釣り日記2011 本流 前編 

釣行日 6月18日 場所 石狩川 中洲
時間 16時〜22時 天気 雨のち曇り


前編 リサーチ

 北海道の巨鯉を狙ってゆくにあたって、この川を見逃せるはずがない。流域面積14,330km2 、利根川に次いで全国2位、長さ268q、全国3位の大河川、石狩川。私が釣りをするフィールドのほとんどが、この川へ流れ着き、篠津湖や晩生内新沼なども、明治時代の治水によって残された、この川の旧川である。

 川の大きさは、淡水大魚釣り師の夢の大きさに比例する。大きな川には必ず大きな魚が潜んでいるはずだ。遠い対岸と強い流れ、広い水面の下はどれほどの水深があるのか、いったい何があるのか。想像の付かない一点があれば、そこにはまだ見ぬ大魚の影がちらつく。

  6月11日午後。
  私は地元民のSASAYANの協力を得ながら、この川のリサーチに入った。彼のホームグラウンドのひとつとして、石狩川へ注ぐ小さな水路がある。余所者が大河川で釣りをしようとするならば、広い河川敷へ下りて、出来るだけ川に近づける場所を目指そうとするだろう。しかし、大きな川ほど規制や障害が多く、なかなか釣り場を定められないものだ。それに広い川面に目をやりすぎて、周囲の田んぼの水を調整する水路や、藪の中の獣道などを見逃してしまう。そんな小場所をよく知っていて、入り慣れている地元の人間と釣行するほど心強いものはない。

  このリサーチには、私の現在のホームグラウンドに深く関わる先輩の村上さんも参加してくれた。昨夜から海釣りへ出ていた村上さんは、帰りに私とSASAYANが待ち合わせをする場を訪れ、数年ぶりに対面した。

  リサーチ開始。村上さんが久々の登場  

 SASAYANの車を先頭に、私と村上さんがそれを追う形で土手上の道路を走る。田園と農家、都会育ちの私にはどこを走っても同じ景色に見えてしまう。その中に土手下へ続く小道がぽつぽつと点在しているが、どれを選べばいいものか全くわからない。一つ一つ見て回っていては相当の時間がかかってしまう上、入っても道の先は農地や行き止まりであることが多い。自分ひとりなら途方に暮れているところだったろう。しかしSASAYANは迷わずある小道の手前でウィンカーを上げた。それについてゆくと、土手下に石狩川本流とは別の湿地のような水域が姿を現す。

 ここは石狩川の中州。本流から水が流れ込むが、浅く穏やかで、さながら沼地だ。SASAYANは数日前にここを見つけ、目をつけていたのだという。前述した通り、SASAYANのホームグランドも石狩川に注ぐ小さな水路。その出口は浅くて狭いものの、本流から大型の鯉が遡ってくる。それと同じ要領で、本流から入ってくる鯉を狙い討つことができるのではないか。SASAYANはそう睨んでいたようだ。

 候補地はまだ更にある。中州を離れた私達が次に車を止めたのは、割と大きな水路と石狩川の合流点。ここはその合流点に釣り座を置くことができ、今回見ることができたフィールドの中では、唯一石狩川の本流に向けて竿を出せる場所だ。ここでぶっつけ本番の釣りをするか、それともあの中州を狙ってみるか。さぁどこから始めよう・・・

迷 った挙句、選んだのは中州だった。いきなり本流を攻めるよりもまず、小さなフィールドから試してみることにする。ここはポイントを絞ることができるので、入念な底探りをせずとも、何をやればいいのか想像もつくし、村上さんも終日私達に付き合っている時間がないので、さっさと釣りを始めるならここしかない。

竿を出したのは中州の出口 入り口。ルアーを投げるとナマズがヒットした

  水深は平均90センチほどで、深いところで120センチ。流心となる深みとその手前を中心に狙う釣りとして、糠ベースのシンプルなダンゴを打った。SASAYANもダンゴをチョイスし、村上さんは海釣りで余った塩イソメを針につけてルアーロッドで投げ込む。そうそうすぐに反応が出ることなど期待していないが、投入から一度目、二度目のエサ換えを経ても竿先は水中の変化を感知しない。村上さんの塩イソメにウグイが掛かったことと、そのあと、散策がてらにこの中州の入り口付近で流したスピナーベイトにナマズがヒットしたことで魚が動いているということはわかる。だが、このまま辺りが真っ暗になってもアタリが出ることはなかった。捨て竿も出し、バズベイトを浅場に投入してみたものの、こちらのアラームも静まり返っている。

