釣り日記2013 茨戸園

釣行日時 9月8日14時~19時 釣行場所・ポイント名 茨戸川

 この8月を苛んだ不安定な気象が、夏を呑み込んで連れ去った。景色は変わらず木々は緑に茂ったままでも、そこへ蟋蟀の鳴声が転がるだけで、もう全てが秋の情景にしか見えなくなる。これからあっという間に紅葉が進み、寒くなってしまう。その前に、まだ夏の名残のある今のうちに、やっておきたい釣りがある。夏の思い出が色濃く残るあの場所へ訪れた。

 この場所で釣りをするのは何年振りになるだろうか。高校生の頃、初めて泊まり込みの釣りをしたのがこの場所だ。テントを立て、初めて迎える釣り場の夜にワクワクしたあの時の気持ちが甦ってくる。数えてみると、それがもう9年も前の事になるのに驚いた。高校生の頃は頻繁にここへ釣行し、悔しい想いもしたし、不思議な体験もした。新しいエサのテストも行ったりして、此処は自分にとってとても重要な場所の一つとなっている。

 高校を卒業して免許を取り、自分の運転で釣りに来られるようになった頃、この釣り場の周囲が全面駐停車禁止になった。それ以来、アクセスが不便になったことで疎遠になり、また他の場所に浮気するようにもなって、すっかりここへ来ることがなくなってしまっていた。石狩川などの大場所の開拓に熱を入れるこの頃であるが、降り続ける雨に川を荒らされている今、ふとこの場所の景色が頭を過った。新しい場所で、右も左もわからない、釣れない理由すらわからない、そんな釣りばかりであるここ1年だ。腕もないくせして、新しい場所の魚やら、大型ゲットやらという欲を持ち過ぎているかもしれない。少し落ち着いた釣りをしよう。どうせ石狩川は大荒れしているのだろう 。まだ寒くないうちに、知っている場所での担ぎ込みのワンデーフィッシング。すぐ近くにありながらも懐かしい、そんな場所でこれを実行しよう。


 9月8日 14時。茨戸公園は今日もパークゴルフ客で賑わいを見せている。コースのある中洲へ向かうグループが、楽しそうに会話を弾ませながら観音橋を渡っていった。その橋の下で、水は複雑にぶつかり合いながら私と進行方向を共にする。今日の水は右に流れている。流速は少し早めのようだ。

 5日前の9月3日にもここを訪れた。火曜日という平日でありながら休暇を取ることができたその日は、雨の降りしきる中で6年振りにこのエリアをサーチした。岸際の木の大きさや位置が若干変わっていたものの、これといった変化はない。いつも釣りをしていたポイントも、水深、地形、地質、どれも昔のままだった。ただ、少し下流で河川維持の工事をしており、水際で大きな木を分解したりと何やら忙しく作業が行われていた。悪天候で古い木が倒れ、その除去作業でもしているのだろうか。釣りへの影響に懸念を抱かざるをえない。
 荷物を持たず、まずは川を様子見。不安材料の工事現場を先に見に行くが、作業はしておらず、トラックや機材、フェンスの類は全て片付けられていた。川に被さるような形で倒れていた大きな木も撤去されている。水辺でチェンソーを使われるようなことはもう無さそうだ。他に釣り人もおらず、特に問題なし。さっそく荷物を担ぎ込もう。

 元々狭かった釣り場だが、この年月で木々が成長したことで、もはや大鯉専科などの長竿を振ることができなくなっていた。今回は12Fのカープロッド、トラベラーを持ち込むことにする。カープロッドにバンクスティック、アラーム…。一度空にしたボックスに必要なだけの荷物を詰め込み、それらを無理な姿勢になりながらも肩や背中に担ぎ、速足で釣り場へ向かう。

 時刻は14時過ぎ。これから18時の満潮へ向かってゆく。ここは3つの河跡湖に分けられる茨戸川の「中部湖盆」の下流先端に当たる。この数十メートル下で河跡が直線的に切断されているが、観音橋が架かる小さな水路が開けられ、そこから石狩川へ注ぐ「下部湖盆」へ繋がっている。水路の細さと、パークゴルフ場のある中洲により川幅が急に狭まっているため、創成川など3つの川が流れ込み、下流で石狩川へ注ぐ下部湖盆の水の動きに大きく影響される。右に流れていると思えば左に流れだし、その強弱も大きく、とにかく水の動きに落ち着きがない。それゆえ水面には絶え間なく魚の波紋が広がり、真夏場でも良い釣りが望める場所になるの。今日の水は強く右、上流側へ流れている。

