夜空の下、ランプの横、正面には竿、そして周りを取り囲むのは木々と水面。怖いくらいに静かな空気の中でその時を待つ・・。春の訪れが遅かった分、感覚的にはとてつもなく早い夏。暑さに茹だることも、寒さに身を強張らせることもなく、リラックス体での夜釣りができる季節が来た。ひとり静かにというシチュエーションをテーマに、今回の実釣をスタートさせる。
石狩川公園に到着したのは夕方5時頃。前回は人が多かったために入釣を断念したが、今日はナマズ釣りの少年が1グループいるだけで、すぐに場所を取ることができた。地元人のSASAYANから、近くで釣りをしているとのメールが入ったので、竿は出さずに様子見だけして、彼の釣り場へ向かう。そこは石狩川へ繋がる小さなポイント。私が到着する直前に、ランガンで80台を上げて釣りを終えるところだった。しばらく立ち話をした後、SASAYANもこれから石狩川公園へ行くというので、彼の荷物を車に載せて、再び公園に戻った。
出発時は青空の広がる晴天だったのだが、いつの間にか雲が出始め、続いて霧が水面を覆いはじめた。今現在、沼の水位は少ないのだが、これから少しずつ上がってくることだろう。相変わらず浅いフィールドなので、魚の活性がよければそれがすぐに手に取れる。今回はなかなか期待できそうな気がする。ナマズ釣りの少年達も好調のようで、同じポイントでナマズを連発。彼らのポイント、今回私が場所を取った釣り場ではかなり距離が近い。とりあえず荷物だけ置いておき、今は釣り場を少年達に譲ろう。私は暗くなってから竿を出すことにして、それまではSASAYANとナマズ釣りでもして遊ぶことにする。
パンプカ用に持ち歩いているシーバスロッドにルアーを取り付けて、SASAYANお気に入りのポイントへ向かう。蚊の猛攻をかわしながら林を抜けて、小さな桟橋にて最初の1投。ここもかなり浅いポイントなので、トップでもボトムでもどちらでも出るだろう。まずはクランク系のルアーを投げてみるが、水草を引っ掛けて泳いでくれないので、スピナーベイト中心に使うことにする。篠津湖での小ナマズ釣りで重宝している、シルバーやゴールドのスプーンは家に置いてきてしまっている。今回持っているルアーは、以前伊藤君がお裾分けしてくれたバス用のもの。ナマズには少々大きすぎるサイズであるが、今回のタックルとのバランスは合っている。
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鯉のタックルはまだ伸ばさず、ナマズ釣りへ |
霧は少しずつ濃くなっている |
時折絡んでくる草を切りながら、スピナーベイトを泳がせること数投。足元の桟橋から40センチほどのナマズが飛び出し、回収中のルアーにアタックしてきた。「おぉ、出た!」と声を上げるが、やはりルアーが大きすぎるためにヒットしない。その後SASAYANにもアタリがあったみたいだが、こちらもフッキングせず、ノーフィッシュのまま暗くなった桟橋を後にした。
一度車に戻り、帽子にヘッドライトを付けて引き続きナマズ釣りへ。私、SASAYANともにルアーをトップ系のポッパーやバズベイトなどに変更し、リーダーにはケミホタルを点した。風が止み、静かになった水面にはより魚の気配が濃厚になり、前にここに来た時よりも桁違いで魚が入っていることがわかる。今度は釣り場を変え、東の沼の先端から岬にかけてのエリアに隈なくルアーを通す。ヘッドライトの明かりを消して、真っ暗の中、感覚でルアーを飛ばし、対岸すれすれの所からのリトリーブ。霧に霞むケミホタルの光が、辛うじてルアーの居場所を示してくれるが、今夜は月もなく、霧と雲で星も見えない。しかも林の中。慣れていなければ後ろを振り返るのも怖くなってしまうような雰囲気だ。
