釣り日記2012 矛先を向ける 
 釣行日 6月16日 13:00〜22:00  場 所 野花南
 時 間  天 気 晴れ(微風)〜くもり


 一度どこかにピントを合わせてしまえば、その周囲の景色はぼやけてしまう。そのぼやけた景色の中に茨戸川があろうと、雁里沼があろうと、私は焦点の合ったものにしか興味がない。ただただ一途にそれを思うばかりとなり、この何かに似た感覚を拭い取ることは難しい。私自信にとっての「鯉釣り」という大きなテーマにおいてもそうだ。ある一時に大きなレンズでそれに焦点を合わせてしまったばかりに、周りがぼやけてしまっている。

 13時。この数週間思いを寄せ続けた場所がここにある。初めて足を踏み入れる事になる「ダム」と名が付いたフィールドにて、白紙に等しいノートに何かを書いては消しを繰り返している。

 ひたすらフロートを浮かせ、丸オモリで底質の感覚を探る。ここは典型的なダム湖とは違い、平野の湖沼に近く、足元直下からドン深というわけではないものの、これまでの釣りでは狙えなかったレンジを釣れる。しかしどのレンジを攻めれば良いのか、ポイントとなるのはどこなのか、どのような鯉がどのくらい居るのかもわからない。入れる場所が限られているとなれば、ひたすらその中を探り、その中でやるしかないのだが・・・。


 一先ず野営場の駐車場に置いた車から荷物を下し、キャリーに乗せてゆく。初戦である今回は、ここから歩いて行ける距離に絞って釣りをすることにした。というか、ここ以外に釣り座を確保できる場所があるのかも怪しいところだが・・・


 目を付けたのは、小さな沢の流れ込む浅いワンド。このワンドの出口から徐々に深くなってゆき、そのカケアガリを狙う手があるのだが、ワンドの中に捕食モードに入っている鯉が見えるので、まずはそれを狙い反応を伺ってみることにする。

担ぎ込みなのでタックルは最小限 今日は風が無く、かなり暑い

 浅く、水底が見えてしまっているワンドの中に、鯉の魚影が1つ2つ・・・いや、結構な数いるではないか。何れも小さいが、何かを食べているモーションが見られる。

 はっきり言ってスルーしたくなるような場所であるが、浅い事、水の透明度が高い事、捕食モードの鯉がいる事。そしてこのワンドの出口には吊り橋があり、そこから仕掛けや魚の様子を覗けるため、創成川での観察宜しく、ここでこの湖の魚の行動パターンを掴めれば御の字といえよう。

 偏光グラスを使い、様々な角度から湖面を見下ろしたところ、鯉以外の魚の姿は見られない。小魚の類は見えないだけで、どこかしらにいるのだろうが、水草が一切生えておらず、そこに身を隠す魚や、大型のウグイやフナなども見当たらない。大きなエサ取りがいないのなら、ポロト湖でのウグイフィーバーみたいな事にはならないだろう。タックルバッグの隅に押し込んで来たダンゴの袋を開ける。

オモリ部(中通し固定式)
サキ糸:便利糸16号
オモリ:お多福型18号

仕掛け(ボタン仕掛け)
ハリス:鯉ハリス5号(12センチ)
針:チヌ8号

ダンゴエサ
「鯉夢想」単品

食わせエサ
乾燥パパイア

 配合物少な目の小さなダンゴをシンプルな仕掛けで打ち、エサ換え無しで通すことにする。1番竿のポイントとしたのは対岸近くの木陰になる場所。2番竿は水の色が変わっている水底の筋で、ここは鯉がよく通る場所であるが、そのポイントにダンゴを直撃させることは避け、若干外した部分に投入した。

 沢のある超浅のワンド 初戦は敢えてこんな場所で

 水温17度。ほぼ無風であり、晴天の日照りが地面を焼くも、アタリ待ちの場は幾層にも連なる木陰で、昼間の太陽光は殆どここに届かない。そんな環境から、こちらの気配を悟られないよう、こっそりと待ち伏せるが、ここの鯉はこの浅場であっても、足音や物音に対して、神経質な動きは見せない。試しに魚影に向けてある程度の距離まで近づいてみたが、煙幕を上げて逃げるようなことはなく、無愛想に思えるほどお構いなしにエサを探していた。鈍感なのやら、余裕をかましているのやら。

 セットを終え、荷物を整理した釣り座にて、木陰の涼しさを肌に感じながら寝転がる。釣れる釣れないの程に関わらず、ここはとても良い環境だ。時折起こる木の葉のざわめきと、エゾハルゼミの声が、初夏の詩編を奏でている。

 開始から2時間が経過した15時。ここまでダンゴに反応している鯉はおらず、ダンゴの細かい粒子すらもまだ薄らと残っているようだ。いきなりダンゴを使うのはまずかっただろうか。思った以上にジャミの数が少なく、かなり小さく握ったつもりのダンゴでも、この状況の中では大きすぎたくらいだ。

