釣り日記2012 春の小川 
 釣行日 4月21日 13:00〜20:00  場 所 望月寒川
 時 間  天 気 晴れ(東の風)


 冷たい雪に重く圧し掛かられた枯れ草の間から、水々しい新芽が春の匂いを求めて顔を出した。そんな情景に、さらさらと流れる小さな川は本当によく似合う。うららかに時間が経過してゆくその中で、一人静かに・・・。

 春らしい日和に恵まれた土曜日の午後。いつもの橋の脇から、ふきのとうの萌す土手へ下り、私の思い描くイメージどおりの光景を目の前にした。
 
 川へ近づく前に踏みとどまり、ペンダントにぶら下げている偏向グラスを装着。靴の踵から丁寧に足を下ろしながら、川面を覗き込み、極力動かぬよう、目だけで視界を運ばせて魚影の有無を探る。

 望月寒川の水足は良好。水温は15℃にまで上がり、したたかにこのコンディションへの期待が沸いてくるも、思いのほか魚の数は多くない。50センチほどの小型が数匹、その出現頻度も、この場所では比較的少なく、理想と実相のずれに大きな迷いが生じてしまう。その周囲数十メートルほどの範囲を、30分以上の時間をかけて観察し、偏向グラスを外す。ここでいこう。小さく、数も少ないが、目の前に鯉がいるのなら、それを釣ってしまおう。


 次に流れと水中の状態から、ポイント、寄せのルート、竿の位置を考える。そして全てを整理してから、必要な荷物だけを車の中から選び出し、土手下へと降ろしてゆく。寄せエサに使うコーンは、今回ポイントとする場所の下流、上流ともに、こちら側の岸寄りに少量ずつ、数箇所に分けて投入しておいた。そしてラインを降ろす位置を考えながら竿の配置を決め、これで大まかな準備が整った。

 狙うのは専ら、流心から逸れたこちら側の岸際。1番竿は特に、足元の水深50センチ前後の岸ぎりぎりまで寄ってくる鯉を狙うつもりだ。2番竿は地形の窪みの中にある僅かな深みを狙うが、これも足元で、岸から60センチと離れていない。
 
狙うのは岸際の川底が見えている範囲 配分を考えながらコーンを投入(柄杓忘れた)

 海津18号に食わせコーンを2粒。海津は針先が内向きになっている形状から、フトコロを大きく潰してしまわないようにエサを付ける。投入は直接手で投げれば届いてしまう範囲であるが、ここではしっかりと竿を持って、決めたピンポイントにゆっくりと仕掛けを降ろし、オモリとハリスが真っ直ぐになるようにして底で落ち着かせる。このような場所ほど、不思議と投入点が気になってしまい、特に大きな理由もないのに何度も仕掛けを入れなおしてしまう。最後に仕掛けの周りに寄せのコーンを撒きたいのだが、今日は特に流れが強いため、思うようにコーンが落ちてくれないのが難点。流れの速さと、コーンの重さを考慮しながら、仕掛けよりも遥か上流から一掴みずつ撒く。あとは魚次第。当然であるが、アタリ待ちの場は竿から離れた位置に設営した。

 時刻は13:30。到着からここまで、2時間近くを要している。日没まで4時間といったところか。それでもコンディションを見極めるには十分に時間がある。この4時間の結果で、その後、釣りを続行するか否かを決めることにしよう。


 前回に続く晴天は、この午後までに気温を15度まで上げ、今年初めて日差しが暑いと感じた。もう鬱陶しい雪もない。その雪解けの影響か、望月寒川の流れは何時にも増して速く、流れてきた草などがラインに触れる。その十数メートル下で合流している月寒川は穏やかさを保っているようだが、水は明らかにこちらの方が良い。

 14時13分。霞んでいた視界の色が突然変わる。2番竿が引き込まれた。ここの鯉は流れに乗って突っ走る上、地形上、月寒川合流より下流に行かせることはできない。センサーが鳴るか鳴らないか、そんなタイミングで駆け出し、ドラグを締める。粘り強くダッシュして竿を鳴かせるのは、60センチ後半の鯉と見た。ランディング後、最高のフッキングをしている海津をその下顎から外してやりつつ、タモの枠と魚の大きさを比べてみる。65センチといったところか。


