鯉釣り日記2013 苦悩の夏1
 釣行日 7月13日14:00〜
7月14日:11:00
 場 所  石狩川
 時 間


 
 大きな期待と大きな不安が入り交じるフィールドを前にして、滲む玉汗など気にも留めず竿を伸ばす連休初日。2年前のあの釣りが奇跡であったかのように思えた昨年だが、奇跡などではなかった事を教えてくれる吉報が耳に入ったのは数日前。闘志を燃やしながら勇んでこの釣行に立つが、去年思い知らされた難しさに打ち勝たねば獲物を手にすることはできない。楽な釣りにはならないはずだ。
 夏の日差しを湛える石狩川のフィールドには既に佐々木さんとちばさんの姿があった。最近ここで好釣果を上げている佐々木さんであるが、この日はアタリを貰えず、私が到着した頃にはもう帰り支度を始めるところだった。私はその後に入らせて頂くことになり、ちばさんは川の上流側、私は下流側を攻める形で石狩川に挑む。


 このフィールドは一昨年より地形が大きく変わり、遠投した先でも水深が90〜1メートルという遠浅になってしまっている。春先に流れてきた多くの流木がこの辺りで足止めされているという障がい物の多さも然ることながら、ここでの釣りを難しくする一番の要素はカニの多さにある。地形の変化が影響してか、沸いて出てきたかのようにカニが蔓延り、投入した仕掛けを襲う。現にちばさんのバイトアラームはカニの攻撃に止めどなく鳴かされており、ボイリーにシュリンクチューブを被せれば…なんてレベルではない。美味しいボイリーを使ってしまえば、シュリンクごとむしり取られる事も多々あるのだ。

 だが、ここのカニに勝つことが出来れば、魅力的な本流育ちの鯉と出会うことができる。今日実践できる中で思いつくのは疑似餌の使用だ。最近ここで釣果を上げている佐々木さんも同じように発砲仕掛けで挑んでいる。シモリウキ、ビーズ、フロックボールなど鯉釣りに疑似餌が使われることは間々あるようだが、私自身はこのやり方で釣果を上げることができていないため、大きな不安がある。特にシモリウキやフロックボールは創成川でのテストで鯉に思い切り警戒され、小鯉のヒットすらないまま終わったという経験がある。

 首をかしげながら針に装着したのはマット材。ホームセンターで売られている、パズルのような形状をした床に敷くマットであり、これを角切りにして乾燥コーンと共に針に付けてみた。
 仕掛けは豪鯉吸い込み22号の袋仕掛けと管付固定式のオモリ25号の組み合わせで、これは去年の石狩川リサーチで使い続けたものと変わりはない。ハリスにはスプリットショットを打ち、マット材付の針の浮力を調整。マット材は発砲スチロールなどよりも浮力が強いため、大きな針でも簡単に浮かせてしまう。だが、変に浮かせてしまうと余計にカニにアピールしてしまうという事や、ウグイのスレ掛りが心配になるため、ほとんど針を浮かせないようにセットする。

   カニ対策として食わせにマット材を使用  

 ダンゴは植物性で大きな粒子を含ませたバラケやすいものを使う。ダンゴや寄せエサの類は控えたいのだが、この広いフィールドで擬似餌ひとつを投げ込んで食わせられる気がしない。アピール力の弱いダンゴを打ち、カニに全てやられる前に回収し、新しいエサを打つことを念頭に、いつもよりも多目に作り置きしておいた。

 風でラインが横を向く中、早速穂先が小突かれた。ウグイか、カニか・・・。去年は大きなウグイにも攻撃されたので、夕マヅメからの活性上昇が気がかりだ。これまで断続的に鳴っていたちばさんのアラームが止まらなくなり、本命かと駆け寄るも、その正体もウグイで、足元からペロンと現れたウグイに気が抜け、笑い声が漏れた。

