鯉釣り日記2017 夜茨昼茨

釣行日時 5月6日17:00〜
5月7日17:00
釣行場所・ポイント名 茨戸川

 いつもと変わらない雪景色を眺めた2月のある日。ふと、何と無しに覚えた胸騒ぎで春の近さを知った。冷たいままの空気を吸っては吐き、重たい雪を踏みしめる冬の日常。その中で、ただそれだけなのに。本能というものだろう。去年の今頃より、私は生物的になれている。ロッドを振れる日が近づいていると気づき、その瞬間心が解れた。


 それから日が経ち4月9日。短時間ではあるが、今年初の釣りに出ることができた。温排水渦巻くとあるフィールドにて、私の目を覚ましてくれるアラームがやっと鳴ってくれた。とても小さな一尾の鯉。それを皮切りに、2017年鯉釣りがスタートした。

2017年初釣行時 小さくも美しい鯉が今年の釣りをスタートさせてくれた

 5月6日夕方。
 
 降り立ったのは茨戸川のあるポイント。西の風がやや強く、川のカーブの外側にあたる左手に波を寄せている。岡ア式単床ブロックと呼ばれる護岸が大きく広がる足元。水際から少し離れた位置でも、波と波の間から苔むしたブロックが見える。岸際はかなり浅いことが伺える。ここは大きな川が折れ曲がるようになっているカーブの外側。浅場から20m程沖に水深4m以上下りるカケアガリがある。今回はその下を狙おう。

 今回使うエサはダイナマイトベイツの「ザ・ソース」に絞る。去年から導入したこのボイリーは、噂通り大役を担ってくれる期待ができそうだ。まずはフィーディングから。マルキューの「神通力」に「ザ・ソース」18mm、10mm、そして9mmのペレットをベイトロケットに詰め込み、目標地点に投下する。これを数回繰り返した後、タックルのセットに取り掛かる。


まずは寄せ餌 これを各ポイントに4発程打ち込んだ

 今回必要な荷物を車から降ろして、設営したワンタッチテントに詰め込んだ。今回は車中泊ではなくテントスタイルでいく。六角形の5人用テントは就寝スペースを除いてもタックルセットに充分な広さを備えている。悪天候時に活用できそうだ。テント内に広げたベッドの上にリグボックスを広げ、今回使用する仕掛けを選択する。


 ボイリーは18mm。仕掛けはストレートフックのブローバックリグでいこう。3本の竿をロッドポッドに預けたときには強かった西の風が止んでいた。静かな夜になるだろうが、明け方から風は向きを変え、ここでは正面からの強風となる。まあ、朝まではのんびりやろうではないか。

オモリ部:(セイフティーボルトシステム)
ユニット:
シンキングリグチューブ50センチ、テールラバー(共にKORDA)、カープセイフティーレッドクリップブラウン(FOX)

オモリ:ナス型25号(カモフラージュ)

仕掛け(ブローバックリグ)
ハリス:
エジスカモテックスマット25lb(ブラウン)
針:NGST-4

エサ:ボイリー
ダイナマイトベイツ「ザ・ソース」18mm

 竿は3本出し、2番竿を飛距離20m、3番竿を25mのカケアガリ下にセット。ロッドポッドの最も左に掲げる1番竿は岸寄りの浅場に打ち込んでみた。バイトアラームの電源を入れたのは、手稲山のスカイラインにまだ色の残る19時となった。この時期、まだ昼夜の寒暖の差が激しく、夜間は水温が下がると思われる。宵のうちはアタリを期待せず、本番は明日の朝からとなるだろうか。


 一息ついたところでこちらも宴の準備に取り掛かる。久々に訪れた自由な時間。一人用コンロに火を灯し、黒い炭が温かいオレンジ色に染まってからステーキや海鮮を焼いてゆく。タックルとテントに挟まれたこのスペースで炭火焼きを楽しむのは、冬の間に憧れ続けたワンシーンだ。この時間を得られただけでも、今の私にとっては充分な週末になっているのかもしれない。


 4時間が経過した21時現在、水温は13度となっている。気温は11度と低く、テント内でも冬の装いで過ごすことになった。魚の跳ねの音は聞こえるが、対岸近くのかなり遠い位置からのものだ。一度仕掛けを回収してみるが、エサにウグイが噛んだような跡がついているのみだ。18mmの「ソース」をいくつか入れたPVAを添えて同じポイントに打ち込んだ。

 長閑とは言えないこの場所。見上げても星と星の距離は遠い。ファー付きの上着を被り早々とテントに潜り込む。通気性を重視されたこのテントは、寒い時期には少し向かないかもしれない。釣れる予感もなく、お酒を飲み、コーヒーを飲み、紅茶を飲み、音楽を聴きながら雑誌を捲り、友人とのLINEで綻び、まぁ、これで良いと言えば良いのか…。難しいことは川が釣れる気配を感じさせてくれてからだ。コーヒーのカフェインが効いてくる前に眠りに就こう。


