鯉釣り日記2016 THE SOURCE

釣行日時 7月10日13:00〜
7月11日17:00
釣行場所・ポイント名 H D N

 一車線が続く狭い国道。横目に見るナビの中に大小様々な湖沼の図が流れてゆく。その中のひとつの前でウィンカーのレバーを下ろした。そこに広がっているのは去年の思い出と同じ光景。約1年間、頭の中に在り続けたその景色の中にやっと帰って来れた気がした。

 駐車スペースには見慣れた白い車の姿がある。そのすぐ横に自分の車を並べ、早速ドアを開けると雨の匂いの混じった空気が流れ込んできた。白い車の持ち主、釣友の鈴木君の姿はそこになく、満載されているはずの荷物もほとんど残されていない。彼は既に釣りを始めているのだろう。沼へと続く階段を下ってゆく。初めて沼の水面が見える瞬間。釣り人なら誰もがこの瞬間に心を踊らされてしまうだろう。

 階段を降りてすぐの岸辺に鈴木君の釣り場があった。狭いスペースに4本の竿が並べられ、その先から水面に向かうラインは今にも絡まってしまいそうなほど、まるで作りかけの蜘蛛の巣のように張り巡らされている。4本の竿全てが、全く方向の違うポイントに投入されているようだ。足元には小さなボムボートが係留されている。そして沖の水面に浮いているHマーカー。なるほど、ボートを使って竿1本ごとのポイントを探り、そして直接仕掛けを置いているのだ。

鈴木君の釣り場 ボートを使って仕掛けを置きに行く鈴木君

 毎度のことながら彼には感服させられる。ついこの前、「ボートを導入したい」と言っていたと思えばもう行動に移していた。彼はいつも有言実行なのだ。それが実力に直結しているように見える。「めんどうだ」「疲れる」などと変に大人しくなってしまった近頃の私とは違う。私が見習うべき釣り人の姿なのだろう。

 さて、鈴木君の右隣のスペースに荷物を持ち込みタックルセットを始める。ボートを使って底探りをした鈴木君に聞いたところ、周囲の水深や底の質は去年からほとんど変っていないようだ。対岸から沖に十数メートルの菱のカバー。カバーが切れてからは水深に変化のない泥底がこちらまで続き、足元では少し固い地質に変わる。一応自分の釣り場からキャストできる範囲だけオモリを引いてみるが、沈み木や厄介な障害物などは見当たらず、相変わらずフラットなフィールドだ。

 今回のテーマは出発前から決まっている。ダイナマイトベイツの「THE SOURCE【ソース】」のみをエサにして釣りをすることだ。ボイリーの定番であり、言わずと知れた名エサであると昔から聞いているが、これまで自分で使ったことは一度もなかった。釣友のTadashiくんはこれを愛用しており、6月に一緒に釣りをした際に勧められ、私も購入して今回の釣行で使ってみることにした。今回は名エサの力量を見る為、ボイリーはソースのみを使用する。


ダイナマイトベイツ「ザ・ソース」縛りの釣りをする

 このソースを使ってどのように釣ってゆこうか。去年、一昨年に一度ずつここに来ているが、いずれも夜中に岸から近い足元で当っている。地元の人に聞いても暗い時間帯に岸際でヒットする事が多いと言うので間違いないだろう。では昼間は?車を出し、釣り場の対岸の様子を見に行くことにした。


釣り場対岸の様子見。広くカバーになっている

 対岸は足元から菱のカバーになっている。釣り場からでは分からなかったが、このカバーの下に多くの魚がいるようだ。泡付けやモジリが多く、菱を蹴散らすようにして飛び跳ねる鯉の姿もいくつか見られた。OK、釣り場に戻ろう。今回は竿を3本出し、1番竿と2番竿はこのカバーの切れ目まで遠投して藻下の魚を狙う。そして足元でのヒットも捨てたくないので、これを3番竿で狙うことにした。

 釣り場に戻り、ロッドポッドに3本の竿を掲げる。各ラインの先には18mmのボイリーに合わせたブローバックリグを結んだ。今回はハリスにコーテッドラインを使用し、コーティングは針元から3センチのところで剥がしてある。

オモリ部:(セイフティーボルトシステム)
ユニット:
シンキングリグチューブ50センチ、テールラバー(共にKORDA)、カープセイフティーレッドクリップブラウン(FOX)

オモリ:ナス型25号(カモフラージュ)

