鯉釣り日記2014 初夏第一幕
 釣行日 5月31日17時〜
6月1日19時
 場 所  雁里沼
 時 間


 深い霧夜が明けた先には、新緑の季節にはそぐわない程の熱い日照りが待ち受けていた。プランターに飾られた草花も、羽化したばかりであろう蝶たちも、皆水を求めている。まさかこんなにも暑くなるなんて…。これで各水域の水温は一気に上昇するはずだ。早くも低水温ではなく、高水温時に合わせた釣りを考える必要が出てきそうだ。

 釣行前日、北海道の一部では33℃を記録する真夏日となった。ここ札幌でも30℃まで上がり、濃霧がかかった夜が明けたこの日も、あっという間に30℃を超えてしまった。つい先日までファーのついたコート来ていたというのに。この急激な気温上昇はこの後も続き、北部では37℃を記録する事となる。

 当日正午過ぎ、今回の釣行に使う自作ボイリーを袋に詰めた。昨年作ったオリジナルの「ポイズンベリー」と「ナッティ」。これらはこの冬の間ずっと冷凍庫で保存していた為、味や匂いが抜けつつあった。それを復活させるべく、2日前から乾燥させ、リキッドに付け、また乾燥させる作業を繰り返していた。いよいよ出発となり、ベランダに吊るしたネットから最後の乾燥を終えたボイリーを出し、袋に詰める。

北海道で急激な気温上昇 自作ボイリースタンバイ

 前日夜に出発された高橋さんからのメールで、今回の釣行も雁里で行うことが決まった。前回の雁里釣行ではまだ水温が低く、場所によっての水温差も激しかったが、この天気でかなり状況に違いが出てきているだろう。ホームグラウンド創成川近くの茨戸耕北川ではヘラブナの産卵が最盛期に入っていた。雁里でもそろそろハタキが始まっているはずだ。それを考慮しての釣りとなるか…。

 出発して道中、菜の花畑で車を止めた。いつ見てもこの黄色い絨毯には心を奪われてしまう。前回来た時にはまだ花も小さかったが、今では正に満開である。この光景を見られるようになると、いよいよサマーステージ突入だ。私が最も好きな季節、6月の第一戦。どんな釣りになるのだろう か。


 14時半、釣り場に到着。フィールドに入ってすぐ、つるたろうさんが前回高橋さんが入っていた場所で竿を出しているのが見えた。それを通り過ぎ、前回とは真逆のドンヅキの角までいくとジュンちゃんの車と高橋さんのテントが立っている。浅場である前回の釣り場は産卵に入る食い気のない魚が集まるとみて、水深のある逆側の角を選んだようだ。私もその近くに車を止め、辺りを見回した。一番角に高橋さんが入り、その隣十数メートル横にジュンちゃんのロッドポッドが置いてある。
 
 ここまでの状況を聞くと、大きな動きはまだないという。しかし夕まづめに向けて活性は上がりそうである。まずはポイント探しをして、竿を出す位置を決めよう。今回も参加するニャーゴロくんは17時頃に岩見沢駅に到着するので、そこまで私が迎えに行き、釣り場に連れてくることになっている。場所探し、作戦立て、フィーディングなどと作業をすることを考えれば、ゆっくり竿を出す余裕はない。ここは釣り場の様子見と作戦立てに時間を使い、ニャーゴロくんを連れてきたら一緒に竿を出すことにしよう。

 まず底探り用の竿を出し、オモリを引いてみる。前回の場所と変わらず、スルスルと軽くオモリを引けてしまう底質だ。ここはジュンちゃんが入っている場所あたりから高橋さんが入っている角まで徐々に深くなっており、5〜6メートルの水深になるらしい。しかし私が入れそうな場所では底質も水深も前回とあまり変わらない、掴みどころのない場所だ。今回のように複数人で行う釣行の場合、ベースキャプの位置からあまり離れた場所に竿を出すのは好ましくない。それで竿を出せる位置は大方決まってしまうので、その小さい範囲内で如何に効率の良い釣りを出来るかを考えねばならない。それゆえ底探りも慎重になり、釣りのイメージ作りにも時間がかかる。

