鯉釣り日記2012 夏色新境地
 釣行日  7月21日 17:00〜
7月22日 17:00
 場 所 当別川
 時 間  天 気 晴れ


 ターゲットは常にひとつ。そしてそれは決して珍しいものではなく、常にそこにいる。何処を「そこ」として選ぶか、「そこ」から「どこ」を狙うか、それを決めるのに頼りになるのは情報などではなく、全ては己で決めること。「そこ」が平野の河川であれ、幽閉された池であれ、新たな可能性を求めて、或いは新たな釣りを求めて、師は誰もが通り過ぎてしまうような「そこ」へ足を運ぶ。

 7月21日16時。前日より開拓を進めていたとある一ヶ点にて車を降りる。道具を下す前に、草の刈り残しの処理と車を止めるスペースを広めるためにもう一度鎌を持つ。ここのところ、草による刺し傷や切り傷が絶えず、腕は発赤だらけ。しかし釣り場を作るためにせっせと葦を刈ってゆく作業も、それほど嫌いではないということに気付いた。この夏はこんな事ばかりやっている。新しい場所、自分の場所を求め、あちこち出回っているものだから、6月1日の雁里沼以来、釣果を貰っていない。

 ここのところ晴天が続き、真夏日も混じるようになった。しかし今は気温20度前後と最も過ごしやすい温度で、心地良い風が草刈作業で火照った顔を涼ませてくれた。さらさらと流れる川面は、火を付けた蚊取り線香の香りと共に夏の風情をあやなす。
 ここは石狩川と合流する河口に近い位置にも関わらず、思った以上に浅くなだらかだ。ウグイらしき魚の波紋が水面に浮かんでいる、この中に鯉はいるのだろうか。魚の居ない場所を開拓してしまったのではないかという不安が沸き起こるが、足元の川岸に50センチほどの鯉が泳ぐ姿を見せ、暗くなる前に可能性を確信できたことに安堵した。

 浅く速い流れに砂利の底。どう考えてもウグイが好まないはずがない場所だが、今回は敢えてダンゴエサで一投目を打ち込んだ。リンクしているよしかわさんのブログにて、沢庵を食わせエサにするとウグイに強いという記事を読み、また掲示板でも沢庵を使用することを勧めて戴いたたことで、私もそれを試してみたかったのだ。ダンゴは糠を使った夏スタイルのもの。シンプルなボタン仕掛けを使用する。

シンプルなボタン仕掛けで 食わせに沢庵を使ってみる。
オモリ部分(管付き固定式)
オモリ:スパイク25号
サキ糸:便利糸12号

仕掛け(ボタン仕掛け)
ハリス:鯉ハリスPB5号(ボタン上12センチ、下12センチ)
針:チヌ10号

ダンゴエサ
糠+バードフード(バーディ+はとの食事)+「鯉夢想」配合物

食わせエサ
たくあん角切り、乾燥コーン

 セット完了は18時。周囲の葦をかわすために大鯉専科の使用を考えたが、さすがに釣り場が狭いので今回はサーモンロッドを使うことにした。1番竿は鯉の姿が見られた手前に落としているが、川の真中に投げた2番竿のラインは水流によって弧を描いている。しかしバイトアラームが反応してしまうようなことはなく、大きなゴミが流れてこない限りは落ち着くことができそうだ。


 日が落ち切った頃、跳ねの音が藪の向こうから聞こえてきた。これは鯉。ウグイなんかではない。そういえば気になっていたウグイだが、いまのところ攻撃はされていないようである。これは沢庵の力なのか、それとも攻撃してくるような魚がいないのか、何れにしても前回のウグイとカニ騒動の後であると静かにアタリが待てることが心地よい。

 20時を過ぎた。西の空の明るさは草原の向こうで細い帯となりながら消えてゆく。藪と林に囲まれたここは真っ暗になっていまい、石狩川での釣りのように月明かりや街明かりで竿のシルエットを拝むようなことは出来なさそうだ。
 テーブル代わりにしているタックルボックスの上にランタンを置き、いつもの夜釣りスタイルで椅子に座り込む。電池式ランタンの仄かで微かな明かりでは、この狭いフィールドであっても到底釣り場を照らすことなどできない。正面は闇。そしてその闇の中に青いランプが灯る。

 2番竿にヒットした。これまで初めての場所や難しい場所での釣りばかりであったため、この一投目の投入1時間半でのアタリがとてつもない早アタリに感じた。そして自分で掘り当てたポイントでのヒットともなれば、これまでの苦難も一掃されてしまう。

