釣り日記2011 冷たい金色 後編 

釣行日 5月2日午後8時〜
5月6日午後6時
場所 創成川 伏籠川合流点
時間 天気 雨のち曇り 北西の強風

 第二部 5月3日夜〜5月5日夕

 一時帰宅から釣り場に戻った時には、既にもうすぐ日付が変わるという頃になっていた。
 前夜と変わらず、星の見えない空と湿った空気の匂い。違うのは比較的波紋や小さなモジリが見られるようになった事だろう。釣り場にはTadashiくん一人だと思っていたのだが、海釣りから帰ってきたSASAYANがここに寄ったようで、テントの中からは二人分の声が聞こえてくる。

 竿の様子はどうか。1番竿の仕掛けが回収されているのは、私がいない間にヒットがあり、Tadashiくんが代わりにやりとりをしてくれたからのようだ。

 さぁ、第二回戦。とりあえず今入っている仕掛けをすべて回収する。まだジャミの活性も低いようで、ミルワームもダンゴの食わせもそのまま針に残された状態で返ってきた。本命竿2本は同じ内容のエサを小さく握って昼間と同じように打つが、捨て竿の二本はエサを変えてみることにする。何の役にも立たなかったミルワームを針から外し、次に取り付けたのは低活性時の特効エサの川エビ。これは一時帰宅の前に仕掛けたカゴで捕ったものなのだが、まだ水温が低いからか、カゴに入ったのはたったの4匹。2本針仕掛けに1匹ずつ付けて、2本の捨て竿で使えば、一投目で使い終えてしまう数だ。その2本を川の真ん中と対岸近くに打ち込み、これで準備完了。捨て竿は釣れても釣れなくても、エビがなくなってしまったら、また別のエサを考えよう。

 投入してまだ3分も経たないが、早速捨て竿に反応が出た。次のエサ換えに備えて新しいダンゴを作っていると、アラームの音。点るオレンジ色のランプは対岸スレスレに打ち込んだ右の竿のもの。タオルで手を拭いながら竿に駆け寄るまでに、かなりのラインが出されているのがクリック音とそれに連動する電子音でわかる。さすがエビ、使えばこうもアタリが早い。そして魚はなかなかの重量感で、ドラグを締めてからもクリックは鳴り続いた。

 左の竿のラインをまたいで上流へ走った魚は、そのまま下流へ下ることなく、水面に現れた。暗いのでよくわからないが、良いサイズなのではないだろうか。こうなると、夕方のお騒がせ事件を思い起こして、またラインに絡まって暴れているだけなのではないかと思えてしまうが、今度はヒラマサ針がしっかり口にフッキングしている。水面で腹を見せた魚影は、一瞬ナマズを思わせたが、これは鯉。それもかなり良いサイズ。Tadashiくんがそれをネットに捕え、ライトの光が明確に魚の姿を映し出したとき、自己記録更新を確信した。

 検寸板に乗せた時、念願の90に届いているかと思ったが、1センチ足らず、サイズは89センチだった。それでも自己記録を3センチアップしており、2003年からタイで留まっていた記録をやっと更新できたことになる。一時帰宅から釣り場戻って間もない、捨て竿一投目直後のこと。あっけない更新であり、感慨を得るのに少しだけ時間がかかってしまった。

投入から3分待たずにヒット あっけない記録更新 89センチ

 この記念の魚をリリースする少し前から、雨を肌に感じるようになった。
 午前0時、いよいよ本降りになった雨をしのぐため、今夜はTadashiくんのテントを避難場所にする。89を釣った捨て竿は打ち返しをせず、すでにエビを取られてしまっていたもう一本の捨て竿の方も回収して、そのままバンクスティックに立て掛ける。あとは本命竿に任せ、捨て竿は明日雨があがれば、また活躍してもらうとしよう。

 海釣りで疲れたSASAYANは、また明日来ると言い残して帰っていった。その後はTadashiくんと二人、ラジオの音をBGMにテントで雨夜を明かす。打ち付ける水の音はさほど強くはならないものの、時間を忘れて談話に耽った今も仕切り無く続いている。