 思ったよりも早いアタリで、しかも今日これまで見ていた鯉達よりサイズも上。満足して良い一尾だろう。
 しかし、いつもに比べるとやはり状況はあまり良いとは言えない。この地点に入ってくる魚の数が依然少なく、恐らく、上か下か、どちらかで溜まっているのだろう。とにかくこの一尾のように入ってくる魚を待ち、それらを拾ってゆくしか無さそうだ。

 1番竿の投入点を変更する。両竿とも足元狙いでいくつもりだったが、こうも魚が少ないのなら、狙う範囲を広げよう。とは言っても、そもそも川幅がないのだから、どこに打とうとも足元には変わりないのだが・・・。

 流心に入れてしまうのは水の抵抗とゴミが心配なので、岸際の水の淀みと流心との境目、これまでのここでの釣りでは最も川の中心に近いポイントに打つ。この場合、寄せのコーンを思ったポイントに納めるのが難しいので、PVAバッグを利用し、水気を拭き取ったコーンをPVAの中に入れて、仕掛けと共に水中へ沈める。

  枯れたイタドリの後ろからチャンスを待つ。   

 16時まで待ってみるが、ここまで竿に変化は見られない。こっそり近づいて水中を見てみるが、逃げてゆく鯉の姿もなく、寄せのコーンも減っていないように見える。

 日没まであと約1時間半。それまで待ってみて何も起こらないのなら、潔く切り上げることにしよう。足下で乾いたイタドリが立てる音を気にする理由もなく、半分以上諦めているために、いつの間にか少しずつ釣り場を離れていた。

 釣り場の上流にある橋の上から、広範囲に望月寒川を見渡してみるが、下流から入ってくる鯉は1匹。それはなかなかの型物であったが、食い気のある泳ぎ方はせず、ここまで来ている時点で、私のポイントをこの泳ぎ方でスルーしてきているということだ。ここから更に上流に遡ってみよう。竿の心配をせずに土手上の遊歩道を歩いてゆく。

 なるほど、こんな感じか・・・。ここはこの辺りで最も鯉の魚影が見えるポイントの一つ。排水機場の吐き出し口付近は広く、流心から逸れているので、この付近では唯一水が止まっているポイントとなる。そんな場所に、ごっそりと鯉が溜まっていた。それらは頭の向きを揃えるでもなく、ただ自由にゆっくりとその場に佇んでいる。ランガンなら思わず仕掛けを入れたくなるところだが、こういう鯉が口を使わないのはわかっている。エサを食う気があるのなら、こんなに大勢で一箇所に溜まることはせず、流れへ出て行くものだ。その光景は魚が居るだけで、とても竿を出そうなどと思えるものではなかった。

上流の橋から。ポイントを通り過ぎたのはこの一尾だけ ここで鯉が密集していた。釣れる魚ではない。 

 静まりきった釣り場に戻り、待ち場の椅子に座って缶コーヒーを口にする。あとは終了時間を待つのみ、そう思っていた17時過ぎ、これまでを一掃するようなヒットが待っていた。

 突如、2台のセンサーの電波を同時に受けた受信機が、割れた音を流し出す。片方がもう片方のラインに絡まっているのではない。2本のラインは同時に、そして別々に走り出している。まさかまさかの1番、2番の同時ヒット。このような場所で2本同時にヒットしてしまえば、どちらかを捨てるしかない。下流側の2番竿を手にし、こちらだけに応戦する。

