釣り日記2011 秋の里  

 釣行日 10月29日20時30分〜
10月30日15時00分  
 場 所 雁里沼
 時 間  天 気 曇り時々晴れ(昼から東の風)


 私の釣りにおいて最も気合の入る瞬間は、全ての荷物を車に積み込み、行く先を見つめる一瞬。運転席に乗り込む前に、一度立ち止まり、今回の釣りについて考える。「よし、行くぜ」 「さぁ、釣りに行こう」。この日もその瞬間を経て、雁里沼へと赴いた。天気は良好の秋晴れ。明日の昼以降は曇りの予報だが、できればこのままの天気で釣行を終えたいものだ。

 15時、雁里橋の横に車を止めた。来札中の高橋さんは、ジュンちゃんと共に昨晩から千歳川へ釣行中で、この夕方に雁里沼で私と合流することになっている。また、SASAYANからも連絡が入り、彼も此方へ向かっているとのこと。

 一足先に到着してしまった私は、これまで入ったことのない橋下を底探りする。
 まずは橋脚周りからマーカーを落として水深を測り、そこから少しずつ橋の上流側へずらしながらオモリの感触で底の状態を調べてゆく。頭上の電線や公民館の建物を目印に、ある程度の範囲を探って、それをメモに書き留めておく。

 噂に聞いていた通り、このあたりは深みになっており、橋脚のすぐ横では水深7メートル。そこから6メートル台、5メートル台と少しずつ浅くなってゆくが、何れにしてもこのような三日月湖では深いほうだろう。落ち鯉を狙うとなればここしかないが、足元が急坂になっていることと、全体的に狭いため、複数人で入るのには不向きな場所であり、最終的な場所選びは高橋さん達に任せようと思っている。


 明るいうちに釣り場を一通り見ておきたい。沼を一周する形でこれまでに入った場所を観察し、そして良さそうな場所を探す。
 この時期ともなると、さすがに釣り人の姿もなく、唯一下流側の先端に一人、鯉釣りの人が入っているのみだった。このような三日月湖という止水域で、全体的に浅いとなれば水温はどうなのだろう。冷たく感じる水に温度計を差してみると、12℃のメモリで安定した。

 さて、この沼での12℃とはどんな状態なのだろうか。同じ温度でも、場所によってはその意味が変わってくる。平均水温が高い水域で12℃は冷たいし、普段から寒い場所の鯉なら、12℃なんて平気なのかもしれない。真冬の8℃という温度で食ってくることもあるが、それもまた、冬になってからしばらく経ち、平均水温が低くなってからの話。日に日に落ちてゆく時期とでは、そこでも意味が変わってくる。序々に寒くなりつつあることに行動が鈍くなっているか、それとも、浅い上に厚く氷の張るようなこの場所では全然余裕で動き回れる範囲なのか、大方の予想を立てられても、まずはやってみないことには何も掴めない。晩秋の雁里沼、私にとっては初めてのフィールドとなる。

 晩夏に訪れた時とは変わって見える 12℃という水温。此処の鯉にとってはどうなのか

 大方の沼の様子を見回り、あとは今回のメンバーと落ち合うだけと思われた16時過ぎ。車のダッシュボードの上で携帯が鳴っている。着信元は高橋さんであり、通話ボタンを押した電話の向こうからの声色は、何やら嫌な予感をさせるものだった。
 
 緊急事態発生。高橋さんが同乗するジュンちゃんの車は、新篠津村で動けない状態となっている。それはここに向かう途中、新しい候補となり得るフィールドをリサーチしていた際、車が河川敷でスタックを起こしてしまったというものだった。ジュンちゃんがウィンチを使って脱出を試みている。しかし救援が必要そうだ。電話を切ってすぐにSASAYANの携帯へコールを入れる。彼もここへ向かって来ているはず。もしかしたら、私よりも彼の方が現場の近くにいるかもしれない。その予感は的中。電話に出たSASAYANは、私の「いまどこにいる?」という問いに対し「新篠津村」と答えた。状況を説明し、救援に向かわせると同時に、高橋さんの携帯に電話するよう伝える。

 しばらくして、SASAYANが現場に到着したようだ。そして電話の向こうから、「かなり厳しい、すっごい埋まってるの」と苦闘の声が聞こえてくる。私も雁里を出て、新篠津へと戻る。「牽引ロープない?」 残念ながら私は持っておらず、この様子だとSASAYANも持っていないようだ。「今そっち行くから」 「場所わからないと思う」 現場は石狩川の河川敷。それもかなり奥まった場所とのこと。