 対岸の木を目印に同じ位置から方向を変えてのキャスティングを繰りかえし、オモリをジグザグに引いて底を探る。対岸近くまで投げると、若干底の感触が変わるポイントがあったが、ねっとりとしたゴミがあるのだろう。手前は前回と同様に足元のゴロ石が水中まで続いているが、この前の場所よりも広く水底まで続いているようだ。足元狙いの近投には注意が必要だ。それ以外はほとんど変化を見つけられず、フロートを浮かせてみても手前から奥まで3メートル弱の水深で変わりがない。仕方あるまい、結局フィーディングに頼り、あとは勘で対処する釣りになりそうだ。

まずは底探り用の竿を出して マーカーフロート。水深はどこも3m弱だった

 ニャーゴロくんから17時丁度に岩見沢に到着するとメールが入った。駅に行く道中に買出しも済ませておきたいので、16時過ぎに高橋さんと一緒に僕の車で出発することにした。それまでの少しの時間でフィーディングを済ませておく。

 最終的に1番竿のポイントを岸から25メートル、2番竿はゴロ石があるギリギリの10メートルにすることにした。それぞれのポイントと、少し距離を置いて、鯉が入ってくる方向であろう右側に寄せエサを投げ入れる。今回はラージスポンブを使ってのフィーディングをする。中にたっぷりとエサを詰め、蓋を閉めてキャスティングすると、着水の衝撃で蓋が開放され、寄せエサがバラ撒かれるというものだ。大きな図体の割には扱いやすい設計になっており、遠投もしやすい。普通のベイトロケットの倍のエサを入れることができ、キャスティングでエサが零れ落ちる心配もないという優れものだ。使ってみてすぐに気に入ってしまった。

今回のフィーディングはラージスポンブで寄せエサ撒き メニューはペレット、カーネルコーン、鳩の餌、自作ボイリー

 16時過ぎ。高橋さんと共に宴会の食材を買い、そのまま岩見沢駅でニャーゴロくんを車に乗せて釣り場に戻る。フィールドに入ってすぐ、つるたろうさんの釣り場に来客があるのが見えた。2年前に千歳川でお世話になったよしかわさんだ。私達の釣り場までまだ遠いが、車を降りてよしかわさんと久方振りの握手を交わす。残念ながら今回は一緒に竿を並べることはできないようだが、久しぶりにお会いできたのが嬉しかった。

 立ち話をしているうちに、いつの間にかニャーゴロくんが消えていた。早く釣りを開始したくて仕方がないのだろう。ベースキャンプ付近をうろうろしている。道具は私の車の中なのだが…。そういえば私もまだ竿を出していないのだった。だが方針は決まっている。竿を出し、フィーディングしたポイントに仕掛けを送り込むだけだ。セットにはそう時間はかからないはずだ。

 準備を始めようとしていた頃、高橋さんから記念に集合写真を撮影しようと持ちかけられた。そう、高橋さんは次にいつ北海道に来られるかわからないし、これだけのメンバーが集まれる機会なんてそうそうない。思い出の集合写真を残しておこう。早速三脚を出し、カメラを取り付ける。高橋さん、ジュンちゃん、ニャーゴロくん、つるたろうさん、よしかわさん。全員をフレームに収め、セルフタイマーをスイッチを押した。