 Tadashiくんのバイトアラームからも、私のセンサーからも、あれから報せは届いていない。体に疲れが溜まっていることを覚えた私は、この雨の中で餌換えをする気にもならず、そそくさと自分の車へと戻った。空は知らぬ間に青白く、もう3日目の朝に突入していることに気づかされる。これだけ釣りを続けていても、まだまだ時間はたっぷりとある。こんなにゆとりのある釣行は初めてのこと。それであっても、今後の時間を極力無為にはしたくないものだ。例年より少し遅れたシーズンインは、私にとってのこの冬を一層長いものにさせていた。そして今、釣りに来ているという事を噛み締めるようにして時間を使っている。もちろんここからもそれを続けたい。気力を回復させるため、少し熟睡しておくとしよう。釣る為にも楽しむためにも、頭をすっきりとさせて臨むのが理想だ。

 目を覚ましてもまだ雨は降り続いていた。車内から見る釣り場の光景にTadashiくんの姿はなく、他の釣り人もヘラ師が2人、パラソルの下で竿を振っているのみ。外に出てよく見てみると、川の水は昨日の夕方からかなり減っているようだ。冠水していた対岸の欄干も、伏籠川の岸辺に横たわった木も、今は完全に露出している。

 私はセンサーに起こされることなく熟睡していたが、Tadashiくんの方はどうだったのだろう…。とりあえず、一晩中入れっぱなしである本命竿を回収してみる。針にそのまま残され、大きくふやけた食わせのレーズン。ジャミの活性すら低い状況であることがわかる。

 少し様子を見た限りでは、上流のヘラ釣り師のウキへも反応が薄いみたいだ。それでも打ち返してただひたすら待つ以外ないだろう。エビのストックはないし、今からではもう捕れない。引き続き、作り置いたダンゴをタッパーの中から取り出し、袋仕掛けに装着。配合は「白虎」とこれまでより少し多めの「スーパーワンスペシャル」。粒子が細かくアピール力のあるたこのエサは、低活性に備えて昨晩握っておいたもの。玉のサイズは鶏卵よりも少し大きい程で、まずはこの小さなダンゴを打ち込んでおいて、しばらく様子を見てみる。

雨は降り続いているが減水している 一晩入れていても食わせのレーズンがそのまま
 今まで浸水していた場所にロッドポッドを 小さく、粒子の細かいダンゴで・・・

 テントから出てきたTadashiくんに話を聞くと、食わせとして付けていた缶詰のコーンが長時間ジャミに悪戯されることなく、針にそのまま残っていたと、私のレーズンと同じことを言っていた。それでも私が寝ている間に鯉と70のナマズを上げたというのでさすがである。

 打ち返しを終えた私は気分転換に竿の角度を変え、Tadashiくんも昨夜まで浸水していた伏籠の岸部までロッドポッドを降ろしていた。

 昼過ぎまで沈黙していた釣り場に動きをもたらしたのは、Tadashiくんの捨て竿だった。雨が弱まり始めた時、突如アラームが鳴り出し、上がったのはアベレージサイズの鯉。これを皮切りに何かが変わってくれると嬉しいのだが。

アタリが遠い中Tadashiくんの捨て竿にヒット アベレージクラス

 14時。様子見にためにTadashiくんとともに対岸へ渡ってみる。雨が弱まると同時に風の無くなった対岸は静かで、昨日まで浸水していた岸際は深くぬかるんでいた。比較的透明度の高い創成川の水の流心となる部分では底近くの様子まで見えるが、魚の気配はやはり薄い。これでは状況が変わるまでもうしばらく待つしかないようだ。

 Tadashiくんは土手の土を掘り、ミミズを探している。これからの釣りで生エサとして使うつもりなのだろう。今日のこの状況ではミミズのようなエサでも使いやすいであろうし、もっとも効果的かもしれない。私も夜になったら、もう一度エビを取ろう。籠を仕掛けていたのでは効率が悪いので、ヘチに寄って来ているところを直接網で捕る方法がいい。確か車の中に虫網がいくつかあるはずだ。

   ミミズを掘る・・・  

 昨夜言っていたとおり、SASAYANが釣り場に再来した。それを機に、食糧の補充をするため私はTadashiくんと買い出しに行くことにして、SASAYANに留守番を任せる。

