鯉釣り日記2013 毒苺
 釣行日 5月25日18時〜
5月26日14時
 場 所  雁里沼
 時 間


 「夕焼け小焼けで日が暮れて…」広々とした田園風景に鳴り渡る18時のサイレン。なんて長閑なことだろうか。人の居ない、車の音も聞こえない、曇りない空には大きな満月。ここは町から外れた平穏な田舎。私にとって、ここは明らかに非日常的世界だ。

 幾台かのサイレン塔が輪唱する中、車を降りて背を伸ばす。夕間暮れのフィールドに人の影はなく、時間であれ天気であれ、私を急かすものは何もない。落ちそうで落ちない太陽と、大きく水面に映る満月の間でガイドにラインを通してゆく。

 昨日までは細かい雨が降り、暗い空の下で咲く桜が弱々しく見えた。だが今日になって天気が持ち直し、今は晴天の無風と穏やかな天候になっている。 水温は上がったのか下がったのか、14℃を指しており、モツゴなどの小魚が活発に動き回っている様子だ。


 一年前に行ったここでの釣りとほぼ同じ位置にバンクスティックを起き、他も相違点を出すことなく釣りを遂行するつもりであるが、沼の状況は一年前とは少し違うようだ。この春の訪れが遅かった分、水温は低く、また田んぼからの排水で水が茶色く濁り、落ち着いていない。改めて軽くオモリを引っ張ってみたが、代わり映えなく只浅い水深と深いドロのフラットな底が続いている。こんなフィールドにあんなモンスターが潜んでいたなんて、未だにちょっと信じられない。どんなフィールドにも、明かされていない未知の可能性があるという事か。だが、今回は別にそんなものを期待して来たわけではない。それはそれ、これはこれだ。


 今回の釣りのテーマは自作したボイリーのテスト。それ故に、過去にボイリーで釣果を出しているこの場所を選択した。ほぼ一年前となるここでの釣行では、ガルプカープのフレッシュフルーツワンを中心に使い、小型ばかりではあるものの6匹の数釣りをすることができている。それと同じ釣りを自作のボイリーでやることで試作品のテストをしようという目論みだ。

 持ってきているのは試作品のうち唯一カタチになったフルーツタイプの一種。ジャムやリキュールをミックスした赤い玉には「ポイズン・ベリー)」と名付けてある。他に「ダーティーバナナ」や「クレイジーパパイア」があるのだが、何れもレシピの完成に至っていないため、今回は毒苺のみのテストとした。

自作ボイリーの「ポイズン・ベリー」 呼称「毒苺」 香りはストロベリー ベリー系ジャムやエッセンス配合

 二本使う竿の両方では使用せず、片方は一年前にアタリが多かったガルプカープの「フレッシュフルーツワン」を使用する。この両方にアタリがある、或いはあまり考えられないが自作品だけにアタリが出るようなら成功であり、ガルプにのみアタリが出ればレシピを考え直す必要がある。両方ともアタリがないのであれば、そもそも釣れるコンディションではないと判断する。


オモリ部分:(中通し固定)
サキ糸:便利糸12号
オモリ:お多福型18号(カモフラージュブラウン)

仕掛け:(ヘアリグ)
ハリス:巨鯉ハリス(プロブラック)5号
:チヌ8号
エサ
「ポイズンベリー」(自作ボイリー)
PVA
ペレット7p、ボイリー

 この場所は右手に流れ込みがあり、そこから田んぼの茶色い水が流れ込んできている。その水路に手を入れてみると水温は沼の水よりも冷たい。投入ポイントはその水を避けると共に、手前に広がるゴロ石にラインを引っかけないように遠投して、竿はあまり角度を付けずにバンクスティックに搭載した。食い上げアタリがあった場合には弛んだラインが足元のゴロ石に引っかかる恐れがあるため、いち早くそれを感知すべくバイトアラームにはスインガーをセットする。

 ハーフテントを立て、そこに折りたたみ椅子を広げた頃には辺りは暗くなっていた。とはいえこの時期は日が長く、午後8時を過ぎてもまだ西の地平線に明るさが残っている。これもまた町中で暮らす日常では見ることのできない光景だ。


 投入から2時間後に打ち返しを行い、ボイリーの状態を確認する。表面に少々のデコボコができているが、気にする程のものではない。この沼で非常に多いタモロコが小さい口で突いているのだろう。今日はやけにタモロコの活性が高く、雌は抱卵しているようだ。変に彼らを寄せてしまえば、鯉を寄せることへの弊害になりかねない。小さな魚であれ、真っ黒になるほど寄ってしまうと、大きな鯉でもそれを見て引いてしまうことがある。特に警戒心を持った鯉が恐る恐るエサに近づいた時、寄っていた小魚が鯉に驚いて散ってしまう。すると鯉はその小魚の急激な動きに驚き、更に強い警戒心を持って去ってしまうことがあるのを創成川での観察で何度も目にしている。打ち返しではPVAに入れるペレットの量を控え、ボイリーを多目に入れることにした。何せ自作品であるから、惜しみなくフィーディングに使えてしまうのだ。