 ラインが引き出されていく1番竿を横目に、魚を流れの中から出し、小さな鯉を難なくランディングした。一先ずこれをタモから出し、捨てた方の1番竿の回収にかかる。ラインは月寒川との合流ポイントで止まっており、それより下に走られるという事態は免れたようだ。しかし掛かりに入られてしまったか、ある程度のテンションをかけてもそこから動かない。できる限りそのポイントとの距離を詰め、竿を寝かせて上に振り上げてみた。するとあっけなく魚は動き出し、こちらのコントロールに制御されてくる。こちらも50台の小型だが、思いもしないサプライズを起こしてくれた。

  この2匹が同時にヒット  

 これならまだいけるかもしれない。終了時間の17時半を過ぎているが、このまま続行することに決めた。これで満足はしていられず、すぐさま2本の仕掛けを再投入。寄せのコーンを軽く撒きなおす。

 日が落ち、薄暗くなった釣り場に風が吹く。少しずつ東の風が強くなっているようだ。さすがに寒くなってきたので、服の上に防寒ジャンパーを羽織り、ラインと仕掛けの状態をもう一度チェックしてから静かに釣り場を離れた。

 18時。2番竿の穂先が川に吸い込まれるように大きく弧を描いた。魚はこれまでの3匹よりも遥かに強い勢いで下流へと突っ走る。ドラグを締めたスプールをガリガリと回しながら流れに乗ってゆき、流れから出そうとしても粘り強く抵抗する。こちらもそれなりに応戦し、合流に入る前でこれ以上の疾走を許さない。

 良いファイトだった。割に合わずサイズは小さいが、十二分に楽しませてくれた60台は、タモの中でもまだ猛り続けている。

  最高のファイトをしてくれた4匹目  

 下流からの魚の入りが良くなったのか、この短い間で3本も出てくれたことで、ここからの展開に更に期待をかけるが、やはりというか、なんというか、釣り場はまた黙りこくってしまった。もう十分に釣ったわけだし、とっくに切り上げても良い頃合なのだが、まだ掴めるチャンスはあるのではないかと、ひとつを手に入れると、また別の何かを欲する人間の本能。だが、今日はそれほどのコンディションでもないようだし、このアタリ止まりを目途に片付けるとしようか。

 アタリ待ちの場で、なんとなく対岸をヘッドライトで照らして遊んでいると、そこに移動しながら光る物体。そこに焦点を合わせると、光の色が変わり、また同時に動かなくなってしまった。一瞬、なんだろうと思ってしまったが、あれはキツネの目だ。光の当たり方で色と輝き方が変わる動物の不思議な目。つい、それを面白がってライトをチカチカさせていたら、キツネは土手を登り始めた。逃げてしまった、と思いきや、橋を渡りこちら側の岸に来てしまったではないか。ライトを当てられることに恐怖はないのか、キツネは更に私へ寄ってくる。やがて私の周りをうろうろしながら遊び始め、時折水際を覗き込んでネズミの巣穴を探している。

私の周りで遊び始めるキツネ 魚いないかな? ネズミいないかな? 

 夏のキツネはゲッソリとしているが、モコモコとした冬毛を纏ったキツネは美しい。キツネ好きな私には可愛くてしかたないところだが、こいつらの魂胆は分かっている。こうやって可愛い子ぶって人間に愛嬌を振りまき、油断させたところで荷物を奪って逃げる。これだけ賢ければ「狐に化かされる」という話もあながち嘘ではないのだろう。というか、この手に引っかかって荷物を盗られた時点で、それはもう化かされている。

 相手にはしていられないので、ここで敵意を見せ付けて思い切り脅かしてやった。キツネが逃げていったところで荷物を纏め、土手の上へと運び出す。シチュエーションを楽しみ、釣果を得て、この二回目の釣りも充実したものになった。このペースで続けていければ良いのだが、このあたりで一度苦戦や苦労があることだろう。だがそれも釣りのうち。私の自由時間、いくらでも楽しんでやろうではないか。夏のこと、秋のこと、これからの楽しみを考えながら過ごせる最高の季節。さあ、どんな事を思いながら次の釣行を待とうか。横溢した気持ちで、役目を終えた荷物を担いでゆく。

 すると後ろから何かの気配。振り返ると

  わ!ついてくんな!!