車のナビが17時を報せた。かれこれしばらく車を走らせ続けているが、一向に雲の切れ目が見えてこない。平らで真白く、重くて蒸し暑い。石狩大橋から望んだ川の上流側はうっすら霧がかかって霞んで見える。今の車の進行方向では右側から風を受けている。今回の釣り場、この風なら悪くはないだろう。
今回の釣行とそのテーマが決まったのはつい数時間前だ。かなりの準備不足で満足な釣りができるかは怪しいが、何にしてももう都会の音には聞き飽きてうんざりしているところだ。とにかく鳥や蛙の声に囲まれた環境へ逃げ、休日をのんびり過ごしたい。
沼に到着したのは18時を報せるチャイムが田園風景に響き渡る少し前。日の長いこの時期とはいえ、暗くなるまでにセットを完了させることは難しいだろう。慣れた場所なので底探りは軽めに済ませ、すぐにフィーディングに移ることにした。
今回のテーマは、メインラインの「バランスドワフター」のみを使用した釣りである。動物系のものと植物系のもの2種類を用意し、それぞれ別のポイントに入れて試してみる。そのためフィーディングのボイリーもそれに合わせ、ポイントごとに違うものを使う。
1番竿に使うワフターはスイート系の「バノフィ」。これは足元のゴロ石の際に投入する。ボトムタイプの同じバノフィとペレットを寄せエサとして周囲に柄杓で撒いておいた。2番竿では動物系の「スパイシークラブ」を使用。こちらは10数メートル先にある砂利底のポイントに投入し、寄せエサはカタパルトを使って動物系ボイリーの「ガルプ シーフードワン」を撒いておく。
|
|
1番竿用の寄せエサ ボトムバノフィ+ペレット |
2番竿用は動物系ボイリー+ペレット |
続いて仕掛けとワフターの準備に取り掛かる。仕掛けもワフター用に調整したヘアリグを作ってきた。
通常のボイリーのボトムタイプとポップアップタイプの中間の浮力をもつワフターは、針の重さで沈みこそするが、ヘアの遊び分を浮かせてフワフワと漂よう。投入後、やわらかい底の泥や砂などに埋まってしまうことへの対策になるのはもちろんだが、その軽さは警戒するなどしてエサを吸い込む力の弱い鯉への対策として期待している。創成川での水中観測で、警戒心の強い鯉がエサを吸い込む力を弱め、一度唇で咥えるようにしてから食べるシーンを毎回のように見せられた。例えばヘアリグの場合、エサとヘアまで口に入るが針は口の外に引っ掛かる。駄菓子屋のひも付きの飴を舐めるような形になって針掛りせず、そのまま吐き出されてしまうことが多い。それがあって私はヘアの長さを極力短くしているのだが、更にエサ自体の吸い込みやすさをプラスすれば食いの悪い鯉をうまく掛けることができるようになるのではないかと思っている。
|
|
今回はワフターのみを使った釣りをする |
針は沈むがワフターは浮いている状態になる |
仕掛けのバランスはワフター用に調整している。ワフターを沈めるためにいつもよりワンサイズ大きな針を使用し、ヘアは針のベントに届く程度と極端に短くした。ワフターは横たわる針の丁度真上で5〜6ミリ浮いている状態だ。初めて挑戦するこのバランスは吉と出るのか、凶と出るのか・・・。
|
オモリ部:(セイフティボルトシステム) シンキングリグチューブ50センチ(KORDA)、 カープセイフティーレッドクリップブラウン(FOX) テールラバー(KORDA) オモリ:小田原25号(カモフラージュ)
仕掛け:(ワフター用ヘアリグ(テスト)) ハリス:鯉ハリス5号+タングステンパテ 針:伊勢尼14号
エサ:(ハイインパクト バランスドワフター) 1番竿:バノフィ 2番竿:スパイシークラブ |
昼間吹いていた風は弱まったが、水はまだ揺れている。投入前、少し気になって水中に仕掛けを入れてみると、軽いワフターは波に煽られて針を動かしてしまっている。ここまで不安定であると危険だ。ヘアとハリスにがん玉とタングステンパテを付け、水底で安定するバランスにしてから一投目を打ち込んだ。
バイトアラームの電源を入れた頃にはすっかり暗くなり、準備の途中からヘッドライトを取り出すことになった。風向きは南東で今は力を落としてしまっているが、昼間のうちに十分に水をかき回してくれたおかげか鯉らしき魚の跳ねの音が聞こえてくる。状況は悪くない。
今回は新しい釣り方のテストであるため、大きさよりも数を釣りたいところだ。アベレージサイズの小さいこのポイントでは、50〜60センチ台を数匹釣るというのが基本的な展開で、いつものやり方であれば、はっきり言ってそのくらい釣る自信はある。しかしエサのタイプも仕掛けのバランスも初めてのものであるため、どうなることか想像がつかず、この一度の釣行では結果がどう出ようとも結局は 「釣れなかった、その理由は状況自体が悪いのか、それともワフターのせいなのか?」、「釣れたがこれは良い結果なのか?もっとうまいやり方をすればもっと釣れたのか、ではどうすれば?」と考察に悩みあぐねることになる。どう悩まされることになるのだろうか。
|
|
セット完了時にはすでに真っ暗になっていた |
とりあえずは蚊取り線香を炊いて一息つく |
開始から2時間後の22時。両竿の仕掛けを回収し、エサの状態を見てみる。小魚に多少突かれた痕が残っているが、針とのバランスが崩れたりということはしていない。PVAメッシュに寄せエサを詰めて再投入。そしてその1時間後の23時頃、初めてアラームが反応した。受信機のランプは2番竿に食い上げアタリがあったことを示している。そしてその数秒後、ラインは一気に走り始めた。