 鯉は68センチほど。一気に対岸まで走ったこの鯉は一通り水面を荒らした後、向きを変え下流へと向かう。それを制止すれば今度は上流へと走り出す。さすが、浅い川の夏鯉だ。この疾走こそ夏の熱き壮快。

   6月以来の鯉 開拓したてのポイントにて  

 2か月ぶりに手にする鯉は十二分に私を満足させてくれた。そして二投目の方針も決まった。恐れるほどのウグイはおらず、ダンゴでも早いアタリを望める。沢庵の食わせエサも良い仕事をしてくれているようだ。このまま釣りを続けよう。

 22時少し前。潮見表を見れば干潮は23時となっている。干満の差の小さい石狩川水系ではほとんど気にした事がなかったが、これほどに平均水深の浅い川では別。干潮に近づくにつれ、岸寄りの川底が徐々に露出し始めた。岸近くを泳いでいた鯉を狙おうと、ちょい投げをしていた1番竿の仕掛けも、やはりほとんど空中に晒されるような状態になっている。多少はこのような事があろうと考えてはいたものの、ここを開墾した直後に釣りを開始しているため、水中の状態の調査はまるで行っていない。岸寄りから沖にかけて徐々に深くなっていく川なら、単純に川の真中付近を攻めれば良いのだが、ここはそうではないようだ。岸寄りと奥での水深にほぼ変りはなく、不規則な砂地の馬ノ背があるのみ。とりあえずは川の真中寄りの大きな馬ノ背の下に仕掛けを置きたいのだが、この暗闇の中、知りもしないポイントに仕掛けを打つなど不可能だ。

 水が引いたらこうなった(汗) 全体的にこのような激浅 

 次の満潮は午前6時。それまで水深と投入点への不安を抱きながら夜を明かすなどできたものではない。ウェーダーを履き込み、ヘッドライトを取り付けて川へと足を入れる。オモリを引いて底探りなんて煩わしい事などやっていられない。浅いのなら直接踏み込んで自分の目で干潮時のポイントを見つけてしまえばいいのだ。

 そのまま対岸まで歩くが、ここまで膝の上が水に濡れることはなく、60センチに満たないような超浅場であることを体感した。2番竿のラインを辿り、投入ポイントを直視してみると、この流れでダンゴの粒子はほとんど流され、食わせだけが水深40センチほどの底にに落ちている状態であった。もう少し重く、大きな粒子を配合させる必要がありそうだ。

 こんな浅い所に鯉が入ってくるのか…なんて疑問は今さら抱くものではなく、水位が減った今でも、こうして歩いていれば鯉らしき魚が泳いで逃げてゆく気配を感じる。あとはどこに仕掛けを置くか。20分ほど歩きまわり、馬ノ背の位置とその上下の水深を大まか記憶して、そこから最も鯉がエサを食いやすい位置を考える。そうして出した結果、まずは下流側2番竿の投入点を決めた。そのポイントは変らず川の真中付近であるが、最も安定した水深を保てるラインとなる。そして1番竿、これも岸寄りを避けて投入しようかと思ったのだが、フィールドを隅から隅まで調べてみると、対岸はこちら岸とは違い、足元から深みになっている所が多い事に気付いた。地面が見えないほどのブッシュからオーバーハングする柳の木。その真下は急に1メートル以上程落ち込んでいる。普段釣りをしていて、掛った魚に逃げ込まれるのはまさにこんなところだ。そしてここがポイントにならないはずもなく、1番竿の投入点はここに決めることにした。

 一度釣り場に上がり、仕掛けとエサを変更して再び川へと入る。この暗い中で、キャスティングミスなんかでせっかく見つけたポイントを外すなんてしたくない。そこで新しい仕掛けとエサを持ったままウェーダーで立ちこみ、手で直接ポイントに仕掛けを置きにいくことにした。エサは大きな粒子をかなり多めに配合し、仕掛けはよりホールドさせるために袋仕掛けへ変更。それをポイントに持っていき、朝までしっかり持たせるため、砂に埋め込むような形で置く。手でその場の砂を掘り、そこへ仕掛けを置いて上から砂をかける。食わせだけは砂の上に露出させておき、念のため、砕いたダンゴをその周りに散らせておいた。

 ウェーダーでポイントへ立ち込み、手で仕掛けを置く 対岸の崖下に深みがあった 1番竿をここに 

 対岸の深みを狙う一番竿も同様。こちらは深みの下ではなく、斜面に仕掛けとダンゴを置いた。水圧でラインが沈み、更に底の砂にめり込むようにしてラインが安定するのを確認して、また釣り場へ戻る。
こんな釣りは初めてだ。それもこれも、全ては安心してこの夜を明かすため。ここまで完璧に2投目を仕上げてしまえば、何の心配事もなくアタリが出るまで車で眠ることができる。

