釣り日記2011 ルヤンペアシ・コタン 

釣行日 5月28日12時〜
5月29日17時
場所 ポロト湖
時間 天気 雨時々曇り


 この森へ赴き帰らぬ父。悲しむ母子の泣き声は夜のコタンに響きそして途絶えた。夜が明けると母子は姿を消し、そこには二つの湖が現れた。二人の流した涙がこの湖となったのだろう。大きい湖 ポロトは母の涙。小さい湖 ポントは子の涙。

 私達が竿を出すこの場所には、そのような伝説が残されているそうだ。アイヌ語で大きい湖を表すポロトー(ポロト湖)は、森に囲まれた周囲4キロの湖で、その畔には先住民族アイヌの集落(コタン)のかつての姿を復元したポロトコタン(アイヌ民族博物館)がある。

 5月28日午前10時45分。釣行の準備を終えた私は、高橋さんとジュンちゃんの待つポロト湖へ向かった。高速を使って約1時間。太平洋側の空は灰色で、今にも霧が出そうな空気感だ。

 湖へ入ってすぐ、閉鎖された建物の横にジュンちゃんの車と高橋さんのテントが立っているのが見える。これが今回の釣り場・・・。私にとって初めての場所となるポロト湖。いったいどんな釣りになるのだろうか。

  札幌では昨夜から強い風が続いていたが、ここは風がない。車を降りてすぐ、ウグイスの声が出迎えてくれた。鳥の声が鮮明に聞こえる釣り場は久しぶりだ。森のある私好みのフィールド。対岸は丁度ポロトコタンで、チセと呼ばれるアイヌの萱葺きの家が並んでいる。

  ここで一夜を過ごした高橋さんとジュンちゃんの竿には、いずれもアタリは皆無と聞かされた。場所移動を考えさせられる現状に、私は車の荷物を降ろさず、ただ湖面を眺めてイマジネーションに勤しむ。

 去年の今頃にもここを訪れているお二人の話によると、この奥にも入れそうな場所があるらしい。そこへ移動するか、それともお二人にとって思い入れ深いこの場所でやるか。何れにしても私にとっては初めての場所で、まずは手探りの段階からだ。

   初めてのポロト湖。対岸に見えるのはポロトコタン  

  これからについてお二人と相談しているところに、キャンピングトレーラーを牽いた車が止まる。高橋さんの古くからのご友人であり、私も釣り場で幾度か面識のある山口さんだ。フライフィッシャーである山口さんは今回鯉釣りには参加しないが、この釣行中は私達とご一緒してくださる。しかもキャンピングトレーラーという最強兵器を備えて。

  釣りを始める前に、一同は山口さんの車に乗り込んで湖の奥へと散策に出た。狭い林道を走り、降り立ったのは休養林の中にあるキャンプ場。近くには透明度の高い水がせせらぎ、植物の匂いと水の音に癒しを感じる。

 フライマンの山口さんは、この小川で早速短竿を振り始めた。高橋さんがその様子を後ろから眺め、私とジュンちゃんは川面を見ながら歩き出す。するとすぐに高橋さんからヒットの声が飛んだ。キャンプ場すぐ横の小さな川で、そんなに早く魚が出るなんて思いもしなかった私とジュンちゃん。駆け寄ってみるとすでにフライに魚はおらず、ヤマメらしき魚がバイトして首を振って針を外していったのだ高橋さんがいう。すかさず再戦する山口さん。一段下の深みへフライを流す。すると銀鱗煌めく魚が飛び掛り、フライをひったくるのが見えた。ヒットしたのはやはりヤマメ。僅かな時間でポンっと魚を出してしまうのはお見事だ。

フライマンの山口さん。散策中にロッドを振る ヤマメがヒット!お見事。

 この散策を経て、釣り場移動のイメージが大体まとまった。昨夜からお二人がベースを置いた建物横へ戻り、高橋さんとジュンちゃんは出していた荷物をまとめ、私も車のエンジンをかけて目星へ付けた場所へ移動する。林道を少し行った先にあるその場所は、釣りをするには広く場所を取れ、かなりやりやすいように見えるのだが、その前に確認しなくてはいけないことがある。インフォメーションセンターの方からはその場所で釣りをする許可は貰っているものの、問題は私達の釣りの仕方にある。センターの方も、まさか私達がテントを張り、夜間通しての泊まり込みスタイルで釣りをするとは考えていないだろう。再度確認すると、やはりその場所での泊まり込みは辞めてほしいという。うむ、そうか…。それでは仕方がない。釣りができると聞いて、高橋さんもジュンちゃんもタックルをすべてまとめて持ってきてしまっているが、他に多人数で泊まり込みのできる場所は、やはり建物横しか見当たらない。一同元来た道を引き返し、また同じ場所で荷物を広げ直すのであった…。