 そして気づけばワンド内の水量が減っている。ワンドの奥端から底が露出し始め、その表面を沢の水が伝って流れてきている感じだ。この調子で減り続けるのであれば、ワンドの奥にいた鯉がこちらに寄せられてくる。ある意味これはチャンスと取れるのではないだろうか。

   減水し始めた  

 しかしそう上手くはいかず、ワンドの奥の底を若干露出させた程度で減水は止まる。ここまでこれといった鯉の反応を見ることができず、減水によってワンド内の鯉の魚影も薄れてしまった。

 仕方ない、では深場を狙おう。夕陽の差す中、タックルを移動させ、今度はワンドの出口の徐々に深くなってゆく坂に仕掛けを置いてみることにする。減水によってワンドから追い出された鯉も、そう遠くへは行かず、この辺りで溜まっているはずだ。仕掛け、エサの変更はせず、1番竿を水深4メートルライン、2番竿を水深6メートルラインに打ち込んだ。

   深場へ場所を移す  

 17時に移動を完了し、それから1時間が経過する。日向に出るのを苦にならなくなり、日が傾いてからは、この周囲の他のフィールドを見学した。そうしていると「増水」の警告放送が流れ、それから間もなく、水際の草が水面に埋もれていった。ワンドも活気を取り戻したようであり、これから夜にかけて、かなり魚が入ってくるだろうと思われる。

 そして19時。待望のアラーム音が小鳥の合唱を引き裂く。来たか!?いつも以上の駆け足で釣り場へ戻り、ランプの光っている1番竿の前でしゃがみ込むが、ラインは張ったまま動かず、アラームも鳴り続けてはくれない。空アタリだったのか・・・?
 すると再びランプが光り出す。アラーム音は断続的で、魚はラインを出していかない。あぁ、これは嫌な予感。絶対アイツだ。

 30センチの細長い魚がペロンと水面から引き抜かれた。橋の上からは姿の見えなかったウグイだ。そして2番竿も同じ様に奴の餌食になっていた。
 深いラインにはこいつらがいるのか…。再投入するとまた2番竿にウグイがアタる。この調子でウグイに苛まれ、釣りにならない状況が続く。

   深場でウグイの猛攻  

 日が完全に沈みきった20時。想定していた以上のウグイの攻撃に耐え兼ね、再びポイントをワンドに移す。夕方の増水によって、昼の開始時よりも遥かに水位が上がっており、鯉の往来も、溜まり方もよくなっているはずだ。

 今度は昼間の場所の対岸で、吊り橋のすぐ横。ヒット時にこの低い吊り橋を潜られた時のためのイメトレをしつつ、仕掛けを投入する。1番竿はワンドの入口の真中。2番竿は昼間によく鯉の捕食行動が見られた、手前の木陰に入れる。先のウグイ猛攻で多くのダンゴを消費してしまったため、また昼間鯉がダンゴに反応しなかったこともあって、今度は海津18号1本針にコーンを付け、その周囲にも一掴みほどのコーンをばら撒いておくことにした。

 しかし、ウグイが多いのはレンジの問題ではなかったようだ。
 投入から程なくして1番竿のアラームが「ウグイです」と言わんばかりの鳴り方をした。ダンゴを使用せずとも、こんなにも早くアタってしまうなんて・・・。これで何匹目になるのか、心配になって上げてみた2番竿もエサを取られてしまっている。あぁ、勘弁してくれ。ボイリーを置いてきてしまった今回、これ以上の手の施しようがないのだ。

 ウグイがアタり、打ち直せばその着水音で更に寄ってきてしまうという悪循環。昼間の釣りでは微塵も感じられなかったウグイの気配が、今ではポイント一杯に広がっている。レンジではなく、時間の問題だったのか、確実に夜になってからウグイが動き出している。

 堪らずまた浅場に移動するが・・ こっちでもウグイの嵐

 22時。戦うところまで戦ってみたものの、正直これでは釣りにならない。そして明日は大雨の予報が出ており、もう既に小雨がパラついている。「諦めろ」ということか。渋々ラインから仕掛けを切り離す。

 真っ暗な闇の中に浮かぶ吊橋に、静かな湖面。このシチュエーションでじっくり鯉を待つことができれば最高なのだが、今回は完全にフィールドに負けてしまった。今度ここに来たとき、その時にはもっと良い釣りができるよう、今回足りなかったものを頭の中で纏めてゆく。この野花南にどのくらいの可能性があるのかもわからない。でも、やれるところまでやり、此処の鯉を如何に釣ってやるか、此処での最高の釣りを目指すのも鯉釣り師。ワンドの鯉の姿を見た限り、この一回で諦めようなど、私には到底考えられない。