鯉釣り日記2018 秋を喫する

釣行日時 10月20日16:00〜
10月21日17:00
釣行場所・ポイント名 雁里沼

  木々の色が褪せ始めると、なんとなく切なく感じてしまう。私の好きな夏が終わり、嫌いな冬へ向かっていくのがいやだからとか、それだけではない気がする。これは本能で、どんな生き物でも感じているのではないだろうか。これから冬に入る、そのために準備しておけと焦らすサイン。それを感じて、巣を作ろうとか、毛の色を変えようとか、移動しようとか…。ならば鯉はどんなことを感じているのだろうか。

 それはさておき、好きなあの場所が姿を変えようとしている。周囲には重機、建物の取り壊し。いつどのように姿が変わるのかはわからないが、もしあの光景を見られなくなってしまったらと考えるといまのうちに目に焼き付け、思い出を増やしておきたい。多分いきなり丸々と姿が変わることはないと思うが、工事中につき立ち入り禁止なんてバリケードを施されて釣りができなくなってしまうなんて考えると居た堪れない。釣果は二の次とし、晴天の休日二日はあの場所に身を浸すとしよう。とはいえ、何も考えずに竿を出すわけではない。テーマはしっかり持ってきている。


 気温水温共に15℃。夜になれば気温は5℃くらいまで下がり、水温も冷え込むだろう。今回のテーマはボイリーのチョイスにある。セオリーとされているのは夏場は動物性ボイリーを使い、寒い時期はスイート系、フルーツ系を使うというもの。正直私はほとんど気にせず、低水温下でも動物系のソースやツナスパイスなど気に入ったボイリーを使ってきた。釣れるときはどっちだって釣れるだろうと。しかしここで今一度試してみよう。水温が下がりつつある今、動物系とフルーツ系を同時に使ったらどうなるのか。もしセオリー通りにフルーツ系にアタリが集中するのであれば、ボイリーのチョイスの仕方を少し考えてみることにする。そのためにはアタリを出しやすい場所であることが必要になるため、小型ばかりでありながらもボウズになることが少ないという意味でもこの場所を選んだ。

 使用するのは最も信頼をおいている動物系 「ザ・ソース18mm」とフルーツ系 「フレッシュフルーツワン16mm」。サイズが違うためそれぞれの大きさに合わせて組んだ仕掛けを使うが、ヘアの長さが違う以外のスペックはいつもどおりとしている。(仕掛け詳細は前回釣行記を参照)


ザ・ソース(上) フルーツワン(下) カラーも同系

 開始前に幾度か鯉の跳ねが見られた。そのポイントの左右を攻めることにする。30mくらい先だろうか。まず右(二番竿)からセットに取り掛かる。釣り場右側はブッシュになっており、倒木なども多いためギリギリそれらに引っかからない程度の距離を置いてキャストしなければならない。ブッシュから5メートルほど離れたところをポイントと決めた。暗くなってからの投入で方向を間違えてブッシュに突っ込んだりしないよう、足元にキャスティングの方向が分かるように目印を施しておく。そしてこのブッシュ寄りの二番竿に動物系ボイリー「ザ・ソース」を乗せた仕掛けを取り付けて投入した。

 そしてポイント左の一番竿にフルーツ系「フレッシュフルーツワン」を担当してもらう。投入距離は二番竿と同じとするが、2種類が干渉しないように、二番竿との横の距離はある程度離してキャストしておいた。フィーディングはカタパルトでそれぞれ同じボイリーを一掴みずつ投入した。水温の下がりつつあるこの時期は鯉の周りが遅く、食いも渋い。過度なフィーディングをしても、寄せエサが残されて虚しくそこにあるだけという状態になりかねないので、ペレットの類なども撒かないようにした。

右のブッシュに2番竿 1番竿はそこから10m程左に 秋のこの場所の雰囲気が好きだ

 気温はひたひたと侵食するように下がってくる。17時の「夕焼け小焼け」を聞きながらテントを設営。今回は炭火で暖をとりながら星でも眺めたい気分だ。しかし焚付と団扇を忘れてきてしまったことに気付く。ガスで炭をあぶってバーベキューコンロに移し、紙皿で仰いでなんとかするという、あまりにもスマートではない姿で夜に突入した。