 幾度か電話でそこへの行く順を聞き返しながら、車を入れたのはだだっ広い草原の砂利道。この道で合っているはず。しかしそれらしい物は見当たらず、空が段々と暗くなることに焦りも生じる。このまま日没を迎えるわけにはいかない。砂利道を真っ直ぐ数キロ進み、そのどん詰まりのところでようやくSASAYANの車を見つけることができた。そしてそこには、全ての荷物を降ろされたジュンちゃんの車もある。埋まっている様子はなく、私が到着する前にSASAYANの手助けによって脱出に成功したようだ。

 ほっと胸を撫で下ろし、河川敷を見下ろす。スタックしていたのは、土手下の草原と林の中であったようで、助けを求めようにも、すぐに駆けつけられる場所ではないし、更にその中から見つけてもうことも困難な状態であったのだろう。先に救助に向かったSASAYANはよく此処が分かったものだ。

 土手下に残してきた荷物を担ぎ上げ、救出後にやっと到着した私以外は疲労困憊といった様子だ。陽はすっかりと暮れ、空は薄紫色。その南へと向けて、私達の頭上を白鳥が通り過ぎっていった。

 無事に難を逃れたと思われた時、もうひとつの奇禍に遭遇していることに気づく。
 ジュンちゃんの車にはいつも釣り猫が2匹同乗しており、人懐っこい性格の雨音ちゃんと、人見知りのトラ猫 かろちゃんが毎度私達を癒してくれる。今日もひょっこり車から顔を出した雨音ちゃんと挨拶を交わしたのだが、かろちゃんの姿が見えない。無論、いつも怖がって隠れてしまうかろちゃんなので、どこかに潜んでいるのだろうと思っていたのだが、飼い主のジュンちゃんが呼んでも返事がなく、車の中の隅々まで探すも、その気配を感じることができない。

 これはまずいことになった。恐らく、スタック脱出の際、重荷を下ろすため開放したドアから逃げ出してしまったのだろう。普段なら車のどこかに隠れてしまうだけで済むのだが、今回の難事はかろちゃんのキャパシティーを大きく超えるものだったのかもしれない。この広く暗い河川敷で、草むらに溶け込むことのできるトラ猫の姿を捉えるなど・・・。ジュンちゃんが名前を呼びながら土手を降りてゆく。人見知りをする猫なので、こればかりは誰も手伝うことができず、私達は無事に戻ってくれることを願いつつ土手上に立ちすくむしかなかった。

   この中のどこかに  

 「かろ」を呼ぶジュンちゃんの声は段々と遠くなり、そして茂みの中に消えてゆく。過去にも釣行中に幾度か脱走したことがあったようだが、しばらく冒険した後にちゃんと釣り場に戻ってきていたそうだ。しかし、ここは釣り場ではない。どの時点からいなくなっていたのかわからないが、飛び出した車は今、数百メートル離れた土手の上にある。戻る場所がなくなってしまったかろちゃんは、きっと寂しい思いをしていることだろう。

 しばらくして、草原の獣道にこちらに戻ってくるジュンちゃんの姿が見えた。暗くて遠い中、どのような状態でこちらに向かっているのかわからないが、諦めて戻ってくるはずがない。至近距離になり、その腕にかろちゃんが抱かれているのを見たとき、思わず拳を握り締めてしまった。久々に見た絆というものに、嬉しさと熱さを感じた。

  左がかろちゃん。戻ってきてくれて良かった  

 一件、いや二件落着。
 体と心を落ち着かせ、いよいよ釣行へと移る。SASAYANはせっかくここまで来たのに、翌日の仕事に備えるとかで、釣りもせずに帰ってしまった。残りの3人揃って雁里沼に到着したのは18時を回ったころ。底探りした雁里橋から、水門、上流の先端と候補地を見て周り、人数と安全性を考えて今回は上流の先端に釣り場を決めることとなった。水面を前にして、竿の並べ順を決め、次に草の生え方などを見てテントの設営地を考える。

 そうしている間に後ろの石狩川の土手から見覚えのある車が現れ、私達の目の前で止まった。スタック事件の知らせを聞く前の釣り場模索中に見た、下流先端に入っていた釣り人のようだ。その人が以前からメールでやり取りをしている雁里丸さんであると気づくのにそう時間をかからず、直接お会いできたことを嬉しく思う。

 普通のジャンパーでは追いつかない寒さのこの夜は、大きなアタリを見込んでおらず、準備はのんびりゆっくりと雁里丸さんとの談笑を楽しみながら行った。

 釣りの方向性としては、先述したように秋の雁里沼という初めてのフィールドゆえに、手探り状態である。寒夜の浅場の止水域。この秋の冷え込みが来てからも雁里沼での釣果情報が聞こえてくるので、実際には思っている程に悪い状況ではないのだろうと期待をしてみるも、水温低下による低活性ということを踏んだ上での、それに合わせた釣り方で初戦を迎える他ないだろう。