 車で数分のところにあるスーパーで今夜から明日のための食品と飲料を買い込み、そのついでに近くの釣具店へも立ち寄った。そこで見つけたある商品。タモ網のコーナーに何気なく置かれていたそれは、鯉釣りに使用するのにとても都合のよいものだった。安価で良品の三角タモであり、今日の朝、使っているタモを破損させてしまったというTadashiくんには好都合な物。迷わずそれをその場で購入し、早速釣り場で柄を伸ばしてみるのだった。

 釣り場に戻ると、釣りの準備を始めるSASAYANといつの間にか遊びに来ていた伊藤君の姿があった。SASAYANは私の上流で置き竿を並べ、さらに得意のランガンへも出るつもりのようだ。それほど今の釣り場は落ち着いており、霧雨があるものの、あれだけうるさかった風はなく、荒んでいた水面は真っ平らなベタ凪へと姿を変えている。

 波が消えた水面には無数の波紋。そして鯉の跳ねも出るようになっていた。活性の向上を裏付けるようにTadashiくんのウキ竿のアラームがなり、箱から出したばかりの新しいネットに小鯉が入った。

 そして30分後、私の2番竿にも小さなアタリがあったと伊藤君が知らせてくれた。センサーを鳴らすまでの引き込みはなく、しばらく待ってみるがそれ以上の反応はない。ヒットに至らなかったのか、それともすでに小さな魚が掛かっているのか。結果は後者であり、こちらも正体は50台の小型。

準備中のSASAYAN、その向こうに遊びに来た伊藤君 Tadashiくんが買出しで即買いしたタモ
   
 Tadashiくんのウキにヒット 買ったばかりのタモへ魚を誘導 
 このタモで掬った最初の鯉 私の2番竿にも50台 

 薄暗くなるこの時間、アタリはまだ続いていた。
 対岸の泥濘に立ちこみ、ひとり浅瀬を狙ってランガンをしているSASAYAN。こちら側では私達3人でスローイングスティックを振り、対岸の彼にバズベイトをぶつけようと試みているところに(考えると結構危ないので絶対にマネしないでください)竿鈴の音が聞こえてきた。SASAYANの置き竿にアタリ。手を振ってSASAYANに知らせるものの、その間にリールからはラインが出されてゆく。トラブルを避けるために伊藤くんが代わりに竿を持ち、Tadashiくんがタモを構える。竿主のSASAYANが戻ってくる前にランディングしてしまったが、ここまで小型が続いている中、上がったのはアベレージオーバーの鯉だった。

ランガン中のSASAYANの竿に!伊藤君が代わりに・・・ 2人の写真うつりがシュールな一枚

 三度目の夜。この釣行最後の夜空が広がった。明日まではなんとか、静かに過ごさせてもらえそうだ。ここまでアタリが続き、魚の活性も悪くない。

 テントでお菓子を貪っているところにTadashiくんの受信機が反応。アラームの鳴り方から、かなりの勢いでラインが出されていることがわかる。Tadashiくんの本命竿、それも一発大物狙いの竿にヒットした魚は、伏籠川の沖へとラインを走らせた。タモに入ったその姿を見て、思ったほどの大きさではないと竿主は呟くが、これも70クラスでアベレージオーバーだ。

Tadashiくんの本命竿に!アラームが激しく鳴った 70クラス

 この一尾でテントを飛び出したのを機に、私達はエビ捕りを始める。懐中電灯で岸縁の水中を照らし、エビの姿を探すと、ほどなくして壁を這う二つの目が反射する。しかしその数は去年の同じ時期に比べてもかなり少ないようだ。一箇所で捕れる数はほんの1、2匹で、頻繁に移動しながら網を入れて行く。

 その途中、また私の竿に小さなアタリがあった。センサーは鳴らず、1、2度の軽い引き込みでその反応は終わってしまったが、先ほどと同じように小型の鯉が付いている。このように食い気があり、魚数も入っているが、しっかりと明確なアタリを出さないのは低活性の現れなのだろうか。

 多少時間と手間はかかったものの、いま竿を出している3人で明日まで使うには十分な量のエビを確保することができた。私は前日と同じよう、早速捨て竿の針にエビを付けてポイントへ送り込む。しかし今日のこの状況ならば、見込めるのはこれまで釣ってきたようなサイズの連発で、昨日のような大当りの期待は薄い。低活性時で、変に食い気と魚数が多いコンディションならば、大型の確立は逆に低くなると思われる。もっとも、人の予見を遥かに超えたところに結果が出るのが釣りというものであるが…。

