街灯が点されればそれがスタートの合図。待機していた車から降りて風が止んでいないことを確かめる。軽く水面を撫で付ける南寄りの風。この風は夜が深まれば深まるほど強くなるはずだ。シチュエーションはこれでいい。あとは私がどうするかだ。
あらかじめ底探りは済ませており、水草の成長具合と地質は押さえてある。ポイントとする場所の正面にロッドポッドを置き、まだラインを通していない竿をそこに預けた。そして全ての備品をセットし終えた丁度このタイミングで川エビを捕獲するトラップを引き上げる。そう、このタイミングを見計らえば、短時間でも一度の引き上げで大量のエビを捕獲することができる。もうトラップは片付けてしまってもいい。あとはそのエビをエサにした仕掛けをラインに結べば完璧だ。フロロカーボンの2本針仕掛けを用意してきている。
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FOXシンキングリグチューブ KORDAテールラバー オモリ部:(管付き固定式)
オモリ:小田原30号(カモフラージュカラー)
サキ糸:セリオラ#3
仕掛け(二本針仕掛け)
ハリス:フロロカーボン8号
針:剛力鮭鱒2/0
エサ スジエビ |
針にエビを付け、決めた方向へ竿を構える。ポイントもリールのラインクリップを使ってマーク済みだ。一番竿は水深2メートル弱の水草の奥、二番竿は更に奥の水深3メートル弱のポイントに着水させた。ラインには小さく切ったシールで目印を付け、次の打ち返しで同じ距離に正確に投げられるようにしておく。
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今回エサにエビを使う |
ハリスはフロロを使用 端糸の棘でエビを固定する |
1バイトアラームの電源を入れ、予定通りにセットを完了させた。現時点で水温14度。風はいまだ水面をざわつかせる程度だが向かい風に近く、ここから風が強くなれば良い方向に持っていける気がする。とりあえずは1時間程様子を見てみよう。
予報どおりに風が強まってきた1時間後。一度仕掛けを回収し、エサを付け直す。1番竿にはやはり水草が絡まってきた。このように水草が生える場所が良いのか、それとも二番竿を入れているゴツゴツした底質のポイントが良いのか。エサとするエビは藻場にも多いが、硬い質の底や壁に付くことも多いのでどっちが良いのかは結果で判断するしかない。
打ち返しから間もなくして一番竿のアラームが反応した。釣り場でも、受信機を置いた車内でも青いランプが点滅している。このアラームを鳴らしたのは70センチに届かないレギュラーサイズの鯉だった。ラインに水草が絡み、それを切りながらのファイトとなった。
そしてすぐに二番竿にもヒット。今度は緑色のランプが点滅している。こちらも同じようなサイズだが、大きな針を飲み込まんばかりに咥えていた。
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スレンダーな1尾目 藻のそばで食った |
でっぷりした2尾目 ゴツゴツした底で食った |
同じ程のサイズが同じ程の時間に違うポイントで食ってきた。どちらでも不正解ではないということか。とりあえずはこのまま同じような打ち返しをして様子を見ておこう。ポイントには今投げている2箇所の他、その沖にもう一箇所をマークしているのだが、次にどちらかの竿でアタリが貰えたら、もう一本はその3つ目のポイントに投げて試してみるとしよう。
アタリ待ちの車の中はどんどん冷えてゆき、温かい飲み物を買ってこなかったことを後悔させた。助手席のシートを少し倒し、体に毛布をかけてまだ読んでいない釣り雑誌のページを捲る。目の疲れを感じて時たま窓に目をやると、そのたびに風に吹かれる木の影の動きが少しずつ大きくなってゆく。こちら側の岸に波を打ち付ける風。過去にもこの場所で釣りをしたことがあるが、釣れたのはいずれも風が強い夜だった。今夜の期待が高まる。
やや間があって、2尾目のリリースから約2時間後に2番竿のアラームが鳴り出した。3匹目も60センチ台で顔の小さな元気な奴。これをリリースしたら、1番竿も回収し、1番竿は3つ目にマークしたポイントに投げてみることにしよう。
3匹目 60台前半といったところ
2番竿は針に新しいエビを付けかえてそのまま同じポイントに投入。1番竿は3つ目のポイントに落ち着かせた。ここは底が水深3メートルで落ち着く場所の中の一箇所。底質はオモリを落とすとコツンという衝撃がラインに伝わってくるような硬さだ。特にストラクチャーになるものはないが、川エビが多く集まるであろう岸近くから少し離れた場所に敢えて投げてみたかった。大きい魚はレギュラーサイズがよく釣れる場所から少し離れたところで食うのではないかという考えからだ。
ここまでウグイなど釣りの邪魔をする小魚からの攻撃はないが、耳をすませば波の音の中に時折魚の跳ねの音が混ざってくるのがわかる。水温は開始時から2度下がり、12度となっているが魚の活性は良い。
投入からまた2時間が経過しようという頃、3つ目のポイントに打った1番竿のアラームが叫びはじめた。青色のスインガーがアラームの青色のLEDの光を纏いながら落ち、ラインにつけた白い目印もクリック音と共に黒い水中へ引き込まれてゆく。大きな針を使っているため、重いオモリを使うと同時にリールのドラグテンションもいつもよりかなりきつめているのだが、それでもこのファーストランではなかなかの勢いでラインが放出されていた。立てた竿の感触もこれまでより少し重く感じる。サイズアップなるか。
手前の藻場を突っ切り、ライトの先に姿を現したのは80センチクラスであると見える鯉だ。ロッドポッドの足元に広げていたアンフッキングマットを蹴り上げ、少し岸から離したところにやり、そこにタモに入った鯉を下ろした。マットの上で暴れ、川に落ちてくれては困るサイズだ。しかし意外にもこの鯉はランディングされた後は大人しく、暴れることはせずに横たわった。サイズは86・・・いや85としておこう。今シーズン初めての80センチクラスとなる。
85センチほど 今年初の80センチ台
負けを認め悟ったかのように大人しくしていた鯉を水に返すと、ゆるりと尾を振って暗い水の中へ帰っていった。
やはり大型はベストポイントを少し外したところで食うのか、只のたまたまなのか。まだこれ一匹しかヒットしていないのだがら、後者の可能性が大きいと見ておこう。しかしいずれにしても1番竿を3つ目のポイントに打ち込んだのは正解だった。
もう夜明けが近い。終了時間も夜明けと決めているので、今回の釣りはあと2時間ほどで切り上げるとしよう。次の投入も1番竿、2番竿共にさっきと同じように打ち込み、空に色が付くのを眺めることにした。
今回は最初の2匹以外、約2時間に一度のペースと心地の良い進度で展開している。そして最後のアタリ。これもまた投入から2時間後のヒットだった。
薄青く色を濁した空の下、2番竿にヒットし、上がったのは1、2匹目と同じようなレギュラーサイズ。2番竿を打っているのはこのサイズの通り道なのだろうか。
今回最後のヒットは60程の鯉
鯉をリリースしたマットに新しい水を流し、タモ網も水中で濯いで洗う。その2つを欄干にかけて軽く乾かしながら、撤収作業へと入った。空はすっかりと明け、夜を終わらせた。
色の濃い夜だった。私がやりたかった理想の夜釣りといえよう。しかしもう一夜だけここで同じようにやってみたい。いつも帰りの車の中で考える次回へのプラン立ては、今回は必要ないかもしれない。