 竿の並べ順としては、全員がフィールドの右寄りに入り、右側の岸際にジュンちゃん、その左に私、そして一番左に高橋さんが入ることになった。ジュンちゃんが主流にしているのはボイリーで、一度投入したら長時間エサ換えをせずに食うまで待つというスタイル。そして高橋さんの主流は吸い込み仕掛けでのダンゴ釣り。その真ん中に入る私はどのようなエサの選択をすべきか。

 低活性で食いが落ちていると踏んでかかれば、エサの投入は少ないほうがいい。高橋さんがダンゴを使うのであれば、その横で私も同じようにダンゴを使うのは少々効率的ではないように思える。底残りしてしまうダンゴを、二人で何個も投入してしまうのは寄せエサの過多に繋がる。食い気の落ちている鯉は、ダンゴに寄ってきても一口二口啄ばむだけで、警戒するでもなく「もういらない」とでも言う様に摂餌をやめて去ってしまうことが多い。それは創成川での観察で、何度も見てきていることで、要は魚がいくら入ってきても寄らないという状況だ。それが起こりえるなら、底残りの少ない私はボイリーでいくのが良いだろう。

オモリ部:中通し式
 オモリ:お多福型18号

仕掛け:ヘアリグ
 針:チヌ7号
 ハリス:鯉ハリス4号

エサ:ボイリー
 1番竿:アイリッシュクリーム
 2番竿:フレッシュフルーツワン

寄せ:PVAバッグ
 ペレット、コイミー、砂糖


 ゴロ石の埋もれているこの地面では、ピトンを挿すのは面倒だ。バンクスティックにブザーバーを取り付け、その上にサーモンロッドを乗せる。普段は捨て竿として使うタックルであるが、このような場面で本命竿として使えるよう、無線式のバイトアラームも用意してある。サンドリッジのバイトアラームは問題なく作動し、ブルーとグリーンのLEDが映える。

 全員がセット完了したのは21時をになろうという頃。晩秋の澄んだ空気はただ静かで、夜空をくっきりと浮かび上がらせている。またこのオリオン座を眺めながら釣りをする季節が来てしまった。それを眺めていると流れ星が一つ二つ。人工衛星と窺える発光体も、星の間を潜り抜けるように夜空を滑り、そして消えていった。

 気温は4℃ほどであろうか。ストーブを炊いたワカサギテントに集合し、DVDプレイヤーに映し出される鯉釣りビデオを見ながら、遅い夕食を口にする。今夜はエサ換えなしで朝を待とう。睡眠不足の高橋さんは目を瞑りながら頷きはじめ、私もジュンちゃんから頂いたこの一杯のワインを飲み乾してから、車に寝袋を敷くとする。

 サンドリッジのバイトアラームを使用 ストーブを囲みながら鯉釣りビデオを…

 午前3時、アラームに目を覚ます。来たかと思いきや、それは私の獲物ではなく、ジュンちゃんの針を咥えた鯉が私のラインを引っ掛けて走ったために作動したようだ。ジュンちゃんのタモに納まった鯉は、細身だがなかなかの型物にも見える。早速計測してみると長さは78センチであり、雁里沼初回で、しかも冷え込む深夜にこのサイズを出すのはお見事だ。

 ジュンちゃんのラインに絡まった自分の仕掛けを解き、ついでにもう一本も回収する。ボイリーは少し削れている程度で、ほとんど問題なく返ってきた。そのまま打ち返そうかと思ったが、せっかくなのでもう一度PVAを装着してキャストすることにした。

冷え込む深夜。ジュンちゃんにヒット 初の雁里沼のファーストヒットで78

 午前7時、温まったシュラフの中で寝息を立てていた頃にまたアラームが作動。単発での反応なので魚ではないことはわかっていたが、窓の外を覗いてみるとライントラブル中の高橋さんのラインが私のラインに触れているようだ。その様子を見にいくと、高橋さんのラインは大きく右へ寄っており、しかも岸辺の木の枝にも絡んでいる。その絡み方からして、魚の仕業ではなく、夕べのジュンちゃんのファイト時に私のものと同じように絡んだものと窺える。