 よしかわさんが帰路につくのを見送って、いよいよ竿を出す。今回も足場がゴロ石であり、背後に柳の木があるためロッドポッドと12fのカープロッドの組み合わせでいく。仕掛けは前回と少しバランスを変えたものを使い、ハリスの長さを20センチから30センチへと長くした。絡み止めとして、ハリス上部にステン線を沿わせ、それをシュリンクチューブで締め付ける形で固定しておいた。針も一回り大きなものを使う。去年秋に一度針のサイズを落としたのだが、今回でまた去年夏まで使っていたサイズに戻すことにする。ボイリーを使う釣りでは、針の吸い込みやすさが重要となる。大きなボイリーと組み合わせる場合、針を小さくした方が吸い込みがよく、バランス良くフッキングさせやすいのではあるが、同時に吐き出されやすくなる心配がある。強度の面も考えなくてはならないので、ある程度の大きさの針を使いたいのではあるが、浅掛りしやすくなり、その場合ヘアリグに使うようなサイズの針では何れもファイト中に歪みが生じ、最悪曲げられてしまうことが考えられる。バランスの良い針を探す為、更に研究を続けなくてはならないだろう。


オモリ部:(セイフティーボルトシステム)
ユニット:
シンキングリグチューブ50センチ(KORDA)、
カープセイフティーレッドクリップブラウン(FOX)
オモリ:六角25号(カモフラージュブラウン)

仕掛け(ヘアリグ)
ハリス:
鯉ハリス6号(30センチ)
針:伊勢尼13号

ボイリー:
1番竿:ポイズンベリー(自作)、2番竿:ナッティキャラメル(自作)何れも16mm

 19時、全てのセットが完了した。偵察に出ていたつるたろうさんが戻り、私の左隣に入ったニャーゴロくんも準備を完了させたようだ。私がセットを完了させる前のことだが、ジュンちゃんの釣り場で動きがあった。2本の竿のラインに異変があり、いつの間にかヒットがあった痕跡だけが残されていたという。どちらの竿でも鯉をゲットすることは適わず、その原因はセンサーの不調であった。なんとも悔しい事件だが、食い気のある魚がいるということもわかった。次のチャンスをモノにしたい。

セット完了 ニャーゴロくんも私の隣に

 やはり昼夜の気温差は大きく、パーカーを羽織っても空気が肌寒く感じられるようになってきた。だが風は弱く、湿気が少ないのでかなり過ごしやすい夜だ。周囲の田園の多くは田植えを終えており、排水の水も落ち着きつつある。そんな田んぼからは、前回は聞けなかったカエルの合唱が聞こえてきた。周囲に家は少なく、大きな道路からも離れている。人工物の音が聞こえてこないこの環境は、札幌から近い釣り場では珍しい。本当に素敵な場所だ。

 頭上は満天の星空。明日もこの天気が持続する予報だ。日中はまた暑くなるのだろうが、ここは札幌よりも感じる空気が心地よい。初夏らしく爽やかなイメージの釣りができそうだ。

  今回はテントでなく、星空の下で食事を  

 食事の後、つるたろうさんが納竿され、その機に私も席を立ち、一度仕掛けを回収してみた。ボイリーには小魚がつついた痕が残されていたが、問題視する程の事はなく、このまま一晩持たせられそうだ。ボイリーを3粒入れた細めのPVAメッシュを針に引っ掛け、再投入する。魚の活性は良いようだが、誰にもアタリがないのが寂しいところだ。前回のように明るくなってからが本番となるだろうか。

 夜が更け、いつも早寝のニャーゴロくんが日向の猫のように頷き始めた。少しお酒の入った私も車に入り、身体に眠気を促そう。ニャーゴロくんがテントに入ったあと、私もつられるように席を空けた。

 時刻は午前1時。寝袋に入ってまどろみ始めたところをアラームに起こされた。この鳴り方はウグイではない。ヘッドライトの装着に手こずり、もたもたしている間に魚は軽やかにスプールを回してゆく。騒ぎに気づいてくれた高橋さんとジュンちゃんに見守られながらファイトを開始。ヒットは25メートルラインに投げたポイズンベリーの1番竿だ。

