鯉釣り日記2012 クールダウン
 釣行日  9月17日2:00〜14:00  場 所 新川
 時 間  天 気 曇り 午後から南東の風やや強


 ハルゼミの声が轟く涼しげなダム湖。夏草の香りの篠津湖。そして雄大な石狩川。私にとって長い行脚の夏であり、苦悩の夏でもあったこの深緑の季節が終わった。今は邯鄲の鈴を振るような鳴き声が、控えめに開けた窓の外から聞こえてくる。もうそろそろ、訪れる秋風が水面を冷ますようになるだろう。今はまだ、夏の余韻がくすぶり続けているようだが・・・。

 盆を過ぎ、9月に入ったというのに温度計のメモリが下がっていかない。連日30℃近い最高気温が予報され、北海道らしくない秋口となった。そしてこの連休、次に訪れたのは大きな低気圧だった。連なる雨マークはこの3連休も例外ではない。雷を伴う大雨は石狩川を茶色く濁し、茨戸では増水によって島が往来している。とても釣りをする気になれるようなコンディションではなく、連休初日は竿を出さずに見送ることになった。

 残す日曜と敬老の日。この二日も雨マークがついていたものの、ここからの予報は優柔不断でなかなか落ち着いてくれない。そもそも雨が降っても降らなくても、ここのところ荒れが収まらない石狩川では釣りにならないので、茨戸の新規開拓でもするつもりでいたのだが、いかんせんこっちの島の往来も釣りに致命的なダメージを齎す。さてどうすべきか…。

 部屋で海外ドラマを目にしながら、虚ろな頭で纏まりのつかぬ釣行プランを練ること数時間。携帯にちばさんからのメールが入った。新川に釣行しているちばさんによるとコンディションは良く、連続してアタリが出ているとのことだった。新川か・・・このところ人の来ない静かなところを求めていたものだから、この川をいつも候補から外していた。だがこの機会だ、2年ぶりとなる新川で竿を出してみようか。既に知っている川で、魚もコンスタントに釣れてくれる。新規開拓であれこれと悩んでいた夏から、ここで一度クールダウンしてみよう。

 オレンジ色の街灯が並ぶ新川通り。ホームグラウンドの創成川や茨戸川と同じように、深夜になっても電灯の明かりと車の音が絶えない街中の川。自分にとって当たり前だった釣り場の光景がやけに眩しく感じる。これまで釣りをしてきた場所がいかに暗く静かだったかがよくわかる。
 
 午前1時の新川団地前。ちばさんはご友人らと共に竿を出し、既に就寝している様子だ。私はしばらくヘッドライトを手にして川を観察した後、ちばさん達の上流の、岸際にウィードのある箇所の草を刈った。流れは落ち着き、水は増え気味だが大きなゴミなどが流れている様子はない。風、雨共にこの上空から消え去り、今は空に星が見えている。電話で天気予報を聞いてみようかと思ったが止めておいた。どうせ振り回されるだけ。どうにでもなればいい。

 午前2時半。1番竿を手前のウィードの際、2番竿を川の中央に打ち込んだ。今回はボイリーでいく。魚は必ず回ってくるから寄せる必要はない。無駄に警戒させず、早いアタリを出す為にフィーディングも無し。チヌ8号のヘアリグ、管付固定式のスパイク20号。ボイリーは信頼しているガルプカープのアイリッシュクリームをフックベイトに選んだ。

 タックルも手軽にサーモンロッドとバンクスティックを使うつもりでいたのだが、足場と護岸のコンクリートの位置関係上、低い位置に短い竿を置くのが憚られる。一度セットしたサーモンロッドからラインを外し、鯉竿に交換する。土手の上にピトンを差し、新しい大鯉専科を並べた。釣行記に書くのは初めてになるが、10年間使った旧大鯉専科を引退させ、今年7月にモデルチェンジされ販売となった新大鯉専科 MH535遠投Nをメインタックルとして使用している。しかし連続坊主の石狩川開拓を繰り返していたため、いまだにこの竿で鯉を掛けたことがない。それを思えば、今日は新しい竿の戦闘力を試す良いチャンスになるだろう。


 かなり涼しくなっているが、草刈を始めとしてバタバタと動いたものだがら体が火照っている。ベンチに座って一息つき、そのまま星の見えない街の空を仰いだ。空に雲はなく、この分ではしばらく雨はないだろう。一口啜ったお気に入りの抹茶ミルクが眠気を促す。

 釣り場へ戻り、ヘッドライトで竿を照らしてみると、1番竿が小さく下を向いている。早速ウグイ様のお出ましか…?と思ったが、魚が付いている感じではなく、しばらく見ているとカクンとラインがテンションを落とし、元の姿勢に戻った。念の為回収してみるが、ボイリーは無傷でハリスが絡むなどの異変もない。きっと流れてきたゴミが軽くラインに引っかかっていたのだろう。水面に映る街灯を目印に同じポイントに仕掛けを送り込んだ。