・・・できれば、3投目は明るくなってからキャスティングで行いたい。ちょっと面倒くさかった。

 しばし椅子に座って落ち着いてから車のベッドメイクに入る。明けたドアから入ってきた虫を退治し、窓際に蚊取り線香を置いてから久々に足を延ばした。時刻は0時。早寝早起きで、明け方の明るく涼しい時間帯を有効に使いたい。

   バカみたいに虫を呼ぶエスティマの蛍光灯  

 床について間もない頃、1番竿のアラームが反応。いくらかラインが出ていたようだが、竿に駆けつける前に外れてしまったようだ。ウェーダー立ち込みで確実に1匹をゲットすれば、もう二度とあれをやらないつもりだったのだが(めんどうくさいから)、こうなってしまうと悔しい。それに1番竿のポイントこそ見えない対岸のオーバーハングの下であるためにキャスティングは無理だ。仕方なくもう一度ウェーダーを履いて対岸に仕掛けをセットしに行く。
 
 午前2時、また1番竿のアラームが鳴った。しかし今度も車から出る前に止まってしまった。このスッポ抜けの連続は仕掛けの向きなどの位置関係によるものだろうか。さすがにもう立ちこむ気はせず、放置してそのまま眠りに入ることにした。今の感じではラインもほとんど出されていなかっただろう。食わせさえ残っていれば問題なく次を待てるはずだ。

 そして午前3時。また1番竿の青いランプが点灯している。3度目の空アタリを疑いつつ竿を覗くが、今度はアラームが止まらない。40センチほどの小鯉が沢庵の付いた針を咥えて流れの中から現れた。

   深みの1番竿 2度の空アタリの後の鯉  

 こんなサイズだが、狙いどおりに釣れたという事でまあ良しとしておこう。まだ周囲は真っ暗で、その上に安全マージンを取れば確実に外してしまうだろうが、それを踏んだ上で今度はキャスティングで仕掛けを送り込んだ。
 いまだヒットのない2番竿は明るくなるまでそのままにしておこう。そもそもそのためにウェーダーを使ったのだから…。

 午前4時、その二番竿にヒットが訪れた。目を覚ますと空は明け、暗い青色の景色が広がっている。その中で大きく右を向いた二番竿は、ラインが張られたまま動こうとせず佇んでいる。これはマズいパターンか…。ラインの先は1番竿を投入している地点よりもはるか下流の対岸ブッシュを指し、その中に入りこまれていることを示している。ここまであっという間。アラームの音が本当に鯉のアタリのものなのかどうか、疑っている余裕はなかったようだ。

 掛り出しを試みるも、かなり深く入られているようでビクとも反応が返ってこない。釣り場の狭さから取れる体勢も限られるため、ウェーダーを履いて川の中へと降りる。角度を変えてもう一度・・・と思ったが、

浅いのだから対岸まで歩いて取りにいけるじゃん(爆)

と、かなり反則的なやり方を思いついてしまった。実際、ラインを切る以外ないのではないかという入られ方をしている。全く動かず、ラインが擦れる感触すらない。一体どんな所にどのようにして掛っているのか、それを目視するという研究意識も働いて、対岸まで川を歩いて行く。

 ラインの先は柳の木の中に入っていた。その枝々を避けるとそこからラインは水中の深みへと続いている。引っ張ってみても当然のごとく動かない。水中に太い木の枝があり、その下を潜っている形になっているようだ。水中に腕を突っ込んで枝の下からラインを引いてみるも、これでも動かない。一体魚はどこにいるのか。水中の枝を折り、取り除いてみると、そこからラインは更に別の枝へと続いてる。想像していたよりも酷い。この深みの中は枯れ枝のジャングルと化しているらしい。

 シャツの袖を濡らしながら水中のラインを辿る。その先々で絡む太い枝を起こし、解き、折る。こんな作業を10分程続けたところでようやく鯉が姿を見せた。なんということか、どうやったらこんな状態になるのか、こうなってしまっているのなら、釣り場から竿で引き上げるなんてとんでもない。無理だ。

 あっという間に対岸のブッシュに突っ込まれた  普通なら絶対に捕れなかった

 とにかくアタリがあれば一刻も早く制御に取り掛かることが大切になる。浅く流れのあるフィールドには慣れているつもりであったが、思えばその環境での泊まり込みの釣りは初めてなのだ。いつものように車でもたもたとしている余裕はない。