 午後10時。ここまでやれることはやった。それでもこの場所は、鯉の気配すら感じさせてはくれなかった。これほど浅い場所にもかかわらず、跳ねやモジリなどの生態反応がない。これはどうと取るべきか・・・。魚がいないのか、それともただ私達に見えないだけなのか。いずれにしても初めての場所、結果がどちらに転ぼうともやり切る意味は十二分にある。その結果を踏まえて本番を臨めばいいのだ。しかしそれは私の考え方。SASAYANは違ったようで、ここでは可能性を微塵も感じないとごねりはじめた。とはいえこの真っ暗な中、これから場所を変え、本流で釣りを始めるなど無謀すぎる。どうしたいかSASAYANに尋ねると、釣り慣れた野池である石狩川公園へ行きたいという。まぁ、それでもいいか・・・。確かに、ここまで魚の気配をキャッチできなければ諦めるのが普通だろう。正直、私もヒットを見込んでいない。SASAYANの意見を汲み、この夜は石狩川公園で明かすことになった。

SASAYANがホームシックを起こしたため石狩川公園へ ここで70台含め3匹釣ったが、釣果に入れる気がしない

 私としては不本意の場所変えであるが、寝床とするテントを立てると同時に竿も出しておいた。

 朝方になってSASAYANがアベレージサイズを2匹釣り、そのあと私に70ジャストがヒット。続いて私に2匹、SASAYANも1匹、いつもの調子で追加していったものの、私としてはこれを釣果に入れる気がしない。今回の釣りのテーマはここの鯉を釣ることではない。気持ちはもう完全に、石狩川本流に持っていかれてしまっているのだ。もちろんこの石狩川公園という沼地も、本気でやってみる価値がある場所だ。アベレージサイズが小さいものの、石狩川本流と直接繋がっているため、何が入ってくるかわからない。

 正午になって、SASAYANの竿に大きな異変があった。ちょっと竿から目を離している隙に、リールに巻かれたラインのほとんどが出し尽くされていたのだ。沼地と合流する水路の中で竿を出していたSASAYAN。ラインは水路から沼地へ出て、そのまま左岸際の私の釣り場を越え、更にC字型になっている沼の奥まで達していた。ブッシュに立ちこみながら高速でリールのハンドルを巻き、それを回収してゆくSASAYAN。しかし、草の塊に絡まってあがって来た仕掛けの先にその正体はない。それどころか、ハリスに使われた5号の巨鯉ハリスは、切れ味の悪いハサミで切ったかのような容で針を失っていた。

少し目を離した隙に、ラインをほとんど出された ラインの先は沼の奥へ・・
 そして回収した仕掛けは巨鯉ハリスが切られていた やられた……

 ほんとうに少し目を離していただけだ。その間にここまでやられるなんて…。悔しそうに項垂れるSASAYANの姿に、生振運河、茨戸公園前での自身の苦い思い出が甦る。その魚が本当に大型でも、意外なほど小型でも、そんなのはどうでもいい。ただ、ここまでやる魚に勝ちたい。そしてその姿を見たかっただけだ。


  午後。SASAYANがアルバイトのため撤収したのを機に、私も竿を畳む。そして昨日3人で見に行った本流のポイントへ向かう。今週は中州で玉砕し、石狩川公園で時間を使ってしまった。勝負は来週末、石狩川本流で本気の釣りをやり切る。SASAYANともそう約束した。それまでに、次の釣りのイメージをじっくりと温めておこう。独り車から降りた立った私は、本流へ向けて底探りのオモリを投げ込む。

 水路との合流点、その左右はワンドのようになっており、葦などの水生植物が生えている。底質は柔らかい砂で障害物は少ないが、所々で流木が底につかえて止まり、水面から顔を出している。それほど水深は浅く、特にワンドの中は、潮が引けば底が露呈してしまいそうだ。これをどう釣れば鯉に会えるのか。魚はどこを通ってくるのか。正直なところ、創成川や望月寒川など小さなフィールドを好む私は石狩川の大きさを恐れている。ここで鯉を釣るにおいてのイメージが固まらないのもあるが、ただ、初めて前にする、轟々と流れる広い水面に圧倒された。

 穂先を収納した底探り用の竿を抱きながら川辺に座り込む。どうすればいいかわからないのなら、勘に頼るしかない。もともと得意ではない理屈云々を一切抜きにして、その場でコレだと思ったやり方で竿を出せばいい。そんなインスピレーションを沸かせるためにも、もうしばらくここに居よう。