   6年振りの茨戸公園  

 昔と同じスペースにタックルをセットした。ここは手前も奥も浅く、硬めの底がフラットに続く。一部掛りがあるが、特にそこがポイントになるというわけでもないらしく、これまでどこに投げてもアタリを取っている。今回は1番竿を川の中心、2番竿をその少し奥に入れてみることにした。魚は確実に通るし、こんな場所だからウグイやフナの数が多い。余計なフィーディングはしないほうが良さそうだ。

 いつもここでの釣りに使っていたエサは、専ら麦茶の香りを効かせた植物性のダンゴエサで、それがそのまま「夏の定番」「夏の風物詩」となり、他の釣り場でも流用している。だが、今回持ち込んだのはダンゴではなく、ボイリーやペレットの類。ふざけ半分ではあるものの、この春からボイリーの自作に挑戦しており、今回はその試作品のテストを兼ねた釣りをすることにしている。

 前作、フルーツをベースにした「ポイズンベリー」に次いで、今回はアーモンドパウダーやピーナッツクリームなどを使った甘い植物系。内容物には細かく砕いたバードフードを配合し、香りはバニラにほんのりとバナナの匂いを入れてある。まだ試作段階のものであるため特に呼称はないが、ここでは仮に「小ばえホイホイ」もとい・・・、うん、単に「試作品」と記そう。

自作ボイリーの試作品 植物性スイートタイプ 味はナッツ 香りはバニラ+バナナ

 もう一つ、ボックスに追加しておきながら使っていないボイリーがある。ガルプカープのジャパンスペシャルフレーバーのタニシだ。基本的なボイリーローテーションでは、時期的に動物系が有効とされている。それに倣い、片方の竿でこのガルプカープタニシをフックベイトに試してみることにする。

 ガルプカープタニシを装着したヘアリグに、ペレットを入れたPVAバッグを引っかけて投入。これを右側2番竿とする。左側1番竿に試作品を使い、こちらはPVAに少量のペレットとレーズン、前作「ポイズンベリー」を入れたものを併せて投入した。

同時にガルプカープのタニシを試してみる 試作品のPVAにはポイズンベリーとレーズンを
 

 夏よりも高く感じる青い空が、秋の午後の落ち着いた釣り場の雰囲気を作り出している。この場所が落ち着くのは大きな木が数多く立ち並んでいるからだろう。すぐ目の前の中洲にも、観音橋の河跡の切断ラインにも古そうな木が生えていて、森の湖畔で釣りをしているかのようだ。パークゴルフのボールを打つ音が、そんな狭い空間に木霊する。

 

 一投目から1時間が経過。チェックのため仕掛けを回収する。この一時間で試作品を使っている1番竿のアラームが何度か鳴らされていた。ここはウグイもいれば、エビや小魚も多く生息しているため、それらからの攻撃にはある程度耐性のあるエサを使う必要がある。ガルプの方はともかく、試作品の方は十分な乾燥をさせることができずにここに持ってきているため、突かれてボコボコにされてはいないかと心配だった。

 回収した1番竿の仕掛けには無事試作品が付いていた。だがやはり乾燥が足りないようで、触った感触が既に柔らかい。今回の釣りで使用する分には問題ないであろうが、更に長時間のスパンで行う釣りや、大きなウグイがしつこいような場面で使用することを考えれば、天日での乾燥を十分に行うべきだろう。念の為ボイリーを新しいものに交換し、同じ内容のPVAと共に投げ込んだ。

 そんなところに、川の下流側から大きな複数の影が現れた。それは3人組のカヤックで私の存在を知ってか知らずか、ポイントへと進入しようとしている。普段多くのカヤックはこの中州の向こう側の広いオープンで活動しているが、こんなところに入って来たのは個別練習の為だろうか。初心者の指導のためか、グループの先頭がしきりに後ろを気にしながらこちらへやってくる。狭く、浅いこんな場所であるためカヤックとラインの衝突は避けられない。後ろを指導しているらしき先頭の人にラインの存在を注意しつつ、竿を2本とも回収する。その後すぐに2艘が姿を消すが、残る一艘がこの付近に残り練習を続けていた。このエリアが練習に都合が良いのだろうか。川で遊びたいのは釣り人だけでない。しばらく仕掛けを入れず、その場を譲ることにした。