 散策に出る少し前から、ぱらぱらと雨が落ちてきていた。静かな湖面が打たれて弾ける。場所選びに悩んで時間を費やし、時刻はすでに16時をまわっている。防水スプレーをかけたばかりのジャンパーを着込み、私はここで初めて竿を出す。閉鎖され、廃墟のようになっている建物の横。ここの管理人さんとは、ジュンちゃんと高橋さんが去年来たときに話している上、山口さんもキャンピングトレーラーの使用の許可をもらっている。あとは魚の問題。どのように進行してゆけば会えるのだろうか。

   雨が降りだし、湖面が弾ける  

 竿の並び順は、左に高橋さん、右にジュンちゃん、その真ん中に私が入ることになった。複数人で同じ場所での釣りになるため、入念な底探りなどはしていないが、思ったとおり全体的にフラットで、障害物は石などが落ちているくらい。そしていくら遠投しても石狩川公園のように浅く、水深の変化にも乏しい。オモリを引きずっても水草が引っかかってこないのは、あの魚がいるからだろう。篠津湖と同じように、ここには除草目的でソウギョが放流されたことがあるようだ。インフォメーションで聞いた話によると放流は15年程前。今ではほとんど数はおらず、年々減り続けているという。今年の冬明けにもかなり死体が上がったようで、恐らくもう数年もすれば全滅してしまうだろう。

 どうにも攻めどころが見つからない今回の釣り場。まずはシンプルかつアピール力もあるダンゴを打って様子見といこう。投入は2本ともできる限り水深のある場所まで遠投した。といっても、そこも水深は2メートルもない。

オモリ部(スライドブランチパワー)
小田原(カモフラ)20号

仕掛け(袋仕掛け)
:鯉ハリス(プロブラ)6号
ハリス:鯉ハリス(プロブラ)4号
:ランカーサーモン14号

ダンゴエサ
炒り糠+生糠(5:5) +ハトのエサ+麦茶

食わせエサ
乾燥角芋、カーネルコーン

 透明度は比較的あるほうなので、極力魚に違和感を与えたくない。投入後はゆっくりラインを沈め、水底に落ち着かせた。手軽な落としオモリを使用したいところだが、如何せん石やブロックがバラバラと落ちているのでトラブルを起こす嫌いがある。
 
 投入からすぐ、ウグイらしき反応が出た。少々早すぎる気がするが、なんの反応も掴むことができずにいるよりはいいだろう。私がセットに時間をかけている間に、ジュンちゃんと山口さんは釣り場から歩いてすぐの温泉に入りにいった。高橋さんは延べ竿をもってどこかへ出かけたようだ。センサーをセットしてすべての準備が整ってから、私も高橋さんの後を追うことにする。


 釣り場から少し歩いたところに湖と合流するホソがある。高橋さんはその中でウキ釣りをしているようだ。ルアータックルを片手にホソへ歩み寄ると、高橋さんからストップのサイン。なるほど魚の気配がある。岸際から離れ、迂回するかたちで高橋さんのウキ釣り場に入った。

 水面には鯉の魚影がある。黄色に赤に更紗模様。ここは色鯉が多いのか。そのスクールは湖からホソに入り、高橋さんのエサに興味を示している。延べ竿を置き、一歩引いたところでヒットを待つが、なかなか食ってはくれないみたいだ。高橋さんによると、さっきからずっとこのような感じで、ウキの周りを旋回しながらも食わないのだという。時折ウキが動くものの、エサを食った時のそれではない。警戒している、というかもう見切られているのか。色鯉のスクールはポイントから去り、今度は真鯉が入ってくる。しかし彼らもまた、エサをスルーして通りすぎて行った。ここの鯉はなかなか難易度が高そうだ。これはそうそうアタリを貰うことはできないかもしれない。

ホソでウキ釣りをする高橋さん。岸辺からは極力離れて 色鯉がいる。ここはこんなのが多いのか

 一度上がった雨は再び地面を濡らし始める。山口さんも温泉から上がって戻ってきたので、これを機にキャンピングトレーラーに入れてもらうことになった。雨が降れば皆でここに避難すればいいが、避難場所には豪華すぎる環境だ。綺麗な内装に、水もガスもトイレも使える。ゆっくり食事もできれば、リラックスしながらの談笑もできる。まさに最強かつ最高。