 時折バイトアラームをピッと鳴らすような反応があるものの、ここまでアタリらしいアタリは出ていない。ここは夜間よりも昼間にアタリが多い傾向にあるので、今回も早朝からの明るい時間帯に期待すべきだろうか。

 名目上は自作ボイリーのテストであるが、一番の目的は「癒し」である。都会育ちの私だから、田舎という環境には大きな憧れがある。古ぼけた街灯に照らされる田んぼ脇の道、カエルの合唱、夜中になっても聞こえる小鳥のさえずり、オオジシギのディスプレイフライト。金麦を口にしながら、精神の全てをこの環境に捧げるような気持ちで楽しんだ。気が付けば鼻歌なんかを唄いながら田んぼ道を散歩してかなり遠くまで来てしまっていた。そうこうしているとサイレン塔から午後20時のメロディが流れ出す。釣り場の環境というものに夢中になり、つい竿を離れてしまうのは私の悪い癖だ。


 天気予報によれば、明日の午前中は雨が降るようだ。午前0時を過ぎた頃には満月を薄い雲が多い出し、更に霧も出て視界を霞めてゆく。荷物はハーフテントの奥に引っ込め、濡らしたくないものを予め避難させてから床に就くことにした。最後の打ち返しは大きなサイズのPVAを使い、これまでの倍の量のボイリーを詰め込んで投入しておく。これだけあれば寝坊してしまっても大丈夫だろう。
 早朝4時過ぎ、ピリピリっというアラームの反応に目を覚ますが、それ以降音は続かない。スインガーが落ちた音であることも考えられるために竿を見に行くが、どちらの竿も就寝前と変わらぬ形で佇んでいる。もうしばらくこのまま置いておこう。今のは寄ってきた鯉の空アタリである可能性がある。ならばまた近いうちにチャンスが訪れるかもしれない。

 車に戻り、好物のスアマを喉に詰まらせていると伊藤君から「起きてる?」という一言だけのメールが届いた。こちらから電話をかけてみると、前々から誘われていたボートフィッシングの釣行場所についての話で、その相談の結果、明日の早朝からオタモイの海岸からボートを出してロックフィッシュを釣るという予定で決まった。それならば今日は早い時間に帰って海釣りの準備をし、夜明け前の起床に合わせて早寝した方が良さそうだ。
 心配していた雨だが、珍しく予報が外れたようで車のウィンドウには一滴の雫も落ちていない。しかし天候に変化が無い訳でなく、薄い曇り空になっており、夜中はずっと無風が続いていたが、今は南からの風が徐々に強まってきている。この場所でのこの方角は向かい風になる。やはりチャンスはここから先、昼間の時間帯に訪れそうだ。


 強くなってゆく向かい風に水面が波立ち、流れ込む水路の茶色い水と沼の水の境界線がくっきりと分かれている。正午になる頃に1番竿のラインが弛むが、ボイリーが無くなっていただけで魚は付いていなかった。しかし自作の毒苺が魚に全く無視されている訳ではないということ。それだけで少し嬉しく思う。

 そしてその1時間半後、ついにアラームを鳴らすアタリが出た。足元に気を配りながらもラインを弛ませないように竿を立て、濁った水から姿を現したその魚を捕える。50センチほどの背の高い鯉だ。自作ボイリーでのファーストカープ。小鯉であると言うのにも拘らず、いつも以上に充実した喜びを感じる。

   自作ボイリーでの第一号  

 早めに帰って海釣りの準備をする予定であるが、連アタリを狙ってもう少し待ってみることにする。ハーフテントを片付けた後の折りたたみ椅子に腰をかけ、竿を眺めてみるがアタリは遠い。2時間が経過した頃にようやくアラームが鳴ったと思ったら、正体は毒苺をがっぷ りと咥えたウグイだった。今年はやたらとウグイに遊ばれてしまう。例年比では既に一年分のウグイを釣ってしまったのではないかというヒット率だ。このままではUGUIマイスターの称号を与えられてしまいかねない。

   ウグイにも好かれるらしい・・・  

 エサが悪いのか、状況が悪いのか、これ以上のアタリを見込めず、ここで釣りを終了することにした。
 とりあえずは自作品での第一戦。まずは釣れない事はない、ということだけがわかればそれで良い。赤い玉を咥えた魚をランディングできた事がとても嬉しかった。今回の釣行、そしてこれからの釣行を経て、これから更にバージョンアップしたものを制作するつもりだ。何せこれを完成できれば、毎度のエサ代をかなり浮かすことができるのだから。

 常に新しい挑戦をしてゆくのが確立できない鯉釣りの楽しさの一つ。この短いシーズンでどれだけそれを楽しむことができるだろうか。あっという間に来るであろう冬までに、悔いを残さない釣りをしてゆきたい。いよいよサマーステージに突入する。