 やはりここの魚はこちらに向かってくる動きを見せる。背を反り気味にしてリールを高速で巻き、弛もうとするラインのテンションを保つ。このようなやり取りをすると魚の感触を捕らえられずサイズの予想をし難いものがあるが、ライトの中に浮かんだ魚は残念ながら大きくない。高橋さんにタモ入れしてもらい、マットの上に置かれた魚を見ると、目測65センチといったところだ。元気の良い魚で、針を外し、カメラを準備しているところで自らマットから飛び出して水面へと消えていった。

  唯一撮れた写真がこれ(笑)  

 幾度か目を覚ましながらも、寝袋に潜り続けていたら思ったよりも時間が経ってしまっていた。あれ以来アタリは続かず、夜明け頃に竿をチェックしてみたが異常はなかった。そろそろ起きて、釣る為の行動を起こさなければならない。

 かなり寝坊してしまったようで、外の眩しさに目を細める。皆とっくの前に起床しており、更に見覚えのある自転車が止まっていた。去年の秋に一緒に釣りをした「篠津湖少年」が来て、初対面であるはずの全員とすっかり打ち解けている様子だ。昨夜彼にメールを送ったところ、釣りはしないけど顔を出すかもと返信が来ていたのだが、全員の起床前には既に来ていたらしい。

 ここまでの状況としては、私の起床前に高橋さんとニャーゴロくんにアタリがあったものの、どちらも石に巻かれるなどで釣果には至らなかったという。だが、今日も晴天で気温が高く、水温が丁度よく上げられている。それでいて本格的なハタキに入る前であるようで、最も期待のできるタイミングと言えるだろう。まだまだ釣れるはずだと期待する。

篠津湖少年が加わって釣り談義 かろちゃんは日陰でのんびり

 爽やかな初夏の空気を楽しむ前にエサ換えを行おう。ここで目先を変えるため、ボイリーをスイート系から動物系に変更することにした。1番竿のヘアからポイズンベリーを外し、ガルプのハリバット&クラブに交換。2番竿ではツナ&スパイスを試してみる。仕掛けを投入する前にフィーディングも追加し、開始時よりも狭い範囲に少量ずつスポンブを打ち込んだ。
 
ボイリーを動物系に変更 よく晴れてくれて気持ち良い

 変わりゆく日差しの向きに合わせながらイスを動かし、日陰に入りながら釣り談義に花を咲かせる。しかし一向に変わろうとしない釣りの状況に、段々と焦れを感じ始めた。私のアラームが一度だけ鳴るようなことはあるものの、誰のどの竿にも釣果に結びつきそうな変化がない。夜中に1匹釣れたことで追加のフィーディングもしてしまったし、これ以上は何もできない。時間がかかってでも思い描いたイメージどおりに事が運んでくれることを祈る。

高橋さんの釣り場にて ベースキャンプにキツツキが訪れた

 変化が起こったのは16時になろうとする頃だった。私のアラームが単発的に鳴り出し、ウグイが掛かった事を疑いながら自分の釣り場へ向かっていると、アラームの鳴りが持続するようになった。魚が走っている。ツナ&スパイスに変えた2番竿にヒット。

 やはりこの魚も自分からこちらへ向かって来る走りをし、姿を見せてからが本当のファイトとなった。残している力を使って潜る動作を繰り返し、頑なに頭を上げようとしない。やっと魚が空気を吸ったところを見計らって、高橋さんがタモ入れしてくれた。

 サイズは5月18日に釣ったものと同じくらいか、それより少し小さいか…。そろそろ今年初の80台を見たいと願っているところだが、これまでのここでのアベレージを考えると、この魚で満足していなくもない。今度はしっかりと写真を撮ってもらい、これから幾度となく思い出すであろう初夏の1コマを記録した。

2匹目70台 前回のより少し小さいか。綺麗な尾鰭の鯉 ニャーゴロくん、篠津湖少年と一緒に

 鯉を抱いた写真を数枚撮ってもらい、リリースに入ろうとしたその時、鈴の音が私達の動きをぴたりと止めた。高橋さんの竿だ。駆け出そうとするニャーゴロくんにカメラを手渡し、写真を任せる。私も焦りつつ鯉をリリースし、仕掛けをブザーバーに引っ掛けてから高橋さんの釣り場へ向かう。

