鯉釣り日記2010 本気

釣行日時 10月2日
午後12時〜20時
釣行場所・ポイント名 望月寒川
 予想外の残暑が感覚を狂わせ、夜間がいくら冷え込んでも、もう冬が近いということを体がわからずにいる。まともな釣りができなかったこの2ヶ月近い月日がとても早く感じているのは、つい最近まで暑いと思わせていた季節感から一転して、急に秋らしくなってしまったからなのだろう。気づいたらもうシーズンオフが間近にせまっていた。

 前回釣行からこれまで、一度も釣りをする機会がなかったわけではなく、2回ほど新しいポイントを探しに出かけていた。しかし見事に挫折してしまい、釣行記として書けるようなちゃんとした釣りができず、それもあって例年にないほどに更新が滞ってしまったのだ。2ヶ月近いこのブランクは、大きなフラストレーションとなっていた。一日ゆっくり時間を使い、ボウズでもなんでも、納得のいく釣りをしたい。今回のテーマは充実感。どんなコンディション下でも、一つのフィールドを本気で釣る事ができればよい。

 10月2日午前10時、予定よりも少し遅れながら土手に下り立った。知らない場所で竿が出せる場所と魚を探すのに時間を使ってしまうのには懲りているので、今回は自宅から一番近い距離にあり、既によく知っているフィールドを選んだ。月寒川と望月寒川の合流地点。魚が居ても居なくても、今日は一日ここで過ごすと決めている。

 駐車できるスペースに車を止め、まずは偏光グラスと、タッパーに入れたカーネルコーンを持って川を見に行く。ここに来ると、いつも一番最初にコンディションを探りにいく合流点付近の淀みには、60センチクラスの鯉が数匹見られた。ここより下流ではあまり思わしい場所はないので、今回釣りをするフィールドの最下流がこの合流点となる。

 とりあえず、今回エサに使用するコーンに慣らすため、柄杓数杯のカーネルコーンを撒いておいた。次に、ここでそのまま竿を出すか、それとも月寒川の上流でやるか、或いは望月寒川の上流でやるかを決める。水量が安定しているのは合流点と、上流に排水場のある望月寒川だ。月寒川にも鯉がいるが、水が停滞しやすく、今日は水位が低い。これから潮が引けばさらに浅くなってしまうことだろう。また排水場からの温排水はなく、朝夕に冷え込むこの時期は水温が下がりやすい。何より浅いということは、魚にこちらの気配を感づかれやすいという厳しさがある。あえてそんなシビアな釣りをするのも面白いのだが、久しぶりの釣りだ、危険な賭けはやめておこう。ただでさえここの鯉は警戒心が強いのだ。となれば合流点か望月寒川となるが、合流点はどうも、根掛りがひどいという嫌いがある。鯉にとっては良いエサ場になっているのだが、無駄なトラブルでその好ポイントを壊してしまうことになれば台無しだ。ここは良いポイントを敢えて外し、そこから入ってくる鯉をこっそり待ち伏せるのが吉だろうか。

 もう一度合流点のエサ場にカーネルコーンを撒いておき、そこから望月寒川の右岸を辿ってポイントを探す。望月寒は流れが強く、切れた水草などもよく流れてくるので、流心を狙うのはかなり厳しい。今年春に釣行した時と同じように、望月寒川右岸の、削られた岸際の形状を利用して、そこにできる水の淀みや、反転流を狙うとする。合流点の少し上に良い場所を見つけ、ここに荷物を降ろすことにした。まずはここにもカーネルコーンを少量撒いておいてから、ゆっくり竿を伸ばそう。

ここを今回の釣り場に決めた ヘアリグにコーンをつけて

 ポイントは岸際で比較的深く掘り込まれ、水深がある。これなら潮の影響で水位が下がっても問題ないだろう。この形状に当たった水は反転した流れを起こし、ゆるやかに動いている。生まれたばかりの小さな魚達が、甘いカーネルコーンの香りに誘われて集まってきていた。魚っ気もあるし、流れに逆らいながら合流点からのぼって来る鯉は、間違いなくここでエサを探すはずだ。

 1番竿は流れと淀みの境に、2番竿は木陰になる岸際に入れることにした。仕掛けは捨てオモリにした管付き固定式に、ヘアリグを組み合わせたもの。オモリはカモフラージュカラーに塗装した15号で、ハリスはPE3号15センチに、針上から4センチの所にスプリットショットを打ってある。ハリはチヌ8号。エサは最初、焼酎漬けにした硬茹でのコーンをつけたが、到着時に撒きエサしたカーネルコーンを、そのままヘアリグにつけることにした。このカーネルコーンはかなり柔らかいが、それは中身だけで、皮膜は硬さを保っている。小さな魚に突付かれた場合、硬いコーンは割れてしまうことがあるが、柔らかければ突付かれた時のショックを吸収し、皮膜だけ十分な硬さがあれば意外と取れないものだ。投入後は落しオモリでラインを沈めるが、この落しオモリもアルミ線で捨てオモリにしている。ラインへの装着は、すべりの良い大型のエイロロックスナップを使用。