最高かつ最強。山口さんのトレーラー 雨宿り。高橋さんはソウギョ用の仕掛けを作る。

 ジュンちゃんは長風呂しているのか、まだ上がってこない。ここの湯質はかなり良いようで、釣り場はすぐ隣のようなものなので私もいつでも入りにいける。その前にエサ換えや捨て竿を出すか出さないか、出すとしたらどうやって出すか…。いろいろと考えることも多い。

 山口さんは買い出しに出かけ、それと入れ替わりでジュンちゃんが上がってきた。高橋さんはトレーラーのテーブルでソウギョ用の仕掛け作りをしている。私も草針を持ってきているのだが、篠津湖でいつもやっている江戸川式では少々厳しそうだ。篠津湖のように足元から深いのならやりやすいが、ここは岸からゆったりと深くなってゆく形状。岸際はかなり浅いので、増水時でなければソウギョのような魚が岸寄りするとは思えない。それならば胴付き仕掛けなどを使ってちょい投げをすればよいのだが、果たして効率的にどうなのか。水中に草はなく、岸辺の葦もまだ若い。このあたりはオーバーハングも少ないため、ソウギョが草を意識して寄ってくるものかという不安。もうひとつ水温の心配があったのだが、それは大丈夫そうだ。水温がまだ低く、冬籠りから覚めたばかりの状態であれば、いくらソウギョといえども消化の悪い草などは口にせず、エビなどの動物を主に食べるはずだ。しかしここの水温は思ったよりも高く、温泉がわき出しているからか、先ほど高橋さんがウキ釣りをしていたホソではかなり温くて水面から湯気が出ているほどだった。


 雨が小降りになったのを見計らい、釣り場を見に行ってみる。投入直後からウグイの反応が出ていた2番竿はラインが張り、ヒットしてしまっている様子だ。しっかりフッキングしていた20センチほどのウグイを外し、今度は1番竿を回収してみる。こちらも針につけていたコーンはなくなり、乾燥芋はかなり小さく削られている。針のサイズとダンゴの配合を変えよう。ランカーサーモン14号の袋仕掛けをリグケースに仕舞い、チヌ10号のものと交換する。針を大きくして硬いエサを多量に付けられるようにするのと、懐の広いチヌ針のほうがウグイのヒット率を抑えられる(気がする)からだ。ダンゴはベースを変える。香りのある煎り糠ではなく、匂いがなく、大粒の配合量の多い「龍王」を握って袋仕掛けに装着した。投入点は一投目よりも更に遠投してみることにする。すると投入とほぼ同時にウグイの攻撃を受けた。これは相当やっかいだ・・・。

 私がウグイに苦戦している中、ソウギョ用の仕掛けを作り終えた高橋さんはスーパーへエサ用のホウレンソウを買いに行った。こちらはまずこのウグイをなんとかせねばならないので、ソウギョ用の竿のことなど考える余裕がない。投入と同時に攻撃してきたウグイはそのままヒット。そしてもう一本の竿の方にも既に掛かってしまっている様子だ。今度はハリスを長めにとってみることにする。30センチハリスにスプリットショットを打ったチヌ10号に、たっぷりと乾燥コーンと乾燥芋を付けて再度投入。今度はこれまでよりも近めに投げ込んでおいた。おそらく、どこに投げようともウグイは来てしまうのだろうが…。そうこうしている間に高橋さんが買い物から帰り、そのまま温泉へ向かう。温泉の終業時間は早く、もう閉まってしまうギリギリの時間だ。来る前に家でシャワーを浴びたばかりだし、私は明日にしよう。またもやヒットしたウグイを上げながら、今日の温泉をあきらめる。

 初めての場所では使い慣れたダンゴでいきたいのだが、まさかここまでウグイにやられるとは思っていなかった。結局食わせを20ミリのボイリーに変え、このまま放っておくことにする。これまで釣れているウグイのサイズなら、20ミリもあればヒットを免れるだろう。やっと落ち着いた頃には、高橋さんが温泉から帰ってきていた。辺りはいつのまにか暗くなっており、雨は降り続いている。ソウギョ用の竿を出すのも諦めよう。この時期のソウギョならダンゴでのヒットの見込みもあるし、そもそもここには狙って釣れるほどの数のソウギョはいないと考えておいたほうがいい。

 ヘッドライトを頭から外し、一息つく。これでなんとか落ち着けるか…。ウグイの猛攻による打ち返しで、いくつのダンゴを投げ込むことになったのだろうか。ほとんどウグイに食われてしまっているのだろうが、鯉の警戒心が強いことは高橋さんのウキ釣りを見ていてわかった。ここからは極力ダンゴを打つペースを抑えよう。ボイリーが食わせなら、長時間置いておいても問題ないはずだ。

