鯉釣り日記2013 川笑う
 釣行日 4月13日14時〜17時  場 所  望月寒川
 時 間


 仄かに漂う畑焼の香り。遊ぶように囀るセキレイの声と小さな萌芽。その傍らで、金色の鯉は陽気を楽しむようにゆるりと尾を振る。そんな春の情景は私の足までをも緩慢にさせ、やおら荷物をその場に降ろした。
 ここは生活圏から最も近いフィールドでありながら、最も心地よく春を感じられる場所。都会の川ながらもさらさらと流れる水のなんてうららかなことか。そんな光景の中、降ろした荷物を解き、前回の下見からの本番釣行を開始する。

 願いは叶い、この日は晴天に恵まれた。不安定に霙を降らせていたこの一週間であったが、気温は11℃まで上がり、この温度は前日比+4℃となる。更に太陽に照らされていることで温度計は16℃を指し、水温は14℃となっている。川の様子としては、水量は変わらないものの、流れは前回よりも激しくなっているみたいだ。その中に60台程の鯉の遊泳があり、その数は前回よりも多い。これなら楽しめそうだ。早速準備に取り掛かる。

 地形の変化からくる複雑な流れ。その中で2か所ほど鯉がエサを摂るだろうポイントを見つけ、そのどちらを狙おうかしばらく迷った。
 下流側と上流側。上流側の方が鯉が溜まり、60センチ前後のものが数匹岸縁の淀みの中にいる。だが、1匹目がヒットしたことなどによってそれを散らせてしまう事を考えれば、遡ってくる次の魚を迎え撃つには下流側の方が勝負が早い。只一つの嫌いとしては、産卵に入るウグイを釣るルアーマンやフライマンが数人、ポイントの下の対岸で竿を振るっているということだ。
 さて、どうしようか。色々と考えた挙句、下流側のポイントに竿を出すことにした。ルアーやフライの人達はそのうちに移動するだろうし、釣りをしているのは対岸だ。いつにもまして強い流心を挟めば、さほど此方側の鯉に影響しないのではないだろうか…。ポジティブシンキングでのんびりやろう。時刻は10時半。地面に隠れているブロックをかわしながらフォーク竿立てを差し込んだ。


 エサはいつも通りにコーンを使うが、流れが強く、しかも地形による水流の複雑な変化で、思った所に寄せエサのコーンを撒きにくい。ちょっと流れに乗せてしまえば着底せずに遥か下流まで流されてしまうし、そ れを考慮して上流から撒けば、いたる所で起こっている水の反転に呑まれ、その場に落ちてしまったり、あらぬ方向へ行ってしまう。少量ずつを小分けにして柄杓を振るうが、難しいものだ。ポイントを外れて流れて行った寄せのコーンが不規則に落ちてしまえば、寄せのルートを描けないし、変なところで鯉を足止めしてしまうことになりチャンスが遠のく。偏光グラス越しにコーンが確実にポイントに着底したのを見て、それ以上のエサ打ちを止める。

 ポイントは1番竿を流れと淀みの境目に、2番竿をワンド状となり鯉が溜まりやすい足元に落とした。仕掛けは1本針仕掛けでハリス15センチと海津18号の組み合わせ。オモリ部分は中通し固定式に茶色の斑模様に着色したインライン18号を使用。コーンはこれまで使ってきたものの中で最も安価であり、かつ身が固くしっかりしているマックスバリューの缶詰を使う。


 一投目から30分後の午前11時、二番竿が僅かに揺すられるが、ヒットには至らず竿の動きはすぐに止まってしまった。再投入のために川に近づくと、数匹の鯉が土煙を上げならら散っていった。前回よりも魚の動きは良いようで期待が高まる。

 だが思いのほかアタリは遠く、釣れそうに釣れない状況に焦らされることになった。ポイントが悪かったか、見切られているのか、パイロットロッドを出すべきか…、ウグイを釣るフライマンを横目にしばし悩む。
 ポイントを変更。二番竿の投入点を変えることとし、竿の位置はそのままに数メートル下流の淵にある深みへ仕掛けを送ってみた。ここは足元から流れが強いが、地形と周囲の水の反転の位置関係から、流されてくるゴミがラインに引っかかる心配はさほどない。
 
 そしてその投入から時を移さずアタリが出た。だがその動きは嫌な予感を大いに感じさせるものだった。仕掛けの先にぶら下がって来たのは、オレンジ色の婚姻色を身にしたウグイ。そうだ、こいつがいるんだった。フライマンやルアーマンがウグイを釣っているのを見ていながらも、我関せずで黙殺してしまっていた。最初のアタリもウグイのものだったのではないだろうか。とりあえず流れの中を釣るのは避けよう。二番竿のポイントを改めて足元の淀みに移す。


  流れの中には 婚姻色のうーさんがいる  

 それから20分後、1番竿にヒット。大きく引き込まれ弧を描く竿に飛び付き、リールのハンドルを回そうとするが、何故かリールは空転を続けラインを回収してくれない。センサーのクリップが外れ、一瞬糸が弛んだ際に起きたライントラブル。鯉は珍しく流れに逆らいながら走る。いつもよりも強い流れである筈なのに、そのパワーたるや竿を引っ手繰ろうとするようなものだった。特別引きの強い相手であるにも関わらず、ラインはスプールの溝に絡まり、ドラグが利かない。述べ竿のつもりで純粋に楽しめればなかなかのものであっただろうが、リールが壊れかねないために魚の引きを受けながらも、ラインを外す作業に従事する。魚はダッシュで流れを遡上したが、その後、動きを止めてゆっくりと私のいる方に向かって来てくれたことでトラブルを解消でき、ランディングに取り掛かる。
 タモに収まったのは70センチ程の体格の良い鯉だった。トラブル無しで真っ向に引き合えたら面白い相手だっただろう。その事が少し残念だが、とりあえずの1匹目。40、50台が多いフィールドでの70なら良い釣果と言えるだろう。