 午前5時。仮眠から目覚め窓の外を見てみるとちばさんが動き始めていた。昨日のメール以降の状況を聞いてみると、夜間水の動きが止まってからアタリは遠のいてしまったという。だが、今はまた水が動き出している。両竿ともラインに流れ藻が絡み、ラインが張っていた。それを振り払いながら仕掛けを回収してみるが、ボイリーは両方ともほぼ無傷だった。思っていたよりもカニやウグイの攻撃はないようだ。ボイリーはそのままに、ペレット入りのPVAを針に引っかけて同じポイントに投入。もうすっかり日は昇ってしまっているが、涼しいのは今のうちだろう。今のうちに二度寝しておくことにする。

ちばさんたちグループ 今回はガルプカープ お気に入りのアイリッシュを選択

 二度寝の気持ち良さとは恐ろしいもの…次に目を覚ましたのは午前8時を回る頃だった。遮光シートの向こうの日差しは明るく、雨なんて心配は端から無いように思える。さて、そろそろエサ換えをしなくては。ノソノソと車から抜け出し、背中を伸ばす。そのまま横目に見た竿。その左側が今まさに舞い込まんとしている。

 川の真ん中に投入していた2番竿にヒット。久々に見た鯉のアタリは、力いっぱい竿を曲げセンサークリップを弾いた。浮かれた気分になりながら竿を持ち、ファイトに取り掛かったのだが、何故かラインはある一点から動こうとしない。こんなところに掛かりなんてあっただろうか。ギュッとゆっくり力をかけてみるとラインが擦れる感触がある。これは太い植物の茎だ。竿を寝かせ、張らず緩ませずのテンションを保ったラインを縦に振ってゆく。するとパツンという軽い反動の後にラインがじわじわと動き出した。よかった、これならラインにほとんどダメージはないだろう。既に疲れてしまったのか、魚はこれ以上私の前から離れようとはせず、ゆっくりと浮き上がった。駆けつけてくれたちばさんにランディングを手伝って頂き、お盆から実に一ヶ月振りの鯉を手にした。そのサイズも悪くなく、タモ枠を余裕で超えている。尾鰭の先は検寸板の85のメモリを指す。この夏に溜め込んだフラストレーションを一掃してくれる一尾となった。

一月振りの鯉は新川の85 抱っこ写真を撮ってもらうのも久々

 気持ちは満たされ、エサを交換した仕掛けを打ち込む先にあるのは不安ではなく次への期待。この時点で最高の気分転換になっている。そして初めて鯉を掛けた新しい大鯉専科。最初の魚が80超えとはなかなか幸先が良い。Vジョイントを搭載された曲がりはしなやかさを増し、より柔らかにゆっくり締めこむように鯉を制御するイメージだ。

  釣行記初登場。新大鯉専科と専用ピトン  

そして2時間後の午前10時。車の中で雑誌を読みながら朝食を取っているところにクリック音。また背中を痛めるのではないかという勢いで飛び起き、竿へ駆け寄る。今度は掛りに入られる事なく、ヒットしている1番竿のラインはスムーズに出されていた。少し走るものの、引きは大して強くはなく、難なくランディングしたのは70に届かない丸々とした鯉だった。

  2匹目 手前のウィード際でヒット  

 これで川の真中、手前の両方でアタリを取れたことになる。別の可能性を探ってみるため、真中に打っていた2番竿を対岸近くへ遠投してみることにした。だがそれから一時間が経過した11時ごろにマリンジェットが通り過ぎたため、やむなく両竿とも手前に打ち直す。ここは浅いため、ジェットなどが来れば底を巻き上げられてしまうことになるだろう。

  やむなく両竿ともこの藻の際に  

 日差しが強くなる中、南東の風が出始め水面を揺るがす。
 車内の寝袋など畳んだあと、ちばさんの釣り場へお邪魔すると必然的にそのまま談笑会となった。石狩川開拓の話が主題となり、入釣できる場所、カニ対策など思いつくままの話を口に出す。この夏はほとんど単独での釣行だった。誰もこない静かな釣り場。その中で一人自分だけの時間を過ごす。そんな釣りを求めていた私だが、やはり全く話し相手がいないとなると段々寂しくなってくるものだ。こんなふうに人と釣り談義をしながら竿を眺めるのも久しぶり。厳しい…から楽しい…へ、夏季のどの釣行とも正反対となったこの釣りを機に、気持ちの面で一区切り付けよう。

  午後になって雲行きが怪しくなってきた  

 昼を過ぎたころから怪しい雲が上空を覆い始めた。南東の風は勢いをまし、天気の崩れを予感させる。アタリは遠くなり、どの竿もだんまりを決め込んでいる。しかし今日は十分楽しんだ。ちばさんはこれから買い物があるとのことで撤収準備に取り掛かっている。私も同行者が帰ると自分も帰りたくなるという寂しがり屋の性分から、同時に竿を収めた。

 あと一月後にはもう雪虫の舞う頃。この夏は大きな成果を出せずに終わるも、これまでで最も有意義に過ごすことができたかもしれない。これからのオータムシーズン、石狩川の水温が下がってしまってからはどんな釣りをしようか、どんな釣りをするべきか。これからオリオン座を眺めながらプランを立てるとしよう。