 トレーラーに戻ると、嬉しいことに山口さんが夕食を準備してくれていた。チキンに野菜スティック。普段の釣りでは、綺麗に皿に盛られた料理を食べるなど考えてもいないことだ。一口目を飲み込んでから初めて空腹であることに気付く。ここまでウグイにゴハンを食わせてやるばかりで、自分の食事のことなどすっかり忘れていた。


  美味しく楽しい宴のあとにはコーヒーも頂き、釣りの最中の自分の食事にこんなに充実感を得られたのは久しぶりだ。談笑の続く中、ひとり外の空気を吸いにトレーラーから出る。結局、明るいうちはウグイにかかりっきりで、散歩もできなかった。雨さえ降っていなければ、夜の林道で蛙の声を聞きながら歩くのも良いのだが、そんな悠長なことをことをしていてはずぶ濡れになる。

 街灯が点在するものの釣り場はほとんど真っ暗で、対岸のコタンの遊歩道だけが明るく、湖面に浮かんでみえる。この神秘的な絵を写真に収めたかったが、この雨で三脚を立てる気もうせてしまった。

  アタリは遠く、3人のどの竿にも変化が現れぬまま丑三つ時に入った。ウグイがもう少し大人しくしてくれていれば、他に攻めようがあったのだが・・・。明るくなったら、色鯉のスクールがあったホソの入り口にでも捨て竿を置いてみよう。夜が明ける少し前まで宴会は続き、そろそろ眠気も出てくる頃。フライマンの山口さんと、フライフィッシングの経験もあるマルチアングラーのジュンちゃんは、夜食の皿の片付いたテーブルの上で毛針を巻いている。来週は高橋さんも含めた3人で渓流へ行く計画を立てているそうだ。鯉釣りの仕掛け作りに慣れてしまった今の私の手に、この作業はできるだろうか。しかしこのような細かい作業は好きなほうで、やり始めたら時間を忘れて没頭してしまいそうだ。

 最近、パソコン画面に長時間向かっていることの多い普段の生活で、視力もめっきり悪くなってしまったと感じる。お二人の作業を見ているだけで目がしょぼつき、同時に眠気も強く感じるようになった。もうすぐ明るくなる頃だし、そろそろ寝るとしよう。高橋さんはトレーラーに残り、山口さんと共にここで就寝。私とジュンちゃんは自分の車に戻って、それぞれ寝袋に包まった。

フライを巻くジュンちゃん。高橋さん寝てる? ジュンちゃん作

  早朝に林道を散歩するつもりでいたのだが、すっかり寝過ごしてしまった。とはいえ雨は小降りの状態で止まず、目を覚ました午前9時頃になってもしつこく降り続いていた。

 トレーラーに入ると、高橋さんと山口さんがすでに起床して、寝具を片付けていた。そのあと山口さんが作ってくださったホットサンドとコーヒーをご馳走になり、優雅すぎるくらいの朝食を楽しみながら、雨が上がるのを待つ。予報では午後には上がると出ていたので、それがなれば捨て竿のセットと徒歩での散策をしてこよう。

  朝のエサ換えで回収した仕掛けにはやはりウグイの痕跡が残っている。1番竿のボイリーは齧られたあとがあり、2番竿のものはヘアからなくなっていた。新しいボイリーを袋から出し、また小さなダンゴをつけて投入しようとタッパーの中をみると、雨水がたまり、その中で作り置きのダンゴが見事にバラケていた。仕方なく新しく龍王を作り直し、バラケてしまったダンゴは高橋さんがコマセに使うと貰ってくれた。

優雅すぎるくらいの釣り場の朝 作り置きのダンゴが・・・

  雨が上がったとみるやすぐ、捨て竿の準備に取り掛かる。ホソの入り口にバンクスティックを立て、2本並べたシーバスロッドの先には1本針コーン。警戒心の強い鯉を浅場で相手にするということで、望月寒川でやるのと同じ要領でセットを進めた。カーネルコーンをポイント周りに軽く手で撒いたら、これはこのまま放置。ヘタに近づくわけにはいかない。