  ウグイのヒットに苦笑   

 仕掛けを回収してみると、乾燥コーンが無くなっているものの、浮力材は少し傷がついているだけでしっかり針に残っていた。この感じなら2時間は持たせられるだろう。ここからの打ち返しのペースは2時間とする。

 ちばさんが撤収し、一人になった釣り場で夕マヅメの穏やかな一時を折りたたみ椅子の上で過ごす。心配していた大型のウグイの猛攻はなく、あとは予定通りに2時間の打ち返しでカニに対抗すれば良い。そう思ったのだが…。
 赤く西に落ちてゆく日の光を浴びながら回収した1番竿の仕掛けは、ものの見事に何もついていなかった。仕掛けはグチャグチャに絡み、普通の発泡材よりも固く丈夫なはずのマット材も完全に取られてしまっている。2番竿の仕掛けはわずかにマット材の切れ端が残っていたが、それは熱で溶かされたかのようにボロボロで、見るも無残な姿だった。夕マヅメを超えてから、エサが2時間持たなくなっていた。暗くなりつつある中、しゃがみこんで路頭に迷う。

   路頭に迷う夕マヅメ  

 どうすればカニをかわせるのか…。釣果を上げている佐々木さんと、やっている事はほとんど変わりないと思うのだが…。道具箱を漁り、使えそうな物はないかと色々引っ張りだしているところに、ナマズ釣りで使ったソフトルアーが出てきた。これでも使ってみるか…。また食われてしまうのがオチであろうが、これを大き目に切って、針いっぱいに付けて投入してみよう。折れそうな心を立て直し、ソフトルアーを針の大きさに合わせるべくハサミを取り出した。


   針にソフトルアーを追加してみる  

 自分のやり方を信じることができず、落ち着かない夜を過ごしてゆく。2時間後、恐る恐る1番竿の仕掛けを回収してみると、若干荒らされてはいるものの、ソフトルアーは針に残った状態で返ってきた。2番竿も齧られた痕が痛々しいが、針には残っている。発泡材よりも持ちが良いのか?意外だが、これを使い続けてみることにする。

 佐々木さん曰く、アタリは朝方に集中しているという。一昨年SASAYANとここに釣行した時も、私の1匹目は夜中であったが、それ以降の3匹は日が昇ってからだった。夜明けからの釣りに力を入れるべく、いつもよりも早い時間から車に入り、仮眠をとることにした。

 しばし目を瞑っていると、カッコウやウグイスの声がうるさい程に聞こえてきた。目を開けなくとも、空が明るくなっているのが分かる。そんな時、待望のセンサー音がスピーカーから奏でられた。ウグイか、カニか…なんて疑う間もなく、竿が横を向き、ラインが出ているのがわかる。しかし竿を持った感触は非常に軽い。一方的にリールを巻き上げ、姿を現したのは30センチ程のフナと見間違うような鯉だった。小さっ!と苦笑しながらもソフトルアーのエサ持ちの良さと、そこから引き出される可能性を確信できたことに安堵する。

  やっと釣れてくれたのがこの子鯉  
 
 更なるアタリを期待して木陰の椅子に座りながら竿を眺めるが、ただ待ちぼうけるだけの午前中となった。今日は日曜日。そして翌日は海の日で祝日だ。この三連休はフルに時間が取れるので、もちろん明日も釣りをする。このまま連泊する…というのも良いが、私の性分としては一度家に帰ってシャワーを浴び、少し休憩してから次の釣りに挑むというやり方が好きだ。その方が気合を入れ直し、新しい気持ちで後半戦を楽しめるからだ。

 手早く荷物を車に載せて帰路に就く。シャワーを浴び、扇風機の前でソーダでも飲みながら次の作戦を考えよう。ソフトルアーは3時間程置くと針にぐちゃぐちゃと残るくらいの持ち具合。もう少し固めのルアーならばまだ待つことができるだろう。他にも使えそうなものがないか模索して、後半戦も同じ釣り場で続行するか、それとも別の釣り場を試してみるか…。この陽が落ちる頃、私はまたこの川を前にしているだろう。