みんなでエビ捕り これだけのエビを確保。早速針につける。
 センサーすら鳴らさなかった小鯉 三日目の夜 

 面白いことにSASAYANは、7メートルの述べ竿にフロート仕掛けを付けたものを竿立てに掛け、置き竿にしていた。エビ捕りを終了して間もなく、その述べ竿に付けられた竿鈴が激しく鳴り響く。リール無し一対一のファイトシーンへの期待を胸に、SASAYANの後を追って竿へ駆け寄るが、残念ながらアワセと同時に口切れするという悔しい結末に終わってしまった。そそくさと車に乗り込み、帰ってゆく伊藤君を背に、SASAYANはヒートアップ。次なるチャンスを求めてリグを入れなおした。

   SASAYANの述べ竿にヒットしたが・・  

 予想外にもこの夜はゆっくりと更けていった。一投目から早い段階で小物のアタリが出ると思われていた捨て竿は、午前0時を回ろうとする今も未だ反応を捉えていない。私の本命竿もTadashiくん、SASAYANも同様である。

 テントに潜り込んでいた私たちはお馬鹿な話に花を咲かせ、だらしのない体勢で座りながらお菓子をつまんでいた。しょうもない会話が電子音に遮られることはなく、徐々に空気が温度を落としていく中、ストーブを囲んだ談笑は続く。SASAYANはこれから家族関係の用事があるから早く帰りたいといいつつも、テントを離れない。全員が時間を忘れたひと時だった。

 午前1時。いい加減親に怒られるからと、釣り場を後にするSASAYAN。彼を見送るためにテントから出てみると、釣り場を流れる外の空気はやはり冷たい。結局、SASAYANの述べ竿の時からのアタリは無し。今夜も早く寝ろということだろうか。

 午前2時。久しぶりにこの音を聞くことができた。Tadashiくんのウキ竿にアタリ。手前でヒットして横に走った40台は、私の捨て竿のラインに盛大に絡まった状態で上がってきた。それを機に、捨て竿のエビ餌のみ交換。本命竿のほうはそのまま放置することにした。

 すると30分後、捨て竿にアタる。これもまた隣のラインに盛大に仕掛けを絡ませながら上がってきてしまった。この寒い夜中に、絡まったラインを解く作業は楽ではない。すべて元通りに直したら、手早くバケツの中のエビを針付けして、テキトウに放り込んでおいた。

 続いてまたTadashiくんのウキ竿のアラームが鳴る。だがこれは空アタリだったようで、仕掛けに魚の気配はなかった。するとまたしても私の捨て竿にヒット。思わず「おい、マジかよ」と呟いてしまうほどにラインを盛大に絡ませたこの魚も40台。やっぱり、釣れてもこのサイズだ。今日はここまでにしておこうか…。このままアタリが続いてくれても、今度は私たちが眠れないし、こう毎回仕掛けやラインを絡ませてもらっては大変だ。ここで捨て竿2本を回収し、投入せず明日まで置いておくことに決めた。本命竿があるし、そろそろ眠らなくては意識が持たない。午前3時すぎ、車で敷きっぱなしの寝袋に包まり就寝。このまま目覚ましのアラームにも気づかず、ぐっすりと寝付いてしまうことになった。

   目を覚ますと日は高く、へら師が集まっていた  

 目を覚まし窓の外を見ると、思った以上に日が高く上っていた。昨日夕方に霧雨が止んでから雨はなく、多少風の強さは戻っているものの、空は青い。

 釣り場の上流は賑やかで、へら師が台を並べている。最終日…とはいっても本来の予定なら午前中には引き上げるつもりだった。しかし時計が指す時間からして、それはもう無理だろう。これから飯を食ってもたもたしているうちに時間はどんどん過ぎてゆく。まぁ、仕方がない。特別用事があるというわけでもないので、もう少しのんびりしていよう。

 昨夜からほったらかしの本命竿はこれまでと同じように餌換え。捨て竿の方も、残りのエビを付けて再投入しておいた。これだけ周りに人が入っていたら、プレッシャーも高いはずだ。期待はしていない。今回はもう十分過ぎるほどに楽しんだし、この3日間で散らかした荷物をまとめていこう。