仕掛け(ブローバックリグ)
ハリス:
カモテックスマット35lb(Wグリーン)
針:伊勢尼12号

エサ:ボイリー
ダイナマイトベイツ「ザ・ソース」18mm

 予定通り、1番竿と2番竿は対岸のカバー近くまで遠投した。1番竿のポイントはカバーが切れて菱がほとんど生えていない泥底。2番竿は更にカバーに近づけ、まだ疎らに菱が生えている中に投入した。2本とも草絡むのを防ぐことを目的でソースを3個ほど入れたPVAバッグを針に付けている。3番竿はフリッピングで足元から4メートルの位置に静かに仕掛けを降ろした。

 続いてはフィーディング。3番竿はカッターで1/2サイズにしたソースを柄杓で仕掛けの周囲に撒いておいた。1番、2番竿は釣り場からカタパルトでソースを打つつもりでいたのだが、正面から吹いてくる風の影響でうまく飛ばすことができない。これは対岸から撒いた方が良いだろう。ソースの入った箱とカタパルトを車に乗せて対岸へ渡る。


対岸からカバーを跨ぐ形でポイントに寄餌を打つ

 釣り場の正面に到着したら、寄せ餌用のソースをカタパルトに乗せて弾き飛ばしてゆく。1番、2番竿の仕掛け近くの他、周囲のカバーの中にも一掴みほどのソースを撒いておいた。

 釣り場に戻り、タックルのセットはこれで完了。あとは今夜の寝床の準備がある。テントにシュラフ、リュックなどを釣り場に運ばなければならない。駐車場から釣り場までを一体何往復しているのだろうか。

 車から最後の荷物を運び出そうとしていたとき、駆け足でこちらに向かってくる鈴木君に気づいた。

 「安田さん、アタってます!」

 バイトアラームはセット済みだが、受信機を釣り場に置いてきてしまったことに気づく。荷物を一旦車に戻し、釣り場へと走る。

 「結構走られていましたよ」

 ヒットがあったのは1番竿のようだが、私が到着した時にはもうラインは動いていなかった。完全にカバーに突っ込まれている。重たい竿。ラインに菱が絡みついた特有の重さだ。グリップを握って竿を絞ってもただでは動きそうにない。

 「ボート出しましょうか?」

 鈴木君がボートでカバーまで行って菱を切ってくれるという。それをお願いしつつ私もラインで菱の茎を切る動作を続ける。次第にラインの向こうにいる魚の動きが竿に伝わってくるようになった。鈴木君は既にボートをカバーまで進めてしまっているが、自力でカバーから魚を出すことに成功したためラインを回収してゆく。

 「鈴木君、魚出てきたよ」

 意味の無かった鈴木君を呼び戻しつつ魚をネットイン。70センチ台のこの沼らしい色の鯉だ。無駄な汗をかかせてしまった鈴木君に謝りつつ、鯉を抱いた写真を撮ってもらう。

ヒットした鯉は対岸のカバーに突っ込んだ 菱を切って引き上げた 70台

 思いのほか早かったヒットはソースの力によるものか。時刻は16時。正面から吹いてくる風は生ぬるく、まさに雨を連れてくる風だ。テントの設営ばかりは雨が降り出す前にやってしまいたい。とりあえず1番竿は新しいソースを取り付けてキャストしておいた。そうだ、降ろさなくてはならない荷物がまだ車に残っている。今度はバイトアラームの受信機をポケットに入れてまた駐車場へ登る。


 17時頃には全てのセットを完了させることができた。テントの表面はもう細かい水滴に覆われている。18時になるといよいよ雨が降り始めた。この夜はテントの中で窮屈に過ごすことになるのだろうか。

 本格的に雨が降り出した中ではあるが、暗くなる前に各仕掛けを回収してエサの状態をチェックする。3本とも特に異常はなく、ハリス絡みなどのトラブルも見られない。回収したままの状態の仕掛けをそのまま元のポイントに投げ直した。魚影が濃いカバー狙い1番竿、2番竿の周囲には寄せエサを追加しておくことにする。車で対岸へ渡り、最初のフィーディングよりも少し多めのソースを打ち込んでおいた。

 対岸から戻るが、ジメジメとしたテントに入る気もせず駐車場の車の中で夕食をとる。せっかく札幌から解放されて田舎に来ているのだから綺麗な星空を眺めたいところだ。しかし今年の空はなかなかそれをさせてくれない。ゴールデンウィーク全てが大荒れという惨状から始まって、本当に天候に恵まれない初夏だ。私が釣りの予定を立てる日に狙いをすましたかのようにやってくる雨雲。今夜の雨もまた明日まで続く予報だ。

