鯉釣り日記2019 平成最後の釣り

釣行日時 4月28日〜
4月29日
釣行場所・ポイント名 大沼

  見ているだけで寒さを感じそうな曇り空に光が差した。光は気温を20℃近くにまで上げ、いままで氷に閉ざされて窮屈だったであろう魚達が、自由に水面に尾鰭をはためかせた。

 さて、平成も終わりに差し掛かった。今年の初釣りは4月13日の夜に地元茨戸川で行った。気温水温共に11℃。鯉らしき魚の跳ね音がいくつか聞こえてきた。エビをエサに好釣を期待したのであるが、一度目のアタリで惜しくもスッポ抜け。二度目のアタリでは上々のフッキングで、なんとか60台の19年度の初鯉を手にしたのだが、それ以降はウグイが釣れるばかりで、とても好釣と言えるものではなかった。

2019年初鯉 エビをエサにフロロハリスを使った仕掛けで

 今年は使用する針を全てストレートフックに統一して釣ってみることにする。先の4月13日に使用した針も「早掛けアキアジ20号」という針先に曲がりのないフックだ。ストレートフックの針先に触れてからのレスポンスの良さに期待しているが、吉と出るか凶と出るか。一発目でスッポ抜けでバラしている事で不安があるが、魚の食い方の問題や針全体の大きさ形状も影響してくると思われるので一概にストレートだからバラしたとは言えないのは当然の事。今年中、或いは数年かけて研究していくつもりだ。


 そしてもう一つ、今年中にやっておきたいことがある。それは道南大沼で初の鯉を手にすることだ。去年9月、大沼に初めて訪れたが、魚の気配すらほとんど感じられず戦意すら沸かない状況で釣行を終了した。地元鯉師 「勝さん」 からの情報によれば、その季節は鯉が遠浅の奥の深みに入ってしまい、キャスティングで釣るのは難しいとのことだった。ならば釣行季節を変えてチャレンジしようではないか。鯉が岸寄りしやすいという春を狙って釣行計画を立てた。次の釣行。平成最後の釣行で実行する。

 記念すべき平成最後の釣りなのだから、ホームグラウンドに帰ったり、手馴れた場所で大物を狙うというのが普通の感覚なのかもしれない。しかし、わざわざ右も左も分からない遠征地に向かい、ボウズかも知れない釣りをするなんてのもまた有り。右も左もわからない分、精一杯真面目に釣りをできるからだ。

 札幌から出て午前9時頃に大沼に到着した。予め、大沼への釣行経験のある釣り仲間からの情報を仕入れてからの出発だったが、実際に現地に着いてみると思ったよりも観光客が多かったり、ヘラブナ釣りの人が多かったり、状況が芳しくなかったり、はたまた方向音痴がために目的地を見失ったりと、大沼小沼を含めて3周以上回るはめになった。そしてとりあえず車のエンジンを切ったのは、去年の釣行の帰りに下見した小さなビーチだった。

 去年は魚の気配をまったく感じられず、眠っているかのように静かだったこの場所だが、今はアクティビティがある。そしてちょうど好い向かい風が吹きはじめ、ビーチに波を寄せている。見ている間に水面は荒立ち、沖の方で白波が立っているのがわかる。これは良い兆しのはずだ。去年も行ったが、改めて底探りを入れてみる。

向かい風が吹き始め波が打ち寄せる 沖の方は白波が立ちかなり荒れている様子

 このフィールドの左手には小さなワンドがあり、夏場は奥の方で蓮が繁茂する。ワンドの奥から出口まで水深は1.5メートル程と大して変わらないが、地質に変化があり、泥底から砂地となる。今回はその変わり目の少し奥。蓮が生えるポイントから50メートルほど離れた泥底を釣ってみることにする。