  ここまでやってみたはいいものの、この捨て竿にもヒットの期待はできずにいた。高橋さんも、さっきのバラケたダンゴやパンを撒いてみたりと、ホソに入ってくるスクールにアプローチをかけてみたようだが、反応はなし。パンを撒いた際には、着水音に驚くわけではなく、流れてきたパンを見た瞬間に一斉に逃げ出して、全てのスクールがホソから出て行ってしまったという。現段階でも私が撒いたコーンの周りに鯉が数匹いるが、見向きもしてくれない。これは単なるプレッシャーなのだろうか。警戒心が強いのは間違いないが、そもそもエサを意識しているのか・・・。泡付けや捕食行動もせず、彼らはただ悠然と泳いでいる。ここはエサを食う場所ではないのか、単なる産卵場所の下見なのか。食うとすればそれはいつ、どこで・・・。すぐに正解を出せるとは思っていないが、その糸口すら見えてこない。

   色鯉のスクール  

 高橋さんは山口さんと共に車に乗り込み、上流へと向かった。それは来週行われる渓流釣りのリハーサルで、ウェーダーを穿きこみフライフィッシングのスタイルで出かけていった。釣り場に残った私とジュンちゃんは、今回もジュンちゃんの車でくつろいでいる釣り猫の雨音ちゃんとカロちゃんと遊びながら軽い立ち話をする。

 雨が上がったのはいいが、ここからどうしようもない状況。ヘタに新しいポイントに新しいエサを打てばまたウグイの猛攻に苦労させられることだろうし、ホソに入ってくるスクールを相手にしようにも、今回はこれ以上やりようがない。あとは終了時間までひたすらチャンスを待つしかないのだろう。


 抱いていたアマにゃんが車に戻りたがったのを機に、私はルアータックルをもって近くを散策に行く。昨日車で通った林道をゆっくりと歩き、時々スプーンを流しながら場所見をしてゆく。思ったとおりにどこも似たような場所ばかりだ。所によっては岸際の水深が違う所や、リリーパッドのあるところもあるが、いずれにしても遠浅で、今竿を出している場所と大差はない。ルアーには時々ウグイがヒットしてくるが、トラウトロッドではなく、底探り用のロッドを持ってきて、この時間を使って丹念に探ったほうがよかったかもしれない。


 ある程度林道を上ったところで、上流から帰ってきた山口さんと高橋さんが乗る車とすれ違った。渓流釣りのほうも特に目ぼしいポイントはなく、まだ新しい熊の足跡を見つけて引き返してきたらしい。私はもう少し林道を進み、沼の先端が見えてきたところで来た道を戻る。このように自然味あふれる光景は私のフィールドにはない。そんなところで釣りをするというだけで十分楽しむことができるが、ここの鯉を本気で釣ろうとなればどうするべきか…。


 16時。そろそろ帰り支度をしなくてはならない。寄せエサもろとも鯉に無視され続けた捨て竿を回収し、車の中の寝袋も丸める。今回は複数人でその場で泊まり込みをしながらやるという条件での釣り場選びであったが、本気でに釣ろうと思えば、釣り場選びに贅沢をいっていられない場所なのかもしれない。釣れる条件は限られているのだろう。どこに入れても魚が食いに来てくれるという感じでもなさそうだ。効率的に釣りを進行させるには、まずはポイントの見極めから。それも荷物を制限し、泊まり込みの概念を捨て、担ぎ込みでどこにでも入る覚悟で。複数人でやる場合も、各々ポイントへ散り、昼間だけの釣りをする。暗くなったらベースに集合し、それぞれが集めた情報を交換、朝になったらまた第二回戦に出る。北海道に数多く点在する未知数のフィールドを攻めるなら、そのような感じでやるのもいいかもしれない。

 最後に、今回も全員並んで集合写真を撮る。人懐っこく好奇心旺盛の釣り猫雨音ちゃんは高橋さんに抱かれてカメラ目線。普段は怖がって寝袋の中から出てこないカロにゃんも、ジュンちゃんに抱かれてフレームに入ってくれた。


 結果は全員ボウズ。高橋さんが入れたソウギョ仕掛けのホウレンソウや葦にも、食み痕はなかった。

 さて、今度ここに来るときはどうやってやろうか。リベンジを果たすべく、また闘志に火が付き始めた。これだから鯉釣りはやめられない。そしてもう一つ、私個人的にやり残しているのは、この近くにある錦大沼での釣り。2005年の釣行で鯉の姿を多数匹確認したもののヒットには至らず、08年にリベンジを目論むも、大雨に降られ、釣り場前の傾斜で盛大にコケて意気消沈。これをなんとかしてやりたい。この夏はできるだけ余暇を田舎で過ごしたいと思っているので、このあたりにも出没することになるだろう。今回の釣行は、その下調べとしては十分なものになったと思える。