 助手席に置いていたアラームの受信機が鳴り出した。ランプは緑。2番竿にヒットしたようだ。暑苦しい中で嫌々レインジャケットを着て沼へ駆け下りる。ヒット直後は激しく走ったようだが今はもうセンサーの音が聞こえない。釣り場ではスインガーが上がりきった2番竿がラインを大きく右に向けて静止していた。今度の鯉もあまり激しくは動かない奴のようだ。ならば遠慮なく獲らせてもらう。暗くなりつつある中ヘッドライトを付け忘れて来てしまったことに気づくが、アラーム音に気づいた鈴木君が来て釣り場を照らしてくれた。小型だと思って浮かせた鯉は70センチ程。産卵後のためか尾びれが大きく裂け、そのせいでサイズダウンしてしまっている。それを踏まえて正確に言えば尾びれが一番長く残っているところで67センチといったところか。70センチくらいということに変わりなく、他人の比べてどうこうと考えない私にとっては別にどうでもいい事だ。


カバーの2番竿にヒット 尾鰭がボロボロ

 さすがの鈴木君も雨の中で外で過ごす気もないようで、すぐにテントに潜りこんでしまった。何よりもボートを使って仕掛けをセットする方法をとってしまうと、エサ変えなどで動くことも容易ではない。しかも彼はボートでカバーに突っ込み、藻穴を探してその中に仕掛けを入れてきている。仕掛けがカバーの真ん中に入っているので釣り場からリールで仕掛けを回収するのも難しく、魚がヒットした場合はボートに乗ってのファイトを前提としているようだ。なるほど、雨の夜となると動きようがない。それはボートスタイルの短所ではあるが、狙うと決めたポイントに確実に仕掛けとエサが入っているのがわかっているからこれ以上動く必要もないのだろう。

 22時30分。車の時計を目にした瞬間、同時に受信機の緑のランプも視界に入ってきた。ウグイではないかと思われるような単発のアラーム。しばらく待ってみるとやがて音は止まらなくなった。手にしていたお酒の缶を置いて釣り場へ向かう。

 2番竿のヒットのはずであるが、ラインは張りも弛みもしていない。外れたのか?少し不安になりながらも竿を持つと確かに鯉の重みを感じる。魚はほぼ無抵抗のまま私の足元に現れたが、タモに入れた瞬間にスイッチが入ったように暴れだした。俎板の鯉という諺に反し、釣り上げられたマット上で元気良く暴れるのは60台の鯉だった。

 そして30分後、夜間に期待していた足元の3番竿から魚信が届いた。今度の魚は若干ラインを弛ませ、隣二本の竿をくぐるようにして左に泳ぎだしていた。手ごたえは軽い。現れたのは50センチ台の色白の鯉。これも産卵の影響か、体側に複数の傷がある。この白い魚体はこの沼の鯉らしいと言えよう。砲弾型で鈍い金色の光を放つ野生型が良い鯉と言われるが、私はこのような都会型の鯉も好きだ。


3匹目 これもカバーでのヒット

4匹目はケガをした色白の鯉 足元でヒット

 少しずつサイズダウンしてきてしまっているが、時間はまだまだある。やれる事をやって大きいのを狙いたいのはもちろん。このサイズが続いて終了を迎えてしまっても、今年は釣行回数も釣果数も少ないわけだから、少しでも多くの魚に会えるならそれだけでも良い。何れにしても「THE SOURCE」は信用と期待をおけるエサであると思って良いようだ。

 日付が変わる頃になって雨と風が止まった。そろそろテントに潜ろうか。私の耳に戻ってきた遠くのカエルの声を聞きながら就寝の準備に入る。明日は起きたらすぐに対岸に寄せエサの追加に行こう。それからどうしようか・・・。


 午前5時、アラームに目を覚ます。相変わらず、釣りの事でいろいろと考え込んでしまったこの頭は、私を寝かしつけてはくれず、また寝不足のまま朝を迎えることになった。テントの入り口を開けてみたところ、雨は上がっているようだ。アラームが鳴っているのは3番竿。竿の動きからして焦って靴を履かなくてはならないような相手ではないだろう。立ちくらみなど起こさないようにゆっくりと腰を上げ、魚に大人しくするようにと竿で話しかける。40センチほどの子鯉。本当にサイズダウンの流れに乗ってしまっているようだ。


5匹目はこんな子鯉 サイズダウンの流れに・・・

 その様子を見に来た鈴木君。彼はこれからエサ変えをするとのことで、新しい自作ボイリーを付けた仕掛けを持ってボートを漕ぎ出した。早朝の散歩のおじいさんがその姿を見て足を止め、彼の熱さに関心したようだ。このおじいさんも昔は鯉釣りに熱くなっていたと言う。「君は眠そうな顔をしてどうした?もう少し寝て熱さを取り戻して来いよ」なんて言葉ももらってしまった。確かに、疲れた頭を無理に動かしたってどうしようもないか。貰ったお言葉どおり私はもう少し横になることにする。