 さっそく準備に取り掛かろう。ボイリーでいくか、ダンゴでいくか…。なんたって未知のフィールドだ。迷った末、万能であるダンゴでやってみることに決めた。使用するのは「鯉夢想」それにモンスタータイガーナッツのリキッドを加え、優しい香りのするダンゴに仕上げた。タックルセットの前にベイトロケットで握っていないそれをポイント周辺に投入。食わせとして使うエサはレーズン。これにも少し手を加えている。市販のレーズンをガルプカープのアイリッシュクリームのディップに漬けておいた。これにおいては使用するのは初めてでありながら、釣れる期待を持てる出来となっている。

「鯉夢想」にタイガーナッツのリキッドを加えて 食わせはレーズンのディップ漬け

 足元の溶岩の上にロッドポッドの前脚を立たせ、二本の竿を寝かしつけた。これであとは期待の夕マヅメを待つのみだ。情報によればこのポイントは暗い時間にアタリが集中するという。例えば日が落ちきった次のタイミングだとか、午前1時とか、そんな感じで昼間はあまり期待できないという。そういうことならばと、じっくりゆっくりとタックルセットを進めた。

 リキッドをしっかり染込ませたダンゴを拳大に握り、袋仕掛けに装着する。仕掛けに使っている針もストレートのカジカ針Mサイズである。一番竿の仕掛けを10メートルほどの距離に投入。二番竿はもう少し沖の15メートル。このフィールドは頭上に木があり、竿を振りかぶることができない。ウェーダーで立ちこんでのキャスティングになるが、足場は歪な溶岩で、あまり沖に出ると転倒の恐れがあるために、ギリギリ岸際の木に引っかからない程度に立ちこんで軽めにキャストすることにした。このとき時刻は15時を回っていた。



 次にある程度平らな地面を探してそこにテントを張る。この夜はきっと冷え込むはずだ。寝袋に加え毛布もテントに入れておいた。これからどうなるだろうか。去年と季節が違うことで期待を感じるが、同時にまだまだ未知の沼であるために自分がやっていることが正しいのか間違っているのか、そんな不安も抱えている。気温15℃の風に吹かれてそんなことを考えていると、この沼をホームとする「勝さん」が到着した。立ち話もそこそこに、「よし」と車へ戻り、道具を下ろし始める勝さん。今回の釣りを共に過ごしてくれる心強い鯉師だ。仮に私がボウズであったとしても、勝さんがいつもどおりに釣ってくれることによって、一度も見たことがないこの沼の鯉の顔を拝見することができる。そんな事を口に出したら「そんな弱気でどうする」と渇を入れられそうだが。
 
 日が落ちるまでそう長くない。夕マヅメ後のゴールデンタイムに備えて一度エサ換えをしておいた。今できることは全てやったつもりだ。あとは鯉を拝めるよう祈るのみとなる。この沼は私にどのような顔を見せるのだろうか。

 勝さんは素早くセットを完了させ、あっという間に晩酌のつまみの買出しまでしてきてしまった。さすがここをホームグラウンドとする人間だ。効率的に物事を進めている。そしてアタリを出すのも早かった。主人の背後で稼働するデルキムのインディケーション。アラームに気付き振り向いた時にはもうラインが走りだしていた。予想以上に早いアタリに驚いた様子の勝さん鯉が取り込む。私が初めて見る52センチの大沼の鯉。聞いていた通り鱗の揃った綺麗な魚体。これを見たかった。そして今度は自分が釣りたい。

早速勝さんにヒット さすがだ 50台。美しい鯉だ

 連続アタリに期待しながら勝さん持参の梅酒をいただく。春らしさ漂う甘い香りに酔いしれるが、日が落ちると共に気温も急激に低下してきた。とても外で酒を飲んでいられる状態ではなくなってきたので、それぞれテントに入りこみ、ファスナーで気温8度の風を遮断した。


勝さん持参の梅酒を頂いて…

 毛布に包まり横になっているすぐ近くで、まるで海でキャンプをしているかのように波の音が聞こえてくる。こんなシチュエーションでアタリを待つ初めてだ。最初は少々怖い気がしたが、波が高まってテントに降りかかるなんてことはないはずだ。これはこれで沼の息吹を感じられる良いBGMかもしれない。