焚付と団扇を忘れてこうして炭に火を入れることに… カルビを焼いて・・・

 炭火の香りを嗅いだのはいつぶりだろうか。この好きな香りを非常に懐かしく感じる。肉を鱈腹食って次に取り出すのはポット。今度はこれでコーヒーや紅茶を楽しむ。気温は4℃。それを寒いと感じないのは、この美しく仄めく炭の温もりだけでなく、楽しく満喫できている証だろう。

 そろそろエサ換えをせねば、と思うとほぼ同時に一番竿のアラームが喚きだした。ヒットは一番竿のフレッシュフルーツワン。夏のダムで釣った鯉と同じく、大人しくしていると思えば最後の最後で大暴れするタイプだ。水面に浮かび上がった魚の体色に違和感を覚えながらタモ入れして、マットの上で宥める。違和感の正体はこいつがミラーカープだったことにあった。私はあまりミラーやレザーといった所謂ドイツ鯉と縁がなく、このサイズのミラーを釣ったのは初めてだ。70センチといったところだ。リリースするときに水に触れてみると。開始時に比べて冷たくなってはいるものの、思っていたほどではない。水温計は13℃を指し、水面を滑るようにして気嵐が舞っていた。


フルーツワンに食った70センチのミラー

 一番竿のボイリーを新しいものに交換し、フルーツワン4粒を入れたPVAと一緒に目印どおりに投入。反応のない二番竿のザ・ソースはそのままにしてもう少し置いておくことにする。

 炭火の傍の椅子にドサッと座り、何気なく手にした携帯には22時過ぎを指す数字。そのままロックを解除し、自分のHPに繋ぐ。流し見るのは過去の釣行記。7年前のこの時期、この場所で、霜が降る深夜に平さんが80クラスを上げた記事がある。かなりの夜更けにあったヒットで、水温は今回よりももっと低い11℃だった。目を携帯に向けたまま耳だけすましてみると、明るい時間よりも明らかに多くの跳ね音が聞こえてくる。シーズン終了ギリギリのこの時期に、水深2mもないような泥底の広いフラットでなぜこんなにも魚っ気があるのだろう。逆に同じ沼のここよりも水深のある場所で同じように釣りをしても、ここまで魚の息吹は感じられないし、釣果もあるかないか、とても期待できるものではない場合が多い。それは私だけでなく、この沼をホームとしている鈴木君に言わせても同じはずだ。

 寒い時期は深場を攻めるというセオリーがあるが、必ずしもそうすれば釣れるということではない。やる気のある鯉は寒い時期でも浅場に上がってエサを探し、ヒットさせると意外とよく走る。一方で一度深みに入ってしまった鯉は代謝を落として休眠体勢となり、エサを必要とせずにじっと春を待つイメージだ。後者を釣ろうとなれば鯉の口元に自然と食いたくなるようなエサを近づけてやる技術が必要なのだろう。今の私にはとても出来やしない。そうやって釣れる鯉ほど大きいのだろうか。しかし、寒くなっても浅場で活動する鯉を「やる気のある鯉」と称して釣るのも好きだ。いずれは、どちらも釣れる鯉師になりたい。


炭火は温かく美しい

 午前0時。自分の釣行記を読み続けていた携帯が鳴動した。これはエサ換えのタイミングを報せるために自分でセットしたタイマーだ。上着のフードを被り、とっとと両竿を回収。一番竿のフレッシュフルーツを載せた仕掛けは22時を過ぎた頃にキャストした状態のままで至って問題はない。だが開始時から入れっぱなしだった二番竿のザ・ソースは外周がボロボロに齧られた状態で返ってきた。やはりドイツ鯉を放した後に二番竿も打ち返すべきだったか。だが、今回収したフルーツワンも、ドイツ鯉の口にぶら下がっていたフルーツワンも特に外傷はなかった。ソースだけがこれだけ小魚に遊ばれるのはエサの質か。良いのか悪いのか…。次からは両竿とも打ち返しのペースを同じ時間に揃えて様子をみてみよう。フルーツとソース、どちらも新しいものに付け替えた。