午後9時。ここまで様々なルアーを試してきたが、暗くなってからのバイトは一度もない。SASAYANはもう帰らなくてはならない時間になってしまい、残念ながら、今日のナマズはここで終了することにした。自転車で帰ってゆくSASAYANを見送って、私は少し休憩をしてから本釣りへ入るとする。夕方から比べて水位は上がっているが、浅いには変わりない。真っ暗で遠投するのも難しいだろうから、ここはシンプルな仕掛けでのチョイ投げといこう。エサはやっぱりコーンで、まずは少し多目に、寄せのカーネルコーンをポイントとする場所に撒いておいた。竿のそばにテントを立ててから、ラインに仕掛けを取り付けて本釣りの第一投目を打ち込む。
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フラッシュを焚くとこうなってしまう |
これは捨て竿の仕掛け |
霧がヘッドライトに反射して、真っ白く視界を遮る。といってライトを消せば本当に真っ暗だ。懐中電灯で周りを照らしても、10数メートル先の流れ込みの対岸すら見えない。これは本当にキャスティングの障害となった。どこに仕掛けを飛ばすか、どこに飛んでどこに落ちたのか、いつもの感覚通りでやっているつもりだが、やはり見えないと不安になってしまう。
仕掛けはハリス15センチのチヌ8号ヘアリグ。1番竿は15メートルほどのキャスティング。2番竿は流れ込みの出口の真ん中に入れる。今回はもう一本、ヒラマサ16号にコーンを直付け、そしてハリスにケミホタルを付けた仕掛けを捨て竿として出してみることにした。ハリスに蛍光材などを付けるのは、ナマズのブッコミ釣りで効果があるが、鯉にはどうなのか、ちょっと試してみたい。
寝袋やカバンなどをテントに運んでいると早速クリックが聞こえてきた。ヒットしたのは2番竿で、鯉は元気良く流れ込みを逆走。ラインを回収すると60センチほどの鯉が水面から顔を出した。投入から6分。アベレージの小さい石狩川公園としては60センチを超えていればいいと思っている。この鯉は・・・60センチには少し、届いていないかもしれないが・・・。
続いて1番竿にもヒット。センサーの反応よりも先に、掛かった鯉のジャンプの音でアタリに気づいた。ここではよくあること。こちらも小さく50台。でも短い時間での連アタリ。ナマズはダメだったが、鯉の活性が高いのは確かなようだ。ハタキをやっているといった水音は聞こえないが、跳ねやモジリは、霧の向こうから頻繁に聞こえてきている。やはりこの場所は、その日によって魚影が左右されるみたいだ。今日は多い。サイズアップも期待できそうだ。
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連続してヒット |
トラツグミだろうか、不気味な声が対岸から聞こえてくる。遅い夕食のメニューはコンビニ弁当とインスタントのスープで済ませて、単独夜釣りの時によく淹れるアールグレイで一服。せっかく過ごしやすい気温なので、テントには入らず、椅子に深く腰かけてカエルの声に聞きほれた。突如センサーランプの点滅に体勢を起こすが、掛かったのは30センチほどのウグイで、すぐに新しいコーンを付けて打ち返す。立ち上がったついでに懐中電灯を手にして少し散歩に出ることにした。
去年最初にここで泊り込みをした時、なんとなく感じる嫌な空気に、夜の散歩に出ることに躊躇ったのを思い出した。私が夜釣りをして来て、唯一怖いと思ったのがこの場所だ。しかし、あれは単に気分的なものなのだろう。この夜なんかは、去年の釣りの時より真っ暗で、しかも濃い霧がかかっていて視界も利かない。試しにライトを消してみると、自分がどこを歩いているのかもわからなくなってしまいそうになった。それでも、あまり怖いという感じはしない。シーバスロッドのガイドに引っ掛けていたポッパーを外し、軽くキャスト。黒く平面的な水面にポップ音を掻き立ててナマズを誘う。これでダメなら今度はスピナーベイト。ロッドを上下してで軽くバジングさせていると、ゴンっと一発ナマズのアタリ。一息置いてからアワセてみるが、また乗らなかった。もうちょっと小さいルアーか、トレブルフックのルアーならヒットしてくれているんだろうけど・・。去年篠津湖で拾ったプラグを失くしてしまったのが惜しい・・。あれと同じタイプのルアーを、今度買ってこよう・・。