エサ変えのためにボートに乗り出す鈴木君

マークされた藻穴は鈴木君期待のポイント

 幾度か目を覚ますが、狙っている対岸に短時間釣行の釣り人が入ってしまったり、へら釣りの例会と思わしき団体がミーティングを始めてしまったりと、打ち返しがし難い状況になっている。仕掛けを投げ込むにしても、対岸から寄せエサの追加をするにしても、あの人達が撤収するまで待ったほうが良さそうだ。足元ちょい投げの3番竿だけエサ換えをして砕いたソースも周囲に撒いておいた。本当に期待している1番竿と2番竿の打ち返しが出来ないのがもどかしいが、仕方のない事だ。


 日が昇ってから雨は弱まりだし、昼を迎えるころには霧雨を肌に感じることもなくなった。対岸の人達はもう撤収した様子。風が弱くなってしまったが、これならわざわざ対岸まで行かなくても、こちらからカタパルトで寄せエサをを飛ばせる。やっと全ての竿の再セットをすることができた。

 ふと鈴木君の釣り場を見ると足元に濡れたタモが置かれている。私がテントで過ごしている間にヒットがあったようだ。

 「釣ったの?」

 「4匹ほど。小さいのばかりですが」

 私が知らないうちに4匹も上げていたとは驚きだ。せっかくならボートを使ったファイトシーンを是非見たいところだったが・・・。

 そんな私の願いが通じたかのように鈴木君の竿に5匹目の魚がヒットした。ラインが引き出されてゆくが、鈴木君は釣り場を離れて駐車場へ登っていってしまった。彼のセンサー受信機は携帯するのが難しく、それに駐車場までは電波も届かないため置いて行ってしまっている。駐車場への階段を登り、鈴木君を呼びに行く。

 「鈴木君、アタってる!」

 昨日の私の一匹目と逆のパターンだ。鈴木君と共に釣り場へ戻り、ヒットのあった竿を指差すが、ラインの動きは止まってしまったようだ。この竿はカバー奥の藻の中に投入していたものだ。ボートで出動する鈴木君だが、魚は藻の隙間を縫うようにして走ったようでなかなか水面へ引き出せずにいるようだ。


鈴木君 カバーの穴に投入した竿にヒット

菱の隙間を縫うように走った魚を追う

 やがて魚がカバーの藻を蹴散らし始め、その飛沫が止んだと同時に鈴木君の拳が上がった。魚を捕らえたようだ。こちらも手を振り返す。疲れと喜びが合わさった表情の鈴木君が接岸し、ボートからタモに入ったままの魚を引き上げる。60台。三日月湖でよく見られるタイプの鯉だ。


カバーから引き出した鈴木君の5匹目

 カバーに乗り入れたボートの上でオールを漕ぎながらラインを回収するファイトは実に大変そうだが、鈴木君にとっては当たり前にこなせる作業なのだろう。疲れも見せず、また次の打ち返しのためにボートを漕ぎ出していった。

 終了時間が近づく中、またも鈴木君にヒットが訪れた。今度はボートを使わずにランディングできるようで、遠距離に放たれたラインを岸から回収してゆく。魚は小さく、針に付いているのかさえ疑うような軽さであるようだが、元気のよい子鯉が鈴木君の手に捕えられた。片手で持ち上げられてしまう小さな鯉。鱗の揃った綺麗な子で、水槽で飼いたくなるようなサイズだ。


鈴木君にヒット 可愛らしい小さな鯉

 もう一度ほど私にもヒットが欲しいところだが、終了時間と共に雨雲が近づいてきた。せっかく乾いたテントがまた濡れしまうのは避けたい。テントや寝袋を収納して駐車場へと運ぶ。また釣り場から離れている間にヒットがあるのではないかと淡い期待をするが、そう上手くはいってくれなかったようだ。

 札幌までの道のりは長い。明日からの長い一週間に備えるために早めに帰宅するとしようか。鈴木君も家の人に早く帰るよう言われているようで撤収準備を始めている。二人同時に今回の釣行を終えた。

 毎度思うことだが、鈴木君の釣りには私が学ぶべき面が多々見られる。ボートの導入、センサーや備品の自作、ポイントの開拓、エサや仕掛けのセッティング。これまで彼が考えることを止めたところを見たことがない。その積極性と少年のように無邪気な釣りへの取り組みは必ず大物に結びつく。彼は近いうちに大挙を成し遂げるはずだ。

 釣りをするに当たって無くしてはいけないのは童心だ。鈴木君が子供っぽいというわけではないが、アグレッシブで大人の丸さを感じない。対して私はここ数年でかなり丸くなっている。子供が落ち着きなく遊ぶ姿をソファに座りながらお酒を片手にただ眺めているような、そんな大人の落ち着きを持ってしまっている。それでは駄目なのだ。釣りには無邪気さが必要だ。童心を思い出そう。