鯉釣り日記2012 フルスイング
 釣行日 11月10日16:00〜
11月11日17:00
 場 所 茨戸川
 時 間  天 気 晴れ-雨 南の風


 彩を無くした殺風景な河川敷に綿毛が飛んだ。次第に空は晴れ始め、しばらくぶりの太陽が川面を照らす。そんな景色の中で、私はせっせと枯れた葦を運んでは次をつみにゆく。

 これが今年最後の開拓になるだろう。枯れた葦は折りやすく軽いから運びやすい。それでも今日は5.35メートルの竿を思い切り振れるだけのスペースを作らなくてはいけない。見事な藪だったその場所を一から開ける作業はこの寒空の中でも汗を呼ぶ。

 1時間が経過して、おおかた足場が片付いてきた。水際の段差が崩れない事を確認して、いよいよ竿を出す。日が落ちるまではあと1時間くらいあるだろうか。思ったよりも早く作業を終えることができた。これが葦でなく、イタドリが群生するもう少し下流のエリアであればもっと早く済ませられただろうが、今日はここでなくてはいけないのだ。目の前には水門。放水中の回転灯が回っている。これをやってみたかった。立ち入り禁止エリアである排水場を対岸からの遠投で攻める。それが今回の釣りのテーマだ。

 対岸の水門までは150メートル。だがそこまで飛ばす必要はない。むしろ少し距離を置くべきだ。大抵、水門にいる魚は小さい。現にヘラブナや子鯉がひしめいていて、そんなところに投げ込んでしまったら大型なんて狙えなくなる。小さい魚の固まりの外側で少し離れたところを攻めるのがいいと考えている。キャスティングは全て全力投球。ギリギリだが、なんとかすればそこまで届くだろう。

 今までにない遠投の釣りとなって、仕掛けはいつもより小さめのものを選択した。水深があるため、ダンゴで一気に底まで沈めたいのだが、いかんせんダンゴを背負った遠投は難しい。オモリは軽いものを使用し、極小のダンゴをいつもよりも短い袋仕掛けに装着。オモリが軽いとなれば大きな針を使うと掛りが悪くなる。ここは小さめの針を選択してヘアリグでいくことにした。

 続いてエサ。ダンゴが小さい分、底残りを強化するため大粒の粒子を多めに配合。いつもよりも粘りをつけて鶏卵よりも少し大きいくらいのダンゴにする。ジャミを警戒して食わせ餌は多目に付けた。そのためのヘアリグの選択でもある。さあ、どこまで届くだろうか。

オモリ部(中通し固定式」
オモリ:お多福18号
サキ糸:便利糸16号

仕掛け(袋仕掛け)
袋部分:PE5号(18センチ)
ハリス:鯉ハリスPROブラック
針:チヌ8号(ヘアリグ)

ダンゴエサ
「鯉パワー」+ハトのエサ+バーディ+「神通力」
食わせエサ
沢庵+乾燥コーン


 ガトーキングダムの花火が打ちあがった。これが夜戦のゴーサイン。大きく構え、水門へ向けて思い切り竿を振る。もう空は暗く、仕掛けの着水が確認できない。今の感触では…若干届かなかっただろうか…?ダンゴをもう少し小さくした方が良いかもしれない。当然の事ながら抵抗のない一本針仕掛けの方がより遠くへ飛ばせるのだが、初めての場所で寄せ無し一本針では心細い。PVAバッグの使用も考えたが、ちょうど切らしてしまっている。とりあえずこのまま2時間置いてみることにする。

 11月ももう中になる。さすがにこの時期にもなれば外で過ごす気にはなれず、いつもの散歩もせずに車に入り込んだ。保温のシートを窓に貼り付けて車のエンジンをかけるが、ガソリンの減りが気になるのですぐに切った。まだかなり早いが、寝袋を出してその中で丸まっているとしよう。車内に点けたLEDランプが少しずつ力を落としている。これは夏の夜釣りから散々使ってきたものだ。それが暗くなってゆくのを見ると今年の釣りの終幕が近いことを感じる。