 耳元で携帯の目覚ましが吠えている。午前5時。この時間に起きて仕掛けの打ち返しをしようとセットしたものだ。だが、ここまでバイトアラームは一度も鳴っていない。ウグイですら掛かればきっちりアラームを鳴らす。それすらなかったということだ。釣り方自体の方針を変更をするつもりはないし、この感じであれば昨日の寄せエサもかなり残っているだろう。このまま放置するとしよう。

 日が昇り空気が変わる。午前8時には予報どおり、テントの中で圧迫感を感じるほど風が強くなった。こちら側に波が打ち寄せている。

 そして午前9時。期待していたとおりに2番竿にヒットした。難なくランディングできた鯉は70センチ程のスマートな魚体。今年初のアベレージオーバーであるため、とりあえずは良い結果とさせてもらおう。さて、宴は終わりだ。やる気を出していこう。

 風が吹き始めた 70センチほど

 全ての竿のラインをリールのクリップにセットしてそのまま回収した。そして針とオモリを外したスイベルに少量の寄せエサを載せたベイトロケットを取り付け、それぞれ同じポイントへキャストする。スポンブはこの強風の中でも真っ直ぐ飛んでくれる。仕掛けを元に戻し、もう一度ラインクリップで制御される距離に打ち込んだ。最初に掛かった魚が子鯉であればこの先期待はできないが、70クラスであればまだ同じくらいのサイズの2匹目が出てくれることが多い。次の打ち返しは4時間後の13時とする。それまでに何らかの反応が出ることを願う。


 風は治まることを知らず、青空の雲も自由には浮かべない様子だ。強風の当たるテントの音はあまり好きではない。それを紛らわすためのインストゥルメンタルをスピーカーから流し、狐柄のマグカップにコーヒーをそそぐ。

 ベッドの上で電子書籍のページを流していると、その作業をエサ変え時間を知らせる目覚ましで止められた。やれやれと思いながらベルを解除し外に出ようとした丁度その時、バイトアラームが叫びだした。

 波に抗うように鋭い走りを見せる鯉。だがこの2匹目は小さい。でも、釣果となるならそれで良い。今回から導入した新しいリールのウォームアップにはなるだろう。60台の淡い金色がタモに納まった。さっきと同じ二番竿のヒットだ。


2匹目

 予定通り、また全ての竿を回収する。いずれもボイリーに問題はない。用意してあったPVAメッシュを引っ掛け、キャストする。1本だけ浅場に打ち込んでいる一番竿だが、波の影響を強く受け、時折アラームを鳴らしていた。それがやかましい上、この日は浅場に魚の気配がない。今回の打ち返しから、この竿も二番竿、三番竿とともにカケアガリの下に打ち込んだ。

 この頃から風向きが変わった。南の風から南西の風に行く先を移し、その強さは更に増している。ロッドポッドが転げてしまうほどだ。だが風向き的には問題はない。右からの風は左にあるワンドにぶち当たり泡を立てる。


南風から強い西風に

 2匹目から約50分後、今度は三番竿にヒットがあった。やはりこの風は悪くない。ここは南風でも西風でも、上流から下流へカーブしているカケアガリの斜面に波がぶつかる形になるようだ。白波の中から浮かび上がる鯉の影。強風の石狩川本流での釣りを思い出す。タモに入ったのは一匹目と同じく70センチ程の鯉だが、やや腹が太く違う印象をもたせるものだった。

 3匹目が白く浮かぶ 一匹目と同じ程のサイズだがやや印象が違う 

 二番竿の再投入と同時に、一番竿の投入点をすこし変えようと手にしていると、三番竿が暴れだした。手ごたえはかなり軽いが、最も良いファイトを見せてくれている。目前にした魚影はこれまでとはまた違う金色の輝きを見せた。60センチほどだがこれも良い魚だ。


4匹目 頭に対して尾鰭が大きい金鯉

 全ての竿を再セットしてからテントの入り口をくぐる。残す時間はあと2時間。このままのペースで事が運んでくれれば5匹目6匹目と追釣できるのだろうが、1時間を過ぎた頃から「もう釣れない」という雰囲気が川から湧き出すような感じがした。風が変わったとか潮が止まったとか、そういった具体的なものではない。胸に残った興奮が冷め、心が落ち着いてしまった。ゆっくり片付けをするか。ベッドやら何やら道具を多くだしてしまっているので、撤収にも時間がかかりそうだ。

 最後の瞬間まで竿とタモを出し続けたが、5匹目がアラームを鳴らしてくれることはなかった。仕方がない、納竿だ。
ほとんど初めて釣りをしたこのポイントで、小さいながらも60オーバーを4匹釣れたのだから良しとしよう。多分、タイミングさえ合えば、ここは大型が出る。