 2本の竿を低めの角度で並べたら、センサーをセットして少し離れたところでアタリを待つ。釣り場や水面の様子を見に行く時は、抜き足差し足が鉄則。ゆっくりとポイント選定をしていたので、開始時刻は正午。しかしここからは時間を忘れて釣りに徹しよう。空模様は最高の秋晴れ。10月とは思えないほど気温が上がり、薄着のまま椅子にかけてじっとしていられる。久々に、釣りに来ていると実感できた。

合流点で警戒心を解き、上で待ち伏せる作戦 鯉のエサ場となる合流点
   
 流れの激しい望月寒川  ゆったりと流れる月寒川

 ノックするかのように2番竿の穂先を2度押えたのは、15センチほどのフナだろう。投入時に水面を覗くと、小魚に混じってフナが数匹寄っているのが見えた。カーネルコーンに群がる小魚がかなりいるようなので、撒きエサの打ち返しは早めに考えておこう。今年4月17日に行った同所での釣り「三度目の正直」では、少量のカーネルコーンをポイントだけに撒き、コーンの即効性に任せた待ち伏せの釣りだったが、今回はより多くの鯉にコーンに慣れてもらうべく、溜まり場になっている合流点を中心に撒きエサをしている。この撒きエサの量が多すぎれば、食い渋りや警戒を招き、少なければ小魚に取られるばかりで効果のないまま終わってしまう。小さく狭いフィールドほど、一度のフィーディングで使うカーネルコーンの配分が難しくなる。

 開始から1時間が経過。小魚の多い中なので、仕掛けとエサのチェックをするが、特に問題はなく、このまま入れておいても大丈夫そうだ。カーネルコーンはもう一度、さっきよりも多目に撒き直しておいた。偏光グラスで見ても、最初に打ったコーンがかなり無くなっているのがわかる。コーンに対する警戒心を解きながら、ポイントへ通りかかってくれれば・・。

   
 なんだあいつ!(笑) こんなところで何やってんの 

 しかし思ったよりも鯉の通りは少なく、特に合流点からこちらへ遡ってくる鯉がないことで展開が進まない。とはいえこれ以上どうすることもできないし、どうしようとも考えていない。決めたテーマに添って釣りを遂行しつつ、静かに構えて、チャンスをじっと待つだけだ。

 14時30分、食った!竿の揺れが段々と大きくなり、最後にガツンと入るアタリ。添えた手を抗い、回ろうとするスプール。フッキング上々、トラブル無し。あとは魚の走りを止めるだけ。掛かったのは木陰に入れていた2番竿。頭上の柳の枝がランディングの邪魔になるので、一旦魚を泳がせて距離を置き、ラインを張った状態を保ちながら竿を寝かせて枝をかわす。約4ヶ月ぶりに自分独りでネットに納めたのは、色黒の70台。傷のない綺麗な鯉だ。

フラストレーションを吹き飛ばす久々の一尾 強く綺麗な70センチ台の鯉

 美しい鯉が釣れれば、その嬉しさも一入。針を外して、私の手から離れ去ってゆくその姿もまた優美。鯉という魚の存在感は偉容を誇る。川面に沈んで見えなくなるまで鯉を見送り、そのまま網を洗って一息。さぁ、ここからまた次の勝負が始まる。2尾目をどう捕えるか、サイズアップはできるだろうか。

 40分後、胸騒ぎにペットボトルを掴もうとした手を止める。また同じように2番竿にアタっている。間違いなく鯉だが・・穂先を揺らすばかりで入りこんでくれない。そのままラインは動かなくなり、反応は消えた。オモリの負荷がかかる前にうまく外されたようだ。打ち返そう・・。鯉の入りはよくなってきているように窺えるので、カーネルコーンも柄杓1杯分ポイントに追加しておいた。流れがあるので、撒いたコーンをうまくポイントに沈めるのが難しい。PVAバッグなどを使って仕掛けと一緒にまとめて沈めてしまう手もあるが、それだとコーンが一箇所にまとまりすぎてしまう。不自然のないように点々と寄せエサを入れるには、いまのところ柄杓が一番の手法のようだ。