 釣り場の片付けを頭にしながらも、護岸に座り込んでパンをちぎりながら、私のすぐ横に入っていたヘラ師のおじさんの釣りを眺める。大型のヘラがよく動いているようで、私が見ている前でも40クラスを連続ヒットさせていた。こうしていると、ヘラ釣りもやりたくなってくる。もう何年へら台に座っていないっことだろう。中学生の頃にもっていた台は小さくて、小柄な私でももうまともに座れそうもない。新しく台を買うか、それとも即席でなんとかするか、今度時間があるときに、懐かしいモエレ沼のポイントにも出向いてみよう。

 そんなことを考えていると、捨て竿のアラームが鳴った。竿を手にしてみるが、その先に魚がいる感触はない。仕掛けを上げてみると、エビの殻が僅かに残っただけの状態の針が返ってきた。

   40クラスを連発した隣のへら師  

 昔はよく、3連泊くらいの釣りをしたいと言っていたものだが、実際にそれをやるようになると、その時間は私には少々長すぎるのかもしれない。今回のように仲間との釣りであれば喜んでやるが、これが単独の釣りならどうだろう。最初からセンサーまかせでテレビを見ていたり、果報は寝て待てスタイルなら持つかもしれないが、私は無駄に動きたがる性分をもっている。一人なら特に、落ち着きなく動き回って遊んでいたり、釣りの内容を変えてみようといろいろ試してみたり、とにかく忙しないのが自分でもわかる。それを数日連続でやっていれば疲れてもくるし、仕舞にやることがなくなれば無為に時間を過ごすだけとなるだろう。私には竿ではなく、空想で釣りをする時間が必要だ。その空想の時間がモチベーションに繋がって、実際に竿を出す時間を有意義に感じることができる。ただ竿を出すだけでは満たされない自分の釣りが見えた気がした。そしてその悪い面を見た気もしている。今回自分ひとりだったならモチベーションが続かず、半分以下の釣果になっていただろうし、3日夕方に一時帰宅してから、次の日の朝まで戻ってこなかったかもしれない。もしそうだったら当然、今回の自己記録には出会えなかったはずだ。Tadashiくんが釣り場にいるから、早く戻りたいという気持ちが湧いた。それがなければ、あの時間よりも戻るのが遅ければ、あの魚に巡り合うことはなかったのだ。前々から思ってはいたけど、一人でやる釣り、仲間とやる釣り、それぞれ分けて意識して、大切に行うことが私にとって重要なのだろう。


 ここまで何度のアタリがあったのか、それぞれ何匹釣ったのか、3日間で小物を連発させていたらもう記憶するのは難しい。

 引き揚げ準備の進む中、Tadashiくんのウキ竿にアタリ。そして私の捨て竿にも、これまでと同じようなサイズの鯉がヒットした。水温も冷やされたままで、軽く触れた金色の体も冷たい。

 小型はかなりの数いるようだが、本命竿にアタリはない。二人で寄せエサを打ちすぎてしまっただろうか。生エサや寄せ無しのシンプルなエサにばかりヒットしているし、アベレージも上がらない。今回はここまでか…。

Tadashiくんのウキに。 私の捨て竿に。このサイズを何匹釣ったかわからない

 もう一本の捨て竿も回収してみると、カワガレイが針を飲み込んでいた。フッキング時になにかしらの反応はあったのだろうが、全く気付かなかった。いつヒットして、どのくらい放置していたのだろう。エサ換えのペースを落とし、片付けに専念している今は知る由もない。

捨て竿についていたカワガレイ 今回の釣りも終了へ・・・

 全ての竿を回収し竿立てにかけたら、3日間で汚れたグリップをタオルで拭いてやる。これらはもう再投入することはない。ラインからスイベルを切り離し、それをリグボックスのある土手上へと持っていく。これで今回の釣りは終了。Tadashiくんも竿を収め始めている。すべての荷物を収納させた私は、まだ片付け中のTadashiくんに挨拶をして、先に釣り場を後にする。今回は本当にいろいろなものを得ることができた。

 例年に比べて、この春は一ヶ月近い遅れがあるのではないだろうか。もうヘラや鯉が叩いていてもおかしくないという頃なのに、水中は…いやこれでは陸上もまだ冬みたいなものだ。次週には少し暖かくなっているだろうか。次もこの近辺での泊まり込みを予定しているので、そう願いたい。釣り場を背に吐く息は、かすかに白く残って流れていった。