公園内を一周してみるがナマズは釣れぬまま、釣り場に戻ってきてしまった。ルアータックルをテントに立てかけて、また椅子に腰掛ける。するとその直後、2番竿の正面で鯉が大きくジャンプした。弛ませていたラインが強く張り、クリップが飛ばされる。3匹目のヒット。これもサイズアップとはいかず、アベレージサイズの50半であった。でも時々このように遊んでくれるなら、それだけで嬉しい。
さっきよりも少し霧が薄くなってきただろうか。時刻は午前0時30分。寝るのには少し早いが、テントの中を整理しよう。マットに空気を入れ、寝袋を敷き、枕元にはデジカメと、センサー受信機にセットするスピーカー。車で釣り場に来れるようになってから、自分のツーリングテントを出して泊り込むことがなくなっていた。テント泊を好むTadashiくんや伊藤君のテントに入れてもらって寝ることはあったが、単独の夜釣りでのテント泊は実に3年ぶり。寝袋の上に転がってみると、青い生地の天井が懐かしい。設営と収納が面倒といって車中泊が多くなったが、寝心地は絶対にテントのほうが好みだと改めてわかった。
ランプをテントに持ち込み、横になりながらイヤホンを耳にする。音量は小さく、センサーやクリックが聞こえる程度に設定。蚊取り線香の香り漂う中、少し和風の音楽を聴いてみるのも夏の夜釣りの楽しみ方。こうしていると、日照時間の長いこの時期は、いつのまにかスクリーンの外が微かに青くなっている。夏の夜は短い。そろそろ休んでおかなければ、このまま眠れなくなってしまいそうだ。イヤホンをそのままに目を瞑った。
午前3時過ぎ。4度目のクリックはなかなか激しいものだった。ここの魚にしては珍しく左側に竿を曲げ、竿を持ったあとも幾度かスプールを回してくれた。まだ暗い水面、ライトの先に現れたのは70センチの細身の鯉だった。小型ばかりが釣れてしまうここでは70クラスを釣るのは初めてで、これがここでの自己記録になる。連続するアタリとサイズアップ、やはりこの夜はコンディションがいい。このまま、更にサイズアップとはいかないものか・・。
4匹目のリリース中には早くも空が白み、水面を流れる霧が美しく幻想的な姿に変える。大分明るくなったので、車に新しいタオルを取りに行くついでに、ルアーロッドをもって流れ込みの水路の中を探ってみることにする。ここでもナマズが泳いでいるのがよく見えるのだが、今は反応がない。それに少し濁りが入り、切れた草などのゴミがよく流れてくるようになったみたいだ。水はかなり温かく、更に全体が浅いこの沼では、昼間は厳しくなるだろう。楽しめるのは今のうちと考え、昼間はナマズ釣りでもして過ごすとしよう・・・。釣り場の方からメロディが聞こえる。さぁ、お呼びのようだ。5匹目はサイズアップどころか30台の小鯉。ヘラ竿で戦うのにはちょうどよいサイズだろう。
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またこのサイズだが・・・ |
4匹目は70ジャスト |
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テントのある釣り場 |
5匹目。述べ竿で釣りたいサイズ |
ここまでアタリが集中しているのは1番竿。ケミホタル付き仕掛けの捨て竿は1番竿のすぐ隣の同じラインに投げているのだが、軽く鈴を鳴らす、または糸を弛ませるような小さなアタリをキャッチしたのみで、スプールを回された形跡もほとんどない。本命竿と同じように反応は貰っているようだが、平均サイズが60センチにも満たないこの場所では、やはりヒラマサ針は大きすぎただろうか・・。次のアタリをキャッチしたのも、やはり1番竿だった。最高のフッキングで針を咥えて来たのは、少し変な体形をした50台。ここでは時々こんな魚が上がる。