 小さなアタリはあり、鯉が触っていると思わしき反応を、ラインが捉えている。だが、警戒心が勝っているためか、しっかりと食い込んではくれない。もどかしい時間が続き、椅子に座りながらも、本や携帯に目をやる余裕はない。この調子ならいずれは・・。

 椅子を放り投げるようにして駆け出した時、狭い川幅いっぱいに飛沫が上がっていた。2番竿を弓なりにして、高いテンションのドラグを鳴かす。これも良い鯉だ。しかし、何かがおかしい。竿先は川の中心へ向かって下へと引き込まれ、そのままラインが出てゆく。当然この川の水深は浅く、ラインが出るなら横方向へ走られているはずだ。どうやらポイント近くにある障害物にラインが引っ掛かり、その状態のまま鯉が走っている。「やっべぇ、これ以上走んな」思わず声に出すが、対処する間もなくラインはズッパリと切られた。「最悪・・」 広範囲にわたって傷ついたラインの先を掴みながら、落胆。4月に来たときも、二度続けてナイロン6号のラインを切っている。底に沈んでいるのは石だけでなく、杭の残骸やら何があるかわからない。悔しさにため息をつきながら、竿を自分の肩に立てかけてタックルボックスを開く。新しい仕掛けを取り出し、それにラインを結ぶ手は、気づけばいつになく慎重になっていた。仕掛けのオモリと同様に、落しオモリも簡単に切り離せる捨てオモリにしているが、ここからの釣りでは落しオモリは排除することにする。使えば確実にゴミをかわせるし、鯉の警戒材料を減らせるが、ヒットしたあとに余計なトラブルを起こしかねない。ラインは投入後に張らず、自重で底を這わせるようにする。

 今のラインブレイクで本気のスイッチが入ってしまった。時刻は夕刻。川面はすっかり暮れた空の色を映している。だが、もう一匹捕るまで帰らない。ホームグラウンドの創成川にて、初めて本気で鯉を追ったあの日のよう。水位は下がり、流れが速くなっているが、ラインは問題なく底に沈み、竿は静かに鯉を待ち構える。さほど気温が下がっていないのでまだ実感していなかったが、もう10月なのだ。日は暮れはじめてからすぐに落ちていった。


 低い姿勢で並べた竿は、暗い地面と水面に隠れて見えなくなっている。しかし大きく水面が歪んだのはわかった。次の瞬間鳴り出したセンサーメロディが、それがただのモジリじゃないと知らせてくれた。初めて1番竿へ変化を齎した鯉は、水の流れを利用して一気に月寒川との合流点へ向かう。走られていいのは約20メートルまで。それ以内でこちらも抵抗を許さずに竿を立てる。流れの弱い岸際へ寄せて、柳の枝に注意しながら、電灯の明かりに目を光らせる鯉を、タモへとまねき入れた。1匹目とは違い、銀色の鱗の標準的な鯉。生まれつきか、体側の一部が膨れ上がっていた。

 程よい満足感だ。残りのコーンも少なくなったことだし、これを使い切って終わりにしよう。1番竿の再セットの後、柄杓一杯ほど残ったカーネルコーンを、上流から流してポイントへ散らせ、椅子へ戻る。座った瞬間、自分の息がヘッドライトの前で白く消えた。急に気温が落ち込んできたものだ。気づけば水面からも微かに湯気が出ている。シーズンオフまでの釣りもここでやろうか・・。これから本当に寒くなっても、このように水温があって鯉が泳いでいてくれるなら、雪の降るこのフィールドも見ていたい。

 そんなことを考えていたら、思ったよりも早く次の鯉が来てくれた。ヒットランプが1番竿のアタリを告げている。竿を持った感触から、首の降り幅はあまり大きくない。流れの中から軽く引き出すことができたが、よく暴れてくれた。50センチに届かないといったところのサイズで、元は綺麗な鯉なのだろうが、残念ながら茨戸などでもよく見られる白斑が付いていた。

暗くなってからの2匹目 続いて3匹目

 よし、ここまでだ。理想通り、何の邪魔もなく、気兼ねない釣りを十分に楽しむことができた。竿を縮め、タックルボックスの元へ運ぶ。以前はガイドにラインを通し、オモリの付いた状態のままで車に乗せていたが、この頃はラインを切ってリールも取り外している。釣行に区切りを打ち、次また一から始める。一度一度の釣行を大切にして充実感を得るためだ。

 荷物を担ぐ前に、今日のフィールドへと振り返ってしばらく川を眺めた。久しぶりに見た時計は20時になろうとしていた。全く時間を気にせず、やりたいだけやるという釣りは何年振りだろう。そして人との会話ではなく、自分と川とだけの対話をする、こんな単独の釣りを、できれば年内にもう一度したい。






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