 カヤックが姿を消してからしばし。再投入した1番竿のアラームが軽く鳴いた。そのか細さからウグイを疑ったが、正体はまぎれもなく鯉だった。タモを使うか迷ってしまうような子鯉であるが、試作品の第一号であるため邪険にはしない。とりあえず食べてくれる魚はいるということだ。ポイズンベリーもそうであったが、市販品よりも柔らかいためかファイト中に割れて仕掛けから外れてしまった。釣った鯉の口元に自作エサが残らないのが残念だ。

試作品の1番竿にヒット 子鯉だが、自作エサを食べてくれたことに感謝

 時刻は17時になる。中潮の満潮まであと約1時間。いつもならコロコロと流れの向きが変わるこの場所だが、今日はひたすら強く右に流れ続けている。アラームこそ頻繁にならないものの、回収するたびにラインに金魚藻が引っかかって上がってくる。時折大きな草の塊がラインを襲おうとすることもある。手前、真ん中、奥、どのラインでも水の流れ方は変わらず、落としオモリを入れて対処できるものではない。ラインを沈めれば沈めた分だけゴミが引っかかってくるパターンだ。

 あっという間に暮れてゆく空。中州のパークゴルフ場に人の姿は消え、芝に水を与えるスプリンクラーが初秋の終日を煌かせていた。人工物と自然物がうまく同居した、とても過ごしやすい長閑な場所だと感じる。

 満潮の時刻を過ぎても流れは変わらない。2番竿のラインに草の塊が引っかかったのを回収していると、1番竿のアラームも同じように鳴り出した。こっちもか?だが草特有の重さは感じない。それもそのはず。仕掛けの先に付いていたのは小さなウグイだった。私の手作りエサはどうもウグイや小さな魚に好まれてしまう。匂いも味付けも、市販品に比べればまだまだ控え目な程度だと思うのだが・・・。

 流れの中にゴミが目立つようになってきた。流れ自体も少し強みを増したのではないだろうか。暗くなりつつある中、再投入したラインの行方を目でなぞると、ゴミにまとわりつかれ、少しずつ流されているのがわかる。これはまずい。チビ鯉一匹という釣果が腑に落ちず、あと1時間程粘ってみようと思っていたところだが、このままのやり方で続けるのは厳しそうだ。オモリのケースから六角30号を取り出し、これまで使っていた20号と交換する。投入点もこれまで通りだと流れに苛まれるだけだ。極力ラインを水中に入れぬよう、両方ともちょい投げに変更。1番竿は足元から2メートル、2番竿は3メートル程のところに落とす。

どうしても釣れるこいつ  流れが強まりゴミに襲われる オモリと投入点を変更

 ガトーキングダムのオレンジ色の街灯が背後で連なる。前に釣りをした時、その時と比べてなんて日の短いことだろう。余韻を残すことなく一瞬にして夜のフィールドへ転じてしまった。暗くなると急に蚊が首元を刺しはじめ、それを追い払うべく蚊取り線香に火をやりながら最後のチャンスを待つ。

 終了10分前。仄青く竿を照らしたスインガーがラインから外された。これがあるから待てる。サイズ関係なく喜べる。ウグイでなければ・・・。最後の最後に私を高ぶらせてくれたのは60センチの鯉だった。ヒットはガルプカープの2番竿。小さい・・・が、最高のタイミングでアタッてくれたことに感謝する。

   嬉しいタイミングでのヒット  

 まともに釣行すらできなかったこの頃。私の釣りとしては短時間ではあるものの、時間いっぱいまで釣りを遂行できたこと、そしてヒットがあったこと自体に喜びを感じる。

 魚を外した仕掛けをそのままラインから切り離し、4本に折畳んだ竿を竿袋に包む。これといった活動をしないうちに夏が終わり、あとひと月を過ぎれば霜が降りる。今日でまたひとつ休日を消費した。恐ろしいほどに早い1年の経過の中で、あと少しでも釣りができますように。