 私が作業している間に既に魚を上げているものかと思ったのだが、私が到着した時に丁度ファイトを開始された高橋さんが見えた。この魚は掛かった直後に派手に動かなかったらしく、どの竿に掛かったのかが分からなかったようだ。篠津湖少年が高橋さんより先に斜面を下り、タモを構える。

 足元の深みへ逃げ込もうとする鯉を高橋さんが制する。これまで何の反応もなかった中で、ここに来て突然ヒットが連続したのは時合いのためか。15時50分、中潮の満潮前…。

2匹目リリース中、高橋さんにもヒット ファイト開始!
 制す  5分差でヒットした高橋さんの鯉。時合いか

 数十分前と比べて魚の気配を濃く感じるようになったのは、釣った後になってから出てきた錯覚か。次の鯉を出せるなら、この後の夜ではなく今だと感じる。日暮れに撤収すると考えると、残すはあと2時間程。釣り場に戻った私は次のヒットに向けて2番竿の打ち返しをし、ファイト中にラインが触れてしまった1番竿も、同時に元の位置へと投げ直す。まだ釣りたい。貪欲にいかせてもらう。

ジュンちゃんも夕まづめのエサ換え 相変わらず私にビビるかろちゃん

 終日の日差しが土手の頂上と重なる頃、期待していた夕方二度目のアタリが訪れた。アラームのトーンでまた同じ二番竿のヒットだとわかる。今回の魚は沖へ向かう抵抗をしばらく見せていたが、水面に突き刺さるラインの動きがゆっくり止まったかと思えばまたこちらへと走って来た。魚は手前にいるが、これは私が寄せたのではなく、寄ってきたのだ。眉間に皺が寄るのが自分でわかってしまった。魚が動かない。

 掛かりに入られてしまった。ラインの角度から、魚がいるのはゴロ石が途切れ、柔らかい底質に変わるところだとわかるが、ここに大きな掛かりなどあっただろうか。ゴロ石の斜面を降り切ったところにゴミが溜まっているのは知っているが、魚がいる場所はそこからもう少し離れている。倒木か、それとも部分的にゴロ石があるのか。・・・甘かったか。

  魚が自らこちらに向かってきた。そして動かなくなる  

 ある地点から全くラインを回収できなくなる。緩め、張り、角度を変えて。色々と試してみるが、見事にガッツリと嵌まり込んでしまっているようだ。こちらの力を落とすと魚が暴れ、スプールがワンノッチずつカチカチと回りだす。魚はまだ付いており、針が障害物に掛かっているわけではないことがわかる。だが魚が動いてもラインが何かにスレてゆく感覚もない。これだけ魚が引っ張っているのにセイフティーボルトシステムも機能していないみたいだ・・・。

 ヒットから10分。皆、私の格闘を見守ることに飽きてしまったみたいだ。ある人は横でご飯を食べ始め、ある人は電話を始めた。そして誰もいなくなった。

格闘する私、ご飯を食べる2人、誰かと電話する少年 そして誰もいなくなった

 一人取り残されながらも奮闘を続けたが、魚が出てくることはなかった。竿と、切れたラインの先を持ちながら車へ戻る。残り時間はあと僅か。この2番竿は片付けてしまおう…。そう思い、ラインをリールに納めたが、冷めぬ気持ちがその手を止めた。もう一度投げよう。新しい仕掛けをラインに結び、2番竿を復活させる。また同じポイントに打ち込んだ。

 今回の釣行の閉幕が迫り、ベースキャンプの足元も少しずつ片付き始めた。時刻は18時を過ぎ、サイレン灯から「夕焼け小焼け」のメロディーが鳴り響く。そんな時、復活させたばかりの2番竿からラインが引き出された。

