未満が2匹と鯉と鮒のハーフであろう魚が釣れ、私は60未満と74センチの2匹の釣果で終わった。74センチは篠津で釣った鯉の中では最大であり、やはり昔釣っていた60センチ未満の子鯉が成長したものなのではないかとも思うが、このサイズが続けて釣れてくれなくてはわからない。

 そしてこの7月9日、篠津湖再見としてここへ来た。到着したのは13時。先に立てたテント内で前回釣行を振り返り、今回の作戦を実行する。外へ出たのは14時を回った頃になった。さて竿を出そう。

 場所は前回と同じ。篠津湖中腹の流れ出しがあるエリアだ。吸い寄せられた有機物が溜まって良いポイントになると考えている。ただし足元にはロックロールが沈んでいるため、ちょい投げはできない。岸から15メートル程の距離にフィーディングして、その中に仕掛けを入れることにする。フィーディングの内容は「鯉夢想」に「神通力」を混ぜたパウダーベイトに「ザ・ソースリキッド」、スイートコーン、ペレット、そしてボイリー「ツナスパイス」と「ザ・ソース」を混ぜたものをベイトロケットで投入する。フックベイツも1番竿に「ザ・ソース18mm」、2番竿に「ツナスパイス16mm」とフィーディングと同じものを使用し、前回釣行と同じブローバックリグに取り付けた。

今回の寄せエサ 動物系の香りを強めに 1番竿にソース 2番竿にツナスパイスを

 南からの横風が強く、沼は上流側へ波をよせているので、それに流されることを考慮してやや下流からベイトロケットを打ち込む。フックベイツの付いた仕掛けは両方とも同じ距離に投入し、ポイントは雁里沼などよりもやや浅めの泥底だと感触で分かる。寄せエサの配合はいつもよりアピールの効かせた刺激的なものが多いが、ここは雁里沼などに比べてモツゴやタモロコなどの小魚が少ないので、それくらいの強めのアプローチでも問題ないだろう。ただエビが多数生息している上、ウグイ類もいるので、時々仕掛けを回収してエサ持ちのチェックを欠さずに行うこと。特に1番竿のソースは他の動物系ボイリーに比べても小魚を寄せやすく、あっという間にボロボロにされる事があるので注意が必要だ。

セット完了 足元には流れ出しの土管が連なる

 テントの中でベッドを組み立て、シュラフを広げる。テントは強風で煽られ、天幕が音を立てながら飛ばされんばかりにはためく。それが内部の圧迫感を助長させるが、帽子を頭に抑えながら外にいるよりはマシだろう。気温もかなり下がっている。水温は23℃で、この数字は先週から変わっていない。例年より若干低い温度だが、釣りをするのに低すぎる温度ではない。先週と同じようにアタリが出てくれれば良いが…。

 バイトアラームの受信機が緑のランプを灯した。2番竿からの受信。しかし鯉ではなさそうだ。風で反応したようにも思えないアラームの鳴り方だったので様子を見に行くと、2番竿のスウィンガーが下がり、そのまま静止していた。あぁ、多分あいつだ…。巻き上げてみて案の定。細長い銀色の魚が上がってきた。

2番竿のスウィンガーが下りた… ツナスパイスにウグイがヒット…

 ウグイが掛かってきてしまったが、これまでのデータを見る限り、これから大型のウグイが連発するということはないと考えられる。2番竿の再投入前にソースを使っている1番竿も回収してみるが、齧られたりハリスが絡まっていたりという小魚に遊ばれた形跡はない。積極的な攻めの姿勢は崩さずにいこう。

 18時の「夕焼け小焼け」が風音の波間を通り過ぎてゆく。長閑しき三日月湖。せっかくならもっと穏やかな表情を見せてほしいものなのに、先週に続いて今日も、多分夜も朝も、変わらない南の風に打たれるだろう。

 18時20分、2番竿のアラームが再び鳴った。今度は鯉だ、スプールの回る音がする。しかし慌てて竿を手にするような相手ではないようだ。緑に灯るバイトアラームと2番竿の写真を取り、余裕でやり取りをする。前回の70台のような重さは感じない。それどころか、浮かび上がった鯉は60センチもない。まぁ、ここではこんなものか。これからサイズアップしてゆけば良い。それにこの子が悪いわけではない。顔に対して尾びれが大きく、その姿さながら元気が良く溌剌とした個体だ。

2番竿にヒット 左へ走る 60センチほど ここではこんなサイズが多い

 鯉をリリースし、仕掛けに新しいツナスパイスを装着している最中に1番竿のラインが走った。鯉が周ってきたのだろうか。この鯉も左に大きく走ったが、ドラグを締めて竿をこちら側に引き寄せると抗うのを止めて大人しく観念してくれた。65センチ程だろうか。この調子で連続アタリ、あわよくばサイズアップもしていってくれればよいのだが、はたして願いは叶うだろうか。