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1番竿に連続ヒットしている |
6匹目はこんな体形だった |
午前4時。開始から6時間が経過し、良いペースで続いてくれたアタリであるが、この6匹目を境にピッタリと静まってしまった。一度仕掛けを打ち返して、寄せエサにカーネルコーンを追加するが、ラインは力なく竿先から垂れている。日が高くなり、気温が高まると共に霧も姿を消した。テントの上にパラソルを立てて日除けして、一度寝袋に入る。眠っているうちに7匹目が来てくれるだろう・・。そんな期待をしながら受信機の電源をチェックするも、待ち受け画面は周波数を表示するのみ。ここまでか・・・。
徐々に望みが薄れてゆく中、午前10時までアタリを待ってみるものの、見事なほどにいままで続いていたアタリはなくなってしまった。流れ込みの上流に地元のベテランらしき釣り人が竿を出し糸を垂らすが、その人もなかなかアタリを貰えずに苦戦している模様だ。東よりの風によって、若干体感温度が下がっているが、気温はかなり上がっているはずだ。早朝から感じていたが、水の温度も高すぎるほどであり、このまま鯉釣りを続行するのは不利と思われた。これまでのタックルはそのまま置いておき、予定通り、ここからはルアーを振るってナマズを相手に遊んで過ごすことに決める。再び釣り場に訪れたSASAYANも同じく、鯉のブッコミ釣りは遊び程度に出すだけで、メインタックルに装備しているのはやはりルアー。釣り場から少し歩いたところの林を潜りぬけ、昨日の開始前にナマズの見込みを感じた桟橋付近へと足を運ぶ。
すっかりアタリの遠のいた釣り場を放置して・・・
スピナーベイトでの第一投目。その着水とほぼ同時にナマズが襲い掛かる。が、あいかわらずもう少しのところでフッキングしてくれない。必要ないだろうとスプーンやスピナーを置いてきてしまった事が悔やまれる。なんとかこの大きなスピナベで掛けてみたいところだが、ここは自転車でここまで来れる距離に住んでいるSASAYANを頼りにするべきのようだ。今回彼は、昨日の結果に応えて、いかにも昼間のナマズが食いつきそうなスプーンやスピナーを持ってきていた。私もそれを貸してもらうことにして、アンバランスなタックルながら小さなスピナーを出来る限り遠投する。そしてすぐ、結果は出た。ナマズ特有のゴンっというアタリと重々しい暴れ方。50センチほどのナマズがヒットしてくれた。久しぶりに釣ったナマジィ。やっぱりこいつは、数え切れない種がいるナマズ目の中でも、「私はナマズです。」という顔をしている。
これまでナマズを釣ったことがないSASAYANに見せびらかしながらリリースしつつ、今度はSASAYANの初ナマズゲットを願うことにする。
この場所はナマズや鯉の魚影がかなり濃いみたいだ。ヒットがなくとも、同じ所を粘り強く攻め続けているといずれルアーを見つけて追ってくる奴が出てくるはず。この桟橋でのキャスト&リトリーブはもう1時間以上も続けている。ルアーも変えず、専らスピナーを泳がせるが、小さいルアーのトレブルフック。当然ゴミも引っ掛かり、うまくリトリーブできずに回収してしまう事のほうが多い。しかしうまい具合にゴミをかわして、ブレードによる抵抗がしっかりと手元に伝わってくるような時、突然ガツンと来る。SASAYANに待望の初ヒット。それもなかなかのサイズのようで、のた回る迫力も私がさっき釣ったものをはるかに越えていた。サイズは60センチオーバーの貫禄ある一尾。SASAYAN、初ナマズにしてこのサイズを出すとは拍手ものだ。しかもフッキングは最高で、大きな口のど真ん中にルアーがぶら下がっている。