鯉釣り日記2015 二夜目

釣行日時 5月8日午後8時〜
5月9日午前4時
釣行場所・ポイント名 茨戸川
  静かに訪れた二日後の夜。茨戸川の水面は大らかなたたずまいで夜の景色を作り出していた。二日前とはほとんど対蹠的な表情ある。ぽつらぽつらと浮かんでは消える波紋や泡で、魚の息吹は感じられるものの、そんな小さな反応を目視で確認できてしまうような静かな水面は、今回の釣りでは望んでいない。

 水温は前回より若干高い15℃。しかし日が落ちて1時間程経った今、ほぼ無風である。またここは潮によって受ける影響が弱い茨戸中流湖盆。水が動いていないからか、トラップに掛かったエサのエビの数もこころなしか前回よりも少ないように見える。


前回からの続きの釣りであるため、ロッドポッドの位置もポイントも変えずにスタートする。1番竿は水草が溜まっている場所の奥、2番竿は前回85センチがヒットした更に奥のポイント。水深はどちらも2メートル強から3メートルで、底の質も変わりない。エビを付けた仕掛けをキャスティングし、着底したら一度仕掛けを浮かせて根掛りしていないことを確かめつつ、仕掛けの形を整える。

 ここからは長い勝負になる、というかあまり期待はしないでおこう。上空からはオオジシギのディスプレイフライトの風切音がけたたましく聞こえてくる。この鳥は天気が良いほど高度まで上昇し、一気に急降下するようだ。今日もそう。風が無いのが手伝って、急降下の風切音がよりいっそう近く大きく聞こえる。


1時間後、そしてまたその1時間後とエサのチェックをするが、エサのエビは問題なく針持ちしているようだ。ここまでバイトアラームが鳴ったことはない。不安の多いスタートを切れば、ウグイやフナなどの魚が邪魔をしてこないことが逆に更なる不安を生む。

 スタートから3時間経って最初のアラームが届いた。2番竿のリールからゆっくりとラインが引き出されてゆく。抵抗らしい抵抗もなく、レギュラーサイズの鯉がタモに入った。

 1尾目をゲットできたが、それでもここからアタリが続くような期待が持てない。とりあえずは日付が変わるのを静かに待とう。夜明けが近づけば空気が変わる。そのとき風も戻ってくるはずだ。

 かろうじて釣れたという感じの1尾目  月を見送り夜明けを待つ

 月が頭上を通り過ぎた。針持ちの悪いエビでも3時間は持ってしまうほど水中の活性は良くないみたいだ。何もなく、どうすることもできずに丑三つ時を迎えた。

 夜明けが近づき、思ったとおりに空気が動き始めた。だがこの風は違う。背後から吹き付ける真逆の風だ。水が遠退いていくように、波が対岸へと向かってゆく。水が動かないより遥かに良いが、追い風は芳しく思えないのが鯉釣りの基本。今回は駄目なのか・・・。

 風は逆向きのまま強さを増してゆく。予報では、この日は夜までこの風向きのまま変わらないらしい。それならば、この風向きで好釣を期待できる場所を探し、明日の夕方から仕切りなおした方が良いかもしれない。地図を開き、この風向きで向かい風になる位置をいくつかマーク。そのうち一箇所はこのすぐ近くにあったため、アタリの期待をすっかりかけられなくなった竿を置いて様子を見に行くことにする。

 車を出して数分。目的の場所に到着。良い向かい風で、波がこちらに打ち寄せている。基本的にはこのような状況が好条件と言われるのだが、風以外のことを考えるとここは釣り場としての環境はあまり好ましいものではなかった。更に奥に進んだところにもう一箇所あるのだが、そこまで行くのには少し時間が掛かってしまうし、まだ真っ暗な真夜中である。場所探しは明るくなってからにするとしよう。車のハザードランプを切り、釣り場へと戻るアクセルを踏む。


竿を置いて他に良い場所がないか探しに行くが…

ウィンカーを上げ、釣り場へと続く道へ入ってゆくと、まだ遠いロッドポッドのある辺りで緑のランプが点滅しているのが見えた。受信機がうんともすんとも云わないのはバッテリー節約のために電源を切っているからだ。車を釣り場の定位置まで走らせ、エンジンを切り、川へ降りるまで緑のランプの点滅は消えなかった。

 アタリを期待せず釣り場から離れている間に来る、よくあるパターンのヒットだ。いつから走り出しているのか知らないが、ラインを減らされたスプールはまだ逆転し続けている。竿を持ってテンションをかけてやるとその抵抗は終わり、これまで釣ったより少し重めの感触が手に感じられる。魚の他に大きな草の固まりがラインに引っかかっているような重さだ。

 両手で竿の前後のグリップを持ち、フロントを引き寄せ、リアを前へ押す。そしてリールのハンドルを巻く。これを何十回も繰り返し、ようやく水面に刺さるラインが見えてきた時、ここにきて魚が抵抗を始めた。岸沿いを横に走り始め、力強く水を蹴りだしている。スプールの回転が止まるのを待ち、こちらからも引き返してやると大きく硬そうな尾鰭が水面からはみ出した。やっと姿を現した獲物。その泳ぐ姿は精悍そのもので、見惚れてタモを入れるのを忘れてしまいそうなほどだ。

 アンフッキングマットに鯉を横たわらせて水をかけてやり、こちらも一息つく。その雄姿も然ることながら、大きさもなかなかのものなのではないだろうか。メジャーを取り出し、軽く尾の先にメモリを当ててやると80台をクリアしているように見えた。よりしっかり長さを測るために検寸板も取り出して鯉を乗せると角定は念願の90センチを指した。

 期待していなかった条件の中での一尾  念願の90に届いている

 検寸板から抱き上げ、再び水を満たしたマットの上に乗せると、鯉はまた体を強張らせた。張り詰められた力強い尾鰭がマットの水を蹴り、飛沫を上げる。それを宥めつつ、写真のデータを確認してから茨戸川に帰ってゆく鯉の姿を見送った。そして久しぶりに上を見上げれば、西の空はすでに白ばみ始め、この夜釣りの終わりを教えてくれた。

 80台の鯉をいくつも釣れるようになってからも、89センチで止まったレコードはこの4年間塗り替えることができなかった。そして少年時代、創成川で釣りをしながらいつか90センチの鯉を釣ると誓った目標を、やっとやっとのことで達成することができた。長かった・・・・


 しかし今私が感慨深く感じているのは目標の数値を達成できたからではなく、あの鯉と出会えたからという方が大きい。最初に水面に姿を現したときに見えた尾鰭の印象。ヘッドライトの明かりの中で揺らぐ雄姿。本当に美しいとか、かっこいいと思わされるものだった。精通しないと見ることのできない、感じることのできない世界のひとつに出会えた。

 さて、タックルを仕舞え終えた時にはもう次のことを考えている私がいる。思い切り追い風で、良いとは思えなかったコンディションで自己記録を更新してしまったこともあるし、今回の釣行から生まれた悩みも多い。次はどこにどう悩もうか・・・


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