鯉釣り日記2015 水鏡

釣行日時 11月21日
10時〜16時
釣行場所・ポイント名 茨戸川
  みなもに白鳥が遊ぶ小雪の茨戸川。気温は2℃を下回り、水温も5℃程だ。その中を進む鳥の姿を見ると、こちらが身震いしてしまいそうだ。

 今日は釣れないだろう。場所がどうとかではなく、今日はそんな日だと思う。釣りたいのなら他に行く場所がある。でも私は迷わずにここで竿を出す。ここは散歩の人が通りかかったり、すぐ後ろを車が通り過ぎていくということがない。だからここを選んだ。

 この前釣具屋で買ったミミズを、今作ったばかりの仕掛けにつける。これは私らしくない。仕掛けを新しく作るときは、釣行前に家でじっくりと時間をかけて作る。一つ一つに願いを込める。だから、何の準備もせずに川に来て、てきとうに簡単な仕掛けを作りそれをポチャンとすることはない。でも今日はそうしてる。私はただ、目の前で広い水面が波打つのを眺めたいだけだ。それで、一応竿は出しておこうと思っただけ。ダンゴやボイリーなんて持ってきていないし、持ち込んでフィーディングがどうとか、種類がどうだの、ポイントがどうだのやる意味がない。だからてきとうにミミズを付けた。まあ、この時期にこういうところで本気で釣りをするとしてもミミズをエサに選択しているかもしれないが・・・。


 のそのそと車に入り、フロントスクリーンを川に向ける。見えるのは揺れる水面と枯れた対岸だけ。ハンドルにもたれかかって只々それを眺める。冬になってここが凍ってしまう前にこんなことをやろうと思っていたのだ。鯉釣りを始めて何百回も釣りをしているし、これからも何千回だってやるつもりだ。その中の何十回かはこうやってただ川を眺めるためだけに釣り場に来てもいいだろう。これを釣行と呼んでいいのか迷ったが、釣行と呼んでおくことにする。

 今回釣れなかったからその言い訳で書いてるの?とか、巨鯉を追うと言ってる人がこんなテンポで釣りをするのはどうかと思うよ?とか、色々聞こえてきそうな気もするが、俺は俺でやらせてもらうし、俺に話なんて通用しない。


 今何時だっけ?時計を見ようとすると目の前を白鷺が横切った。なんて綺麗な白さなんだろう。時計を見るのはやめにした。

 青いソーダにクリームを混ぜたような雲を見ていたら、突然の電子音に驚かされた。一応センサーをつけていたことをすっかり忘れていた。左の竿がゴンゴンと揺れている。でもすぐに止まってしまった。鯉の空アタリか、大きなウグイか。恐らくミミズはとれてしまっただろう。それを放置するのもなんだか気持ち悪くなったので、新しいのに付け替えることにする。ミミズを房掛けした仕掛けを投げられるだけの距離にぶっ放した。


 色の付いていた物達がシルエットに変わってゆく。ただただ水を眺めていた6時間。なかなか楽しかったじゃないか。疲れてしょうがなかった目をゆっくりと休ませることができた。ここの水深がもう少し深かったら、水面の下にロマンも感じていたのだろうが。

 今日はここに来てよかった。凍る前にここに来てよかった。

 次は・・・川に出てくることがあれば、その時は本気の釣りをしようと思う。