 2番竿のポイント、エサがベストマッチしているのだろうか。ボイリーを動物性に変えた直後から連続しているアタリ。エサのローテーションについて、今のところ私はあまり気にしていないのだが、このヒットはボイリーの変更による結果なのだろうか。それとも、フルーツ系を使い続けていても、時が来れば同じことが起こったのだろうか。

 この魚はどんなサイズだろうか、重みで夜中の一匹目より大きいのがわかるが、あまり強く抵抗することはなかった。なんだ、あまりガッツがないな・・・。そんな事を頭に浮かべていた時、最悪の事態が巻き起こってしまった。

 ジュンちゃん:「あれ、またさっきと同じところに魚が来てるんじゃない?」

 :「はい、もう遅いです」

 なんという失態か…。またしても同じ、硬いだけの感触が竿から伝わってくる。まさか同じことを2度もやるなんて、そんな事はないだろうという油断と慢心が原因だ。魚がまだ沖にいる段階から、もっと強めのやりとりをするべきだった。

 起こっていることはさっきと全く同じようだ。魚が動き、カチカチとローテンポでラインが出て行く。だが、こちらから引くことは許されない。数年前に経験した、斜面の底にへばり付いて動かないというファイトスタイルをする魚を思い出したが、そういうものではない。ひとまず竿をロッドポッドに戻し、魚の好きにさせてやることにした。

  大失態。二度も続けて同じ事をやってしまった  

 多分レッドクリップだ…。クリップ自体が何かに捕まって機能せず、魚によってスイベルから外されてしまっている。ラインが直接通っているクリップがスイベルから外れれば、魚は動くことができる。だが、こちらから引っ張って魚をクリップのところまで戻してしまうともう動かない。ここでもう一つの失態に気づく。今回使っているのは、Tバーでスイベルに固定することができる「FOXカープセイフティーレッドクリップ」だ。にもかかわらず、いつものクセでバーをクリップに付け忘れてそのまま使ってしまっていた。なんのための仕掛け選択だ。スイベルにしっかりとクリップを固定できていれば、、何かが違っていたかもしれないのに・・・。

 埒が明かない。竿を持ってこちらから足掻いてみるしかないか・・・。とはいえ、もうほとんど諦めている。
 竿を手にしてドラグを締めていると、隣の一番竿のアラームが鳴り出した。二番竿に触ったことによるロッドポッドの揺れが原因かと思ったが、どうやらヒットしているようだ。二番竿を置き、一番竿を手に取る。

 早めに魚を浮かせ、これまでと違う位置から寄せに入る。これを逃してしまったらもう立ち直れないだろう。二番竿の奮闘中に横に居てくれた少年にタモを任せ、3匹目の鯉を抱くことが出来た。慰めの一尾といったところか。

慰めの一尾 70数センチ 今度はジュンちゃんと一緒に

 結局、二番竿の回収は成らなかった。切ったラインをリールに巻き、ラインクリップに止めた。そして一番竿と共に車へ運んでゆく。あの二匹をゲットできていればこれより更に大きな満足感を得られていただろう。そんなことを考えてしまうが、これまでほとんど釣ることができなかったこの沼の70台を2匹ゲットできたとあって、十分な釣果としよう。

 薄暗くなったフィールド。顔を出すだけと言って竿を持ってこなかった少年は、結局朝から終日までここに居てしまっていた。そんな彼が自転車に乗って帰ってゆき、私達の荷物も綺麗に車に収まった。後部座席にニャーゴロくんを乗せ、ジュンちゃんと高橋さんコンビよりもお先に車を出した。天気も良く、24時間通して気持ちよく過ごすことができた。そしてつるたろうさん、よしかわさんともお会いすることができ、本当に楽しかった。高橋さんは数日後に本州へ出てしまい、次にいつお会いできるか分からない。またこのメンバーで集まって竿を出せる日が、少しでも早く訪れることを願う。二度も同じミスをして魚をバラしてしまった悔しさに苛まれていたが、いつのまにかその感情はは薄れ、帰路の心と身体は軽かった。