 眠気の取れなかった私は二度寝に入り、午前10時に再度起床した。エサ換えもせずに手に持つのはコンビニで買ったメロンパン。それを食いちぎりながら土手上をを散歩していると、同じようにコーヒーカップを持ちながら散歩する高橋さんと合流。釣り場周りを散策するが、草木が冬枯れに入るこの時期になっても、傾斜がきつく、その上イタドリが立ち込めていて、とても入れそうな場所はない。

 散策から帰った頃から東の風が吹き始めた。この風はこちらに向かって波を起こし、足元に浮遊物が溜まりはじめる。セオリー的には良い風と言えるだろう。昨晩はセットの手軽さの都合でサーモンロッドを出したが、ここでは11Fのこの竿では少々やりにくい。ここでタックルチェンジをすることに決め、大鯉専科をそのままバンクスティックに乗せた。仕掛けやエサを変えることはせず、ただオモリを18号から25号に変更。長竿にしたのは遠投性を高める目論みがあったが、PVAを乗せた仕掛けを遠投するのに慣れておらず、またこの向かい風が邪魔をする。狙いよりもやや近く、20メートル程のところに着水した。

  タックルチェンジ  

 ここまで両隣のヒットやライントラブルでしか鳴ったことの無かったバイトアラームが、初めて魚の反応を拾った。周囲に目もくれず、テントを飛び出すが、鯉らしき前アタリがあったのみで、そこからが続かない。「やめるなよ…」と呟きながらも、可能性を感じることができたこの一瞬で熱が入る。この風で状況が変わってくれているのなら、夕方にかけて期待できるかもしれない。


 裏手の石狩川を見に行ったり、外で遊ぶ雨音ちゃんをいじくりまわしたりと、気ままに過ごした昼過ぎ。そしてエサ換えから2時間後に響いたアラームは、間違いなく鯉のヒットを知らせるものだった。平坦な水中を真っ直ぐ突き進む魚。浅くフラットであるために生み出される直線的な走りが、雁里沼らしさを感じさせる。相手は重量から小型とわかるものの、粘り強さとなかなかの首振りを見せた。釣り上げられても尚、大きな口を力強く開け放ち、鰭を強張らせるこの鯉は、きっと強く大きな鯉となることだろう。小さいには小さいが、それでも充実感を味わえた一尾だ。

  60ない程だが、逞しさを感じる一尾  

 14時55分。撤収時間の迫る中、片づけ中のジュンちゃんの車からセンサー音が高鳴る。そしてドラグもまた軽快なクリックを奏でながらラインを送り出していた。ジュンちゃんの「おっ、良い型みたい」という声に、見ているこちら側も「おっ♪」と声を出してしまう。じりじりと間合いを詰めるジュンちゃんに、私はカメラを向け、高橋さんはタモを準備する。ゴロ石の坂を降り、魚は直ぐ目の前。しかしここでトラブル発生。崩れたゴロ石にジュンちゃんの足を取られてしまったのだ。左へと向かう魚を追うべく横移動した時の事。このような場所の一番怖いのは転倒。下手をすれば顔面強打ということも危ぶまれる。幸いジュンちゃんに怪我はなく、すぐに立ち直し魚を追うが、やはりその転倒が災いしてか、魚は針を外して逃げ去ってしまった。

  ジュンちゃんにヒットするが、残念ながらスッポ抜け  

 15時15分、私は最後の打ち返しのため、PVAにペレットを詰め込んだ。その時、回収前の竿が二度目のアタリを掴む。少々やかましいバイトアラームに作業を放り出し、竿へと駆けるが、リールのハンドルを回す前にこちらもスッポ抜け。今のもまた小さいだろうが、「逃した魚は大きい」ではないが、小さいとわかっていてもその姿を見たかったと思い、悔やんでしまう。

 私の釣りにおいて最も嫌なものは撤収作業。寝袋を畳む時も、もう使わないエサ箱を車に積む時も、そしてセンサーの電源を切る瞬間も。この日もその瞬時間を経て、暗くなる前の16時には全ての道具を収納した。釣り場に残してきてしまったものはないか、最終確認を済ませ、いつもの単独釣行ではこのまま車に乗り込んでしまうことが多い。今回、少し救われるのは一人ではないということ。いつでも帰路へと出発できる車の前に集まり、少し談笑をする。この時間は好きだ。今回を振り返っての話、次回釣行の話。ほんの少しの立ち話だが、自分の中に思いとどめるのではなく、誰かに向かって言葉を放つことの楽しさ。話を聞く楽しさ。こんなところにも、釣りの楽しさがあった。

 シーズンはあと僅か。今年の鯉釣りはこれで竿納めになってしまうのか、それとも創成川などでの寒釣りを行う機会があるか。いずれにしても、心は既に来年度の釣りへと向かっている。