 気嵐と自分の吐く息で視界が遮られる。ヘッドライトを消さなければ竿から向こうが見えない。ゴロ石にでも躓けば大怪我をしかねないこの場所で濃霧や気嵐は危険だ。今の内にテントからロッドポッドまでの間にある大きな石をどけておく。夜間の就寝中にヒットした場合でも整地したルートがすぐ分かるように目印をいくつか立てておいた。


フルーツは無傷 ソースだけボロボロになって返ってきた

 アールグレイのティーバッグを入れた「FOX」ロゴのカップにお湯を注ぐ。この紅茶は学生の頃にポットで淹れてよく飲んでいた。カフェインが強めで、テスト前の一夜漬けの友にしていたのが懐かしい。あの頃の釣りも楽しかった。

 また携帯を手にする・・・・・ホームグラウンドの創成川で、このような無風の寒い夜を釣友のTadashiくんと二人で過ごした夜があった。二人ともテントを持参していなくて、Tadashiくんの、たしかOD缶のストーブで手を温めながら、さっきまでホットだったコーヒーの冷たい缶を握りながら語らった。時々センサーを入れてくれた鯉に心が温められるも手は震える。そんな中で話は釣りから大きく外れ、怪談なんかをしながら夜を明かした。オリオン座が目立つ夜で、その斜め下のシリウスが飛行機なのではないかと驚く程に強く輝いていた。何があったわけでもないその釣行が、何故か私の中で楽しい思い出として強く残り、それ以来この時期になると毎晩オリオン座を見るようになった。ちょうど10年前の話だ。


想い出のオリオン座とシリウス

 冷たい向かい風が静かに吹きだし、体に沁みる。いい加減テントに入ろう。最後にもう一杯レディグレイを呑んで、紅茶のカフェインが効き始める前に眠りに入る。そうすると目覚めが良い。


 この季節の二日目の朝はジャンパーを脱ぎ捨てたくなるところから始まる。昇った日が十二分にテント内を温めてくれた。ベッドの上で仰向けになりながら眠りの余韻に浸っていると枕元でアラームが叫んだ。

 前アタリなしでいきなり食いついて走り出した様子だ。ヒットは一番竿のフルーツ。今度の相手は60センチほどの真鯉だった。岸際に打ち上げられている倒木の枝の中に突っ込まれるが、タモで枝を折りそのまま捕えることができた。目覚ましにコーヒーでもと思っていたところだったが、それ以上に良い目覚ましになってくれた。尾が大きくて綺麗な子だ。

 二番竿の方も回収してみる。思ってはいたが、ソースはボロボロになるどころか姿すらなかった。二番竿のアラームが一度も鳴っていないところをみると大きなウグイなどではなくモツゴなどの小魚やエビにやられているみたいだ。小魚は低水温に強い。小魚の多いこの沼でソースは刺激が強すぎるのだろうか。そういえばこの沼でソースを使うのは初めてだ。初夏などの良い時期に使えばもっと酷い事になるのだろうか。それともどの時期でもこうなのか、この時期だからこうなのか。疑問の中から疑問が生まれる。夏のうちにこの沼でソースを使った釣りしてみてから今回に挑めばよかったか…。この沼で最も釣果を出しているカープオンリーの動物系ツナスパイスを使ってこのようなことになったことはない。そっちを動物系として出すべきだったか…。まぁ、いいか。

2匹目もフルーツに食った ソースの方は跡形も無く…

 水温は15℃まで上がった。ここまで二匹ともフルーツに食ってきているが、エサの質ではなく単純にポイントが良いからというだけの可能性がある。朝のフィーディング前にポイントとボイリーをチェンジしてみる。ここからは一番竿にソース、二番竿にフルーツを担当してもらう。


一番竿と二番竿のボイリーを入れ替えてセット

 農業機械の音を除けば…いや農業機械の音があるからこそ、ここは静かで長閑だ。札幌からそう遠くは無い距離にこんなフィールドがあり、邪魔も入らない。この沼に訪れて初めて釣りをしたのはこのポイントだった。静かで長閑で、夏でも魚の活性が高い。当時の新しい候補地としてはかなり大きなもので、すっかりこの沼を気に入ってしまった。それが7年も前のこと。通うにつれて、「もうちょっと大きいのが上がればいいんだけどね…」 「90オーバーの期待ができないんだよね…」なんて愚痴を溢したが、なんだかんだ言ってやはり好きなフィールドなんだ。いまこの近辺では大きなプロジェクトが稼働しているようだが、その影響があまり悪いように出ないことを願いたい。