続いて1番竿にも

 これまでの鯉やウグイに喰われた分の追加として、寄せエサをベイトロケット2発分、各ポイントに打ち込んだ。さて、そろそろ照明が必要になってくる時間帯だ。車からヘッドライトとランタンを取り出し、テントに潜り込む。この沼で夕マヅメを過ごすときは、いつも散歩がてらにナマズのトップゲームをするのだが、今日は強風で水面がうねり、ジッターバグやペンシルベイトもうまく泳いではくれないだろう。テントのファスナーを閉め、このまま夜を迎えよう。気温は17℃。これがまだ日のある7月の気温。この時期から毎年家では仁平を着るのだが、今年はまだ手にもしていない。家で脱いできたのは二枚のシャツ。寒くて部屋の窓もほとんど開放していない。今もYシャツの上からカーディガンにジャケットを着こんでいる。春から続く低気温。8月近くにもなれば、季節相応の気温や空気感になってくれるだろうか。

これから夜へ突入 まだ日のある時間帯でも気温は17℃

 風が私を外から威圧する。こういうのは好きじゃない。ベッドに身体を預けながら徐にイヤホンを手に取り、音楽で耳を塞ぐ。

 21時。ソースの1番竿にヒットした。寝転がる私を起こしたのは40センチ程の子鯉だった。やはりこのサイズか…。どうしてもここは小型が多い。先週の流れでもっと70アップが出ることを期待していたのだが、それも薄まった。だが失くしたわけではない。先週70アップが上がったのは最も気温が上がった昼頃だった。だから明日の昼に期待を持ち越すことにした。

21時 可愛い子が私を起こしてくれた 車よりテント泊の方が好みになりつつある

 無風の草魚釣りでばかり来ていたこの篠津湖。その香りは当時のままで、札幌の匂いがしない良い場所であるが、こうも風に吹かれては溜まらない。釣況に関係なく風は雨の次に苦手だ。いつもなら蛙の合唱の聴衆になるところだが、轟音でその可愛らしい声も霞んでいる。眠れるまで大人しくベッドに横たわるとしよう。

 午前4時にエサ換えをし、寄せエサを追加。テントの外にはいつの間にか知らない車が置かれ、その上流で鯉釣りと思しき釣り人が竿を出していた。話しかけに行こうか迷うが、残る眠気の方が勝り再びベッドの上へ。少し頭をすっきりさせたいので、二度寝に入る前にコーヒーを一缶飲む。このまま眠れば次に目を覚ました時には眠気を残さずに起床できる。

 午前8時、イヤホンの隙間から耳にアラームが届いた。青のランプ、1番竿からの受信だ。これまで1匹目を除く3匹がザ・ソースでのヒットだ。さすが名ボイリー。どこで使っても安定した力を見せてくれる。この頃はボイリーの選択に迷った時にはとりあえずソースを使うことが多い。同じダイナマイトベイツ製で人気がある「コンプレックス-T」を試したこともあったが、こちらはソースが小魚に突かれてボロボロにされるような状況でも無傷で返ってくることが多い。また釣果も控えめだ。ボイリーローテーションが得意なTadashi君によると、コンプレックス-Tはこのような平野の沼よりも、山上湖でその力を発揮するという。何故なのだろう。どういった違いがあるのだろうか。

 ・・・そうそう、釣り上げた鯉を放さなければ。サイズは50センチといったところ。早朝から上流で釣りをしている初老の釣り人が後ろから私のファイトを見守り、マットの上で横わたる鯉を「綺麗な良い鯉だね」と評してくれた。


4匹目 安定のソースにヒット

 釣り人は古くからこの篠津湖で釣りをしているという。どうやら過去に大型が連発していたのは本当のようだ。しかし沼周辺の護岸工事が行われ、今の姿になった頃からアベレージサイズが落ちたという。大きな鯉はいったいどこに?10年前からここで竿を出せば必ず40~50センチが来る。その鯉達は今どのくらいの大きさに成長し、そしてどこで生活しているのだろう。それともこの子鯉サイズで成長が止まってしまっているのだろうか。謎は深まる。

 釣り人は私のボイリースタイルに興味を持ち、エサ換えするところを見せてほしいという。もちろん了承し、それを機に両竿共アタリが続いているソースに変更することにする。寄せエサは撒かず、今回はPVAにペレットと10mmのソースを入れて一緒に投入する。

 正午のサイレン。日は登り切り、風で体感温度は冷たいが気温は上がっている。さぁ、ここからサイズアップを…と思っていたのだが、アタリは続かない。14時にベイトロケットで寄せエサを追加し、その際に目先を変えようと2番竿のボイリーを「ザ・ソース コルクボールワフター15mm」に変更してみることにした。針の重みとワフターの浮き具合。それを水を入れた透明なタッパーで確認して投入する。