 夜が更けてゆくにつれて気温は5度まで低下した。そんな中で初めて私のバイトアラームが反応。ついに来た。竿を持ってみたところ、オモリしかついていないのではないかと思うほどの軽さを感じる。アラームの音を聞きつけて駆けつけてくださった勝さんにタモ入れをお願いし、捕らわれたのは50センチにも届いていないのではないかという小鯉だった。だが初めての大沼の鯉で、これもまた綺麗な体形をしている。サイズの小ささにガッカリする要素はない。

 そして1時間後の午前0時過ぎ。今度はこちらのテントに勝さんのアラームが届いた。テントを出たときには既にあしらわれていた鯉を私がタモ入れし、勝さんの2匹目をゲット。これは少しサイズアップして検寸板の数字は61を示した。

私の大沼初めての鯉 続いて勝さんにもヒット 60台

 熱くなる気持ちに反して体はどんどん冷えてゆく。いつも遅寝の私だがこの夜は散歩に出たり、余計な事を考えたりする間もなく、毛布の中で蹲って眠るしかなかった。寒い夜は続く。

 いつの間にか日が昇っていることに気付いたが、体の冷えは治まらない。そこにバイトアラームが6時間ぶりにアタリをキャッチした。勝さんの呼び声も聞こえる。寝袋の引力に打ち勝ち、二番竿をアラームから取り上げる。一尾目よりも少し重いか…。この時少々違和感を覚えた。そして伝わってくる鯉の抗いがなくなった。スッポ抜けだ。

 違和感は魚以外の重さを感じられなかったことだ。正体はオモリがかなり早い段階でクリップから外れたことにあると考えられる。思えば、エサ換えやポイントへの試し打ちの際のキャスティングで、オモリだけが飛んでいってしまうというトラブルがあった。テールラバーはしっかり閉め込んでいるはずである。恐らく、長い間使い続けてきたテールラバーの劣化からくるものだ。多分今のバラシも、鯉が針を咥えて首を振る段階でオモリが外れ、完全な向こうアワセが出来ぬままにファイトに持ち込んだせいであると思う。時既に遅し。テールラバーの劣化に気付くのが遅すぎた。それが今のバラシの原因と考えた。

 勝さんが「夕べは寒かったですね」と過去形で言う。私の体はまだ震えたままだ。コーヒーブレイクを楽しもうと考えていたが、風が更に私の体温を奪い、それどころではない。もう一度寝袋に包まって日が昇るのを待つ。

 やっと暖かくなってテントから出たとき、勝さんのテントと二本出していたロッドうち1本は既に撤去されていた。明るい時間帯はアタリが異常に少ないという。時合いは終わったのか。しかし残されていた1本に突然のアタリ。どこかへ外出していた勝さんが駆けつけ、ファイトが開始された。竿の曲がり方から見てかなり重い相手と戦っているようだ。だが勝さんはこの時違和感を覚えていた。寄っては来るものの、魚が全く動かないのだ。そして上がってきたのは大きな木の枝だった。魚の姿はない。どこかのタイミングで魚から針がすっぽ抜けて、そこにたまたま落ちていた枝に引っかかのだろう。残念であるが、これも鯉釣りあるあるの話し。

 すっかり日が昇り、これ以上のアタリは期待できないと踏んだ私達は今回の釣りを切り上げることにした。その後は勝さんによる案内で、大沼の釣りができる。もとい大物の可能性があるフィールドへいくつか連れて行ってもらった。私はひたすらナビにその地点を登録する。方向音痴の私だ。一人でこれるだろうか。そんな心配を胸に風景を頭に刻みつけてゆく。今回は勉強することが多い。良い事だ。


 次にここを訪れるときはどんな釣りができるか。いやどんなテーマでやろうか。大物を狙いたいもちろんそれはあるが、まだ一尾しか鯉の顔を拝めていないのが気に掛かる。段階的に、まずは小鯉でもいいから、数釣りを目指すべきか…。
悠々と聳える駒ケ岳。この雄大さに見合う鯉をいつか釣ることができるだろうか。目標がまたひとつ増えてしまった。