 正午になり、サイレンと防災無線のメロディが辺りに響く。札幌の生活圏では聞けない正午と17時、このあたりでは21時にもビートルズの「イエスタデイ」のメロディが流れる。この防災無線の音も田舎らしくて好きだ。他人が言うに、私は札幌に似合わない人間らしい。私も田舎が好きだとよく言っている。では何故札幌から出て田舎に越さないのか、それもよく聞かれることだが、もちろん札幌が便利だからだ。そしてもう一つ、田舎にいるのを日常にしたくないというのもある。はっきり言って札幌の街の人ごみや喧騒は嫌いだ。だから静かな田舎に恋焦がれる。そして休日、プライベートを迎えた私は街を突っ切って長閑な田舎へ飛び込む。するとよりいっそう田舎が美しく見える。そんな場所で、こうして釣りをしていると、日常で溜め込んだものが浄化されていく気がする。煩いけど便利な日常と、好きな釣りの時間をはっきり分けて楽しむには札幌に住まうのがちょうどいい。

 正午を過ぎてから少し。そろそろ携帯にセットしてあるエサ変えタイマーが鳴るはずだ。立ち上がりながら鳴る前のそれを解除し、両竿を上げてみる。するとやはりフルーツは無傷。ソースだけがボロボロにされて返ってきた。この現象はポイントの問題ではないようだ。


左のフルーツは無傷 右のソースだけ齧られる

 エサ換えから30分程で、初めてソースにヒットした。少し出目気味の顔をした70センチ。日当たりの良いこのフィールドの水の色に真鯉の魚影はよく似合う。鯉の口から垂れ下がったソースに傷はない。この鯉がうろうろしていたことによって、悪戯しようとする小魚が散ったのだろうか。

 さて、ここまで3匹釣ったが、二番竿のヒットは一度もない。ヒットはエサではなくポイントに左右されているのだろうか。ポイントとはいえ、投入距離も水深も変わらないのだが…。

エサ換え30分後にヒット 初めてソースにヒットした

 昨夜の残りの炭に火を入れ、その上にポットを置く。本日晴天。炭火とコーヒーの香りを同時に喫する贅沢。気温は15℃まで上昇したが、もう下降し始めている。秋を生きようとする虫たちは、温かいテントに甘えるように姿を現す。札幌の人間達ならこれだけで悲鳴を上げるだろう。よく見れば可愛いものだと思うのだが。いつの間にか、オツネントンボがテントの中に入り込んで窓の内側で日向ぼっこしていた。彼らはこの姿のまま枝葉で雪をかわしながら春を待つ。逞しいものだ。


オツネントンボ この姿のまま冬を越す

 だがそろそろオツネントンボには外に出てもらわなくてはならない。うかうかしているとあっという間に暗くなり、きっとまた無くし物をすることだろう。まだまだこれからだという気持ちを時間が追い越す。テントやキャンプ道具をたたんで車のそばへ。見ていてわかるほどに太陽が沈んでゆく。

 しばらく待ってみたが、アタリは続かない。もう片付けにヘッドライトが必要な暗さになっている。16時30分。ここで今回の釣りを切ることにした。結果、フルーツ系ボイリーでのアタリが多かったわけだが、釣れたのはたった3匹であり、ポイントの違いが影響していたことを否めない。だがひとつ、ポイントに関係なくソースのエサ持ちが悪かったのは確かだ。刺激の強い動物系は、低水温でも活発に動ける小魚が、大きくて怖い鯉が来ないのをいいことに、突いて齧って遊ぶのに良いターゲットにされてしまうのかもしれない。そう考えれば確かにスパイスの強い動物系は不利を被る。ならば次回は・・・低刺激の動物系を選ぶか、それともフルーツ系をもう少し掘り下げてみるか。まぁ・・・迷うがそれは次回決めよう。迷ってどうこう、間違ってどうこう。なんだか
、10年後もまたこんな感じのことをやって、同じようなことを思いながら帰路につく気がする。