ランディングしたのは50センチ台の小型の鯉。砂利底のポイントでスパイシークラブにヒットした。フッキングは下顎の右側で、悪い掛かり方ではない。とりあえず不正解ではないようだ。
ワフターでの一匹目
針先が痛んでいないか確認してから、ヘアに付いたままだったワフターをそのまま投入した。1番竿の方はヒットがあるまで触らずに一晩置いてみることにする。このポイントは夜よりも昼の方にアタリが出やすい。この後にアタリが連続する期待はしないことにして、そろそろ車に入って朝を待つとしよう。夜の涼しい風を感じに少し散歩に出てから、虫が寄らないようにカーテンを閉めた車内にランタンを持ち込み、体を横にして眠気を誘った。
夜は静かに過ぎていった。シートを倒した車の中、開放した窓からはカエルの声に混じり、魚の跳ねる音がよく聞こえてくる。だがやはり暗いうちにアタリが続くことはなかった。
日が昇り、気温が上がり始めた午前5時、両竿の仕掛けを回収する。2番竿のスパイシークラブはそのまま残っていたが、長く入れっぱなしにしていたバノフィはボイリーストッパーを残して消えていた。軽くて柔らかいから、あまり長時間放置するのには向いていないかもしれない。両方とも新しいワフターに交換し、ポイント周辺にもカタパルトを使って寄せエサを追加しておく。
今のところ風はないが、午後近くになってから南西の風が吹いてくる見込みだ。勝負は午後から夕方にかけてになるか…。チャンスが訪れるまで、鳥達の声に耳を貸してリラックスするとしよう。
夕べは星の無い夜だったが、日が昇ってからは平らな雲が千切れ始め、隙間から青空が顔を出した。日陰のないこの釣り場は夏の釣りには少々辛いところがある。日差しにやられる前に全ての窓を全開にした車に入り、シートの上でヒットを待つことにする。
午前10時頃から風が出始め、それ以降から沖のほうで鯉が跳ねる姿が見られるようになった。そして期待通りに2番竿のアラームが鳴る。竿を持ってもラインはまっすぐ正面に放出され、青空の下、夏の鯉らしい溌剌とした疾走を見せてくれた。そして水色の落ち着いた雁里沼の水面に、雁里沼らしい尖った尾鰭の鯉が現れる。70センチ程だろうか。
|
|
夏の鯉らしいファイトを見せてくれた |
尾鰭の尖った雁里沼らしい70台 |
この2匹目も最初の鯉と同じように下顎にしっかりフッキングしていたが、まだ少々針の大きさとヘアの長さのバランスが気になる。次の投入をする前に仕掛けのヘアをほんの少し長く調整し、1番竿の仕掛けも同じバランスのものに交換した。更にストックしてある仕掛けをばらしたり、新しく作ったりと作業しているうちにあっという間に1時間。正午のサイレンが鳴り止んでしまった。
13時がすぎた頃、これまでよりも高い音でアラームが鳴きだした。これは1番竿のアラームの音。足元のゴロ石ギリギリに投入したバノフィにヒットした。小型であることは間違いないが、こちらも積極的に前に出て魚を獲りにいく。岸際で涼し気に音を立てる波の中から50センチ程の可愛らしい顔つきの鯉が現れた。タモに入れず、水中で針を外してリリースする。
|
|
バノフィにヒットした50台 ここのアベレージサイズ |
雲が砕け、青空が広がった |
2012年夏に当別川で行った釣行を思い出す。丁度こんな青空の昼だった。夏の景色の中、川の中に立ちこんで、今釣ったような鯉を水中で捕らえて水中でリリースした。あの時の爽やかさが甦る。
この調子で一時間置きにヒットがあれば心地よかったのだが、これ以降アタリが止まってしまった。この感じであれば夕方に最後の一匹をキャッチして終了というパターンになるだろうか。撤収時間まであと3時間となった午後2時、夕方に向けて両竿の仕掛けを回収し、新しいワフターとクラッシュボイリーを詰めたPVAメッシュと共に投入した。
終了時間の17時が迫る中、2番竿に食い上げアタリが出た。手前にある障害物に突っ込まれたようだが、魚が自らリードクリップからオモリを外して出てきてくれた。この鯉も小型で、50センチといったところだ。
4匹目の50台
これで2番竿は今回の役目を果たした。仕掛けを取り外し、1番竿だけで最後のアタリを待つ。車の周囲も最低限必要なものを残して片付け、時間までは竿の前に腰を下ろして終日のひと時を過ごすことにする。
2011年からこの沼に来るようになって、ここまで何度の釣行を行っているのだろう。今履いている靴は釣行用で、初めてここに来た時から使っているものだ。ついている傷はほとんどこの沼で負ったもの。幾度となく繰り返すゴロ石の岸の上り下りで表面は割れ、紐もずたずた。今ではほとんど雁里沼専用の靴として使っている。そんな靴を眺めながら今回の釣りの終了時間を迎えた。
ゴロ石でボロボロになった雁里沼用の靴
今回の釣行では計4匹の鯉を釣ったが、どの鯉もしっかりと下顎にフッキングしていた。ワフター用の仕掛けは、とりあえずここのアベレージサイズを獲るには問題はないようだ。只、これ以上のサイズ、特に口の大きな固体を相手にするとどうなるか。これもまた今後の課題として追加しておこう。今回の釣りでとりあえず言えることは、ワフターは良いエサになるということだ。