 午前6時。満潮となる時間であるが、水はあまり増えてきていないようだ。いまだ足元の川底は露呈した状態から変わりない。明るくなってきたことで、目を凝らせば水中のおおまかな地形がわかるようになってきた。ここからはキャスティングでの投入に戻る。

 打ち返して間もない2番竿にヒット。今度の魚もスプールをガリガリと鳴かせながら突っ走る。微妙なテンションの操作で魚の向きをコントロールしながらそれに対応。60台の鯉だが、このサイズの鯉がここまでパワフルなファイトをして私を興奮させる。瀬に横たわった金色の魚は私の手を離れ、立派な尾びれを揺らしながら流れへと帰っていった。

続いて1番竿にアタリ。先の一件で警戒せざるを得なくなったブッシュ下でのヒット。障害物近くで掛けた魚は、そこに留まる事を嫌がり自ら障害物を離れていく。今度の魚はこれまでとは違う煌めきを見せながら私の方へと誘導されてくる。40センチ程のミラーカープだった。

しっぽも体系も素敵な金鯉 1番竿のブッシュ下でヒット 5匹目ミラー

 そしてすぐに2番竿のアラームが叫びだす。ドラグノブを締めようとする私の手を振りほどくようにして竿が暴れ出した。群を抜いて鋭い走りをするファイターのようだ。だが問題なのは走ってゆくライン。今度は対岸ではなく、こちら側の岸すれすれのところを下流に走りだし、釣り場の足場からでは対応しきれない角度から抵抗してくる。今回何度目になることか、川の中へ入り、自らの足で魚を追うことになった。柳の際から浮き上がるのは50センチほどの鯉。これだけ浅い場所ともなると、さすがに大きな魚は入ってくれないか…。小さい魚が釣れているというより、そもそもここのサイズがこれなのだろう。

  なんとかブッシュから引きずり出す 6匹目  

 日が昇りきると同時にアタリが止まってしまった。アラームに何度も起こされてまともに寝ていないので、その意味では都合が良い。車の窓に遮光シートを張り、電池式の扇風機で空気を回す。そのまましばらく眠りに入り、9時頃に一度30センチの鯉に起こされたが、10時過ぎまで休息を取ることができた。外はいよいよ暑くなる。昨晩から吹き始めた風がいまだ持続しているのが救いだ。

 暑くて車内に非難 車内も暑いが扇風機で凌ぐ ここでもさすがにこれは小さいかな… 

 正午を過ぎてまたアタリが戻ってきた。8匹目は砂の煙幕を上げ、ロケットのように下流へ推進した。そしてそのあとすぐの9匹目。アベレージの小ささがわかっていれば、このサイズの数釣りでも割り切って楽しむことができる。こんな釣り場もあっていい。ここを開墾したのは正解だと思えるようになった。

突っ走った8匹目 60センチほど かわいい9匹目 

 ミラーを釣って以来、ここまで2番竿へのヒットが続いている。偏光グラスで望めば、やはり真中あたりの馬ノ背に遊びの鯉が多く泳いでいる。1番竿の投入点を真中寄りに改め、10匹目の追釣を狙う。エサ残りを心配する必要がなくなったため、午後からは打ち返しの度にダンゴの配合物を減らしている。最終的なダンゴの粒子はほとんどバーディーだけとなっていた。


 そして15時少し前、10匹目が警戒なクリックを奏でた。暑さのせいか、もはや水に入るのが楽しくなってきてしまった私は、川の馬ノ背に立って下流へ向いてファイトをする。横へではなく、真正面を走る金色の夏鯉。こちらから鯉に歩み寄ることはせず、鯉の方からゆるりと近づいてくるまでファイトを楽しんだ。

2番竿に集中してヒット これで10匹 水に入ってのファイト 

 もう言う事はない。キリの良い10匹目。夜から昼まで、ファイトから数まで、これだけ楽しませて貰えれば十分だ。今回景色といい、釣り方といい魚といい、私好みの夏らしい釣行となった。この光景はこれから夏が恋しくなる季節に幾度と無く思い出すことだろう。大型への期待はないものの、この釣り場はただ釣りたい時、新しい目論みがある時に世話になれれば良いと思う。第二の創成川となるだろうか。
 そして今回初めて使うことになった、よしかわさんから教えていただいた沢庵の食わせエサ。水中に入れておくと少し膨らみ、また硬くなる事でエサ持ちはかなり良い。それは私が普段使用している乾燥パパイアと同じで、更に安価でどこでも手に入れることができ、パパイアよりも大きな角切りで使えるというのも強い。すっかり気に入ったので、これから私のエサ箱の常備品目とにするつもりだ。