  やたらと引きの強かった1匹目  

 幾つかの小さいスクールが連続的に上がってきたのだろう。1匹目のリリース後すぐに2番竿にヒットした。重みは無い。小さい魚なのは分かるが、ここの鯉は本当に引きを楽しませてくれる。弱って一度顔を出したとしても流れの抵抗ですんなり上がってきてはくれず、そうこうしているうちに回復されてしまったりする。
 思っていた通りにサイズは50台。1匹目と比べれば胴が太く尾の小さい養殖型だ。

続いて2匹目 釣り場全景

 一度南の風が強く吹き始めていたが、いつの間にかおさまってくれたようだ。それと引き換えるように空は曇り暗くなり始めたが、体感温度は高くジャンパー1枚で十分だ。

 今回はカープハーフテントを広げ、その中でアタリ待ちをしているために日差しや風に関する不自由はない。買ってきたばかりの「カープフィッシング」2013春号のページを捲り、椅子にもたれかかってコーヒーに手をやる。次のアタリも期待でき、過ごしやすいアタリ待ち。こんな時間が好きでたまらない。と、そんなふうに寛いでいると何故か止まってしまうアタリ。3匹目に針を咥えさせるまでに2時間を要された。

 この狭い釣り場でわざわざ5.3mの鯉竿を出す理由は二つ。意外と岸部の地形が複雑で、ラインを出しながら走られてしまうと、こちらに引き寄せるまでに地面の高低差や小さく岬上に出っ張った川縁、あるいは底に沈んでいる障害物などを通過しなくてはならない。その場合、幾何の方向からの微妙なコントロールを要することで長い竿の方がファイティングスタイルを取りやすい。そしてもう一つの理由は、アタリを取った際の竿の舞い込みを見たいため。ここの鯉のファーストランの素早さから、大きく竿を揺さぶるアタリを出す。その光景が私のアドレナリンを引き出し、楽しませてくれるのだ。

 3匹目は2匹目を少し大きくした感じの60台。この魚もまた良いアタリを出し、ファイト中にも下流にあった入り江状にへこんだ岸縁に入り込むなどと、ここの鯉らしい姿を見せてくれた。


 少しずつ落ちてゆく空の明るさに曇り空が拍車をかける。いよいよ水中が見えなくなってきた。残り2時間といったところか。少しずつ気温が下がってゆき、水温も2℃程落ちている。


 1番竿にウグイらしき小さなアタリ。対岸のフライマンにもウグイがよくヒットするようになっているみたいだ。ウグイに悪戯されただろう1番竿を回収し、エサを付け直すと同時に2番竿も打ち返す。撒き餌のコーンもかなり食われてしまっているだろうから、終了までの夕マヅメを釣るべくフィーディングもし直しておく。

 1時間近く時間を置いて、また1番竿が動いた。一瞬糸を出すようなアタリを出したものの、その後はモゾモゾと穂先をゆするだけ。あぁ、またウグイにやられたか…と思いながら上げてみるとその正体は30センチほどの小さな鯉だった。

小鯉(ちっこい) フキノトウも少しずつ大きくなってきた

 コーヒーを片手にテントに戻ろうとした時、今度は2番竿にアタリが出た。今度はガンガンと大きく暴れ、センサーのクリップが外れると同時にラインが水面を引き裂く。下流へ向かった後、すぐに走りが止まったがここからがなかなか寄ってこない。魚は小さく泳ぎのペースも遅いものの、これもまた地形の起伏に沿うように移動し、反転する流れに入ってゆく。50センチにも届いていないかもしれないような鯉であるにも関わらず、すんなり上がってきてくれず、意外な程ランディングまでに時間がかかってしまう。本当に退屈しないフィールドだ。

 ランディングしたあと、すっかり写真を撮り忘れてそのままリリースしてしまったため、代わりにそのヒットシーンの動画をここに載せておく。



   写真撮り忘れの5匹目のヒットシーン。
50センチほどの鯉だが、ここでは意外な程ファイト時間が長くなる。
 

 もうすぐ日が暮れる。少しずつ片付けに入っていると、このサイトを閲覧してくださっているという男性が訪れ、少し話した後に竿を持って再来された。私と入れ替わりになってしまうが、この上流で準備を始め、暗くなるまで釣りをするという。

 その人の準備を横目に道具類を纏めていると2番竿にこの釣りを心地よく締めくくってくれる最後のア タリが出た。40センチほどの子鯉であるが、終了間際のヒットというのも心地よいものだ。乾かしたタモを再度濡らしながらキャッチとリリースを行い、そのまま竿を畳む。


 今回の釣果は計6匹。アベレージサイズの小さいフィールドといえども小型が多いが、デイフィッシングでこれだけアタリを見られたことを嬉しく思う。前回の短時間でのウォームアップ釣行を経た事で、今回の釣りにはかなり気合が入っていた。それこそ遠足前の子どものように、昨夜はなかなか眠れなかったくらいだ。とても楽しい釣りができた。

 氷の落ちたばかりの大きなフィールドが落ち着きを取り戻してきている。もう少し天候が安定すれば良い釣りができるようになるだろう。石狩川のような大規模な河川ともなればまだまだ先の話になるが、初夏からの大場所への釣行や、新規開拓の活動を始めるまで、どこでどのようにそのモチベーションを陶冶してゆこうか。
 さあ、始めよう!心を解放しよう!この長い冬に溜め込んだものを今!!