テント内部 ベッドの上から 2番竿をソースのコルクボールワフターに

 あと数時間でここを去らなければならない。風が強い、虫の声が聞こえないと愚痴ばかりであったのに、札幌に帰るのが寂しく感じる。それもそうだ。すぐそばに鯉がいる。それに寄り添い釣りをしているのだから。気合を入れて鯉柄のイヤーカフやシャツを身に着けたりして、恥ずかしいくらい楽しんでいる。でもそろそろ片づけの面倒なテントは解体することにしよう。薄暗くなってから風に靡く5人用テントを畳むのは大変だ。持ち込んだ荷物を外に出し、不必要な物は車にしまい込む。ここからは車の中からアタリを待つことにする。


鯉柄の釣り用のシャツ

 16時。1番竿のアラームが鳴りラインが水面を切り始めた。竿を持った感触はこれまでと同様。すぐに思っていたのと同じようなサイズの鯉が姿を現した。しかしタモ入れ寸前でスッポ抜け。あぁ、やってしまった。回収した針を見てみると、針先がかなり甘くなっていた。何でキャストする前にチェックしておかなかったのか…。何というミスか…。今のが大鯉だったと思うとゾッとする。一度一度のキャスト数が多く、夢中で投げ続ける釣りならまだしも、長時間投げ置いておくような釣りだ。キャスト前にいくらでも確認することができるし、待ち時間にいくらでも他の仕掛けのメンテナンスをする暇があったというのに。肩を落としながら新しい仕掛けをリグボックスから取り出す。もう終了時間が近い。アタリを遠くする可能性のあるフィーディングはもうしない。PVAと一緒に仕掛けを送り込む。
 
 いよいよ残り時間は1時間を切った。鈍い色をした雲が空を隠し、釣り場を暗く覆う。だが、沼はまだ「釣れる」と言っている。最後まで時間を大切に使っていこう。

残り1時間 釣り場が暗い雲に覆われた 車の中から

 何となしに竿の横に立ち、今にも泣き出しそうな天を仰いでいると、足元で1番竿のスプールが滑り出した。今度も小さい。リールのハンドルだけで寄せられてしまうような鯉だ。それでも元気な子で、抗い、流れ出しの土管の中に入り込もうとする。それを止め、降伏を促してタモに入れた。昔からそうだが、ここは傷のない綺麗な鯉が多い。こいつもまたそう。これらの鯉が大きくなった姿を是非見てみたいものだ。


5匹目 これも60センチ程

 「まだ釣れる」沼の表情はそう言っている。残り30分、20分。車の中から竿を見つめる。終了時間が近づく程釣りに集中できてしまうのは何故だろう。残り10分。まだ諦めない。5分、3分。


釣行も残り3分

 サイレンが18時の終了時刻を告げる。竿を上げに外に出たとき、微かに肌に雨を感じた。良い締め時だ。今回は心置きなく素直な気持ちで釣行を終わらせることができた。時間をたっぷり使い、今できる事をやりきれたからだろう。

 さて、釣果は5匹ですべて65センチ未満の鯉。この結果は10年前と変わらない。大きな鯉は別のエリアで縄張りを作って生活しているのだろうか。しかしこの狭い三日月湖だ。一か所に大鯉が溜まってしまえば当然生活資源は減り、縄張り争いも激しくなる。少なからずこのエリアにも回遊ルートが広がり、いくらか大型が出てもおかしくないと思うのだがどうだろう?今度はポイントを変えてみようか…?しかし雁里沼などの他の三日月湖がそうであるように、湖岸が私有地になっているところが多い。一度きりの釣りならば、所有者に特別な許可をとって釣りをさせてもらえるかもしれないが、一日一寸の通い通す釣りとなれば話は別だ。実際そのような場合断られることが多い。入れるポイントで違う釣果を出すには…。誰もがアベレージサイズが小さいからと釣りをしなくなったこの三日月湖。確かに私も大鯉釣りには絶望に近いものを感じている。だが、どこかに大鯉を出せる小さな穴があるとすれば、それを突く方法があるとするならば…。もう少し、もう少しだけ考えてみることにする。ちょっとした研究の始まりだ。そのちょっとした研究に大きく時間を奪われる恐ろしい釣り。いま私の釣り場のレパートリーには、悲しくも巨鯉を出せると踏んでいる場所がない。かつてはあったが、結果を出す前に川の状態が変わってしまったり、進入ができなくなるなどして釣りができなくなるという不運が続いている。だからこのような見落としがちな場所に何らかの穴があるのではないか、などと別方向からのアプローチを考えることができる。もう少しけだが、このフィールドに時間を割いてみようか。まぁ、とはいえ出来ることは限られているのだけれど。今度はもう少し水温が上がった頃に再来しようと思う。