 一度目のエサ換えで仕掛けを回収してみると1番竿の食わせがなくなっていた。やはり小さな魚がいたずらしているのだろうか。一投目よりもダンゴを小さく握り、再度遠投。仕掛けが闇に消え、水面に落ちる音だけが聞こえてくる。果たしてこの距離で足りているのだろうか。着水点が見えないことが不安に繋がる。

 気温は3度、足元の水温は10度ちょっとというところか。温度計が壊れてしまったので体感する以外ないのだが、いずれにしても冷たい。水門付近の温度はどのくらいになっているのだろう。排水場の水辺に近づくことも出来ないので確かめようがない。少なくとも水門の周りから少し下流にかけては他のエリアよりは温かくなっていると思うのだが。

  温度計のこれ以外の部分がどっかいった  

 夜も更け始めた頃になって急に雨が降り始めた。今日は晴れの予報じゃなかっただろうか。この時期ともなればいくら増水しようとも草が流れてくるということもないし、狙っているのは水温が安定しているであろう排水門。なんら問題はない。雲は疎らで、それほど長い雨にもならなそうだ。

 定時にエサ換えをしてゆくが、いまだもって何の反応も返ってこない状態が続いた。最初のエサ換えで1番竿の食わせがなくなっていたが、それ以降は触られた形跡も残さずに帰ってくる。やっぱり、ちょっとポイントに届いていないのだろうか。あとは明日の朝、日が昇ってからの変化に期待することにしよう。寝袋の上に一枚毛布をかけてゆっくりと体を温めてゆく。

 夜が明けると気温は0度程にまで下がっていた。触れるもの全てが冷たく、足元にも霜が降りている。雨は上がり気持ちの良い朝日が霜を輝かせている。軽く身震いしながら肌着のシャツをズボンの中に入れ、釣り場へ降りてみる。この寒い中だが、へら師が数人。対岸でゴムボートを出して釣りをしている。やはりそうなるか…。この時期にここを狙おうなんて誰でも思いつく事だ。それはわかっていたが、少々困るのは一人のへら師が私のキャスティングラインの先で竿を振るっている事だ。ここで遠投すればあの人を驚かせてしまうことになる。仕方ない、あの人の釣りが終わるまで投入距離を落とそう。朝の打ち返しはこれまでの半分ほどの距離に打つことにした。


 昼少し前にはへら師の姿が消え始め、私の前に入っていたボートの釣り人も撤収したようだ。水門へ向けての遠投を再開する。明るくなってから改めて着水点を見てみるとやはり少し足りていないかもしれない。PVAバッグがあれば一本針仕掛けに変えて飛距離を伸ばすのだが・・・。

 午後2時頃、一番竿のラインがふけていることに気づいた。ラインの弛みはかなり大きく、そのまま右側に走られている。リールのハンドルを早巻きし、ようやくラインが張った地点はこちら側の岸近くの数十メートル下流。掛かりに入っているような感覚はなく、魚であろう重みを感じる。リールを巻いている間、幾度かの首振りがあったがそれ以上の抵抗はしない。岸際の葦の陰から姿を見せたのは秋らしいオレンジ色の光に鱗を輝かせる50センチの小鯉だった。


 この時期の鯉としてはかなり痩せている。それはともかく、これだけ時間をかけてやっと釣れたのがこれだけとは…。作戦を練り直して再戦する必要があるかもしれない。排水を知らせる回転灯が消え、なんとなくやる気を失ってしまった。とりあえず再投入をするが、こういう時はこの打ち返しを最後に早めに撤収してしまおう。

 それから3時間。車の中での転寝と読書に時間を消化し、近いうちの再戦を決めて荷物を纏める。次の釣りは…ヘタすれば12月に入ってしまうかもしれない。果たして、その時のコンディションはどのようなものになっているのか。初雪を向かえ、もう積もり始めてしまっていることも考えられる。久々に雪中行軍なんて釣りも面白いかもしれない。